■ 今年が本格普及の年? 昨年までは先物買い的なイメージが強かったDVDカムだが、今年はいよいよ本格普及タームに突入しそうな気配だ。売り上げの推移を見ると、米国市場が先行しているのは事実だが、実は国内市場もそれに近い動きを見せており、ビデオカメラ市場では昨年末でシェア13%というデータもある。現在のところ、世界中でDVD記録のビデオカメラを作っているのは、日立とソニーしかないわけで、すなわちその2社で13%を押さえていることになる。2000年に世界初のDVDカム「DZ-MV100」を発売し、その後順調に製品を積み重ねてきた日立は、今年のモデルで通算5世代目に突入する。すでにCESレポートで今年の米国での3ラインナップはご紹介したが、国内ではラインナップを絞り、上位・ミドルの2モデルとなった。 今まではすべてMVという型番で進んできたDVDカムだが、今回からより付加価値を高めたGXというシリーズを立ち上げた。その最初のモデルが、日立のDVDカムでは初の2メガピクセルCCDを採用したDZ-GX20(以下GX20)だ。
さらにこの春のラインナップから、新たに高画質処理LSI「Picture Master」を搭載し、S/Nとエンコード効率面で大きく進歩したという。またDVD-RAMでもついにベアディスクを採用し、大幅なスリム化に成功している。ではさっそく期待の新モデルを試してみよう。
■ スリムになったボディ DVDカメラは円形メディアの宿命から、どうしてもボディデザインはひっくりかえったデンデンムシみたいな恰好になってしまう。だが今回のモデルではメディアにベアディスクを採用したため、ドライブ部のサイズが高さ、幅ともに小さくなり、正面から見ても、ドライブ部の出っ張りはほとんど気にならなくなっている。
ボディカラーはシルバーが主体だが、鏡筒部、前面脇、側面、ボタンまわりと、微妙に材質や塗装の異なるパーツを組み合わせている。特に鏡筒部を包み込むように流れるサイドラインは、上がるにしたがって徐々に面取り部が薄くなって鏡筒部へ繋がっていくといった難しい成形となっており、日立の本気度が伝わってくるようだ。 まず光学部分から見ていこう。レンズは光学10倍ズームで、フィルタ経は34mm。最近のビデオカメラには珍しくレンズフードが付属している。奥行きはそれほどないが、遮光の役目は果たしてくれそうだ。
レンズは動画の4:3が48.7mm~487mm、16:9で46.25mm~462.5mm、静止画で38.9~389mmの光学10倍ズーム。前モデルのMV580よりも、若干ワイド寄りになっている。ワイドモードでは単純に上下が切れるのではなく、CCDの読み出し範囲を変えて左右も広がっている。CCDは1/3.6型の212万画素。動画有効画素数は約123万画素、静止画有効画素数は192万画素。手ぶれ補正は電子式で、ON・OFFで画角は変わらない。
前面には静止画用フラッシュと、コネクタ類がある。またローライトモードでの動画撮影時には、液晶モニタを反転することで、バックライトをビデオライト代わりに使う機能も備えた。以前Panasonicのビデオカメラで実装したこともある機能だ。ただしバックライト自体はビデオライトとしてはそれほど明るいわけではないので、あくまでも補助光程度に考えておくべきだろう。
操作ボタン類は右側に集中している。従来機ではメニュー操作にジョイスティックを採用していたが、今回は上下左右に押せる円形キーと中央ボタンという、ケータイライクなボタンを採用した。DVDレコーダのリモコンでもそうだが、ここのところジョイスティックはどうも敬遠される傾向にあるようだ。またメニューやディスクナビゲーションといったボタン類は、従来機では縦一列に並んでいたのだが、今回から田の時に配置されて、覚えやすくなっている。
前モデルで搭載した初心者用の「かんたんメニュー」は、スライドスイッチから液晶内側のフィルムボタンに変更された。かんたんメニューでは、カメラの設定は実質「動画画質」、「ワイドモード」、「入力切り替え」のみになる。
