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第174回:3大DAWのメジャーバージョンアップを検証 その3
~ YAMAHA傘下になった「CubaseSX3」の新機能 ~



CubaseSX3

 「SONAR 4」、「Logic Pro 7」と、年末発売のDAWソフトを2本紹介をしてきたが、今年最後を飾るのは予定通り12月24日に日本語版がリリースされたSteinbergの「CubaseSX3」だ。

 ただ、この日本語版のリリースと前後して、驚くニュースが飛び込んできた。SteinbergをYAMAHAが買収したというのである。


■ YAMAHAがSteinbergを100%子会社に

 ドイツで20年の歴史を誇るSteinberg。このSteinbergがビデオ編集システムの開発を行なうPinnacle Systemsに買収されたのはちょうど2年前のこと。

 Pinnacleの100%子会社とはなったものの、国内での動きを見ていた限りではさほど大きな変化はなかった。確かにコンシューマ系のソフトがSteinbergではなくPinnacleへ移った結果、ノイズリダクションソフトの「Clean!」が消えてしまうなど若干の動きはあったが、メインである「CubaseSX」や「NUENDO」に関しては従来どおりの路線を歩んでいたので、Pinnacle傘下に入ったメリットもデメリットも感じなかった。

 そのPinnacleから今度はYAMAHAがSteinbergを買い取り、100%傘下へと組み入れたのである。正確には、非公開競争入札という形で、PinnacleからYAMAHAへ譲渡の意向が示され、それを好機と捉えたYAMAHAが2,850万ドルで全株取得することで12月20に基本合意したという。

 ちょうどDigital Audio Labratoryで、前回、SteinbergとYAMAHAの両者が共同で開発したSTUDIO CONNECTIONSという技術をインタビュー形式で紹介したが、その際、買収に関する情報はまったく得られなかった。この2社の急接近から考えて、何かありそうな予感はしていたが、こうもあっさり買収が成立してしまうとは思わなかった。

 とはいえ、国内においていきなりドラスティックな動きはなさそうだ。というのも、米国ではPinnacleが行なっているSteinberg製品の販売をYAMAHAが営業譲渡されるが、それ以外の国では、販売・サポートについて、Steinbergの販売網をそのまま継続するからだ。つまり、カメオ・インタラクティブ傘下のSteinberg Japanが扱っていくようだ。もちろん、将来的にどう変わっていくのはAppleとEmagic、MIDIAの例もあるので、予想はしにくいところではある。

 とにかく、今回の買収によってYAMAHA、Steinberg連合というものができた。その一方で、RolandはCakewalkに資本を入れているので、これも団結したチームとなっている。Mac用のLogicを除くとDAWソフトの世界では「CubaseSX vs SONAR」が、「YAMAHA vs Roland」という構図になったわけで、以前のDTMの競争の関係が再度成り立ったと考えていいのではないだろうか?

 やや停滞感が漂っていたこの業界だが、YAMAHAの動きをきっかけに、活性化されることを期待したいところだ。


■ ついにサポートされたループシーケンス機能

CubaseSX3

 さて、それではそのCubaseSX3の日本語版について、早速見ていこう。今回のバージョンアップは、CubaseSX2が出てからほぼ1年とハイピッチ。ただ、すでにCubaseSX2で完成度は非常に高かったため、それほど大きな変化があるわけではなく、さわった感じではマイナーチェンジといったところ。とはいえ、「これが欲しかった!」という機能が追加されており、バージョンアップする価値は多いにある。

 その目玉ともいえるのが「ACID機能」の追加。正確には「オーディオワープ機能」というもので、従来からあった機能であり、オーディオのテンポをピッチを変えずに変更する機能を拡張したものだが、結果としてACIDと同様のことができるようになった。つまり、ピッチやテンポの異なるさまざまなグルーブクリップを並べるだけで、すべてがピッタリ揃う。もちろん、ACID用にアシッタイズされたWAVデータを扱うことができるから、既存のライブラリ集をそのまま活用できる。

 LogicでもGarageBand機能で同様のことを実現していたが、CubaseSXもこれで実現したわけだ。SONARにおいては初期バージョンから搭載しており、これがひとつのウリだったのだが、その優位性が少し後退したともいえる。

 もっとも、CubaseSXのオーディオワープ機能はSONARやLogicのものとはやや異なる。ACID機能と前面に打ち出していないだけに、ループ素材を一覧表示させ、そこから選んで使うといったことはできない。しかし、アシッタイズされていないWAVデータでもオーディオプールでチェックをすれば、テンポを設定するだけで使えるようになる。これはなかなか便利だ。

オーディオワープ機能が拡張され、ACIDと同様のことができるようになった アシッタイズされていないWAVデータでもオーディオプールでチェックをすれば、テンポを設定するだけで使えるようになる

 なお、CubaseSX3は従来どおり、WindowsとMac OS Xのハイブリッドとなっているが、Mac版においても扱えるのはACIDデータであり、GarageBandに対応したApple Loopsには対応していない。


