【バックナンバーインデックス】



第135回:YAMAHAに聞いた、第2世代mLANの新戦略
~ 人知れず世代交代していたmLAN規格の今後は? ~


 IEEE 1394ベースの接続にオーディオとMIDIを流すという規格のmLAN。ヤマハがこの規格を発表してから7年近い歳月が経過した。

i88X

 しかし、最近ではmLANに準拠しないIEEE 1394接続のオーディオインターフェイスが、各社から次々と発表されている。このような状況の中、ようやくヤマハもmLAN対応製品をリリースし始め、その本格的製品の第1弾となったのが、以前レポートした「01X」だった。さらに、先日のNAMM Show 2004でもオーディオ/MIDIインターフェイスのi88X、MOTIFなどのシンセサイザーに内蔵するインターフェイスのmLAN16Eを発表し、勢いが出てきている。


 そこで改めて感じるのが、今本当にmLANは必要なのか? EDIROLやM-AUDIO、MOTUなどがリリースする非mLANのIEEE 1394製品に対してメリットはあるのか、なぜ7年近くも製品が出ず、今になって続々と登場させているのか……といった疑問だ。

 こうした疑問はやはり当事者であるヤマハに聞いてみる以外に方法はない。そこで、浜松に直接話を聞きに行った。今回話を伺ったのは、ヤマハ株式会社 PA・DMI事業部 PE営業部 MP営業課 課長代理の関口宏司氏、商品開発部 PEプロデュースグループ 商品企画担当技師の武田文光氏、同じく技師補の山本孝郎氏、そして国内楽器営業本部 営業企画部 CBXインフォメーションセンター 主任の石川秀明氏。)以下、敬称略)



■ mLANのMac OS X対応への課題

01X

藤本:昨年発売された01X、実際に触らせていただいて、なかなか使いやすいいい製品でしたが、売れ行きやユーザーの反響はいかがですか?

関口:おかげさまで売れ行きは順調です。昨年11月に発売し、日本全国で約40店ほどの展示/デモ店があり、実販も伸びてきています。

 特に、秋葉原の量販店などは、ヤマハの年末年始休暇の期間に完売してしまうなど、一部のお客様にはご迷惑をおかけしたほどです。現在、品薄ということはありませんが、高い評価をいただいています。

石川:ただ1つ言われているのが、Mac OS Xへの対応の有無についてですね。この種の製品の場合、やはりMacユーザーがかなりいらっしゃるようで、店頭で聞かれて、まだ対応していないという話を聞いて帰ってしまう方が残念ながら多いようです。

藤本:確かにMac OS Xへの対応については、非常に気になりますね。実際、対応はいつごろになりそうなのでしょうか?

関口:まず、このことは、ヤマハだけで進める話ではないことをご理解ください。対応ドライバがAppleのOSに入ることになっており、おそらく次にアップデートされるバージョンでmLANドライバが入るものと思われます。時期についてはAppleもリリースの直前にならないと発表しないということなので、なんともいえませんが、近い時期ではあると思います。

藤本:先日EDIROLが発表したFireWire対応のオーディオインターフェイス「FA-101」でも似たような話を聞きました。現在のバージョンが10.3.2だから、次で対応するだろう、と。また、Mac OS Xがドライバを持つということはFA-101だけでなく、ほかのFireWire対応オーディオインターフェイスでも同様に使えるようになりそう、という話でしたが、mLANのドライバもこれと同じだ、ということですか?

武田:いいえ、違うと思います。私は他社のFireWire機器対応ドライバがどうなっているのか詳細は知りませんが、mLANのドライバはAppleとヤマハで共同開発しておりますので、それとは別のものになります。

石川:これが登場すれば、ようやくMacユーザーが本格的に購入してくれることになるのでしょうが、現在のユーザーでもWindowsやMac OS 9を使いながらOS X待ちの人が結構いるようです。使っているソフトとしては、Windowsユーザーが多いということもあって、一番多いのが「Cubase SX」、とくにSX2のユーザーが多いです。それに続いて「SOL2」、Mac OS 9の「Logic」などとなっています。それにOS Xが登場すれば、「Logic」、「Digital Performe」rユーザーも増えていきそうです。

藤本:ユーザーからの質問、問い合わせなどはいかがですか?

石川:わかっている方が多いようで、質問の数自体は非常に少ないです。ただあるのは、24chのミキサーであることを意識しないで使っていることが原因でのトラブル。そのためPCから音が出ないといった問題が起きているようですが、概念を伝えて理解していただくと、すぐに解決しています。

藤本:確かに、マニュアルなどほとんど読まなくてもすぐに使えたので、質問は少ないのかもしれませんね。でもmLANに関する問い合わせなどはないんですか?

石川:特にありません。主に使い方や機能についてのお問い合わせです。


■ 密かに世代交代していたmLAN規格

藤本:さて本題ですが、先日のNAMM ShowではEDIROL、M-AUDIO、Echo、PRESONUSなど各社から非mLANのFireWireオーディオインターフェイスが登場していました。こうなると、もはやmLANではなく、ダイレクトで接続するだけのものが主流の時代になったのではないか、という気もしてしまいますが、こうした製品とmLAN製品の違いはどんなところにあるのでしょうか?

