■ ジャケ買い必至の恐怖ジャケ
レビュー用のDVDを探しに量販店のDVD売り場に足を運ぶと、8月1日に発売された「007/ダイ・アナザー・デイ」や、「猟奇的な彼女」、「レッド・ドラゴン」などのヒットタイトルが山積。しかし、隅にひときわ異彩を放つ白塗りの子供のジャケットが……。 今回取り上げるのは「呪怨 劇場版」。2002年の公開時にはさして話題になっていなっていなかったと思うが、DVDセールスは好調のようで、先週の弊誌の売上ランキングでも4位にランクインしている。ビデオで販売された、前々作「呪怨」、前作の「呪怨2」が怖いと評判になっていたそうで、そういえば数年前にそんな話を聞いたことがあったような……。とりあえずインパクトがあるジャケットに惹かれて購入した。 監督、脚本は清水崇。出演は奥菜恵、伊東美咲、上原美佐、市川由衣ほか。購入してから気づいたが、「女優霊」や、「リング」、「リング2」などの脚本を手がけた高橋洋や、「回路」、「降霊」の黒沢清監督が監修している。両氏がかぶっている作品も多いが、基本的にどの作品も怖かったのは事実(両氏ともにホラー専門という訳ではないが)。おのずと呪怨に対する期待も高まる。 DVDは、初回生産分のみ特典ディスク付きの2枚組みとなり、メイキングやインタビュー、削除シーンなどを収録。さらに、封入特典として「除霊ステッカー」が同梱されている。 さらに、劇場版の続編となる「呪怨 2」も2003年8月に公開予定。また、これら劇場版の元となった'99年発売の「ビデオオリジナル版」のDVDも、「呪怨」、「呪怨 2」をセットにしたDVD-BOXで7月25日に発売されている。 なお、「死霊のはらわた」、「スパイダーマン」などの、サム・ライミのプロデュースによるハリウッドでのリメイク版も予定されている。リメイク版も清水崇監督が担当する。
■ 恐怖の連鎖がひたすら続く
老人介護のボランティアで郊外の一軒家「徳永家(元・佐伯家)」を訪れた女子大生。だが、その家には住人がことごとく謎の死をとげた過去があった。淀んだ黒い影や、屋根裏でうごめく女の霊、振り返ると立っている白い顔の子供など、彼女を襲う恐ろしい現象の数々。やがて、恐怖は周囲の関係者にも連鎖していく……。映画は核となる登場人物ごとに大きく分けて、「理佳」、「勝也」、「仁美」、「遠山」、「いづみ」、「伽椰子」の6つの物語から構成される。 理佳は奥菜恵が演じる女子大生。老人介護のボランティアで訪れた郊外の一軒家での恐怖体験と、その後も逃れられない幻影、巻き込まれる友人/知人達が描かれていく。最初は、オムニバス形式なのかと思ったが、勝也は徳永家の住人、仁美は勝也の妹といった具合で、核となる登場人物たちの相関関係が描かれ、それぞれの人物のストーリーがリンクしていく。 とにかく、最初から怒涛の恐怖描写の連続で、92分と短い作品ながら、10分も見れば逃げだしたくなる。怖いといっても「斧で襲われる」といった物理的、肉体的な恐怖を伴うものではなく、視界の片隅に、いるはずの無い子供が佇んでいたり、テレビや携帯電話といった媒介を介して不穏な影やうめき声が迫ってくる「見えなさそうで見えてしまう何者か」による、精神的な恐怖。 目的もわからず、なぜ自分に迫ってくるのかわからない、完全に理不尽な恐怖。逃れようにもなぜ自分に降りかかってくるのかわからないのだから、身の施しようも無く、希望も無い……。 開始10分程度で「あと80分もあるのか」とうんざりしたが、間髪いれずに恐怖シーンが出てくるのでだんだん「いい加減にしろよ!」と、誰に対してなのか良くわからない怒りを覚えてしまった。90分間とにかく驚かし続ける、我慢比べのような作品だ。 個人的には演技がさほどうまいとは思えない奥菜恵だが、恐怖におびえる顔は鬼気迫るものがあり、配役がピッタリとあっているように感じた。また、ジャケットにもなっているが「俊雄」が怖い。なにが怖いといわれるともう存在そのもの、としか言い様がないので、ぜひその怖さを体験してほしい。最後まで驚かし続ける割に、恐怖の根源となっているはずの伽椰子があまり怖くないのはご愛嬌といったところか。
■ 画質、音質ともに良好
