【バックナンバーインデックス】



ソニー入魂のHDD“ウォークマン”
世界最小/最軽量の1.8インチHDDプレーヤー
ソニー 「NW-HD1」
発売日:7月10日
実売価格:53,000円前後


■ HDDネットワーク“ウォークマン”登場

 ソニー初のHDDオーディオプレーヤーとして、「VAIO pocket」が登場したのは記憶に新しい。テレビCMなども大々的に展開し、市場の反応もなかなかいいようで、“いよいよソニーもHDDプレーヤーに本格参入”とかなり騒がれている。

 そんな中、矢継ぎ早に今度は、“ウォークマン”ブランドの新製品として初のHDDオーディオプレーヤー「NW-HD1」を発表した。

NW-HD1を持つ安藤国威社長

 ネットワークウォークマン「NW-HD1」の最大の特徴は、外形寸法89×12.6~13.8×62.1mm(幅×奥行き×高さ)、重量約110gと、1.8インチHDDプレーヤーとして世界最小クラスを実現したこと。HDD容量は20GBながら、大きさとしては「iPod mini」や「Muvo2」などの1インチ/4GB HDDプレーヤーとも遜色ないサイズまで小型化されている。

 また、VAIO pocketと比較するとカラー液晶や、フォトストレージなどの付加機能が省かれており、あくまでオーディオプレーヤーとしての機能に特化した製品となっている。VAIO pocketのリリースからわずか1カ月後の発売というのは、消費者にも混乱を招くかもしれないが、ソニーとしては、「この部署はコレをやっていればいい、という関係ではなく、それぞれがお互い連絡を取りながら特徴を生かした製品ができあがれば、製品化するという方針」(安藤社長)という。


シルバーとブラックの2色が用意される

 実際にこのNW-HD1は、コアとなるATRACコーデックLSIなどでVAIO pocketと共通部品を使っている。しかし、“ウォークマン”ブランドを冠するにあたり、小型/軽量化や長時間再生を目指したため、基板などの設計はまったく別物となっているという。VAIO pocketでもカタログ値で約20時間(ATRAC3plus 48kbps)の長時間駆動をアピールしていたが、NW-HD1では約30時間(ATRAC3plus 48kbps)とさらなる長時間再生を実現している。

 実売価格は53,000円前後と、VAIO pocketとほぼ同じで、同容量のiPod(約45,000円)などと比較するとやや高い価格設定だ。なお、ボディカラーはシルバーとブラックが用意されるが、今回はブラックモデルをお借りした。実際には、ブラックというよりは、グレーよりのシルバーにしか見えないかったが……。



■ 胸ポケットに収まる本体サイズ。デザインはオーソドックス

同梱品

 付属品は、専用のUSB/充電クレードルと、液晶リモコン、ヘッドフォン、ACアダプタ、キャリングポーチなど。

 本体は外形寸法89×12.6~13.8×62.1mm(幅×奥行き×高さ)、重量約110gと小型/軽量で、胸ポケットにも余裕で収まるし、バックの中に設けられている小さなポケットなどにも無理なく収納できる。

 ボディにはマグネシウム合金を採用(下面のみABS樹脂)し、工作精度含め高級感は申し分ない。前面に1.5インチのモノクロ液晶を搭載。液晶右脇に上下/左右ボタン、決定ボタンを備え、上面のMENUボタン、MODEボタン、ボリュームボタンと組み合わせて操作を行なう。


本体前面。液晶右の操作ボタンで基本操作を行なう 上面にMENU、MODE、ボリュームボタンを装備する 下面にクレードル接続端子やHOLDボタン、BULIT-IN BATTERYスイッチ(通常はON)を備えている
右面にはハンドストラップホールを装備する 背面に大きなSONYロゴとWALKMANロゴを装備 胸ポケットにちょうど収まるサイズ
20GB HDDプレーヤー「iAUDIO M3」やMDウォークマン「MZ-E10」との比較

本体と比べるとリモコンはやや大きめ

 リモコンは同社のCD/MDウォークマンなどと共通の1行表示のもの。MDを使っている時はさほど気にならなかったが、プレーヤーが小型化されたため、改めて並べてみるとやけに大きく感じる。

