■ 薄さ15.7mmの最新iPod
4月29日アップルから電撃発表され、本日(5月9日)より発売された新iPod。iPodとしては、2001年11月に発売された初代iPodから数えて3世代目となる製品で、操作ボタンが一新されたほか、厚みが15.7mm(30GBモデルは18.7mm)と第2世代のiPodより2.7mm薄くなり、重量も27g軽い158g(同176g)になるなど、見た目でも大きな変更が加えられた。
新iPodはHDDの容量により、10GB「M8976J/A」、15GB「M8946J/A」、30GB「M8948J/A」の3種類が用意され、価格はそれぞれ36,800円、47,800円、59,800円。15/30GBモデルには専用のクレードルやリモコンが付属する。 今回のiPodでは、薄型化のほか、AAC対応やUSB 2.0対応などの強化も図られている。また、日本からは購入できないが音楽配信サービス「iTunes Music Store」も発表されており、iPodが同社の戦略上で重要なポジションに位置づけてられていることが確認できる。 しかし、HDDオーディオプレーヤー市場では、iRiverの「iHP-100」など気になるライバルも現れている。市場のリーダーとして、そうしたライバル達を決定的に引き離すポイントはあるだろうか? 今回は、15GBの「M8946J/A」をアップルコンピュータからお借りして試用した。
■ 本体の質感も向上。ドック/リモコンが付属
iPod初代モデルを普段から利用しているのだが、今回のニュースリリースを見たときは、さほど心動かされるものはなかった。液晶リモコンにならなかったし、iTunes Music Storeは日本で利用できないし、薄くなっても別に……。 しかし、日本での発表会で実機を見ると印象ががらりと変わった。というのも、とにかく薄く扱いやすくなっているのだ。15.7mmという厚みはポータブルMDなどと比べても遜色ない薄さで、結構インパクトがあるが、個人的に気に入ったのが角が丸みを帯びて持ちやすくなったこと。手に持ったときのフィット感が格段にあがっているのだ。また、スペック上の違いより、さらに小さく感じる。これにより、品質感も向上しており、当初抱いていた「マイナーチェンジ」という印象は払拭された。
そのほかにも操作部が大幅に変更され、従来モデルではホイール形状のパッドの円周上に配していたMENUや、再生など4つのボタンを上部に移動。全てタッチセンス方式となっており、バックライトを内蔵し自発光する。 ボタンのバックライトは赤く発光するタイプのものだが、品のある明るさでなかなか好印象。特にバックライトが消える際に、すぐに消えずに、余韻を残して消えるような設定となっていて、編集部では「高級オーディオっぽい」という意見も。ところどころで「さすがにApple」と思わせる気の利いたデザインが所有感をくすぐる。 また、従来モデルでは本体に直接FireWire端子(IEEE 1394 6pin端子)を装備していたが、新モデルでは「Dockコネクタ」を採用している。15/30GBモデルは専用ドックの「iPod Dock M9130G/A」が付属し、パソコンと連携が可能なほか、専用変換ケーブルでパソコンのFireWire/USB 2.0端子と接続できる。なお、USB 2.0ケーブルは6月より2,400円で発売される。 リモコンは、第2世代iPodのものとほぼ同じ操作体系で、曲送り/戻りやボリュームの調整ができるシンプルなもの。操作系の変更はないが、リモコン接続コネクタは専用端子を持ったものに変更されている。
■ ソフトウェアの操作感。Windows版iTunesの登場に期待
筆者のメイン機はWindowsだが、まずはMac OS X上(iBook)でテスト。IEEE 1394で接続すると即座に認識される。iTunes 4上でCDをリッピングし、あとは、iTunes上のiPodアイコンにドラッグするだけで、iPodにオーディオデータが転送されるという極めてシンプルなものだ。 AACにはMacintoshしか対応していないので、128kbpsのAACファイルを作成してみたが、聴き比べても正直MP3との違いはあまり感じない。最初からAACファイルでオーディオライブラリを作る人はまだしも、MP3ファイルで大量のデータを所有している人などはMP3を使い続けたほうがいいだろう。米国の音楽配信サービス「iTunes Music Store」の配信データはAACなので、こちらを利用する人向けといえそうだ。 また、iTunes 4の新機能として、米国内で28日より開始した音楽ダウンロード販売サービス「iTunes Music Store」への対応が挙げられる。