DVD Bit Rate Viewerで見た本編の平均ビットレートは7.85Mbps。92分と収録時間も短いこともあり、高ビットレートで画質は良好だ。ただし、強い光が差し込む屋内など、輝度差の大きい場面や、カーテンで締め切られた部屋など薄暗い部屋など暗部の再現性がいかにも厳しそうなシーンでは、ノイズも若干発生する。とはいってもそんなに気になるほどのものではない。 音声は、ドルビーデジタル 2ch(384kbps)とドルビーデジタル 5.1ch(384kbps)、DTS 5.1ch(1,536kbps)を収録。ドルビーデジタル 5.1chとDTSではさほど大きな差を感じるシーンはなかった。
サラウンド感を強調するシーンはさほど無いが、環境音や具体音の描写がよく、追い込まれていく心情が、音響できっちりと描かれている。幾多ある恐怖シーンでは、露骨なオーケストラヒットや、高周波、ノイジーな電子音などが恐怖心を煽る。ありがちな音響ながら、ストーリーと映像により、まんまとビビってしまうのが悲しいところだ。また、セリフがかなり小さいので、深夜の視聴などでセリフにあわせて音量調整していると大音量で驚かされるので注意したい。
■ 怖くなりすぎたら特典を見るべし
本編ディスクには、メイキングやインタビューなどの特典も収録されている。メイキングでは、憎たらしいぐらい怖かった俊雄役の尾関優哉が妙にかわいく指導を受けているのがなんといってもショック。現場は楽しそうに撮影が進んでおり、本編を見て立ち直れないぐらい怖くなってしまったら、メイキングを見ると救われるかも……。 インタビューには、奥菜恵、伊藤美咲、上原美佐、市川由衣の4人の女優が短めのコメントを寄せているほか、清水崇監督の長めのインタビューが含まれている。面白いのは監督が裏のテーマとして「どこにでもあるタンスの隙間などの、暗闇、暗がりなどの描写に気を使い、人がどうして闇を怖がるのかということと、伽椰子をダブらせている」と語っていること。また、鶴田法男監督の作品や、中田秀雄監督の「女優霊」などの「見えない恐怖」、「佇んでいるだけの恐怖」を受け継ぎつつも、少し離れて、「見せるところは見せる怖さ。劇場で見たら笑えるぐらいのものを出していこうと思った」など、自身の描く「怖さ」を分析しているのが興味深い。 特典ディスクでは、女優別メイキングや、女優や監督による恐怖体験を語るコーナ、削除されたシーン、トレーラ、そしてもうひとつのエンディングが収録している。 削除されたシーンは、それぞれの削除理由も監督により説明されていている。監督が「笑い」と「恐怖」の間でのバランスや、テンポを重要視をし、多くのシーンをカットしたことが確認できる。また、監督が「笑いが取れすぎてしまう」というその「笑い」というキーワードには、クリシェというか基本的な文法をそのまま再現するのがためらわれる、といった微妙なニュアンスが含まれているように感じられる。 また、「もう一つのエンディング」では、撮影したが削除されたラストシーンについて語られている。本編でボカされていたラストシーンの意味が、特典内で明示されているというわけだ。作品理解としては「なるほど」、と思えるものだが、結論を先送りにしたような本編ラストは恐怖の余韻を引きづり、見ているものを置き去りにする後味の悪さを強く残すものだっただけに、本編のままでよかったのかな、と思える。 ■ 怖いの好きなら買っとけ!
個人的には、買ったことを後悔するぐらい怖かった。開始10~20分ぐらいは、電気を点けるべきか否か、かなり悩んでしまった。劇場ではそんなことに惑わされないので、「劇場で見ればよかった」などとか考えてしまうほど。怖い物好きな人にはマストアイテムと言えるだろうが、逆に苦手な人は素直に避けておいたほうが無難だろう。 精神的にじわじわと追い詰められるという、苦痛、恐怖の表現は、決して気持ちのいいものではないが、鳥肌と脂汗が染み出る、徹底した恐怖も夏を乗り切るにはちょうどいいのかもしれない。4,700円という邦画DVDとしてはごく一般的な価格も、この怖さを体感できれば納得。来客用脅しディスクとして用意しておくのもいいかもしれない。 続編の劇場公開版「呪怨 2」や、ハリウッドリメイクにも期待がかかる。日本家屋の妙な薄暗さや、遺影、ちゃぶ台の下などの日本的な意匠を、どうやって再現するのかというのも気になるところ。とりあえず、怖いのが好き、暗闇が好き、という人ならば、納涼ディスクとして楽しむのも一興かと。
□パイオニアLDCのホームページ (2003年8月5日) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
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