■ イキオイ付いたら止まらない?
昨年のInterBEEで参考出品された松下電器の「AG-DVC30」(標準価格312,900円、以下DVC30)を初めて見たときは、名機「AG-DVX100」の流れを汲みながらもより小型化されたことで、これはウケそうだなという予感がした。 コンシューマ市場でも、ハイエンドモデルを求める人は、コンシューマモデルの最上位機種ではなく、プロ~業務用機に手を出す人も多い。DVX100までの機能はいらないが、いい絵が撮れて手頃なサイズと価格というのは、コンシューマユーザーから見ても、十分魅力的に映ることだろう。 DVC30は既に3月末から発売が開始されているが、ようやく実機をお借りすることができたので、試してみた。また、DVC30の特徴として、夜間撮影に力を入れた点が上げられる。今回は別売のIRライトもお借りすることができたので、夜間の撮影にも挑戦してみよう。
■ 派手さはないが作りはいい
全体をブラックでまとめた外観は、テープ部がシルバーで分けられているDVX100よりも凝縮感が強く、コンパクトにまとまっている印象。鏡筒部が太いので肉厚な感じがするが、テープ部がさほど大きくないので、威圧感が少ないルックスに仕上がっている。まあ現場によっては威圧感が必要なこともあるが。 DVC30の面白いところは、撮影条件によって3つのスタイルが選べることだ。フル装備ではハンドルと、別売のXLPマイクロホンアダプタを装着し、音声収録にも十分な力を発揮する。普通プロの現場では、音声はXLRがデフォルトなので、小型とはいえこの仕様は必須なのである。
マイクアダプタを外すと、本体とハンドルだけになる。マイクは本体内蔵のステレオマイクを使うことになる。カメラとしてはポーチに入るほどのサイズではないので、場所移動などを考えると、ハンドルは付けておいた方が安全だ。通常はこのスタイルがデフォルトになるだろう。 ハンドル部のネジを外すと、最もシンプルな形となり、民生機よりちょっとデカいかな? ぐらいのサイズに見える。ハンディ専用とするには、この状態が軽くていいだろう。ハンドルを外すというアイデアは、ビクターのHDVカメラ「GR-HD1」でも見られたが、DVC30の場合は前後2カ所のネジでかなりガッシリ固定される。ハンドルを外した跡には、アクセサリーシューがあるので、この状態でもライトなどは装着できる。
レンズはお馴染みライカディコマーで、光学16倍に光学手ぶれ補正を装備。35mm換算でワイド端39.5mm、テレ端632mmと、割とワイド目に振っていてイイ感じだ。CCDは1/4型・41万画素3CCDで、高解像度静止画撮影機能はない。むろんSDメモリーカードスロットもない。NDは自動のみで、手動で出し入れする機能がないのは残念だ。 またDVC30では、ちょっと変わったデジタルズームを搭載している。従来のデジタルズームは、光学ズームのテレ端が行き着いた先から始まるものだが、DVC30の場合は、デジタルズームをONにすると、常時全体的にちょっと拡大する、固定倍率なのである。例えば1.25倍のデジタルズームを入れると、ワイド端でもOFF時に比べて1.25倍になる。 倍率は、1.25/1.5/2/5/10倍から選択できるが、特に1.25倍は「デジタル処理による画質劣化は極めて少ない」と、自信ありげだ。あとで試してみよう。 CCDと言えば誰が言い出したのか知らないが、最近はCCDの感度を比較するのに、最低被写体照度を基準にする人が増えているようだ。だがそんなもん各メーカー間になんの基準もないし、オニのように増感して画面がザラザラになってよければ、どんな真っ暗でも根性で撮れますと言えるわけである。そもそもそれが「使える絵か」ということを度外視しての判断は、まるでデジタルズームの倍率比較に匹敵するほど無意味なので、やめといたほうがいいだろう。 レンズの後ろには大型のフォーカスリングがある。これは設定でズームやアイリスにも割り当てることができる。またレンズ下部には、IRライトが内蔵されている。別売の強力なIRライトもあるのだが、多少なら本体だけでも撮れるというわけだ。
液晶モニターは大型の3.5インチを装備。モニター下部には、AUTOとMANUALの切り替えスイッチがある。前出のフォーカスやアイリスなどは、このスイッチをMANUALにしないと操作できない。 液晶内部にはVTR操作ボタンが並ぶが、撮影時には補助ボタンとして機能する。デジタルズームの切り替えや、カラーバー出力が表に出ているのは便利だ。またモードチェックボタンは、現在の使用ガンマと、ユーザーボタンの割り当てを表示してくれる。どうせならフォーカスリングの機能割り当てもできると良かっただろう。
