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第170回:ブレイクの予感!? iriver「PMP-120」
~ 期待大のiriver製マルチメディアプレーヤー ~


■ いよいよ待望の「秋」が来た

 2004年初頭のCESでは、モックや試作機を含めいくつかのポータブルビデオプレーヤーを見ることができた。販売時期に関してはどのメーカーも異口同音に今年秋頃と言っていたが、9月に入りそろそろ実機が出てくるようだ。

 先週はCreativeの「Zen Portable Media Center」が米国デビューを果たしたが、残念ながらここ日本での発売は「調整中」というビミョーな状態。そんな隙を突くかのように、今月10日にiriverのマルチメディアプレーヤー「PMP-120/140」がデビューする。日本での直販価格は20GBモデルの「PMP-120」が52,800円、40GBモデルの「PMP-140」が62,800円だ。

 ここでちょっと今後のポータブルビデオプレーヤーの動向を整理すると、大きく二分されていくだろうと思っている。前者は各メーカーが独自にOSや再生フォーマットを決めて作る製品群で、主にMPEG-2/4/DivXといったフォーマットをサポートする。HDD搭載に限ればARCHOSの「Cinema To Go」、NHJの「MPM-201」、そしてソニーの「HMP-A1」などが思い当たる。

 そして今後そこにZen Portable Media Centerのような、「Windows Mobile based Portable Media Centers(Windows PMC)」と呼ばれるMicrosoft製OSを搭載するタイプが割り込んでくることになる。再生可能ファイルは当然、WMVが中心。基本的にMicrosoft自身がハードウェアを作るわけではなく、いろんなメーカーがこのOSと仕様を採用して、製品が出てくることになる。

 メリットとしては、OS部分を始め仕様を改めて固める必要もないので、ソフトウェアの開発力やAV経験が乏しいメーカーでも市場に参入できるというところが上げられる。レールが敷いてあるので、そこに乗っかるかどうかという判断になるわけだ。状況としてはおそらく、Windows XP Media Center Editionの世界を、ポータブルデバイスに延長するようなことになるだろう。

 今回のiriver PMP120は、前者のDivX系プレーヤーにカテゴライズされることになる。面白いのは、iriverでも秋にWindows PMC採用の製品投入を予定していることだ。自前でやる開発力があればどちら派ということもなく両方作っちゃうわけで、有り体に言えばDivXかWMVかは、ユーザーの判断ということになる。

 メモリ型ミュージックプレーヤー市場で最大手に成長したiriverが繰り出すマルチメディアプレーヤー「PMP-120」、その実力を早速検証してみよう。ただし今回お借りしたのは、まだ完全に日本仕様のパッケージではないため、付属品や仕様などが製品版と異なる可能性もあることをお断わりしておく。


■ 作りの良さは国産品並み

 ではまずルックスからチェック……と言いたいところだが、その前にPMP-120のだいたいのスペックを把握しておこう。本機は1.8インチ 20GB HDDを搭載したマルチメディアプレーヤーで、機能としては動画、音楽、静止画、FMラジオの再生と、ボイスレコーディングが可能。USB On-The-Goにも対応しており、USBケーブルを介してデジタルカメラなどを直結し、画像を転送することもできる。

再生可能ファイル
ビデオ DivX3.11/4.0/5.x、XviD、ISO MPEG-4 SP、ASF
オーディオ MPEG1/2/2.5、MP3、WMA、WAV、ASF
静止画 JPEG, BMP

デザイン的にも落ち着いて、なかなかいい感じだ

 本体の第一印象としては、ボディの継ぎ目やボタンなどかなりしっかりした作りで、デザイン的にも綺麗にまとまっている。韓国設計・中国製造の製品だが、もはやそのような事情を云々するような時代ではなくなったことを痛感させる。今回お借りした製品は20GBモデルのPMP-120なのでシルバーだが、40GBモデルのPMP-140ではゴールドになるという。

 持ってみた感じは意外に軽く、裏側には両手で掴むような出っ張りがあるため、片手でも両手でも持ちやすい。操作ボタン類は左右にまとめられており、左側には十字ボタンと電源、録音、HELPボタンが並ぶ。最上部のパンチンググリル部はスピーカーだ。右側は上からプレイ/ポーズ、NAVI、A、Bボタンとなる。

