■ 今度はマジ?
DVDレコーダ市場の盛況ぶりはいろいろな調査機関から報告されているが、昨年が2.5倍強でブレイクポイント、今年以降上下はあるものの、年率1.5~6倍の成長という線でまとまりそうだ。家電メーカーとしてここに乗り遅れると、以降10年ぐらいはお先真っ暗という危機感があって当然の数字である。 「家電界の巨人」日立も、市場参入という意味では以前から松下電器のOEM製品をラインナップしていたわけだが、昨年初めて自社製レコーダ「MSP1000」を発売するなど、本格参入の兆しはあった。だがこの「MSP1000」、DVD-RAMにMPEG-2データが書き出せたり、PCに対してストリーミングできるVODモードを備えるなど、めちゃめちゃ強烈な仕様で期待されたわけだが、諸般の事情によりほとんど市場には出なかったようだ。 そしてようやく本格参入モデルとして、DVDレコーダ「Wooo」シリーズをこの5月より投入する。今回のElectric Zooma!では、日立本格参入機として最初に市場投入されるミドルレンジモデル、「MS-DS250」をレポートする。 日立からリリースされるのは5モデルだが、まずに「MS-DS250」のポジションを確認しておこう。当然ランク分けがあるわけだが、型番の先頭にMSが付いているのが、DVDスーパーマルチドライブ搭載のハイブリッドレコーダ、先頭にDVが付いているのが、マルチドライブ搭載のレコーダということである。今回のMS-DS250は、スーパーマルチドライブ搭載機2機種の中の、下のモデルということになる。上位モデルとの差はHDD容量だけなので、まあ今回のコレが把握できれば上位機種も機能は同じだ。 なお今回お借りしたのは試作機であるため、製品版とは動作が異なるところもあることをお含み置き頂きたい。 ■ 写真で見るよりも実物は質の高いデザイン
ではまずいつものように、外観から見ていこう。前面上部にヘアライン仕上げのアルミプレート、下部に目隠しのような黒のアクリルをアレンジすることで、かなり薄型に見せることに成功している。実際にはそこそこの厚みがあるわけだが、下部の面取り処理もうまい。
搭載ドライブは、DVD-R/-RW/RAM/+R/+RW対応のスーパーマルチ。だが、RAMはケース無ししか使用できない。録再や対応フォーマットは、あとでまとめよう。搭載HDDは250GBだが、上位モデルは400GBである。当然両ドライブとも日立グループ製で、自社のリソースをふんだんに使ってこれまたゼイタクな仕様となっている。
前面パネルの開閉部は右側一カ所で、中は上部が補助ボタン類、下部が端子類となっている。補助ボタンは黒地に黒ボタンなので、認識性は良くない。 端子類でユニークなのは、USB端子が付いているところ。これで画像転送したり外部HDDを繋ぐという使い方ではなく、ここにデジカメを繋いで写真をテレビ経由で見ましょう、という機能である。ホントに見るだけで、DVDやHDDにコピーする機能がない。 まあ今どき写真の管理・保存はみんなPCでやるだろうから、見られるだけでいいっちゃいいんだが、逆にそうなるとわざわざUSBポート付けてまでやるほど必須の機能か、という話にならないだろうか。何かUSBに他の使い道があるといいのだが。
では背面に周ってみよう。RF入力は、地上波とBSアナログ。AV入力は、背面が2、前面に1の合計3つ。出力は2系統に加え、D1/2端子と光デジタルオーディオ端子が付いている。入出力数はどのメーカーも、だいたいこんなところで落ち着きつつあるようだ。 さらに背面には、LAN端子がある。だがLANにストリーミングする機能はないし、iEPG対応というわけでもないし、東芝やソニーのように、何か自社サイトのサービスと連携するという話も聞いていない。とりあえず現在のところはユーザーにとっては使い道が無い端子になっている。日立に問い合わせたところ、「(修理や検証などの)サービス用の端子として利用するが、ユーザーが利用できる機能は無い」とのこと。ちなみに量産機でもLAN端子は付いているそうだ。