99セント/曲で128kbpsのAACファイルがダウンロードできるが、購入は米国限定。ただし、データベースの閲覧などは行なえるので20万曲以上というiTunes Music Storeのライブラリを検索でき、30秒間の試聴が行なえる。試聴できるのも嬉しいが、データベースで好みの曲が出てくるか検索する、というのもなかなか楽しい。 著作権者の問題などを鑑みると、日本でのサービス実現はかなり難しいと思われ、アップルコンピュータでも「時間が必要」とコメントしている。しかし、使ってみると確かに便利。個人的には欲しいCDは従来どおり買うだろうが、1曲100円強ぐらいだったら欲しい曲というのも結構ある。もし日本でサービスが実現したら利用したいと感じさせる位にサービスとしての出来はいい。
続いてメインマシンのWindows PC(ThinkPad X31)でテスト。付属のIEEE 1394 6pin-4pin変換コネクタを介して接続した。 このマシンには初代iPodで利用している「XPlay」が入っていたため、インストールに若干手間取ったが、インストールがはじめるとフォーマットを促すメッセージが表示され、Mac OS用のHFS+でフォーマットされたHDDが、Windows用のFAT32にフォーマットされる。
Windows用のアプリケーションは「MUSICMATCH Jukebox 7.5」。オーディオファイルを登録して、[ファイルの外部デバイスへ送る]を選択するだけで、iPodへの転送が可能となる。約5GBのデータを転送したところ25分弱で転送が行なえた。 このMUSICMATCHは、機能的には多機能なのだが、個人的にはこのインターフェイスがあまり好みでなく、よりシンプルなMacのiTunesの使い勝手に惹かれるものがある。 Windows版のiTunesの開発については、スティーブ・ジョブスCEOが基調講演で年内の投入を言及したほか、日本のアップルコンピュータでも発売時期については明言しなかったものの、「検討している」と前向きな姿勢を見せている。Windows版iTunesの登場に期待したい。 ■ 音質は良好。できれば液晶リモコンが欲しい
付属のイヤフォンは軽くてプラスチッキー。「あまり音質には期待できなそうだな」などと思っていたのだが、聞いてみたら素直な音作りでなかなかいい具合。とりあえず満足できるレベルといえそうだ。 音質は、従来のiPodと同様に素直で抜けのいいサウンド。旧モデルと比べると、中域の分解能が上がっているようにも感じたが、音の傾向としてはほぼ同じといえる。 一新された操作系は、従来ユーザーにはやや戸惑うかもしれないが、タッチセンサー式のボタンの反応もよく、慣れればこちらのほうが使いやすいかもしれない。 また、自発光式のバックライトは暗い部屋などでは便利。MENUボタンの長押しで発光するのだが、操作を行なう分には十分な光量を得ることができる。前述のように高級感もあるので、特に必要もないのに何度も点灯させてしまった。
リモコンは、従来モデルと同様の操作体系で、曲送り/戻しや再生/停止、ボリュームの上下などが行なえるが、アルバム間移動などはできない。筆者は初代iPodでオプションのリモコンを購入したが、機能が少なくて使わなくなってしまった。もっともアップル的には「本体で操作しろ」ということなのかもしれないが、電車内とかでiPodを引っ張り出すのが(個人的には)恥ずかしいので、できれば、リモコンで全てを済ましたいところ。 このあたり、ポータブルプレーヤーなどで元々リモコン文化の根強い日本と、米国などとはユーザーのニーズも異なっているのだろう。しかし、iRiverのiHP-100など、HDDオーディオプレーヤーでも液晶リモコン対応機種が増えてきており、クリエイティブのZenもオプションで液晶リモコンを用意している。次モデルやオプションなどで対応リモコンが発売されればいいのだが……。個人的には本機で唯一物足りなさを感じるポイントだ。 ■ 一新された機能を試す オーディオファイルは、ID3Tag(MP3)により管理されており、基本的にアーティスト/アルバム/曲名/ジャンル別に選択できる。特にフォルダによる階層化機能などは用意されていない。
