大河原克行の
【第7回:松下】3Dバリューチェーンで仕掛けるデジタル家電事業
■ デジタル化しただけでは市場は拡大しない
この3つの製品群を核に、それぞれの機器を接続し、バリューチェーンを作ることで、新たな利用環境や製品を創出することが、デジタル家電市場においては必須になるというのが松下電器の考え方だ。パナソニックAVCネットワークス社の大坪文雄社長は、そのあたりを次のように説明する。
■ 3Dバリューチェーンに見る3つのステップ 3Dバリューチェーンにはいくつかのステップがある。最初のステップは、それぞれの製品が単品でグローバルナンバーワンを獲得するという戦略だ。 「3つの領域において、ナンバーワンとなる強い商品を創出することが、3Dバリューチェーンを強い物にする」と、大坪社長は話す。
一方、DTVでは、なんといってもプラズマによる事業戦略が柱。茨木第2工場での量産体制に加えて、尼崎の新工場もちょうど地鎮祭が終わり、2005年11月の稼働に向けて本格的な着工に乗り出したところだ。2007年度には、これらの生産設備をあわせて年間450万台の体制を予定しており、PDPによるグローバルナンバーワンに向けた体制づくりが推進されている。
■ ネットワーク化にも3つのステップ グローバルナンバーワン戦略とともに、ステップ2として推進するのがネットワーク化によるバリューチェーンの構築だ。このネットワーク化への取り組みでは、さらにいくつかのステップを踏むと見ている。最初の一歩がメディアネットワークである。
つまり、SDメモリーカードをブリッジメディアとして位置付け、あらゆるデジタル機器を結びつけようというわけだ。小型携帯ムービーのD-snapで撮影した画像や動画を、SDメモリーカードを介して大画面プラズマテレビのVIERAで再生したり、ビデオカメラで撮影した動画をSDメモリーカードに収録、これをハイブリッドレコーダのDIGAに挿入し、再生や編集を行ないながら、DVDメディアに録画するといった使い方ができる。 このメディアネットワークを進化させたのが、ホームネットワークだ。静止画、動画、音楽データなどとの連携やEPG録画連携などの機能を、LANケーブルや無線LAN、携帯電話といったインフラによって実現する世界ができあがりつつあるが、同社では、アンテナ線や電灯線を利用して、部屋間のデジタル家電同士の接続を図ろうとしているのである。 「c.LINK」と呼ばれるこの仕組みでは、270Mbpsの高速データ転送が可能で、リビングに設置してあるDVDレコーダに蓄積されたコンテンツを、テレビのアンテナコンセントを介して相互接続を可能とし、子供部屋のパソコンや、寝室や書斎の薄型テレビなどで閲覧することが可能になるというものだ。部屋の中では、c.LINKモデムと、デジタル家電を無線で接続し、部屋のなかを自由にもって歩き回れるようになるという。 同社では、今年1月に米ラスベガスで開催されたCESや、6月の「ケーブルテレビ 2004」で、この構想の一部を実演して見せたが、この実現に向けて、急ピッチで研究開発をすすめているところだ。
この実現には、もう少し時間がかかることになるだろうが、「より豊かに、より楽しく、より便利に、より安全なユビキタスネットワーク社会の実現を目指す」(大坪社長)と意欲を見せる。
■ 松下が力を注ぐブラックボックスとは?
