■ 番組消化の強力なアイテム ポータブルAVプレーヤーを使うメリットは、録画番組の消化率が飛躍的にアップするところだ。今までならマンガでも読んで時間を潰すしかなかった移動時間や待ち時間を、エンターテイメントタイムとして使うことができる。このあたりに関しては、PC Watchでお馴染みのライター後藤弘茂氏の人生が微妙な方向に変わったりしているコラムを読んでいただいたりすると、楽しく理解できるだろう。さて今回取り上げるNEXX 「PMP-1200」は、系統としてはiriver「PMP-120」のようなDivX系プレーヤーに属する。だが従来のプレーヤーと大きく違うのは、デコーダにSigma DesignsのSMP8510を採用している点だ。 SMP85xx系チップは、ネットワーク型DVDプレーヤーやバーテックスリンクのMediaWiz、ソニーの初期型ルームリンクなど、マルチフォーマット再生型プレーヤーに多く採用されてきた。特にDivXに対しての高い再生互換を誇るチップなのだが、製品はすべてAC電源が必要なタイプで、バッテリ駆動のポータブル機は今までなかったのである。 実はこのPMP-1200、Zooma!ではすでに一度ご紹介している。International CES 2005レポートのうち、Sigma Designsのスイートにあった韓国「digitalCube」の「i.Station PMP1000」と同モデルなのである。発売元のNEXXによると、PMP1000がワールドワイドモデルなのに対し、NEXXが独自に日本語にローカライズしたモデルがPMP-1200ということで、あえて型番を変えているとのことである。 ではそのPMP-1200の実力を、早速試してみよう。なお今回お借りしているのは量産前サンプル機ということで、最終的な仕様とは異なる可能性があることをお断わりしておく。
■ 非常に質の高いボディ まず最初に、PMP-1200のスペックを軽く押さえておこう。本機は20GB HDDを搭載したマルチメディアプレーヤーで、機能としては動画、音楽、静止画、FMラジオの再生・録音と、ボイスレコーディングが可能。またユーティリティとしてファイルマネージャを始め、電卓、英英辞書、テキストビューワを備える。USB 2.0対応で、ストレージクラスに対応しており、PCとの接続やコンテンツの転送に専用ソフトウェアは不要。ただしUSBホスト機能はないため、デジタルカメラなどを直結することはできない。
では外観から見てみよう。モニタサイズは3.5型320×240ドットで、タッチスクリーンになっており、メニュー操作などは付属のスタイラスを使って行なう。またボタン類を使っての操作も可能。タッチスクリーン液晶にありがちな発色の鈍さや黒浮きはなく、視認性は普通の液晶と変わりない。 同サイズの液晶を備える競合製品に比べると、本体の面積は小さく薄型、フロントパネルもアルミ張りで質感が高い。表面にはモノラルスピーカーを備えており、イヤホンなしでも視聴できる。 操作ボタンはセンタークリック付きのジョイスティックとTabキー、Enterキーの3つ。タッチスクリーンで操作するため、あまりボタン類は必要ないということだろう。 画面下部には、充電時に青く光るLED窓があり、同時にリモコン用の赤外線受光部もここに仕込まれている。操作用のスタイラスペンは、右底部に格納されている。サンプル機のためか、ペン穴がやけにギッチリなので、奥までピッタリはめ込んでしまうと取り出すのが大変になる。
上部にはスライド式の電源スイッチがあるのみ。反対側にスライドさせるとホールドとなる。電源のON/OFFはしばらく押し続けるタイプなので、ホールド解除の勢い余って電源切っちゃうようなことは起こらないようになっている。 左側面には、ヘッドホン出力とライン入力、ゴムカバー内にはS-Videoとコンポジットのビデオ出力がある。オーディオの出力がないのは、ヘッドホン出力を代用しろということなのだろうか。なおビデオ出力やオーディオ出力用のケーブルは、リモコンなどとセットになって「TV接続キット」として別売となっている。出力をテレビに出したいという人は少ないと思われるので、妥当な判断だろう。右側面にはボリュームボタンと、ゴムカバー内にUSB、AC端子がある。
背面にはかなり薄型のリチウムポリマーバッテリがある。フル充電は4時間で、連続再生時間はビデオ6時間、オーディオ(液晶オフで)10時間となっている。容量2倍の拡張バッテリも別売で用意されるが、この薄さの2倍ならば、拡張バッテリを付けてもさほど分厚くは感じないだろう。
また背面の穴は、スタイラスペンを差し込んでスタンド代わりにすることができる。さすが後発だけあって、細かいところまでよく練られているという印象を受けた。 付属品はAVアダプタ、USBケーブル、ステレオイヤホン、LCDクリーナーほか、マニュアルCDなどごく一般的なものだ。持ち歩きの便宜を考えるとキャリングポーチも欲しいところだが、これも別売になっている。まあこれは何か適当なものを自分で探せばいいだろう。
