LS-35は、DVDプレーヤー搭載のメディアセンター、5.1chアンプ内蔵のベースモジュール、サテライトスピーカー5個で構成された5.1chシステム。基本的には、2001年発売の「LS-PRO」の流れを汲む「LS(LifeStyle)」シリーズの新モデルだが、本機ならではの独自技術も多い。その中でも最大の特徴は、自動音場補正機能の「ADAPTiQ(アダプトアイキュー)」だろう。 これは、5.1chの各スピーカーから出るテストトーンを、付属のヘッドセット型ステレオマイクで集音後、分析することで、室内の状況や視聴者の位置にあわせた補正が行なえるというもの。集音は普段のリスニングポイントで行なう。音声レベルだけでなく、反響などを加味した帯域強調なども行なうため、調整後はDVDビデオなどのサラウンド音声を完全な形で楽しめるという。 一般的に、AVアンプの初期設定は面倒でややこしく、それでいてDVDビデオを再生する際の臨場感を大きく左右するため気は抜けない。設定を終えた後も、しばらくは「これで正しいのだろうか」と不安になることしきりだ。そのため、ああでもない、こうでもないと、日々調整を重ねている人も多いだろう。もしADAPTiQが完璧に機能するのなら、こうした苦労もなくなるはず。また、サラウンド再生を手軽に始められるという点で、初心者やカジュアル層にも魅力的な製品だ。
■ サテライトスピーカーも新設計
メディアセンターには、映像1系統、音声4系統を入力可能。ディスク内の音声やメディアセンターに入力された音声は、すべて「BoseDigital」でサラウンド化し、アンプを搭載したベースモジュールにデジタルで伝送する。対応サラウンドフォーマットは、ドルビーデジタルとDTS。また、CD-R/RWに記録したMP3ファイルの再生にも対応する。 DVDドライブ部やボタン類はフロントドアの内部に収められ、正面からの見た目はAV機器らしかぬすっきりしたもの。側面と上面は金属製で、造作はしっかりしている。ただし、フロントドアの開閉は手動で、ドライブと連動するわけではない。また、側面と上面以外は樹脂製で、デザインや質感もなんとなくアメリカンなテイストだ。日本人の感覚からすれば、価格の割に高級感に欠ける印象を受けてしまうのは、やはり文化の違いなのだろうか。
ベースモジュールとメディアセンターは専用ケーブルでデジタル接続する。ベースモジュール側の端子はEthernetと同じRJ45で、メディアセンター側の端子はミニDIN。ベースモジュールは重量16kgと重く、5.1chシステムセットと考えると比較的大柄だが、ある程度大きいサブウーファは、再生面でやはり心強い。音質的にはベストではないものの、横置きも可能だ。 ベースモジュールには130mmウーファを2基搭載し、5.1ch分のアンプもここに内蔵している。定格出力はサテライトが20W×5ch、サブウーファが120W×1ch。内部には、音響管の仕組みを利用し、小型のエンクロージャから広帯域の音を出す技術「アコースティック・ウェーブガイド」を組み込んでいる。55WERやAMシリーズでも採用されており、低音再生には定評ある技術だ。 サテライトスピーカーは新設計の「Jewel Cube」を採用。今回はさらにキャビネットが小型化されたのが特徴で、スピーカー1つの大きさは57×83×113mm(幅×奥行き×高さ)とコンパクト。樹脂製だが剛性感が高く、意外にもずっしりとした重みを感じる。
ベースモジュールとスピーカーの接続は、RCAピンの専用ケーブルで行なう。シースを剥かずにワンタッチで接続できるのが便利だ。5.1ch環境の場合、最初の接続作業が面倒なものだが、今回は比較的楽に終わった。 しかし、スピーカーケーブルを含め、すべてのケーブルが専用仕様のため、スピーカーの交換などのステップアップは望めない。テレビやビデオなどの外部機器を音声入力につなぐことは可能だが、基本的にはLS-35だけで完結したAVシステムだと思ったほうが良いだろう。
■ 驚くほど精度の高いADAPTiQ
