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第180回:真空管アンプ再び! 今度はTU-879Rをゲット
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■ 年中工作
本コラムでは例年、「夏休みの工作」と称していろいろな自作オーディオものにチャレンジしているわけだが、冬休みでも工作はアリだよな、とかなりゴーインな理由を付けて今回は真空管アンプの話題である。要するに理由はなんでもいいから、単に工作がしたいだけなのである。
以前作成したエレキットの「TU-870」は、その後いろんなサイトの情報を元に改造を続け、今ではコンデンサが内部に入らずに背中に背負ってたりという、かなりアヤシイ姿になっている。
今回作成するのは、真空管アンプとしては入門よりちょっと上の、エレキット「TU-879R」というモデル。標準球では6L6GCだが、そのままでKT66やKT88シリーズにも差し替えが可能だという。両者とも高級真空管アンプなどでもよく使用されている、大型の真空管だ。
以前エレキットでは、最初からKT-88を積んだ「TU-877」というモデルがあったが、限定発売ということで今は本家のエレキットのサイトからは情報が消えているようだ。今回のTU-879RはTU-877よりも本体が小型化されているという。
気が付けば筆者は、最初のTU-870に続いて、ステレオプリメインの「TU-875」、CDプレーヤーの「TU-878CD」と3台も作っており、すっかりエレキットマニアとなってしまっている。今回のTU-879Rで4台目だ。では早速工作してみよう。
■ 基板作成
最初に驚かされたのは、届いた箱の重さである。漬け物石でも入ってんのかと思わせる重量は約7kgで、ほとんどがトランスの重さだ。まずパーツ類を確認してみよう。
重さのほとんどがこの3つのトランス | メイン基板。端の方は折って別の基板として使う | 部品類は袋に小分けされている |
付属の真空管は電力増幅用のClassic Components 6L6GCが2本と | 電圧増幅管の同12AX7が1本 |
製作は、まずメイン基板からだ。今回はせっかくなので、無鉛銀入りハンダを購入してみた。アキバで買ったらエラく高かったので、通販などで買った方がいいかもしれない。エレキットのサイトでも販売しているようだ。
せっかくなので無鉛銀入りハンダにも挑戦。結構高い | 製作途中のメイン基板 |
FETは放熱のために、スペーサーで間を開けて取り付ける。このあとシャーシに密着させて、さらに放熱効果を高める |
作成してみていつも感じるのは、部品の袋詰めの上手さである。というのも、形が同じで仕様が違うパーツ、例えば抵抗などは全部を一袋にまとめず、抵抗値など別に分けて、敢えて別々の袋に入っている。順次作業していくときに、間違いが起こりにくい工夫だ。こういったユーザーに作業させる上でのノウハウというのは、なかなかこなれている。
また今回は基板上にジャンパ線を飛ばす必要があるのだが、これもすべて同じ長さになっている。また逆向きに付けるとヤバいコンデンサも、間違いを見つけやすいように綺麗に向きが揃うように設計されている。こういった点もまた、わかりやすさと作る楽しさに焦点を置いた基板設計と言えるだろう。
エレキットのアンプ類に採用されているボリュームは、毎回悩まされるパーツだ。というのも、付属のボリュームは適度なクリック感があってフィーリングはいいのだが、すぐにガリる。筆者宅のパワーアンプもプリアンプも、製作して2週間ぐらいでボリュームにガリが出てしまった。代わりの部品をさがしたのだが、同じものはアキバ界隈でも見つからなかったので、比較的サイズが近い東京光音の「2CP601」に取り替えている。ただし高さが1mmほど合わないので、シャーシの穴を削る必要があった。
TU-879Rの場合は、そういう問題とは別にボリュームをより高級なものに取り替えられるような設計になっていた。メイン基板に直付けではなく、別基板までリード線で繋ぐようになっているため、多少大型のボリュームも付けられるようだ。またシャーシの方も穴ではなくU字型の切り込みになっており、位置が多少ずれても大丈夫のようだ。さらに「ボリュームなんかいらん」という人は、リード線同士を繋いでしまえばいいようにもなっている。