■ 安定したDivX再生能力 では実際に使ってみよう。トップメニューは各機能が3D CGで描かれ、円形に配置されている。ジョイスティックの左右でグルグル回せるほか、スタイラスペンで直接機能アイコンをタップすれば、ダイレクトに前面に回ってくる。
機能をもう一度タップすると、各機能が起動するといった具合だ。終了するときはWindowsと同じように「×」の「閉じる」ボタンをクリックすると、終了する。各機能はシングルタスクでしか起動しないようだ。 USBでPCと接続すると、リムーバブルHDDとしてマウントされる。ファイル転送は、ここにコンテンツをコピーするだけである。HDD内部には「Video_sample」や「Audio_sample」といったフォルダがあるが、特にここに入れなければ認識しないと言うことでもなく、フォルダなどは自由に作って構わない。各アプリケーションでは、対応ファイルしか表示しないようになっている。 まずは肝心の動画再生から試してみよう。対応フォーマットのうち、もっとも使用頻度の高いフォーマットは、パソコン用テレビキャプチャ製品で録画したMPEG-2か、DivXということになるだろう。 ビデオプレーヤーを起動すると、「ファイルのレジューム再生」、「ファイルの先頭から再生」、「新しいファイルの選択」という選択肢が出てくる。レジューム再生に対応しているのは、なかなか気が利いている。「新しいファイルの選択」を選ぶと、ファイル選択画面が出てくる。ファイルを選ぶとローディングされて、再生がスタートする。
このとき必ず「サブタイトル情報はありません」というワーニングが出るが、これはファイルに字幕トラックがない場合には必ず表示される。韓国はVODが盛んなので、字幕付きの映像ファイルというのは身近に存在するのかもしれないが、日本では今のところ、そういう映像ファイルはまれである。これはデフォルトで出ないようにできないのだろうか。 まずDivXファイルだが、さすがにSigma Designsのチップだけあって、再生にはまったく問題ない。液晶は近くで見ると若干ドットがわかるが、30cmも離して見れば気にならない程度だ。画面はやや暗めだが、発色は悪くない。設定メニューで、ある程度調整もできる。調整が終わって再生画面に戻ると、設定画面に移動した時のシーンからもう一度再生してくれるなど、細かいところまで配慮されている。 再生中に画面を触ると、コントロール画面がオーバーレイされる。消えるタイミングやオーバーレイの濃度などは設定メニューから変更することができる。早送り・巻き戻しはスライダーのみが進み、映像は付いてこないが、移動後すぐにそのポイントから再生が始まる。
ボリューム操作は、スライダーの動きに対して実際の音量は若干遅れて変化する。音量は本体横のボリュームボタンでも操作できるが、このときもいちいちコントロール画面が出てくるのは鬱陶しい。ハードウェアのボタンを操作したときは、表示なしでボリュームだけ変わった方が良かっただろう。
再生のポーズと再開は、十字キーのセンタークリックで操作できる。また左右に傾けると、早送り、巻き戻しとなる。番組鑑賞中のちょっとした操作がボタンでできるのは、なかなか便利だ。 続いてMPEG-2ファイルの再生を試してみた。手元の資料にはファイルの再生制限などは記されていないのだが、いくつか転送したMPEG-2ファイルのうち、まったく認識されないものがあった。もしかしたらファイルサイズに何らかの制限があるのかもしれない。 また再生可能なMPEG-2でもローディング画面が変で、プログレスバーがダイアログを突破して伸び、その分が再生画面に残ったままになるという現象が見られた。製品版までに修正されることを期待したい。
さて本機搭載のデコーダチップSMP8510では、WMVの再生に対応していない。そのため、WMVをXvidに変換するソフトウェアが付属している。内訳は、変換ソフトウェアの「HT Video Splitter & Joiner 2.0SE」とxvidコーデック、MP3コーデックとなっている。
操作法は非常に簡単で、左側のエリアに変換したいファイルを読み込み、下の「All Transcoding」ボタンを押すだけだ。指定したファイルのみ変換したい場合は、下のエリアにドラッグし、「Select Transcoding」を押す。
マウスの右クリックでXvidに関する詳細な設定ができるが、筆者が試したソースの限りでは、特に変更しなくても良好な結果が得られた。元々再生画面が小さいこともあって、変換に起因する劣化はほとんど気にならない。ただ変換時間はPentium4 2.1GHzで倍速程度なので、時間はそれなりにかかる。
■ 素直な音質の音楽再生機能 続いて音楽再生を試してみよう。「開く」ボタンでファイル選択画面を出し、聴きたい曲にチェックを付ける。画面上部の「選択したファイルを再生」ボタンをクリックすると、プレイヤー画面のプレイリストに登録されて、順に再生される。