見た目よりも軽く、重量約280g 左側に十字キーと電源ボタンなど 右は再生をはじめ、NAVIボタン、A,Bボタンと並ぶ

 液晶モニタは3.5インチの320×240ピクセル表示で、発色に派手さはないが鈍いという印象もなく、しっとり落ち着いた感じだ。モニタの上にはHDDアクセスと充電状態を示すLED、録音用のマイクがある。

 本体上面には、専用リモコンが接続可能なヘッドホン端子とDC電源端子がある。底面にはAV出力/音声入力兼用端子と、モニタの外部切り替え/ホールドボタン、リセットスイッチがある。外部入力から記録できるのは音声のみで、録画機能はない。

上部にはヘッドホン端子とDC電源端子 底面にはAV出力/音声入力端子とホールドボタンなど 2つのUSB端子は、PCからの転送とデジカメからの転送で使い分ける

 左側面にUSB端子が2つある。1つはPCとファイルをやりとりするためのUSB2.0端子で、もう1つはデジカメなどを接続して本機がホスト側になるUSB1.1端子だ。なお充電は、USB経由でも行なえる。

 背面の出っ張った部分にリチウムイオンバッテリがあり、取り外してみると、フタ部分と一体になっている。交換用バッテリが販売されるのかわからないが、外装部品形成のコストを考えると、ちょっと高くつきそうだ。バッテリ持続時間は、目安として640×480 24fpsの動画で4時間、320×240 24fpsの動画で5時間とある。反対側の出っ張りには、本体を自立させるためのスタンドがあり、2段階のロックがある。

背面ホールド部に仕込まれたバッテリ 収納式のスタンドもあり、自立させることができる

付属イヤホンは、音質で定評のあるSENNHEISER MX400

 付属品も見てみよう。iriverでは以前からイヤホンはSENNHEISERのMX400を同梱した製品があったが、今回も同じだ。ただ本家のMX400は左右同長ケーブルだったが、付属のものは右側が長い片出しタイプとなっている。

 秀逸なのがハードケースで、本体を挟み込んで固定できるようになっている。フタを開けただけで操作できるため、電車の中などで鑑賞するときにも、フタ部分で画面を隠すことができるため、対面からのぞき込まれる心配がない。また光りが入って見づらいときにも、フードの役目も果たす。閉じた状態でもイヤホン端子部分が空いており、音楽を聞くときにも不便はない。

本体をセットしたまま使えるハードケースが付属 ケースを閉じたままリモコン使用も可能

 音楽と言えばリモコンだが、どうやら日本語版パッケージには同梱されないようだ。モノ自体は存在するようなので、別売ということになるのだろうか。ミュージックプレーヤー大手の製品としては、ちょっと残念だ。


■ ちゃんと動くが操作性に難あり

 続いてソフトウェアのほうを見てみよう。電源を入れると、最初に機能選択画面が起動する。ここで見たいメディアタイプを選ぶ。いろいろ再生してみる前に、まずデータを転送しないことには始まらないので、USB 2.0でPCに接続する。

最初に表示される機能選択画面でやりたいことを選ぶ PCに繋ぐと、USB HDDとしてマウントされる

 付属ソフトとしては、「iriver Media Converter」と「DivX 5.1.1」が付属してくるが、これらのソフトは本機で対応していない動画フォーマットをDivXにコンバートするためのもので、転送ソフトではない。ファイル転送はメディアの種類に関係なく、単にエクスプローラ上でファイルをドラッグ&ドロップするだけだ。

 最初にDivXの動画を再生してみた。機能選択画面からVideoを選択すると、ブラウザ画面が起動して、Videoフォルダ内に移動したのがわかる。十字キー右で下の階層に、左で上の階層に移動できる。日本語のファイル名も問題ないようだ。だがせっかくVideoっていうところを選んだのだから、いきなり生のファイルブラウザ画面を出すよりも、もうちょっと気の利いたアイコン表示などして欲しいところ。

iriver Media Converterは、動画ファイルのDivX変換に使用する 日本語のファイル名も表示できる

 動画ファイルの再生は、ファイルを選んで十字キーの真ん中にあるSELECTボタンを押し……ても再生しない。このボタンは本当にファイルをマルチ選択とかするときに使われるだけで、ファイルの再生には本体右側の再生ボタンを押す必要がある。

