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第178回:ヤマハ傘下となったSteinbergの未来は?
~ Studio Connectionsによりハード/ソフトの融合を推進 ~



 年末にCubase SX3の記事でお伝えしたとおり、ヤマハがドイツのSteinbergを買収した。約30億円という金額を投資しての買収にはどんな意図があるのか、また国内でのSteinberg製品の扱いやヤマハのDTM関連製品の今後がどうなるのか、気になることはいっぱいある。

 2月3日に、ヤマハがこのSteinberg買収の件での記者会見を開催した。DTM関連の雑誌編集部などのみが集まった小規模なものではあったが、さまざまな疑問点をぶつけることができた。



■ Steinbergがヤマハの傘下に

 ヤマハがSteinbergを買収するという思いがけないプレスリリースを国内で出したのは昨年末の12月21日だった。その内容によれば、日本のヤマハ株式会社がビデオ編集システム製造・販売を行なう米Pinnacle Systems Incから、その傘下にいる独Steinberg Media Technologiesの普通株式100%譲渡に関わる非公開競争入札に参加して普通株式全株の取得をすることで基本合意し、米国現地時間の20日、契約書に調印した、というものだった。

 その合意概要というのは以下の2点だ。

  1. ヤマハはPinnacleからSteinbergの普通株式全株の譲渡を受ける
  2. Pinnacleが展開してる米国国内販売事業の営業譲渡を受ける

 この2に関していえば、米国内においてはヤマハの100%子会社である米国販売現地法人Yamaha Corporation of AmericaがSteinbergのソフトウェアの販売を担当する、また米国以外の地域における販売、サポートについてはSteinbergの販売網をそのまま継続する、というものだった。

 そして、この譲渡額は2,850万ドル。実際の株式等の譲渡については、法的な手続きを終えた後、2005年1月末までの完了を予定する、というのがプレスリリースの内容だった。

戸田伸郎 PA・DMI事業部営業部MP営業課長 武田文光 PA・DMI事業部商品開発部PEプロデュースグループ商品企画担当技師

 実際その株式譲渡は完了し、現時点Steinbergはヤマハ傘下になるとともに、2月1日からは米国での一部営業活動がスタートされたとのことである。

 このタイミングで記者会見が行なわれた理由は、プレスリリースを出した後、多くの問い合わせが来ていたため、とのこと。今回、ヤマハ側として記者会見の質疑応答に応じたのは、PA・DMI事業部営業部MP営業課長の戸田伸郎氏とPA・DMI事業部商品開発部PEプロデュースグループ商品企画担当技師の武田文光氏(以下、敬称略)の2名だ。ちなみに武田は以前、このDigital Audio LaboratoryでmLANに関するインタビューに応じていただいている。

 以下に、その記者会見での質疑応答を掲載する。(以下、敬称略)



■ ヤマハ内でのSteinbergの位置づけは?

--今回の買収は、非公開の入札があり、米国でのやりとりがされたということですが、実際のところ主体となっていたのはヤマハの米国法人なのでしょうか? それとも日本のヤマハ本社なのでしょうか?

戸田:主導はアメリカではなくてあくまでも日本です。実際、今回の買収により、Steinbergは、ヤマハの連結子会社という位置づけで、担当事業部はPA・DMI事業部となります。ちなみに、このPA・DMI事業部というのはPA関連の事業と電子楽器全般の事業を行なっているところです。

--実際にその入札はいつごろどのような経緯であったのでしょうか?

武田:一番最初に話が出たのは昨年の夏ごろから秋にかけての時期です。Pinnacleからそうした話が持ち上がり、われわれもぜひということで入札しました。その結果、うまく話しが進み、基本的にまとまったのが昨年の12月中旬だったのです。

--今回の買収によって、Steinbergは完全にヤマハの一部門という形になるのでしょうか? つまり、開発などもヤマハが主導するようになっていくのでしょうか?

戸田:Steinbergはここ数年、黒字ではなく赤字という厳しい状況です。ひとつには彼らにも自立してもらいたいと思っており、当然黒字化を実現してほしいと考えています。そういう面でも、当面のオペレーションは従来どおりの形で、独立した形でやってもらうことになります。

 またヤマハの中のSteinbergという位置付けではなく、Steinbergのブランドは今後も尊重してきたいと考えています。まだ、今後のハッキリしたビジョン、計画、ロードマップができあがっていません。将来的には、いろいろなことがが考えられますが、現時点においてはハッキリしたことはいえない状況です。当面は、Studio Connectionsを推進し、その後のロードマップに関しても、2社の特徴を生かし、積極的な展開を検討していきたいと思います。

武田:ただし、Studio Connectionsに関してはもっと加速していきたいと思っています。これまでも両社で強力してStudio Connectionsというプロジェクトを進めてきて、現在Total Recallを実現するところまできましたが、その開発速度や製品発表スピードには弾みをつけたいと思っています。

--このStudio Connectionsはなかなかいいコンセプトだとは思いますが、ヤマハ傘下になったことで、サポートする機材はヤマハに限定していくといった囲い込みをしていくのでしょうか?