今回はリモコンをじっくり見てみよう。レコーダの場合、すべての操作をリモコンで行なうため、個性や操作性はリモコンボタンに表われてくる。そういう目で見ていくと、このボタンの配列は日立独自のルールがあって、なかなか興味深い。 十字キーの四隅にボタンがあって、機能キーなどに割り当ててあるのはよくある手法だが、左側の2つのみが機能に関係する。左上の「機能ボタン」は、現在表示中の画面に関係ある機能が呼び出される。東芝RDの「クイックメニューボタン」相当だと思っていいだろう。 一方右側の2つは、十字キーだけでは移動キーが足りないときに使う、補助上下キーとなっている。ボタンの配置としては一等地なのに、こんなことに使うのはもったいない気がする。さらに補助左右キーはその上に配置されており、ボタン類をシンメトリックに並べたかったのはわかるが、若干無理がある。 中央部にはDVDとHDDの切り替えキーがあるが、面白いのはTVキーもあるところだ。従来のレコーダでは、DVDモードとHDDモードがあって、放送中の番組を見る機能はどちらの上にも超然として存在した。というかどちらのモードでも、メニューを抜けたところがテレビ画面、という設計になっている。 だが日立のレコーダはそういう考え方を一歩進めている。DVDを押せばモードが変わるだけでなく、DVDメディアのコンテンツ一覧を表示するし、HDDを押すとモードが変わると同時に録画したコンテンツ一覧表が出てくる。もちろんそこでメニューを抜ければテレビになるのだが、いつでもTVボタンを押せばテレビになる。
モードチェンジとメニュー表示を一緒にやってしまい、なおかつDVDとHDDとTVという3モード仕立てにすることで、それぞれのモードの役目をより明確にしている。またリモコンのボタンカラーと画面の背景色を合わせるなど、細かい配慮もある。この考え方は、筆者にはわかりやすく感じた。 ■ 操作方法がやや特殊
では機能面を見ていこう。全体の機能にアクセスするには、「メニューボタン」を押す。頻繁に使うボタンにしては、サイズが小さく、目立たないのが気になるところだ。
[各種設定]では、チューナーセッティングや録画関連機能が設定できる。GRやY/C分離設定は、マニュアル設定でチャンネルごとに行なう必要がある。GRはデフォルトでOFFになっており、各チャンネルごとにいちいち設定しなければならない。 Y/C分離はデフォルトで3次元Y/C分離になっているので、設定を変更する必要は余りないと思うが、他の選択肢として2次元Y/C分離+NR、2次元Y/C分離がある。それぞれの効果を確認したいのだが、あいにく同画面に表示されるのは縮小画面の動画なので、設定を変えてもその場では変化がわからない。 一方再生系の調整、例えばコントラストやNRの設定などを持つレコーダも多い。だがDS250は、マニュアルがまだ出来上がっていないので、はっきり確認できないのだが、そういう設定はないようだ。 次にEPGを見ていこう。番組データはテレビ朝日系列のADAMSを採用している。ADAMSの特徴はなんといっても、画面内に無関係の広告が入らないところだろう。VGAサイズの画面にそれだけ多くの情報を配置できることになる。 だが本機では、チャンネル表示だと一度に1局の番組表しか表示されない仕様になっている。他社のGガイドが3局分を表組みで表示するのに比べると、一覧性は悪いように感じる。行の先頭にいちいち日付が入っているのは無駄で、どこか上の部分にまとめて表示すれば済むことだろう。ただ番組の長さとして別の列を設けているのは、新しい試みと言える。 この番組表機能がユニークなのは、出演者で番組を検索できる点だ。「登録出演者」は、事前にユーザーが選んでおいた5人までのタレントを番組情報の中から探して、表示してくれる機能。もう一つの「個別出演者」は逆に、EPGデータの中からピックアップした人名を表示し、選んだ人の番組データを表示してくれる機能だ。
つまり「登録出演者」の場合は、選んだタレントは今週出演番組がないかもしれない。だが「個別出演者」に出てくるタレント名は番組データから引っ張ってきているので、どこかしら今週出演番組があるということなのである。誰かお気に入りのタレントを追っかけたい人には便利だろう。 だが膨大な人数のタレントがいる芸能界に対して、人名データベースがどうやって対応していくのか、まだ具体的なアナウンスはないようだ。さらに人名以外のキーワードで番組を探す機能もない。せっかくここまでやったのなら、もう一歩踏み込みが欲しいところだ。