松下電器は、ブラックボックスを次のように定義する。ひとつは、「商品を分解すればわかるが、それらが特許などの知財で守られ、他社が真似できないもの」、2つめは「材料、プロセス、ノウハウなどが囲い込まれ、商品を分解してもわからないもの」、3つめに、「生産方式、形態、仕組み、管理技術といった物作りのプロセスによって囲い込まれているもの」。
こうした他社に真似ができないブラックボックス技術を、デジタル家電のキーデバイスの領域において、社内に蓄積することで、最終製品でも強みを発揮できるようになるというのだ。 その最たるものが、システムLSIである。同社のプラズマテレビやDVDレコーダの心臓部に活用されているシステムLSIは、半導体社によって開発されているもの。この技術があるからこそ、他社に先駆けて低価格で高性能の製品を投入できるというわけだ。 先頃、同社は、携帯電話からホームAVまでをカバーするデジタル家電向けのプラットフォーム「UniPhier(ユニフィエ)」を発表した。従来は、携帯電話、パーソナルAV、カーAV、ホームAVの個別のプラットフォームで開発されていたものを、分野間の技術の壁を取り除き、融合製品の開発を促進するのが狙いだという。これにより、ソフト、ハード資産の再利用や共有化を実現し、デジタル家電の開発効率の向上と、設計品質の向上させることができるという。
「松下電器が持つ幅の広さを、強みに転換できるプラットフォーム」と、松下電器産業半導体社の古池進社長は話す。まさに、デジタル家電で基幹的役割を果たす最終兵器ともいえる存在のブラックボックス技術が、このUniPhierというわけだ。
■ マーケティング戦略に見る施策とは
製品出荷日にあわせて、事前にすべてのプロモーション、営業活動などを開始し、もっとも製品価値が高くなる製品発売日に製品認知度を高め、発売直後から一気にシェアをとるという手法だ。 従来の手法は、発売後からプロモーション活動などを行なうために、認知度が高まった段階では他社から競合商品が発表され、製品価値が落ちた段階で需要がピークを迎える形になる。しかも、そこから出荷が本格化するため、結果として、製品価値が低いなかで出荷を拡大し、売れ残り製品を作りやすいという悪循環を起こしていた。これによって在庫処分のための販促支援金などを販売店に支払うことで、収益性を悪化させるということにもつながっていた。 だが、垂直立ち上げでは販売のピークを発売直後に持ってくることで、シェア拡大といった話題づくりが可能になるとともに、製品寿命の後半で不良在庫を作りにくい状況とすることにも成功した。 いま同社では、これを「超・垂直立ち上げ」へと進化させ、従来の発売7週間以内でのトップシェアを獲得する目標から、1か月以内でのトップシェア獲得を目指している。年末商戦に向けても、この超・垂直立ち上げの準備は着々と進んでいる。「夏商戦の勢いを維持した形で年末商戦に突入したい」(パナソニックマーケティング本部・牛丸俊三本部長)と、トップシェア維持に意欲を見せている。
■ 松下電器が挑むデジタル三冠王 9月、松下電器は初の快挙に挑んでいる。それは、デジタルカメラ市場で初のトップシェア獲得という快挙だ。後発であり、しかもカメラメーカーではない松下電器にとって、デジカメ事業のトップシェア獲得はかねてからの大きな目標。まさに、「いよいよ、ここまできた」(松下電器・戸田一雄副社長)というのが社内の声だ。好調の原因は、今年夏に投入した「FX7」の売れ行き。戸田副社長は、「あゆ(=浜崎あゆみ)の効果」とジョークを飛ばしながら、「当社のデジカメの最大の特徴である手ぶれ補正機能のメリットがユーザーの間に定着してきたことが大きい」と自己分析する。 先に触れたように、「3Dバリューチェーンの実現は、まずは個々の商品でトップシェアを取り、強い商品となることが必要」と大坪AVCネットワークス社社長は語るが、デジカメのトップシェア獲得は、3Dバリューチェーン戦略のなかでも、重要な意味がある。 そして、その3Dバリューチェーンの一角を占めるSDメモリーカードも、圧倒的なシェアを獲得している。いまや、ライバルと見られていたメモリースティックのシェアを遙かに超えた。ソニーがバイオでSD対応を図るといった動きも、SDの浸透ぶりを裏付けるものだといえるだろう。 デジタルテレビ、DVDレコーダ、デジタルカメラという新・三種の神器での三冠王奪取にいよいよ王手をかけた松下。デジカメトップシェア、SDメモリーカードの普及という実績は、次世代のデジタル家電戦略を描く松下電器にとって、大きな追い風となるのは間違いないだろう。
□松下電器産業のホームページ (2004年9月30日) [Reported by 大河原克行]
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