戸田:他のメーカーをサポートしないといったことはありません。Studio Connectionsはそもそも2社でやろうというものではなく、多くのソフトメーカー、ハードメーカーに入ってもらうことをコンセプトとしたオープンなものですから。

(著者注:その後個別に話を聞いたところ、先日のNAMMなどでも、Studio Connectionsに関してはかなり多くのメーカーからの参加希望があり、その数は把握できないほどになっているとのこと。ただし、現時点では他社から対応のソフトなどはリリースされていない。また、個人であってもSDKを手に入れることは可能で、まずはStudio Connectionsに関するサイト、STUDIO CONNECTIONS.ORGに入り、問い合わせて欲しいとのことだ)


■ コンシューマ製品の行方は?

--Clean!など一部コンシューマ製品は、SteinbergブランドからPinnacleブランドに切り替わっていました。そのため、国内での流通網のないPinnacle製品は、現時点販売されなくなってしまいましたが、今回の買収によって、これらコンシューマ製品が復活すると考えていいのでしょうか?

戸田:日本では流通網の関係で、現時点で販売されなくなっているが、すでに海外でも、昨年末までに、Pinnacleがこれらのソフトをディスコンにしています。
 ただし、これらのソフトの権利はSteinbergにもどったので、復活すさせるかどうかは、Steinbergの今後の判断になります。当面は、プロフェッショナル製品に注力するため、今は予定はありません。

--具体的にそのPinnacleブランドになったコンシューマ製品の名前を教えてください。

武田:Clean!、MyMP3、Cubasisです。

--プレスリリースによると、ヤマハが直接販売するのは米国のみとなっていますが、国内は今後どのようになるのでしょうか?

戸田:国内は従来どおりであり、何の変更もありません。ご存知のとおり、スタインバーグ・ジャパンがマーケティングを行ない、カメオ・インタラクティブが販売をするという体制を取っていますが、そのまま継続となります。

--そうなると、ヤマハとスタインバーグ・ジャパンとの関係はどうなるのでしょうか?

戸田:スタインバーグ・ジャパンはもともとはSteinbergと資本関係にありましたが、現在は資本がはずれています。そのため、弊社との資本関係はなく、ディストリビュータとして、従来どおり日本市場をカバーしていただくことになります。

--ところで、ある意味ではCubase SXなどの競合ともいえるSOL2、XGworksは今後どういう扱いになるのでしょうか?

武田:現状バージョンのまま販売を継続します。バージョンアップについては現時点では予定していません。つまり、Cubaseと並列して存在することになります。

--非常に基本的な質問ですが、今回の買収によってヤマハは何をしたいのか、外から見ていると今ひとつわかりづらいのですが……。

記者会見後、Studio Connectionsのデモが行なわれた

戸田:将来の具体的な計画が固まっていないのですが、ソフトとハードの融合を目指しています。そして、その中核となるStudio Connectionsを進めていきたいと思っています。

武田::これまでも実現はしてきたのですが、その実現する速度をもっと速くし、具体的な製品として早く提供していきたいと思っています。これが買収の狙いです。今後ももっと便利な機能を提供していきたいと考えています。

--PA・DMI事業部におけるPA、DMIはそれぞれ両方が関わってくるのでしょうが、それ以外の事業部はどうなるのでしょうか?

戸田:今のところ具体的な話はありませんが、広く音楽愛好家への普及拡大の意味で、グループ全体への波及も検討していきたいと思います。



 今回の記者会見の内容自体は、さほど目新しい話や、驚くネタが入っていたわけではないが、面白い状況になってきたことは確かだ。すぐに大きな動きはないだろうが、今後Studio Connectionsにどんな機能が登場するのか、また1年近く先だろうが、Cubase SXの次期バージョン、Nuendoの次期バージョンがどのような変化をしてくるのか、非常に楽しみなところである。

□ヤマハのホームページ
http://www.yamaha.co.jp/
□steinbergのホームページ
http://www.japan.steinberg.net/
□STUDIO CONNECTIONS.ORGのホームページ
http://www.studioconnections.org/jp/
□関連記事
【2004年12月20日】【DAL】DTMにおけるハードとソフトの融合
~ ヤマハとSteinbergのSTUDIO CONNECTIONSとは ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20041220/dal173.htm

(2005年2月7日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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