■ 曲の進行を自由に組み立てられるプレイオーダートラック

 デモソングを読み込むと、すぐに大きな違いに気付く。それがプロジェクトウィンドウの一番上に表示されるカラフルな「プレイオーダートラック」の存在だ。

 プレイオーダートラックというのは、曲の一部を「部品」として定義できるトラック。たとえばイントロ部分をA、メロディー部分をB、サビ部分をC、もうひとつのメロディー部分をD、エンディング部分をE……というように定義する。通常の演奏では曲の頭から再生されるが、プレイオーダートラックを使うことで必要に応じて「A、B、C、B、C、D、E」といったように、順番を変えて演奏できる。

 部品の定義は1~8小節をA、1~4小節をB、5~6小節をCというように、ダブって定義することもできるようになっている。なお、この順番を設定するために「プレイオーダー・エディタ」という機能を使う。ここでは、並べていく際にAのパターンを2回、Bを3回、Dを1回……など、リピート回数の設定もできるため、曲作りが効率的に行なえそうだ。

プレイオーダートラック プレイオーダー・エディタ


■ 外部FXとダミープラグイン

オーディオインターフェイスのポートを外部エフェクトとのセンド、リターンと設定すると、手持ちのエフェクトをプラグイン感覚で利用できるようになる

 プラグイン関係についてもいくつか強化されている。そのひとつが「外部FX」(External FX)という外部のエフェクトをVSTプラグインと同感覚で使えるようにするもの。

 DAWを使っているユーザーでハードウェアのエフェクトも持っているという人は少なくないが、DAWで曲を作る際、気に入っているハードのエフェクトを利用するのはなかなか面倒だった。どうしても使いたい場合は、掛け録りをするか、1トラックずつバウンシングしながら処理する必要があるし、リバーブのようにシステムエフェクトとして全体にかける場合は外部ミキサーを使って操作するしかなかった。

 しかし、今回のCubaseSX3ではオーディオインターフェイスのポートを外部エフェクトとのセンド、リターンと設定した上で、VSTプラグインと同様に扱うことが可能になった。したがって、手持ちのエフェクトをプラグイン感覚で利用できるようになるのだ。これはなかなか便利な機能といえる。

 もうひとつ便利になったのが「ダミープラグイン」という機能。これは人の作ったデータを読み込んだ際、もしそのデータで使っているプラグインが入っていなくても、そのまま動作し、保存できるというもの。従来でも動作はしたが、プラグインが入っていないと、保存する際に、存在しないプラグイン情報が消されてしまい、不便なことが多かった。

 たとえば、スタジオで作っていたデータを家に持ち帰ってエディットした後に保存すると、スタジオにあって、自宅になかったプラグイン情報が消えてしまうのだ。そのため、再度スタジオに持っていった時、改めてプラグインの設定しなおさなくてはならなかった。そうした問題が解消された。

 さらに、もうひとつプラグインに関して強化されたのが「フリーズ機能」。CubaseSX2でもフリーズ機能はあったが、従来はあくまでもVSTインストゥルメント、つまりソフトシンセのCPU負荷を軽減させるためのものだった。今回はVSTプラグイン、つまりエフェクト部分も含めてフリーズできるようになった。エフェクトの中にはかなりのCPUパワーを消費するものがあるが、これでそれを解消できるようになったわけだ。


■ インプレイスエディタやオーディオプリレコーディングも搭載

インプレイスエディタ

 それ以外にも、いろいろと機能強化が図られている。結構便利なのが「インプレイスエディタ」。これは、プロジェクトウィンドウで表示されているトラックで直接MIDIの編集ができるというもの。これにより複数のトラックのMIDI情報を俯瞰できるようになったし、いちいちMIDIエディタを起動しなくて済むようになった。

 また、面白いのが「オーディオプリレコーディング機能」。これは、レコーディングボタンを押していなくても実はレコーディングされているという機能。つまり、再生状態や停止状態に、ふと演奏したフレーズがかっこ良かったといった場合、遡って録音することができる。テレビやラジオなどの家電製品にあるアイディアがDAWにも搭載された感じである。

 そのほかにも「ボリュームエンベロープ」といって、波形エディタ上で、音量変化をグラフィカルに書き込む機能が追加されたり、譜面表示機能がさらに高性能化するなど、いろいろな点で強化が図られている。もちろん先週紹介したSTUDIO CONNECTIONSの機能も搭載している。

 買収のタイミングもあって、今回のCubaseSX3にはYAMAHAのロゴは刻まれていないが、YAMAHA傘下になったことが、今後の売れ行きにどう影響するのか注目したいところである。

□ヤマハのホームページ
http://www.yamaha.co.jp/
□steinbergのホームページ
http://www.japan.steinberg.net/
□CubaseSX3の製品情報
http://www.japan.steinberg.net/products/cubasesx3/
□買収に関するプレスリリース
http://www.yamaha.co.jp/news/2004/04122101.html
□関連記事
【12月20日】【DAL】DTMにおけるハードとソフトの融合
~ ヤマハとSteinbergのSTUDIO CONNECTIONSとは ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20041220/dal173.htm
【11月22日】【DAL】3大DAWのメジャーバージョンアップを検証 その2
~ マルチチャンネル編集に対応した「SONAR 4」 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20041122/dal169.htm
【11月8日】【DAL】3大DAWのメジャーバージョンアップを検証
~ 「Logic Pro 7」にGarageBandからステップアップ ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20041108/dal167.htm

(2004年12月27日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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