山本:mLAN非対応のものは、PCとオーディオインターフェイスを1対1で接続するだけです。中には1つ増設してパラレルで扱えるというものもあるようですが、そこまでです。それに対してmLANの場合はPCに3台接続するといったこともできれば、ほかの組み合わせでもPC以外の機器間でもオーディオとMIDIを自由に接続することができます。

武田:間もなくリリースする予定のmLAN Graphic Patchbayというアプリケーションを使うことで、目で見てすぐわかる形で、それぞれの機器間を自由に接続することができます。もちろん、ここでいう接続というのは論理的な接続であって、物理的にはそれぞれをFireWireケーブルを用いてデイジーチェーンで繋いでおくだけです。

mLAN Graphic Patchbay
MIDI オーディオ クロック

藤本:念のための確認ですが、ここで使うインターフェイス、ケーブルは普通のFireWire = IEEE 1394のものでいいんですよね。掲示板への書き込みなどを読んでいると、mLANはFireWireに似ているけど、それとは異なるインターフェイスを使う仕様になっている、などと言う人がいますが?

武田:はい、あくまでも普通のFireWireです。こうして接続しておけば、すべての機器は完全に平等な関係となります。PCが中心であるとか、01Xが中心というわけではなく、どれも平等です。もちろん、クロックマスターはどれか? を設定することもできます。

山本:こうした論理的な配線をする段階では、そのmLAN Graphic Patchbayというアプリケーションが必要ですが、一度配線してしまえば、PCを落としても問題ないですし、各機器の電源を一度落としても、配線状況を各機器が覚えているので、再度電源を入れたときにすぐに使うことができます。想像でしかありませんが、他社製品の場合、こうしたことをしたくても、できないだろうし、できるとしても常にPCを接続しておくことが必須となるでしょう。

関口:そういう言い方をすると、mLANがヤマハだけのもののように聞こえますが、これは決してヤマハだけの規格ではなく、mLANに対応していれば、どこの製品でも大丈夫です。ただ、現時点では01Xだけなんですが……。

藤本:えっ、以前PRESONUSのFireStationというmLAN対応のオーディオインターフェイスを使ったことがありますし、他にもKORGやApogee、KURZWEILなどがmLAN対応をしていたように思いますが?

関口:せっかくの機会なので、誤解されている方のためにも整理してお伝えします。我々は01X以降のmLANを第2世代と呼んでおり、よりコンピュータを中心とした音楽製作の環境にフィットする構成になっています。というわけで、従来の第1世代とは別のものとなっています。当社でもmLAN8P、mLAN8Eといったものを出しておりましたが、これらと01Xの第2世代とは互換性がないんです。

藤本:それは知りませんでした。mLANが世代交代し、過去のものと互換性がないというアナウンスは出していましたっけ?

石川::そうした世代という言葉を使ってのアナウンスはしておりませんが、01Xに関する説明の中で、「mLAN8E、mLAN8P、mLAN-EX、CD8-mLAN、MY-mLANと01Xとの接続には対応しておりません」というコメントは出しているんですよ。

藤本:ということは、私が知っているmLANの仕様はすでに古いものということですかね? 確かmLANホームページにおいて出ているのも、昔から言われていた仕様になっていたと思いますが……。つまり、1本のFireWire接続で、24bit/44.1kHzのオーディオ約100本とMIDIケーブル256本分のデータが通るというような……。またバススピードは200Mbpsとなっていたと思いますが。

武田:先に誤解されている部分から訂正しておくと、オーディオ約100本分か、MIDIケーブル256本であって、両方同時ではないですね。

山本:はい、それは確かに第1世代のものです。現行の第2世代では転送スピードも200MbpsのS200ではなく、400MbpsのS400となり、単純計算でいえば、オーディオ200本またはMIDI512本ということになります。

藤本:でも、Appleは既にS800を搭載してきていますから、今度はすぐにmLANは第3世代になって、第2世代とは互換性のないものを出してくるということなんですか?

関口:もちろんS800に対応したとしても現行の第2世代はサポートしていきます。この点は信頼していただくというほかにはないのですが……。

武田:こういった変化に柔軟に対応できるように、第2世代のmLANではハードウェア側をよりシンプルにし、複雑な処理はコンピューター側のソフトウェアで実現できるような構成にしているんです。

藤本:まあ、実際のところ第1世代を導入した人はごくわずかでしょうから、大きな影響はないと思いますが、普及してきたからには、今後の互換性はしっかりしていただきたいところです。

関口:その辺はぜひしっかりやっていきたいと思っています。なお、PRESONUSのFireStationはファームウェアのアップデートで、S200ではあるものの第2世代に対応するといっていますし、他社でも似た動きがあるので、大きな混乱はないだろうと予想はしています。


■ mLANの今後は?