録画予約画面でも、他のレコーダと考え方が違う点が多い。パッと見は普通の予約画面に見えるし、このままでOKであれば、ハイライトされている「予約」ボタンを押せば予約登録される。だが画質など修正しようと思ったときなどは、従来のレコーダの感覚的では、上ボタンを押せば各パラメータへ移動できるような気がする。 だがDS250では、なんと左ボタンで移動していくのである。よく見ると、予約パラメータから「予約」ボタンまで線が繋がっているのが見える。すなわち本来は一行なんだけどここで改行してます、みたいな表示なんである。んんーそれはちょっと無理があるのではー。
毎週予約する番組に限って使えるのが、次週の番組を前週に上書きする「更新」機能だ。HDDレコーダでも地味ながら搭載している機種も増えてきているが、本機には自動削除機能がないので、こういう機能を使っていくことになるだろう。
■ 高画質側にシフトした録画機能 次は録画機能を見ていこう。選択できる画質モードは5段階+JUSTモード。特徴的なのは、最低画質モードのEPをなくし、その代わりXPの上にXP+モードを加えて5段階になっていることだ。他社製品よりも、高画質方向へ1段階ズレていることになる。同時に画像サイズも、全モードで720×480ドットをキープするなど、「低画質でもいいから長時間」という考え方を捨てている。 この割り切りは、ハイブリッドレコーダの未来として正しい。HDD容量にしろDVDメディア代にしろ、容量単価は時間が解決する問題だ。もちろん自社グループが、それぞれのメディアを作っているという自信もあるだろう。節約モードなどは、所詮メディア貧乏な時代の産物でしかないのである。
今回はうまいことサンプルも録れたので、各画質も見てみよう。XP以上のモードではCBR、それ以外はVBRとなっている。ビットレートでは発表された資料がないのだが、いつものサンプルで測定してみたところ、以下のような数値になった。 人間、良いものを見ればだんだんゼイタクになっていくもので、録画してみた感じでは、最低でもHSPぐらいでは録りたいよなーと思うようになった。そう言う意味ではDS250の上位モデル、400GB搭載のMS-DS400は、いっぱい録れるというよりも、より高画質で録れる、という捉え方のほうが正しいかもしれない。
予約録画では、便利な機能がある。「自動延長録画」は、野球中継などで放送時間がズレた場合に対応する機能だ。これは予約録画が終わる際に、次の番組予約まで時間があるときに限り、そのまま1時間多めに録画しといてくれる機能である。
実は思いがけなくこれが役に立った。先週の土曜日に画質テスト用として、フジテレビでやってた映画を予約録画していたところ、途中で緊急特番として北朝鮮拉致家族帰国のニュースが割り込んできた。小一時間の延長だったので、普通のレコーダや30分程度の延長機能では完全にアウトだったケースだ。 これがDS250では、映画の最後までちゃんと録画できていた。通常予約範囲の最後まで行くと、延長した部分をどうするか問い合わせてくる。再生して保存、再生しないで保存、削除の3パターンだ。保存すると、前の番組とは別番組として保存されるため、連続再生できなかったりするが、それでも全然録れてないよりは格段にマシだろう。
最新録画3つ分はこの延長録画余分がキープしてあり、4つ目の番組録画時までにそこを見るなり保存しなければ、最初の番組の延長分から自動的に捨てられていく。 「削除タイトル復元」機能もすごい。PCと違ってレコーダの困った点は、UNDOができないところである。そんな環境でやっちゃって一番困るのが、間違って必要な番組を削除しちゃったときだ。「削除タイトル復元」機能では、電源を切るまでの最後の1つしか復元できないが、それでもこの機能があるとないとでは大違いである。うっかり致命的な削除やっちまったことがある人には、たまらなく魅力的な機能に映るだろう。
■ 多彩なDVDダビング機能
本機ではDVDスーパーマルチドライブを搭載しており、使用可能DVDメディアは5種類もある。ただしDVD+R/RWに対しての録画機能はなく、再生のみとなっている。また音楽CD再生とかもできるので、CD-R/RWも読める。DVD録画に関しては、フォーマットなどできることが異なるので、表でまとめてみよう。 DVD-RWは現時点ではVRフォーマットを使った記録はできない。その辺はRAMでやってくれ、ということである。だがライティングエンジンがSONIC製で、同社得意のRW再オーサリングシステム「OpenDVD」のフォルダなども一緒に記録されているので、もしかしたら将来的に対応するつもりなのかもしれない。
