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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語” |
第179回:今年もこの季節がやってきた! Inter BEE 2004レポート
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■ また今年もこの季節がやってきた!!
例年になく初日の午前中からかなりの人出 |
今週のElectric Zooma!は、11月17日から19日まで幕張メッセで開催されている国内最大規模の放送機器展示会「Inter BEE 2004」の模様を、速報スタイルでお送りする。
地上派デジタル放送開始から、丸1年が経過しようとしているテレビ業界。送出装置類のターゲットはキー局から地方局へ移り、当面の課題としてはHDでの番組制作機材をもっと増やさないと、というところにさしかかってきている。
こういった大きな方式転換というのは、実は放送業界が今までほとんど経験したことがない流れだ。遡れば、30年以上前に、モノクロ放送からカラー放送に切り替わった時にもそれなりにいろいろあっただろうが、まあそれ以来の一大イベントなのである。
会場は例年になく、初日の午前中からそこそこの人出であることからも、その期待感というか「買わなきゃいけないんだけど実際そこんとこどーなの」というそわそわした気配が濃厚に伺える。
では今年もご一緒に、映像のプロの世界を覗いてみよう。
■ やはり集客力は一番、SONYブース
多くの来場者でにぎわうソニーブース |
・HDVカメラの業務用バージョン「HVR-Z1J」
カメラから編集機、VTRなど、番組制作に必要なほとんどの部分を押さえているソニーブースには、やはり人が多い。HDVの業務用バージョン「HVR-Z1J」は、すでにプレスリリースが出ていることもあって、会場に来てびっくり、という人は少ないようだ。逆にそれだけ期待があり、事前に情報を調べてきているということでもある。
プロ機ではないということからか、ブース内では割とすみっこに位置しているが、実際に撮影もできるということで、かなりの混雑ぶりであった。コンシューマのショーと違うのは、やはりメニューの中に入って、いろいろ設定をいじって撮り比べてみる人が多いところだろうか。特に暗部の表現を気にする人が多かったようだ。
意外と隅っこに展示されていた「HVR-Z1J」 | 多くの人が実機をテストしていた |
液晶モニタの割には奥行きがある「LMD-9050」 |
また同じコーナーには、先日発表された8.4型マルチフォーマットモニタ「LMD-9050」も展示されていた。小型液晶モニタではあるが、多くの入力に対応しており、そのせいか奥行きはかなりある。
CRT型ビデオモニタのPVMシリーズは、徐々に液晶モニタのLUMAシリーズにの置き換わっていくと考えていいだろう。
【11月10日】ソニー、HDV/DVCAM/DVの3方式対応の業務用カムコーダ
-「FX1」をベースに機能強化。HDVレコーダーも
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20041110/sony1.htm
【10月28日】ソニー、SD信号に特化した業務用液晶モニタ
-マルチフォーマット対応の8.4型液晶モデルも
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20041028/sony2.htm
・ノンリニア編集システム「XPRI Ver.7」
ノンリニア編集システム「XPRI」も、Ver.7がお目見えした。従来の用途に加え、またもう一つの方向性として、報道をターゲットにしたシステムが発表された。本体は従来のXPRIと同じだが、簡易編集型のGUIに切り替えて、リニア編集機ライクなコントローラを使って編集ができるのがポイントだ。
GUIも簡素化された「XPRI for NEWS」 | コントローラはかなり独特の配列 |
ノンリニア機にリニア編集機のコントローラを繋ぐという発想は、カノープスがNHKのニーズを組み入れて開発した「CWS-100」が最初だが、実際問題として現場の報道系編集マンは、ノンリニア編集機を習得している時間がない。リニア編と同じ感覚で使える編集機を使って現場の仕事をこなしながら、徐々にノンリニアの性格を把握していくという移行期間が必要なのである。
・リニア編集機「BZS-8050」
編集機といえば、昨年のNABで参考出品されたリニア編集機「プラグインエディター BZS-8050」は、今回もまだ参考出品のままであった。これは編集機単体として販売する予定はなく、「MVS-8000A」のようなスイッチャーの中に組み込まれる編集機である。
未だ参考出品のプラグインエディター | 本体(上から2番目)はコントロールパネルの制御ユニットと同化している |
実際には、スイッチャーのコントロールパネルを制御しているコントロールユニット「MKS-8010A」の中に、ソフトウェアという形で組み込まれている。事実上リニア編集機の最高峰「BVE-9100」の後継となるわけだが、以前は独自OSで動作していたものを、現在Wind Riverの組み込み用リアルタイムOS「VxWORKS」ベースに移植しているところだというから、話を聞くだけでも大変そうである。ところがキーボードのほうは、以前UNIXスタイルのCtrlキーがAキーの横にあったタイプから、左下というPCスタイルに変更されているのはおもしろいところだ。
スイッチャーの制御系と一緒になることで、従来はなかなか面倒であったスナップショットメモリーの取り込みや、DMEのタイムライン制御も簡単になるという。
・HDCAM対応ポータブルVTR「HDW-S280」
HDCAM対応のハーフラックサイズVTR「HDW-S280」 |