後部はシンプルで、電源、モード切替ボタンとRECボタンがある程度。カバーに隠れた端子類は、ヘッドフォン、DV、カメラリモート端子だ。 上部にはシーソー式ズームレバーとユーザーボタンが1つある。ズームはどうしてもシーソー式じゃないと、という人は、今のコンシューマ機では望めそうもないので、こういった業務以上の機種を選択することになる。また前方にはもう1つRECボタンがある。ただしマイクアダプタを付けていると押しにくい位置にあるので、外したスタイルのときに使うことになりそうだ。
本体左側はVTR部と、カバーに隠れて入出力コネクタ類がある。なおマイクアダプタから出ている集合ケーブルを接続する端子は、カバーでは隠れないようになっている。このカバーはマイクアダプタの付属品として付いてくるもので、標準ではフルに端子が隠れるカバーになっている。このあたりの使い勝手は、よく練られている。 ついでにマイクアダプタも見てみよう。各XLR入力は、マイクとラインに切り替え可能。マイク使用時はファントム電源供給が可能なので、コンデンサマイクが使える。外部マイク1本で収録するときは、CH2に入れるか両CHに入れるかが選択できる。すなわち外部カメラマイクのデフォルトはCH2ということである。この辺りの仕様は、ソニー「DSR-PD150」などとは逆になっている。
■ 安心して使える撮影機能
では実際に撮影である。まず画角モードについて整理しておこう。DVC30では、通常の4:3以外に、16:9ではレターボックスとスクイーズが選択できる。それぞれのワイド端とテレ端は以下のようになっている。また今回は別売のワイドコンバージョンレンズ「AG-LW4307P」も試してみた。0.7倍のワイコンである。
スクイーズで撮影しても、特に画角は広がらない。ただレターボックスで撮影するよりも縦の解像度が増すというメリットはある。なお液晶モニターもビューファインダも、スクイーズ撮影時にはスクイーズ状態のまま(つまり縦に引き伸ばした状態)である。まあ録画状態に対しては忠実であるのだが、これではフレーミングするときにヘンなので、モニターはちゃんとしたアスペクト比で表示して欲しいものだ。 DVX100で一躍有名になった「CINE-LIKEガンマ」だが、DVC30にも搭載されている。ただし2:3プルダウンによる24Pではなく、30fpsのフレーム記録である。映画風にはならないが、コマーシャルなどはフィルムでも30fpsで撮影するので、それっぽい雰囲気にはできるだろう。 トーンの設定として、本機には4つのシーンファイルがある。工場出荷時はSCENE1、SCENE2、B.PRESS、MOVIE-LIKEの4種類となっており、SCENE1、2はノーマル状態、B.PRESSは暗部を若干締めたカーブ、MOVIE-LIKEがフィルムトーンで、コマもフレームモードになっている。 それぞれのファイルはユーザーが自由に変更することができ、シーン設定の名前も変えられる。ガンマはノーマルでフレームモード撮影というシーンを作ったり、全部MOVIE-LIKEにして微妙にガンマ変える、といった設定にもできる。とりあえず工場出荷値で試してみた。
ノーマルでは淡泊な絵だが、B.PRESSは黒が締まるとともに色味も若干強く出て、いかにもビデオらしい感じだ。MOVIE-LIKEは、PCモニターで見ると低コントラストに感じられるが、テレビモニターで見ると白飛び、黒潰れがなく、安心して見られる落ち着いたタッチとなる。