この作業をリスニングポイントを変えながら、5回繰り返す必要がある。つまり、5カ所のリスニングポイントを設定でき、家族でDVDを楽しむ場合など、複数のリスニングポイントが発生するケースにも対応できる。ただし、5カ所の設定のうち、任意の場所の設定を再生時に呼び出せるわけではない。5カ所とも自然に聴こえるよう、調整が行なわているようだ。 なお、集音中は電話や掃除機など、なるべくほかの音が入らないよう気を配らなければりたい。静かな時間帯に実行したいが、テストトーンのレベルはかなり大きいので注意。また、リスニングポイントを変えずに続行すると、「前の場所に近すぎませんか? 離れた場所に移動してください」と、音声で指摘された。ちゃんと計測されていることがわかる。
今回は音場効果が印象的なDVDビデオ、「U-571」、「サイン」、「キャスト・アウェイ」の3本について、ADAPTiQを設定する前後で聴き比べてみた。 設定後の音のつながりは驚異的で、特にサインやキャスト・アウェイでの野外シーンの臨場感は驚くほど向上した。後方を流れる効果音のつながりも自然で、映画ソースにおけるサラウンドの威力を存分に味わえる。我流で配置した自室のセッティングを、すべて見直したくなったほどだ。これまで聴こえなかった効果音も確認でき、サラウンド再生の奥の深さを改めて感じた。 また、左右のスピーカー位置を大げさに代えるなど、イレギュラーなスピーカー設置も試したが、ADAPTiQがうまく調整してくれるのがわかった。家具や部屋の状態で、同心円状にスピーカーを置けないケースは多いので、そうしたケースでも活躍してくれそうだ。
なお、ADAPTiQ設定後も、高音、低音の強調、フロント、センター、サラウンド(リア)チャンネルのレベル調整が可能。ダイナミックレンジを圧縮してセリフなどを聴き取りやすくする「D.R.C.」も設定できる。ドルビーデジタルだけでなく、DTSにも適用できる。
■ プログレッシブには非対応、画質も平凡な印象
字幕や音声の切り替えは、Settingメニューに入って行なう。階層も深く、たどり着くまでのカーソル操作も多い。多くの国産機のように、リモコンでダイレクトに切り替えられるようにして欲しかった。こうした操作にほとんど無縁のアメリカ人がうらやましい。 その代わりリモコンはシンプルで、ボタンの数が少なく、ボタン間の間隔が広く押しやすい。上部に入力切替を備え、押すとLS-35の電源が一緒に入るのは便利だ。ただし、ボタンは一切光らないので、ホームシアター用途では使いづらい。 また、リモコンの早送り/早戻しボタンは2倍速のみで、ワンプッシュで数秒しか進まないのには戸惑った。ボタンを押し続ければ、連続して早送り/早戻しできるのだが、これでは不便。ただし、設定メニューに入れば、8/4/2倍速の早送り/早戻しが可能になる。
そのほか、早送り時の字幕表示、音声付き早送りは不可能で、コマ送り機能もなし。とにかくトリックプレイは苦手なので、再生時は鷹揚に構えて視聴することになるだろう。
■ ADAPTiQ搭載の下位機種も発売予定
ただし、DVDプレーヤー部がプログレッシブ非対応だったり、コンポーネント出力に変換ケーブルを必要としたりと、398,000円という価格にそぐわない面もある。購入するか否かは、ADAPTiQに加え、ウェーブガイド・ベースモジュールなどが作り出す「BOSEサウンド」に、どれだけの価値を見出せるかにかかっている。
なお、6月10日にはサテライトスピーカーとサブウーファのアンプ出力を変更した下位モデル「LS-18」が発売される。メディアセンター部の機能やADAPTiQは健在なので、LS-35を気にしつつも手が出せなかった人には、うれしい新モデルといえる。価格は248,000円。ADAPTiQやBOSEサウンドに惹かれるなら、よい選択肢になるだろう。
□BOSEのホームページ (2003年5月30日) [AV Watch編集部/orimoto@impress.co.jp]
|
|