 クレードルは、ピアノ調の光沢ある塗装の施された高級感あるもので、DC端子やUSB端子を装備する。充電機能やパソコンとの連携などもすべてクレードル経由で行なう。USBはUSB 2.0に対応する。


リモコンは1行表示 下面のジョグバーで基本操作を行なう。フォルダ+/-でアルバム間移動などが可能 上面にHOLDボタン、DISPLAY、P MODE、SOUNDなどを装備する

クレードル正面 背面にDC入力とUSB端子を装備する。USBはUSB 2.0での転送に対応


■ シンプルな操作体系と軽快動作。操作はストレス無し

オーディオデータの転送にはUSBクレードルを利用する

 本体へのオーディオ転送はUSBクレードルを介して行なう。対応オーディオ形式はATRAC3/ATRAC3plusのため、付属のSonicStage Ver.2.1でATARC3/ATRAC3 plus形式でリッピングするか、WAVやWMA/MP3などからATRAC3系ファイルに変換する必要がある。

 CDからのリッピングの場合、CDDBもしくはMUSIC NAVIから曲情報を取得できる。また、MP3やWMAからATRAC3に変換する際も、タグ情報を引き継いで変換できる。ビットレートは、ATRAC3plusが256/64/48kbps、ATRAC3が132/105/66kbpsから選択可能。なお、SonicStage Ver.2.1では未転送の曲を自動検知して、プレーヤーに転送する「自動転送」機能も追加されている。


SonicStage Ver.2.1。Moraからダウンロードしたデータの転送も可能となる 録音フォーマットはATRAC3/ATRAC3plusを選択できる Ver.2.1では未転送の曲を自動検知して転送する「自動転送」が追加された

転送画面

 なお、NW-HD1とSonicStage Ver.2.1では、「ATRAC Audio Device(ATRAC AD)」と呼ばれるフォーマットをサポート。これはHDDプレーヤー向けの拡張機能で、対応機器に与えられた固有の情報に基づいて、PCとの間で機器認証を行ない、暗号化された音楽をダイレクトに転送するというもの。あわせてHDDに最適化したデータ管理などを行なうため、転送速度を従来の約5倍に高速化したという。

 ThinkPad X31から800MBのファイルをNW-HD1に転送した際の転送時間は約4分30秒とかなり高速だった。なお、VAIO pocketとHDD AVカーナビシステム「XYZ」でATRAC ADをサポートしており、SonicStage Ver.2.1と組み合わせることで、高速な転送が行なえる。


再生画面。液晶右側の操作ボタンで基本操作を行なう

 液晶脇の丸型の上下/左右、再生/停止ボタンで曲の再生/停止、スキップ/バックなどの基本操作が行なえる。上面のMODEボタンを押すと、Artist/Album/Genre/Group/Otherなどの検索モードが現れ、アーティストやアルバム、ジャンルごとの検索が可能となる。

 ここで、液晶脇のボタンで任意の曲やアルバムなどを選択すれば、再生がスタートする。大量のアルバムなどを検索する場合には、iPodのホイールのように移動量を調整できないので、iPodと同程度に軽快というわけにはいかないが、不満を感じるほどでもない。操作系はそつなくまとまっており、操作レスポンスも高速だ。上下左右操作ボタンはクリック感があり、押しやすい。


アーティスト検索 アルバム検索 ジャンル検索
グループ検索 Other検索では、新着グループとブックマークが利用できる

 GroupはSonicStage上で作成したグループごとの表示を行なうモード。また、Otherは[New Tracks](新たに転送されたグループに含まれる曲)と、[Bookmark](本体で作成したプレイリスト)をつけた曲を検索/表示するモードとなっている。[New Tracks]は最近の転送分5回のグループを表示する。

 [Bookmark]は、再生/一時停止中の曲で上/下のいずれかを押したまま(リモコンではジョグレバーを押したまま)にすると登録できる。最大100曲までの登録が可能となっている。iPodでいう、「On-The-GO」機能だ。なお、ブックマークを複数作ったり、作成したブックマークを保存する機能は備えていない。