そのため、トラック番号などID3Tag情報をきちんと作っておかないとアルバムの順番で再生できなかったりするので注意が必要だ。といっても最近の市販ソフトではきちんとタイトルやアルバム名、曲名などをがほぼ自動登録されるので、よほどマイナーなタイトル以外は特に迷うことはないだろう。 また、新機能としてユーザーインターフェイスの編集機能を搭載している。従来のiPodでは、メインメニュー画面でプレイリスト/ブラウズ/エクストラ/設定/情報という5つのメニューが用意されており、これを消すことができなかったが、今回の変更で表示のON/OFFが可能となった。筆者はプレイリストを使った再生をほとんど行なわないにもかかわらず、メインメニューの一番上にプレイリストがあるのが気になっていたので、表示のON/OFF設定は、結構うれしい機能だ。なお、旧モデルはファームウェアアップデートでも対応しない。
また、On-The-Goというプレイリスト機能も搭載した。iPod上でプレイリストを作成できる機能で、プレイリストに登録したい曲を選び、ホイール中央の決定ボタンを長押しすると、曲名が点滅する。この操作を続けることで、プレイリストを作成できる。 前述のように個人的にはPC上でプレイリスト作成するのが面倒で、ほとんどプレイリスト再生を利用したことはないのだが、この機能は使ってみたいと思わせる機能だ。たとえば、ドライブに行く前に、iPodを少しいじれば、iPodだけでオリジナルディスク(?)を作成できるわけで、この手軽さは魅力的だ。なお、複数のOn-The-GOプレイリストを作成することはできない。 音楽再生機能以外にも、アドレス帳、カレンダー、To DoリストなどのPIM機能に加え、テキストファイルを、iPodの液晶で読める「ノートリーダー」も搭載。また、ブリック、パラシュート、ソリティアの3つのゲームを内蔵しており、iPod上の音楽をBGMにしてゲームを楽しむこともできる。 ■ バッテリ駆動時間はやや減少 一方、内蔵バッテリは従来モデルのリチウムポリマー(1,200mAh)から、リチウムイオン(630mAh)に変更されており、連続再生時間が2時間短い8時間となっている。電車通勤程度の利用時間であれば、あまり問題ないが、このあたりは薄さとのトレードオフといえそう。 実際に使ってみたところ、4時間弱の連続再生で目盛りが半分となったので、スペック値程度の駆動時間は期待できる。ただし、Windows環境(給電なしの状態)で、5GBのファイル転送などを繰り返し行なうと、かなりの勢いでバッテリを消耗する。充電時間は1時間で約80%まで充電でき、約3時間で満充電となる。 ドックの利用は、Macintoshの場合、パソコンとFireWire接続するだけで充電と同期が行なえるため問題はない。しかし、WindowsのノートPCなど4pinのIEEE 1394で接続した場合、充電する際にケーブルをACアダプタに差し替える必要があり、結構面倒くさい。USB 2.0ケーブルも6月に発売される予定だが、アップルによればUSB経由の充電については「サポートはしない」というので、充電時には一工夫必要となる。 ドックで最も注目されるのはライン出力端子の装備。アクティブ型のスピーカーやオーディオシステムと組み合わせて、HDDジュークボックスを簡単に構築できるようになるので、重宝しそうだ。
■ 堅実なモデルチェンジ 機能強化としては、iTunes Music StoreやAAC対応など、「米国のMacintoshユーザー」にとっては大きな進歩といえる反面、日本のユーザー、特にWindowsユーザーにとっては目玉となる機能は少ないかもしれない。 しかし、この質感の高さと、15.7mmの薄さは大いに魅力的。他のHDDプレーヤーを圧倒する小ささと質感を実現していると思う。液晶リモコンがないというのは、ややマイナスポイントともいえそうだが、積極的に本体操作を行なうという使い方がしっくり来る人であれば、さほど気にならないだろう(筆者も液晶リモコンがほしいと書いている割にはいつも本体操作を行なっている)。 個人的に気になっていた、ユーザーインターフェイスの設定の変更など、ユーザーの要望を着実に取り入れて進歩していることが伺える。欲張りなユーザーとしては、このままいけば、あと1世代待つと、液晶リモコン付属でWindows版iTunes環境になるかな? などと希望を抱いてしまうが、そうしたユーザーのわがままにも応えてくれそうな着実な進歩が感じれられる。 iPodに心揺れていた人にとっては迷わず買いといえる製品といえるし、従来ユーザーでも実機を見ると大いに心引かれるところだと思う。個人的に最も物欲が高まったのは、私物の初代iPodとの横並び撮影をしている時。圧倒的に最新型のほうが薄くて格好いいのだ……。 □アップルのホームページ (2003年5月9日)
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