新製品としては、HDCAM対応のポータブルVTR、HDW-S280がデビューした。ハーフラックサイズの小型VTRながら、内部にアップコンバータを装備して、ベータカム、ベータカムSP、ベータカムSXといったSDフォーマットの素材もHDにアップコンして出力できる。
また会場には展示されていなかったが、国際会議場に設けられたラウンジでは、これを2台繋いで簡易編集できる、小型のリモートパネルもモックアップで展示されていた。VTR本体がインサート編集に対応しないため、アセンブル編集のみになるが、電送などする前に必要部分だけを抜き出すといった作業を想定しているようだ。
【4月7日】ソニー、低価格化を実現したHDCAM製品群4機種
-民放連加入の128局中102局がHDCAMを採用
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040407/sony.htm
・あのモデルの後継機「PDW-D1」
同じく新製品として、昨年デビューしたXDCAMのポータブルドライブユニット「PDW-D1」が展示されていた。XPRIのモバイルバージョン「XPRI Mobile」(参考出品ではあるが)と組み合わせれば、現場でもノートPCと組み合わせて編集作業ができる。PCとの接続は、i.LINKで行なうが、DV機器としての接続と外部ストレージとしての接続モードがある。
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XDCAMのポータブルドライブユニット「PDW-D1」 | 参考出品の「XPRI Mobile」と組み合わせて使用できる |
■ ノンリニア市場を席巻するAvid
昨年のNABでも出品された、Avid AdrenalineのHD対応モデルが、いよいよ今年年末にかけて出荷される。具体的にはHD SDIの入出力ボードがついに完成したということである。
「Avid Adrenaline HD」がいよいよシッピング開始 | 中段のボードがHD SDI用I/O |
同社が開発したHD用コーデック「Avid DNxHD」では、145Mbps 8bit、220Mbps 8bit、220Mbps 10bitと3段階の圧縮モードがある。実際に映像を見比べても、3モードの差はほとんどない。すでに米国のドラマなどでは145Mbpsで十分という評価も得ているという。ただし合成などの都合を考えたら、10bitは必要だろう。
またこのコーデックを下位モデルのAvid DV Xpress Proにインストールすれば、入出力はできないものの、HDのオフライン編集作業に使うことができるという。エフェクトやカラーコレクタなどほとんどの機能がAdrenalineに搭載のMedia Composerと共通であるため、映像をかなり作り込んだ状態でも、プロジェクトファイルのやりとりだけでOKとのことだ。
圧縮は3モードから選択する | Avid DV Xpress ProでHDのオフライン的な使い方ができるのは魅力 |
■ ついにWindows版HDノンリニア機を投入したPINNACLE Systems
HD非圧縮の編集まで対応するWindowsベースのノンリニア編集システム「Liquid chrome HD」 |
PINNACLE Systemsの代理店、加賀電子のブースでは、HD/SDノンリニアシステム「Liquid chrome HD」が展示されていた。
Liquid chrome HDは、独自にHD-SDIの入出力を持ち、1080iと720pフォーマットに対応する。I Frame onlyやLong GOPのMPEG-2、さらには非圧縮の編集まで可能。ほかにもHDVやPanasonic P2、XDCAMフォーマットにもネイティブで対応している。
PINNACLEには以前からMacintosh用のHD入出力ボード「Targa Cine」を使った「CineWave HD」という製品があったが、Liquid chrome HDはそれのWindows版という位置づけになる。
つまりTarga CineのPC版がようやく完成したということである。以前からTargaのボードは、他社への組込用I/Oカードとして広く使われていたという経緯がある。Targa CineのPC版が完成したことで、今後はHDに対応したWindowsベースのノンリニア編集システムや、キャラクタジェネレータ+DSK(ダウンストリームキーヤ)などのサブシステムも、開発が加速していくかもしれない。
■ HDDカメラの先駆者、池上通信機
最近コンシューマでもHDDに記録するビデオカメラが出てきているが、数年前からHDDに記録する放送用カメラ「Editcam」(エディカム)をリリースしている池上通信機から、第三世代目の新モデルが登場した。Editcam3こと「DNS-33W」は、FieldPakという独自のリムーバブルメディアに映像を記録し、そのままノンリニアシステムに直結できるのが特徴。記録フォーマットは標準がJFIF(3:1/10:1)かDV25で、オプションとしてDV50とIMXが記録できる。
池上はAvidの代理店でもあるので、実質的にはAvid XpressDVなどと連携することになる。FieldPakは実際には中味が入れ替えできる箱になっており、中にHDDを入れたりフラッシュメモリを入れたりして使用できる。
池上の第三世代HDD記録カメラ「DNS-33W」 | FieldPakにはRAMやCFカードなど、いろいろなバリエーション展開が可能 |
■ カメラを加えて総合ブランドとなったGlassValley
もちろんそんなコマ数が録れるVTRはないので、HDDに録画する。発売はこれからだが、既にユーロ2004サッカーやアテネオリンピックでも使用されたという。CCU(カメラコントロールユニット)まで付いて、約3,700万円。