面白いのは、DVD-RAMを使ったMPEG書き出しである。これは番組を単にMPEG-2のデータファイルとして書き出してくれる機能で、PCに持っていってファイルを取りだし、DivXエンコードする、といった使い方も簡単にできる。ただしデータとはいっても、デカいファイルサイズになった番組に対して分割書き込みなどができないので、メディア1枚に収まる程度に再圧縮しないといけないケースもある。やはりPCとの連携には、NECのAXシリーズのようなネットワーク対応が望まれるところだ。
またこのデータ書き出しに関連するのだが、このレコーダは音声をMPEG1 LayerIIで収録している。だからデータとしてPCに持っていっても音声が再生できるファイルになっているわけだ。だがその反面、DVD-RなどにDVDビデオフォーマットで書き出すときは、規格上音声をドルビーデジタルに再エンコードしている。そのため、DVDビデオフォーマットでは高速転送ができないというデメリットがある。 基本的にはMPEGオーディオ対応のVRフォーマットで使う、すなわちDVD-RAMで使うのが便利なレコーダであり、DVD-Rで保存とかを頻繁にやるタイプの人には、本機のメリットが活かせない。
編集機能は、特にそれと呼べる機能はない。番組を再生してマーク(チャプタ)を付け、チャプターリストでそこを再生する、しないといった程度のものだ。ダビングするときに編集したかったら、このマーク付けをマメに行なって、「チャプター指定ダビング」を行なう必要がある。 だがこの方法でダビングできるのは1タイトルのみ。例えば前出のように、一つの番組なんだけど「自動延長録画」機能を使って2タイトルに分かれました、なんてものは、「タイトルダビング」を使う。このとき不要部分をカットしてダビングするには、事前にチャプターリストで不要部分の指定を行なっておく必要がある。
結果的には、不要部分指定を先にやるか後にやるかの違いしかないのに、DVD書き込み時の方法選択を分ける必然性があるのか、仕様にギクシャクしたところを感じる。 ■ 総論
どんな分野でも、後発にはメリットもありデメリットもある。レコーダ市場でそれを考えると、メリットは他社のいろいろな機能や考え方、また市場での捉えられ方やニーズを参考にして最初の製品に盛り込める点であろう。一方デメリットは、既に各社とも2年3年の経験を経て高機能になり、仕様もこなれてレベルも高くなっているところに、同じレベルに追いついて製品を出さなければならないというところだろう。 そういう見方をすれば、日立は後発のメリットをうまく引き出している。仕様や考え方もユニークだし、低画質モードを捨てるなど先を見据えた割り切りもいい。同じようなものがまた出た、という印象は全然ない。 ただハイブリッドレコーダは、できることが非常に複雑になってきているので、それぞれの機能の連携など細かいところを見ていくと、まだちょっとちぐはぐなところも見られる。このあたりは市場にモノを出して揉まれないと、なかなかこなれてこないところだろう。 だが筆者としては、久しぶりになかなか面白いと思えるレコーダだ。意外に一般人よりも、マニアに受けそうな製品である。ところどころに無理もあるが、そこを取っちゃうのではなく、使いやすくする方向で直していって欲しい。 あとは、「IT家電というのはアップデートして当然」という考え方が日立にできるか、というところが問われるだろう。USBやLANなど、まだあまり利用されていないポートが付いているのは、あとでハードウェアをアップデートするのは大変だからとりあえず全部付けとけ、ということなのだろうから、アップデートするつもりがあると期待したい。 IT家電として、日立がこの製品をどういうふうに扱っていくのか、長い目で見ておきたい製品である。 □日立製作所のホームページ (2004年5月26日)
[Reported by 小寺信良]
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