今回も一応取り替えられるように東京光音のボリュームを用意したが、とりあえずガリが出るまではそのままオリジナルのボリュームを使うことにした。
ボリュームは別基板までリード線で繋ぐようになっている | 手前が付属のボリューム、奥が東京光音の2CP601 |
■ 組み上げる
入力のカップリングコンデンサは外して、ジャンパした |
マニュアルには、そのほかにも改造に関する情報が記されている。一つは負帰還から無帰還に改造する方法、もう一つは入力のカップリングコンデンサの有無だ。マニュアルどおりに作れば、8.5dBの負帰還でカップリングコンデンサありの回路になる。
負帰還というのは、増幅回路では必ずと言っていいほど使われる仕組みで、出力の逆位相信号を減衰させて入力側に返してやるという、フィードバック構造だ。これによって歪みなどが打ち消され、安定した増幅ができる。
しかし真空管はトランジスタのようなICではなく、素の特性も悪くないので、負帰還なしで使えないこともない。逆に歪みを押さえるための仕掛けを使わないわけだから、真空管の特性が素直に出るという特徴がある。これが無帰還である。
どうしようか考えたが、無帰還にしても大丈夫な球なのか現時点ではよくわからなかったので、そのまま負帰還とすることにした。無帰還への改造は部品を4つ外すだけなので、機会があったらいずれ試してみたい。またカップリングコンデンサに関しては、以前TU-870でもパーツを変更しただけで結構音が変わったので、今回は思い切ってナシということにした。
真空管ソケットは3つ分あるが、そのうちの1つ、入力信号の昇圧に使用している12AX7用には、エレキット伝家の宝刀とも言えるイルミネーションLEDが2つも装備されている。これは、あまり派手に発光しない真空管を、LEDライトで赤く見せてしまうというもので、CDプレーヤーのTU-878CDでも使われていた手だ。演出っぽいやり方はあまり関心しないが、まあ電源ON/OFFのパイロットランプLEDだと思っておこう。
出た! 伝家の宝刀イルミネーションLED | 電源スイッチや入力切り替えスイッチ基板からも、きちんとアースを落とすようになっている |
一通りメイン基板のパーツ取り付けが終わったので、次はシャーシへの取り付けである。今頃になって箱からシャーシを取りだしてみたわけだが、開けてビックリなんスかこの長さは!
取りだしたシャーシ類。内部は二重シャーシになっている | トランスカバーとフロント、リアシャーシ。確かに横幅は狭いのだが |
横幅がCDプレーヤーTU-878CDと同じと書いてあったので、勝手に奥行きも同じぐらいだろうと思っていたのだが、なんと計ってみたらシャーシだけで35cmもあった。端子やボリュームの出っ張りを加えると、設置としては40cmぐらいの奥行きを取ることになる。購入予定者は、設置スペースをよく考えておこう。てかオレもそれぐらい事前に調べておこう(すいません)。
気を取り直して、メイン基板と電源トランスを内部シャーシに取り付ける。それごとメインシャーシに取り付け、表側のパーツの実装だ。今回の入出力端子は、上部に載るトランスカバーの背面から出すようになっている。スピーカー端子は6-16Ωと、3.2-4Ωの2系統が使えるため、配線も若干複雑だ。プラグもTU-870のような挟み込むタイプではなく、ネジ止めできるタイプになっているので、信頼性が上がっている。
メイン基板と電源トランスを内部シャーシに取り付け | 出力トランスの近くに端子類がある | スピーカー端子もしっかりしたものに |
外側のパーツも一通り付け終わり、いよいよ真空管をさしてみる。デカい6L6GCは足もソケット側もしっかりしているので簡単だが、小さい方の12AX7がものすごくさし込みにくい。別紙の注意書きには、回すようにしながらさし込むと書いてあるが、そういう問題じゃないぐらい全然入らない。
あまり力を入れて真空管の底が抜けてしまっては元も子もないので、ジャンパ用の余ったメッキ線をソケットの穴に差し込んで少し穴を広げたあと、12AX7を差し込んで、事なきを得た。
■ 鳴らしてみる
完成したTU-879R。真空管のロゴが後ろ向きになっちゃうのが残念 |
1日エージングして、音の方を確かめてみた。といっても比べる対象が、勝手に改造しまくったTU-870なので、まったくなんのリファレンスにもなってないのだが、アンプ作って音のことを書かないっていうのもどうかと思うので、なんとかひねり出してみることにする。