撮影時に便利だったのは、USER 1ボタンに仕込まれている「ワンプッシュズーム」機能だ。ボタンを押している間だけぎゅっとテレ端にズームし、フォーカスを合わせてくれる。指を離せば即、もとのズーム値に戻る。DVC30のズームはカム式ではないが、こういうことができるのは電子制御のメリットだろう。 マニュアル撮影で気になったのは、シャッタースピードとアイリスの関係だ。ダイヤル1プッシュでシャッタースピードが設定でき、アイリスはオートになる。2回目のプッシュでシャッタースピードが固定され、アイリス調整になる。もう一度プッシュすると最初に戻り、アイリスオートでシャッタースピード設定だけになる。 これではシャッター優先では撮れるものの、絞り優先で撮れない。被写界深度を浅くしたいときなどは、アイリスオープンにしてシャッタースピードで露出調整をしたいわけだが、そういう撮り方をするには、シャッタースピードをとりあえず適当に設定してみてから、アイリスをオープンにしてどうかな、またシャッター調整してこれではどうかなと、何度もダイヤルをプッシュして根性で設定しなければならないではないか。コンシューマ機ならわかるが、このクラスで完全マニュアルにならないというのは、いただけない。 では、自慢のデジタルズームも試してみよう。設定には2モードあり、×24に設定すると、等倍、1.25倍、1.5倍のデジタルズーム切り替えとなる。×160に設定すると、2倍、5倍、10倍が選択できる。とりあえず1.25倍と1.5倍を試してみた。
確かに1.5倍では拡大している感じがあるが、1.25倍ぐらいなら、多少フォーカスが甘めぐらいの感じで、こちらからバラさなければほとんどわからないだろう。テレ端16倍を1.25倍すれば、論理的には20倍になるわけで、もう一歩寄りたいときのお助け機能としては、確かに便利に使えるかもしれない。
フレアはまったく出ないわけではないが、上手く散らしているほうだろう。民生機ならスミアも盛大に出ておかしくないショットだが、ギリギリで堪えている感じだ。
レンズの明るさやCCDの感度もよく、既に日が暮れたぐらいの照度でも、アイリス解放でかなり明るく撮れる。
■ 夜間撮影には必須、IRライト では日も暮れたことだし、SNSとIRライトを試してみよう。別売のIRライトは最大到達距離約30mと、かなり強力な赤外線光を出すライト。遠くを照らすSPOT、近距離を幅広く照らすWIDEの2モードがある。また明るさもボリュームで調整できる。ただこのライト、何か本体と連動するわけではないので、全部手動で調整する必要がある。
SNSにはモードが3つある。まずは内蔵のIRライトだけ使って、モードを表でまとめてみよう。
被写体との距離は約3m。IRモードでは、シャッタースピードが1/60なので、被写体の動きは自然だ。ただ内蔵IRライトだけでは、距離3mでもこの程度なので、やはり外部ライトは欲しくなる。一方SUPER IRモードでは、スローシャッターなので、激しい動きのあるものはフォローできないが、S/Nは格段にいい。COLOR IRモードはカラー撮影なのでIRライトが使えないが、色があるぶんあまりS/Nの悪さは感じない。 ではIRモードで、別売IRライトの効果を試してみよう。
被写体がちゃんと動いてこれだけ映れば、わざわざ外部ライトを使う甲斐もある。ただ被写体が遠くて動いている場合は、撮影がなかなか難しい。
右のサンプルの画像は、被写体までの距離は目測で15~20mといったところだろうか。実は筆者は夜間のIR撮影は初めてなので勝手がわからなかったのだが、これだけ離れてしかも真っ暗だと、オートフォーカスとか全然使えないのね。液晶モニターやファインダでもフォーカスがよくわからず、動きのフォローとフォーカスフォローで四苦八苦であった。恥ずかしくて動画なんか載せられたもんじゃない。野鳥とか撮ってる人は、偉いなぁ。 ■ 総論
実際に使ってみると、DVC30は「小型のDVX100」という位置づけとは違ったカメラだ。ナイトモード強化という差別ポイントもあるのだが、ところどころにコンシューマ機っぽい割り切りも見える。コンシューマ機とDVX100の中間といったあたりが、正直な印象だろうか。 だがそれでも、細かい色の作り込みやフレーム撮影、レンズの質やCCDのS/Nなど、民生機では得られない多くの利点を備えており、腰を据えてじっくり風景を撮るような人にはピッタリだろう。またオートフォーカスのフォローも結構速いので、とにかくオートでガーッと現場に突っ込んで行くといった撮り方にも対応できる。 今コンシューマでは、ハイエンドモデルでも10万半ばで手に入る時代になった。DVC30は、その約2倍の値段である。だがそこまで出さないと、撮れない絵というものがある。DVC30は、その差がどこなのかわかる人が選ぶカメラだ。 □松下電器のホームページ (2004年6月2日)
[Reported by 小寺信良]
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