 くわしくは音楽再生のときに述べるが、どうも本機では再生の基本をプレイリストに置いているようで、ファイル画面で選択してプレイリストに送ってから再生、という段取りが本筋のようだ。映像の場合、一度見始めたら1つのファイルで30分から2時間ぐらいになるわけだから、特にプレイリストを作成する必然性はないと思うのだが。

動画再生中の画面。ボリューム操作や早送りなどの操作をしたときには、上下にステータス表示が出る

 再生結果は上々で、レターボックス状にクロップした変則的な画面サイズのファイルも、アスペクト比が狂うことなく綺麗に再生された。暗部の階調はコーデックの特性と相まって今ひとつだが、解像感は高く、鑑賞には十分だ。フレームレートは微妙に可変するようで、激しいシーンになるとコマ数が減るが、見ていてさほど違和感はない。レジューム再生にも対応しており、途中で視聴を中断しても同じ場面から再開できるなど、基本的な機能はクリアしている。

 Creativeの「Zen Portable Media Center」では、再生可能なビデオファイルが320×240ピクセル以下、ビットレート800kbps以下のWMVであるのに対し、PMP-120ではDivX 4.0と5.xのファイルであれば、最大640×480ピクセル、1.5Mbpsまでのビットレートに対応しており、再生キャパシティが広いのも魅力だ。この程度のクオリティならばPCで見てもさほど損失感がなく、TPOに合わせて両者を使い分けることができる。

 再生画面から最初の機能選択画面に戻るのがややこしい。再生ボタンを長押しすると、いったんプレイリスト画面に出る。そこからさらに再生ボタンを長押しすると、ようやく機能選択画面に戻ることができる。つまり、頻繁に使用するはずの「戻る」アクションが、「再生ボタンの長押し」に割り当てられているのだ。しかもそれを2回やるはめになるため、機能を行ったり来たりする際には非常にまどろっこしい。

 もともといろんな機能を持っているから「マルチメディアプレーヤー」であるわけで、機能の切り替えは頻繁に有り得るはずだ。もっとスパッと上のメニュー階層に戻れるボタン割り振りもできると思うのだが。


■ オーディオの再生品質は高い

 続いてオーディオの再生系を試してみよう。音楽再生では、MP3とWMAをサポートしている。映像のほうはWMVをサポートしていないが、最近使用者が増えているWMAをサポートしている点は喜ぶ人も多いだろう。

 音楽ファイルの再生も基本的な操作は同じで、機能選択画面から「Music」を選んでブラウザ表示に切り替える。多くの音楽プレーヤーでは、フォルダ内の先頭の曲を再生すると、そこから順次曲を再生していく。

 ところがPMP-120では、こうやって再生すると、その1曲だけで再生が終わってしまう。前段にも書いたが、基本がプレイリスト再生なので、こういう使い方だと、1曲しか登録されていないテンポラリのプレイリストができてしまうのである。

音楽再生中の画面。そのままにしておくと、数秒でLCDがフェードアウトする 曲ファイルまで掘っていって再生すると、1曲しか再生しないプレイリストができあがる

 したがってアルバム単位で聞こうと思ったら、アルバムのフォルダを選んだ状態で再生ボタンを押す必要がある。これでフォルダ内に含まれる全曲のプレイリストができあがるからだ。まあ考え方によっては合理的っちゃ合理的なんだが、若干のとまどいを覚える。

 肝心の音質だが、いつもプレーヤーの歪みテストに使っているKRAFTWERKの「EXPO2000」も綺麗に再生された。そのままだとやや大人しい音質だが、Bボタンを押すとRock、Jazz、Classic、U.Bassの4種類のプリセットEQが使えるほか、ユーザー設定として5バンドEQが使えるので、かなり救えるだろう。