藤本:第2世代になり、オーディオを200本送れるということですが、またそれについてアナウンスしていくわけですか? 本当にそれだけの需要があるのか、それに対応した機器があるのか、そして本当に200本送れるのかなど疑問もあるのですが。

関口:第1世代のときは、そうしたスペックを前面に出していましたが、今後はあまりそうしたスペックばかりを打ち出すことは控えたいと思っています。これはあくまでも計算上のスペックにすぎませんし、そうしたスペックが一人歩きをしだしてしまいますから。これからは、より具体的な例を中心に出していきたいと考えています。

武田:オーディオ200本というのは、機器を1対1で接続し、片方のみが送信した際の理論値であって、複数台つなぐと状況は変わってきます。というのも、mLANでは、各機器が送信する前に全部の機器に送信を開始することを伝達するしくみとなっており、その信号が伝わる時間を待ってデータ送信を開始します。複数台接続すると、送信する機器の数だけ、この待ち時間が発生するのでその分データを送信するのに使える時間が減ってしまうわけです。従って、接続された機器が増えれば増える程、転送容量は少なくなります。

山本:先日のNAMM出展前に行なった実験では、PCと01X、MOTIF ES7に内蔵した新製品のmLAN16E、それにやはり新製品のi88Xを接続した状態でフルに動かすことができました。それぞれ、PC=オーディオ:32in/32out+MIDI:16port、01X=オーディオ:18in/24out+MIDI:5Port、i88X=オーディオ:18in/18out+MIDI:1port、mLAN16E=オーディオ:16in/16out+MIDI:6port(MOTIF ES側のスペックに従うので実際はオーディオ:4Stereoin/16out+MIDI:4port)という構成です。 ただ、これ以上の機器を接続すると限界を越えて、どれかの機器の送信ch数を制限して使う必要がありますが、通常の音楽制作用としては十分な規模を確保できていると思っています。

藤本:なるほど、確かに結構なチャンネル数が使えるようですが、扱えるチャンネル数というのは、データの転送レートだけで決まるものではないようです。EDIROLのFA-101の場合、10in/10outを備えているのに24bit/192kHzのモードで使うと、最高でも6in/6outを達成できるかどうかという話でした。計算上は、FireWireのS400なら、これでも余裕がありそうですが、引っかかるのはHDDのアクセススピードなどといいます。mLANの場合、こうした問題を解決するいい方法があるのでしょうか?

武田:HDDがボトルネックとなることについては、他社製品と同様です。

山本:また、各機器で想定している使い方や音楽制作の規模感、それに対する価格というところもありますから、一足飛びに200chを1台で扱える機器を発売するという話でもないかなとも思います。

藤本:ところで、1対1であれば、理論的には200chのオーディオのやりとりができるとのことでしたが、mLANを使ってPC同士を接続するということは可能なのでしょうか? もし、これが可能だとしたら、画期的なことだと思うのですが。

 というのもCubase SXやNUENDOなどはVST System Linkという機能を使ってPCを複数台接続しての分散処理ができますが、現状は高価なadatインターフェイスなどが不可欠です。それが、もしFireWireケーブルを接続するだけで同じことができ、しかも最大200chともなると、本当にいろいろな可能性が出てきます。

山本:ん~、やったことはないですが、基本的にはできそうですね。困りますね、これでは製品が売れなくなってしまう(笑)。あとは、本当にVST System Linkでのクロックリンクができるかなど、追加開発やチェックが必要なことはいろいろありそうですけれども。

武田:それとVST System Linkに限らず、PC同士の接続に関しても技術的には可能ですが、現在のドライバ+Graphic Patchbayでは、このような機能はまだ実装されておりません。実験的に試してみるのは、おもしろそうですね。

藤本:ぜひ、これについては試してみたいですね。それだけでもmLANの存在意義というのはすごく大きいと思いますよ。また、そうしたネットワークの中に使える01Xのような機材があるというのは心強くも思いますし。最後に、そのNAMM Showで発表されていた、i88XとMOTIF ESなどをmLANに対応させるmLAN16Eについて教えていただけますか?

関口:残念ながら、これらは国内において未発表です。正式な発表は近日中に行なう予定なので、それまでお待ちください。

藤本:わかりました。では、ぜひ、製品が登場したところで、その第2世代のmLANのネットワークの実力を試させてください。本日は、ありがとうございました。

□ヤマハのホームページ
http://www.yamaha.co.jp/
□mLANのホームページ
http://www.yamaha.co.jp/mLAN/
□関連記事
【2003年12月15日】【DAL】ついに出たmLAN製品の本命!
~ mLAN対応デジタルミキサー「ヤマハ 01X」を試す ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20031215/dal126.htm
【2003年3月24日】【DAL】mLAN対応オーディオインターフェイス「FireStation」を試す
~ その1:特徴とmLANの設定~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20030324/dal93.htm
【2003年3月31日】【DAL】mLAN対応オーディオインターフェイス「FireStation」を試す
~ その2:mLANの使い勝手とオーディオ特性~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20030331/dal94.htm

(2004年3月4日)


= 藤本健 = ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL」(リットーミュージック)、「MASTER OF REASON」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


00
00  AV Watchホームページ  00
00

AV Watch編集部 av-watch@impress.co.jp

Copyright (c) 2004 Impress Corporation All rights reserved.