プレイリストは内部的に一つしか持てないので、聞き始めるときにいちいちこの儀式を行なうのが面倒だが、一般的なm3uプレイリストをPC側で用意すれば、それを再生することもできる。ID3タグには対応していないようで、再生中に表示されるのはファイル名と、ビットレートぐらいだ。 肝心の音質だが、EQなしの状態でかなり素直な音質。付属のステレオイヤホンはCresynという韓国メーカーのもので、見た目はあんまりイケてないが、音は意外に悪くない。筆者がリファレンスにしているゼンハイザーMX500と比べると、若干低域が固いものの、中高域が明るめで、すっきりした張りのあるサウンドが楽しめる。
プリセットされているEQは16種類もあるが、どれもかなり大げさにかかる。むしろ「Normal」で楽しむか、「User」として設定できる10バンドグラフィックEQを使って少しだけ低域を補正する程度で十分だろう。ところがこのグラフィックEQ、設定中は音が変わらず、OKボタンで閉じてからでないと効果が聴けないので、かなり設定しづらい。ここはなんとかして欲しいところだ。
またここのレコーディングボタンを使って、内蔵マイクか外部入力端子からの音声を録音することができる。ボイスレコーダとしての機能なわけだが、マイクの感度が低い上に、内部のHDDのシーク音も拾うので、会議録音などの用途にはまず使えないだろう。 次にFMチューナを試してみよう。設定では地域選択もできるので、海外出張でも現地の放送が楽しめるようになっている。またラジオ機能はイヤフォンケーブルをアンテナ代わりに使用するため、必ずイヤフォンを差しておく必要がある。よってラジオ機能だけは、イヤフォンを差していてもスピーカーから音が出せる機能を備えている。こういう点からも、かなり細かく気を配られた設計であることが伝わってくる。
「SCAN」ボタンをクリックすれば、オートスキャンして放送局をパネルにプリセットしてくれる。またこのパネルは2面あるので、2カ所の設定を両方保持しておくこともできる。ただ設定で地域を変更すると、プリセットが消えてしまうのは善し悪しだ。ここも改良の余地はあるだろう。 またラジオは、そのままMP3で録音することもできる。タイマー予約などはできないが、番組を録音しておいて移動中に聴く、といった使い方も楽しそうだ。
■ ほかにもあるビューワー機能 その他の機能も簡単に見ていこう。フォトアルバムは、静止画のビューワだ。ファイルブラウザと小型ビューワが基本画面で、ここから1枚ずつの表示と、スライドショー表示が可能。液晶がさほど高精細ではないが、1枚表示では4倍までの拡大ができる。
最大で4,000×3,000ピクセルの画像まで表示できるのだが、大きなファイルはその場で縮小して表示するため、レスポンスは落ちる。スライドショーを3秒とかに設定しても、縮小演算が間に合わないときは、表示時間が延びる。 英英辞書は、画面下にキーボードが出てきて単語を入力する。もちろん意味が英語で出てくるわけだが、単語の発音もスピーカーから確認することができる。辞書はHDDのシステム側のパーテーションに格納されているため、誤って削除されることはない。日本人としては国語辞書や和英辞書などが欲しいところだが、今のところ搭載の予定はないという。 ファイルマネージャは、HDD内のすべてのファイルを見ることができる。ただファイルに対してできるのは削除とリネームぐらいだ。せっかくタッチスクリーンのGUIを持っているのだから、ファイルの移動ぐらいはできて欲しいところだ。
テキストビューワは、txtファイルを読むことができる。いろいろな漢字コードを試してみたが、表示できるのはどうもShift-JISだけのようだ。フォントは明朝体で、あまり美しくはない。また行末でところどころ文字が抜けたり化けたりする。これはもう少し手を入れる必要があるだろう。 電卓は対数や乗数、三角関数なども使えるタイプだ。設定などは何もない。どうせなら製品の性格上、通貨レートの計算機能なども欲しいところだ。
■ 総論 NEXXのPMP-1200は操作も簡単で質感も良く、買っても満足できるAVポータブルプレーヤーだ。特にDivXと音楽の再生は品質が高く、動作も安定しているので、日常的に使えるプレーヤーの本命と言っていいだろう。ソフトウェアの基本設計もしっかりしており、細かい点の使い勝手もよく練られている。韓国製品にありがちな、大味な部分は少ない印象を持った。 もっとも、いくつか指摘したように、多少機能を欲張りすぎて手が回らなくなっている点もある。これは発売元のNEXXが、今後どれぐらいこまめにサポートしていけるか、そのスキルが問われる部分だろう。 価格はオープンだが、NEXXの直販では57,750円となっている。今のところ競合プレーヤーよりも若干高いが、国産メーカー品と比べても遜色ないこの質感と機能ならば、やむなしといったところだろうか。最初から拡張バッテリの販売が予定されているところなども、なかなかツボを押さえている。
出張や移動が多いのだが、ノートPCで見るのは大げさすぎるという方には、PMP-1200はピッタリだろう。
□NEXXのホームページ (2005年3月23日)
[Reported by 小寺信良]
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