 曲の選択から再生までのレスポンスは良好で、ArtistからAlbumなど検索モードを移動する際に1~2秒程度かかることもあるが、そのほかに操作中に待たされることもない。VAIO pocketでは曲送りなどでもたつくことがあったり、モード切替にはやや待たされることがあったが、NW-HD1ではそうした操作に関するストレスはほとんど感じなかった。

1行表示の液晶リモコンだがほぼすべての再生機能を利用できる

 本体も片手でも操作できるほか、リモコンでの操作も可能。リモコンはMDウォークマンなどと同種の縦長の一行表示のもので、カナ漢字表示に対応する。一覧できる情報量は少ないものの、あえて従来のウォークマンと共通のリモコンを採用したあたりに、“ウォークマン”ブランドへのこだわりを感じさせる。

 液晶下部のジョグレバーで再生/一時停止やスキップ/バックなどの基本操作を行ない、レバー左には停止ボタンを備える。レバーの右側にはフォルダ+/-ボタンを装備し、このボタンで次のアルバムやグループへの移動が行なえる。

 フォルダ+/-での移動は本体のMENUボタンで、どのモードを選択しているかに依存し、Artistモードであれば、アーティストごとのスキップ/バック、Albumモードであればアルバムごとのスキップ/バックに割り当てられる。

 上面にHOLDボタンや、曲名/アーティスト名/アルバム名/再生時間などの表示切替を行なう[DISPLAY]ボタン、シャッフル/リピートなどの再生モードを切り替える[P MODE]ボタン、バーチャルサラウンドなどを選択できる[SOUND]ボタンを備えているなど、再生機能に関しては、リモコンでもほぼ全ての操作が行なえる。



■ 音質は良好。魅力的な「スタミナ再生」

付属のイヤフォン

 付属のイヤフォンも従来のMDウォークマンを踏襲したデザインで、おそらくVAIO pocketのものと同じだろう。低域は弱めだが、解像感はなかなか高く、そのままでも十分使える。ただイヤーパッドがなく密着感がないため、耳から外れやすかったり、地下鉄の騒音などには弱いので、不満があれば好みのヘッドフォンを利用したほうがいいだろう。

 ヘッドフォンを変更してみても本体の再生性能は高く、特に中高域の解像感の高さが印象的。ATRAC3plus 256kbpsは高品質だが、48kbpsだと圧縮音楽らしい中高域のキツさと、高域の伸びのなさが気になることもあるが、電車などで聞く分にはさほど気にならないとも言える。ただ、ATRAC3plusの256/66/48kbpsというビットレート設定は、選択肢が少なく、極端な設定に感じる。

 音質設定は、バーチャルサラウンド機能や6バンドイコライザを搭載。MENUボタンもしくはリモコンのSOUNDボタンで設定可能で、バーチャルサラウンドは、Studio/Live/Club/Arenaが用意され、「それっぽい」音場を楽しめるので、ライブ盤などでは結構重宝する機能だ。イコライザはHeavy/Pops/Jazz/Uniqueと2つのユーザーモードが選択できる。

 ATRAC3plus 256kbpsを中心に連続再生したところ、約15時間でバッテリインジケータの最後の1目盛りになり、18時間過ぎでインジケータが点滅した。より低レートのファイルを利用すれば、さらに長時間の駆動が可能だろう。

 なお、USB経由での充電には対応していない。もっとも本体にUSB端子を装備していないため、いずれにせよ充電にはクレードルが必要となるので、不便さには変わりはないだろう。

データストレージとしても利用できる

 なにより、約30時間の再生が可能なため、通勤/通学時などではほとんど電池切れを心配する必要もないだろうし、短期の出張であればアダプタ、クレードル無しでもすごせるだろう。

 また、クレードルと接続した際にはUSBのデータストレージとしても利用できる。データストレージ利用時としてアクセスした際には、オーディオデータは暗号化されており、PCに書き戻しても復元できない。またデータ領域にオーディオデータをコピーしても本体では再生できない。



■ とにかく小型かつ大容量を求めるなら最良の選択肢

 機能的にはシンプルだが、音質や、音楽プレーヤーとしての基本的な機能は非常によく練られており、操作性/レスポンスなどはトップクラス。小ささ、軽さなどはほかの1.8インチHDDプレーヤーから一歩リードしており、従来のウォークマンを踏襲したリモコンなど、MDからの移行ユーザーなどにもわかりやすい製品に仕上がっていると思う。