 音楽プレーヤーとしては、転送した曲のID3タグをスキャンしてデータベースを作り、アーティスト別やアルバム別などに分類して表示する機能もある。ドラッグ&ドロップ転送タイプでは普通こういうことはできないのだが、PC接続時にPMP-120内部のファイルをスキャンすることで、このデータベースを作ることができる。このDBスキャンを行なうためには、PC側に前出の「iriver Media Converter」をインストールしておく必要がある。

プリセットのEQのほか、ユーザー設定として5バンドEQが使える 本体内の音楽ファイルをスキャンして、データベースを作ることができる

 続いてFMラジオを聞いてみよう。本機ではオートスキャンを行なって放送局を順にプリセットしてくれる機能があるので、地方に行ったときなども楽ちんだ。またセットアップで放送圏を日本、韓国、ヨーロッパ、米国に切り替えることができるので、海外出張時も楽しめることだろう。

FMはチャンネルを自動スキャンしてプリセットを作ってくれる FMの放送圏を変更できるので、末永く?楽しめる



■ そつなく使える静止画機能

 最後に静止画表示も試してみよう。USBで接続できるデジタルカメラの情報は、PMP-100シリーズのトップページに載っている。もちろんこれ以外にも動くカメラは沢山あることだろう。

画像の再生方法も、基本的には同じパターン

 付属の変換ケーブルを使って、筆者手持ちのPanasonic DMC-FZ1を繋いでみたところ、あっさり認識された。あとはブラウザ画面でファイルコピーすれば、デジカメのバックアップデバイスとしても使えることになる。

 静止画の見方も今までと同じで、フォルダかファイルを選んで再生ボタンだ。複数選んだからといって自動でスライドショーするわけでもなく、次の写真を見るには自分で十字キーを押して進めなければならない。Aボタンで拡大、Aボタン長押しで90度回転、Bボタンでファイル情報を表示する。

 表示品質は、ディザリングなど写真の細かいところを言い始めるときりがないが、色の方向性やフォーカスなど、だいたいOKかNGかぐらいは確認できるクオリティは持っている。


■ 総論

 PMP-120は、DivX再生機の中では再生キャパシティが広く、表示品質もなかなか良好だ。音楽プレーヤーとしてはかなりデカいので、これはまあ補助的な使い方になるだろうか。

 FMラジオが付いているのは一見オマケのようだが、ワールドワイド仕様だと考えれば、これは海外出張のお供としてはかなり楽しめる。静止画機能の主な目的は、やはりデジカメのバックアップになるだろう。ノートPCでもいいのだが、これぐらいのサイズでバックアップができるのであれば、携帯するのにも苦にならない。

 用途が広く、ハードウェアポテンシャルは非常に高いのだが、難点は操作体系が覚えにくいところだろうか。なんだか右側4つのボタンに対して泥縄式に機能を割り当てているような感じで、様々な操作場面でなぜこれがAボタンなのか、Bボタンなのか、とか、なぜ長押しなのか、といった論理的根拠というか統一感がまるで感じられない。

 だがまあ製品の基礎であるハードウェアさえしっかりしていれば、ソフトウェアはファームウェアのアップデートで改善される可能性もある。MP3プレーヤーでも頻繁にファームウェアによるアップデートを行なう同社なだけに、今後のアップデートによる操作性改善に期待したい。

 個人的には、「Zen Portable Media Center」の動画再生基準の狭さにガックリ来た。もっともこれがWindows PMCとしての標準仕様なのかはわからないが、元ファイルはVGAサイズで持って置くというのが、ビデオ野郎の心意気というもんだ。そしてそれがダイレクトに再生できないのであれば、ポータブルプレーヤーとして使う意味がない。

 PMP-120は、現時点のDivXプレーヤーの中で、筆者がもっとも真剣に買ってもいいと思ったデバイスである。

□アイリバー・ジャパンのホームページ
http://www.iriver.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.iriver.co.jp/company/news.php?article=104
□製品情報
http://www.iriver.co.jp/product/pmp-100/
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(2004年9月8日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]



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