またこのカメラで使用しているCCUは、コントロールをイーサネットで行なっているため、1ユニットで最大99台までのカメラをコントロールできる。もちろんそれにはカメラ側も対応している必要があるので、実際にはTHOMSON製のカメラLDKシリーズなどが対象となる。
世界初、HDのスーパースローモーションカメラ「LDK 6200」 | ネットワークでコントロールするCCU、C2IPのコントロール部(写真は2台分) |
・ハイエンドHDスイッチャ「Kalypso HD」
大型ハイエンドHDスイッチャ Kalypso HDのコンソール |
同社のハイエンドHDスイッチャ「Kalypso HD」に、待望のソフトエッジボーダーが付いた。日本では文字のスーパーインポーズをスイッチャーで行なうケースが多いため、ソフトボーダーは必須機能とされていた。国内メーカー製のスイッチャーにはこの機能は搭載されていたものの、海外では文字のスーパインポーズはキャラクタジェネレータを使用するためこのようなニーズがなく、長年海外製スイッチャーの弱点とされていた。それが解消されたのは喜ばしいことだ。
またフォーマットとして、まもなく1080i/24pをサポートするという。1080i/24pはハリウッドなどで映画製作用フォーマットとして採用が進んでいるが、現時点では映像制作はほとんどノンリニアベースで行なわれている。それがハードウェアのスイッチャでも行なえるようになることで、日本でもコマーシャルなどの制作スタイルに変化をもたらすかもしれない。
■ 今年は映像中心のRoland
今年はビデオ部門にブースを構えるローランド |
今年からオーディオ部門ではなく、ビデオ機器部門での出展を行なったローランドブースでは、エディロールのノンリニア編集システム、DV-7DL Proを中心に展示を行なっている。その脇には、先日発売されたメモリーベースのWAVEレコーダ「R-1」の上位モデル、「R-4」が参考出品されていた。
R-4は40GBのHDDを内蔵し、4ch収録ができるLinear PCMレコーダ。最高で24bit/96kHzの4chオーディオが17時間程度録音できる。内蔵マイクは2chだが、XLRのマイク入力が4chある。電源は単三電池8本で動作する。発売は来年1月頃を予定しているという。
ただ録音するだけでなく、本体内にも簡単な編集機能を備えており、液晶パネルを使って波形表示などもできる。PCとも接続でき、USB2.0端子を備えている。またCFカードスロットもあり、本体のデータをCFカードにも転送できる。ただしMicrodriveには対応していない。
すでにFMラジオ局などからの引き合いが多く、意外なところでは、日本野鳥の会からも問い合わせがあったという。ガンマイクで鳥の声を収録し、残りのチャンネルで環境音を録りたいということらしい。たしかにそれは良さそうだ。
HDDベースのマルチトラックレコーダ「R-4」 | 本体だけで簡単なエディットも可能 |
■ 総論
Inter BEEは年々、4月にアメリカで行なわれたNABで発表された新製品の実働機が見られる場、といった傾向が強くなっているようだ。Inter BEEで初披露という製品はあまりないが、実際に動作するものが見られるという点では、IT系機器と違って実際に自分の目と手で確認しないとどうしようもない放送機器には、欠かせないイベントとなっている。
来場者には韓国人や中国人も多く、両国の市場の勢いを感じさせるショーでもある。日本の放送業界もいろいろと揺れ動いているが、景気も復調傾向にあるようで、少しずつではあるが大きな商談も始まりつつあるようだ。
Inter BEE 2004は、今週の金曜日(19日)まで開催される。現地でレジストレーションを行うだけで入場料は無料なので、興味のある方は足を運んでみてはいかがだろうか。
□Inter BEE 2004の公式サイト
http://bee.jesa.or.jp/
□関連記事
【2003年11月20日】【EZ】見所の多い「InterBEE2003」
~ デジタル放送開始10日前 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20031120/zooma134.htm
【2002年11月27日】【EZ】見えてきたデジタル放送の正体
~ Inter BEE 2002が落とした影と現実 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20021127/zooma85.htm
【2002年11月21日】【EZ】Inter BEE 2002レポート
~ これさえ読めば業界人!? 行った気になる新製品情報 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20021121/zooma84.htm
【2001年11月21日】【EZ】塗り替えられる業界縮図
Inter BEE 2001レポート ~デジタル放送夜明け前の騒乱~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20011121/zooma36.htm
【2001年11月14日】業務用放送・オーディオ機器展「Inter BEE 2001」が開幕
-ビクターがリアルタイムMPEG-4出力DVカメラを参考出品
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20011114/Interbee.htm
(2004年11月18日)
= 小寺信良 = | テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。 |
[Reported by 小寺信良]
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