 録音機能やフォトストレージ、ビデオ再生機能などの最近のHDDプレーヤーのトレンドには脇目も振らず、とにかく音楽プレーヤーとしての成熟を高めた製品だ。そうした基本性能ではiPodと並ぶ完成度の高さを有している。また、VAIO pocketよりはるかに洗練された製品に仕上がっているあたりに、ソニーの本気が感じられる。

 ほとんど欠点らしい点は見当たらないが、あえて言うならばやはり対応オーディオコーデックがATARC3/ATRAC3plusのみということだろう。ソニーをはじめとする国産メーカーに著作権管理の緩い機器を望むことは難しい状況なので、こればかりは致し方ないのだが、MP3やWMA、Ogg Voribisなどでライブラリを作ってきた人にとって、不便に感じるのも事実。

 とはいえ、MP3やWMAの128/160kbpsのファイルであれば、64kbpsのATRAC3plusに再変換してライブラリに追加したり、あるいはデータはMP3/WMAを持ちながら、転送時にATRAC3/ATRAC3plusに変換するというのもありだろう。そうした意味では、VAIO pocketに同梱していたATRAC3/ATRAC3plus変換/転送ソフト「MusicMove」もバンドルしてほしかったところだ。

 また、ATRAC3/OpenMGの導入によりそうしたデータ管理がやや面倒になるのは我慢するとしても、ATRAC3plusにも128kbpsあたりの一般的なビットレートも用意して欲しいところ。「ソニー的にはATRAC3plus 64kbpsがMP3 128kps相当」といわれても、ユーザーの楽しむ選択肢が狭められている印象は拭えない。

 もっとも、フォーマットがATRAC3だMP3だ、などといっているPC寄りのユーザーを取り込むよりは、MDユーザーなど、コーデックやPCなどにさほど詳しくない人に主眼を置いて市場の拡大を狙っているような製品だろう。つくりのよさや、わかりやすい操作性は随所にMD/CDウォークマンからの継承を図っているように感じられるし、iPodがリードして拡大してきた市場を、さらに拡大させるための非常に重要な試金石という気もしてくる。

 ともあれ、小さなHDDプレーヤーがほしいが1インチの4GB程度では容量が足りないという人には最適な選択肢であるのは間違いないだろう。1インチ級の小型化を実現しながら20GBという容量を確保したプレーヤーとして、市場でも際立った製品になっていると思う。53,000円という価格はVAIO pocketと同等だが、「とにかく音楽を気軽に聞きたい」とユーーザーであれば、NW-HD1が間違いなくお勧めだ。

 iPodなど20GB HDDプレーヤーは4万円弱から4万円台後半が相場となっており、やや高めの価格設定に感じるかもしれないが、「小型/軽量」を最優先にすれば、NW-HD1は最有力候補になるだろう。とにかくこの市場にかけるソニーの「本気」が感じられる製品に仕上がっている。

□ソニーのホームページ
http://www.sony.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.sony.jp/CorporateCruise/Press/200407/07-0701/
□関連記事
【7月1日】ソニー、世界最小/最軽量20GB HDDネットワークウォークマン
-“ウォークマン”ブランド初のHDDプレーヤー
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040701/sony1.htm
【6月9日】【EZ】やっぱり気になるでしょ? 「VAIO pocket」
~ HDDプレーヤーは新世代ウォークマンの夢を見るか ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040609/zooma157.htm
【5月21日】【デバ】とうとう出たソニーのHDDオーディオプレーヤー
カラー液晶搭載。新UI「G-Sense」は使えるか?
ソニー「VAIO pocket(VGF-AP1)」
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040521/dev069.htm
【5月10日】ソニー、2.2型LCD搭載20GB HDDオーディオ/フォトプレーヤー
-タッチパッド式UI搭載。3行液晶リモコンも付属
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040510/sony1.htm

(2004年7月2日)

[AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]


00
00  AV Watchホームページ  00
00


Copyright (c) 2004 Impress Corporation All rights reserved.