良かれと思って改造したTU-870と比べても、微妙なニュアンスの表現力はTU-879Rのほうが上だ。若干線が細い部分もあるが、高域の伸びも良く、ハスキーなボーカルのしわぶきなど、今まであまり感じなかった部分のリアリティが増している。
エージング次第でもうちょっと特性は変わってくると思うが、低音部は結構堅め。チェロの低域やコントラバスの、「ゾー」というざらついた輪郭の鳴りが楽しめる。
ドライブユニットを変更した長谷弘工業のMM-151S |
ちなみにスピーカーは、以前作成した長谷弘工業の「MM-151S」だが、ユニットはエレクトロボイスの「205-8A」から、DIY Audioの「SA/F80AMG」に変更している。これは読者の方から推薦して頂いたもので、不足していた低域がバッチリ出るようになった。若干ボーカルが引っ込み気味になるユニットだが、TU-879Rとの組み合わせではそのあたりが上手い具合に補完されて、ちょうどいいバランスとなっている。
このアンプ、せっかくKT-88にも替えられるということで、さっそくアキバで買ってきた。Electro-HarmonixのKT88EHという球だが、アムトランスのおやじさんに聞いたところ、Electro-HarmonixとはSOVTEKのオーディオ用のブランドで、球の形が若干違うが特性はほとんどSOVTEK球と同じ、という話であった。
ちなみにアムトランスでもポイントカードを発行しており、3年間で5万円分の真空管を買うと、5,000円分として使えるという。3年で5万円ぐらいならポイント溜まるかもしれない自分の業の深さにイヤな汗をかきながら、アキバをあとにした。
アキバで買ってきたElectro-HarmonixのKT88EH | さっそく載せ替えてみた |
さっそくKT88もエージングして、聴いてみた。管自体は付属の6L6GCに比べて若干大型で趣きがあるが、ヒーター部が外側からあまり見えないので、見た目は地味である。肝心の音の方は、6L6GCのようなざらつくほどの解像感はないが、芯が太くて滑らかな音だ。解像度よりも綺麗に聞こえるほうを重視する人にはいいだろう。長時間のリスニングには、こちらのほうがいい。
今は仕事柄、モニタリング向きの6L6GCのほうが好みだが、休日に本を読みながら楽しむときは、KT88に差し替えるという優雅な(でも部屋は狭い)生活を送るつもりだ。
■ 総論
アンプを音楽を演奏するための楽器だと捉えると、鳴らし始めたあともいろいろ手を入れて楽しめるようになっている設計というのは、重要なポイントだ。TU-879Rは、真空管が6L6G系からKT66、KT88系まで幅広く使えるだけでなく、負帰還や無帰還といった変更にも対応できるなど、柔軟な作りとなっているのが魅力のアンプだ。
音をアナログ的にいじる面白さとは、実はこういったデジタルでは排除されてしまったそのパーツ、その機器しか持っていない特性を、うまく使い分けるところにある。デジタルならばエフェクタ一発で済むかもしれないが、真空管というパーツが持つ、単純に周波数特性とかでは説明できない音のぬくもりみたいな部分を、実験と経験から体で味わっていくという、この素朴さが楽しいのである。
さてこのTU-879R、現在はエレキットのサイトで在庫完売しており、次回の発売は12月下旬あたりになるという。今予約すれば、ちょうど冬休みあたりに届くことになるだろう。寒い冬だからこそ、熱っつい真空管と戯れてみるというのも、また一興ではないだろうか。筆者も冬休み中に、負帰還と無帰還をスイッチで切り替えられるようにできないか、考えてみるつもりである。
□イーケイジャパンのホームページ
http://www.elekit.co.jp/
□TU-879Rの製品情報
http://www.elekit.co.jp/catalog/TU-879R.html
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-ユーザーの好みでPHONO入力を増設可能
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(2004年11月24日)
= 小寺信良 = | テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。 |
[Reported by 小寺信良]
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