もっともこれは、「メニューがそれしか出なくなる」というだけで、ホワイトバランスやプログラムAEなどそれ以外の値は、通常メニューでの設定がそのまま使われる。つまり設定がフルオートになるような初心者モードの類ではなく、どちらかというとよく使うメニューのショートカットのような意味合いとなってしまっており、あまり初心者への補助機能とは言えなくなっている。 後部にはモード切替ダイヤルがある。従来モデルでは、このモードダイヤルが縦向きに付けられ、背面からは上下に操作する作りとなっていた。だがモード名は横に書いてあるわけで、いちいち横をのぞき込まないとどの方向がどのモードなのかがわかりづらい。今回はダイヤルを横向きに付け、背面から見てモードがわかりやすくなっている。 またこのモデルは2メガピクセル機ということもあって、静止画撮影用のフォトボタンが付けられた。従来機では、モードさえ切り替えれば全部RECボタンで動画も静止画も撮影でき、非常にシンプルであったのだが、静止画を重視していくと、二段押しでフォーカスロックをしやすくする必要があり、今回は別のボタンが付けられたのだという。
だが個人的には1ボタンに統一するか、モードレスにするかが未来のイメージング機器の目指すべき方向だと思っていたので、モードとボタン両方の使い分けが必要となってしまったこの改良は、残念である。 注目のドライブ部を見てみよう。今回はベアディスクを入れるということもあって、かなりフタが大きく開くようになっている。またSDカードスロットを底面に移したため、フタ部分もかなり薄くなっている。 従来機よりもドライブ部の高さを抑えることができた秘密は、2カ所のツメ。フタを閉じておくための機構だが、従来機のようにツメがてっぺんに一つだと、ディスクの外周よりもその分だけ確実に高くなってしまう。これを抑えるため、ディスクの頂点ではなく両脇にツメを付けたわけである。
メディアには、対傷性能が従来比で約40倍、帯電防止性能が約500倍にアップしたという、日立マクセル製のものが推奨されている。ビデオカメラの場合、その特性上やり直しがきかない。こればかりは、信頼できるメディアを使うべきだろう。
■ 発色のいい絵作りを継承
では実際に撮影してみよう。まずホールドした感じだが、高さが低くなったこともあって、前モデルのようにドライブ部をワシッと掴むような感じではなく、割と指に余裕がある。その代わり伸びた中指がアクセサリーシューまで届いてしまうため、指先をどう置けばいいのか微妙な居心地の悪さを感じる。何か指の置き場になるような、アクセサリーシューのカバーが欲しい感じだ。 今回の改良点の一つに、電源を入れてからの立ち上がりの早さがある。すでにディスクが入っていれば、電源を入れて6秒程度で撮影を開始することができる。
実はこれにはミソがあって、日立ではユーザー調査の結果、多くの人は撮影に出かける前に本体にディスクを入れていることがわかったという。そこで今回から、例え電源OFFの状態でも、ディスクを入れた時点でディスクの認識を完了するように変更したのである。 DVカメラでもそうだが、確かに現場に着いてからメディアをごそごそ入れるようなことはしない。ローディング自体が早くなったわけではないが、ユーザーの行動に着目した、現実的な解決策である。 最近のビデオカメラは16:9ワイドモード強化の傾向にあるが、GX20もワイドモードでは余裕のある画角が楽しめる。発色もなかなか綺麗で、コントラストの高い見栄えのする作りは前作と同じだ。また今回は高画質処理LSIを新たに開発したこともあり、全体的にS/Nが改善され、暗部表現も滑らかになっている。
通常の撮影では、露出オートで問題ないが、薄暮の時間帯などでは増感しすぎて、色味が減ってしまう傾向がある。発色を求めるなら、手動で若干絞ったほうがいいだろう。スミアやフレアへの耐性は、前モデルよりもさらに良くなっている。 画質的には、水面のようなシーンにはまだ若干辛い部分が残っているが、それ以外はほぼミドルレンジのDVカメラと遜色ないところまで来たと言っていいだろう。
■ 高解像度化した静止画だが…… では静止画機能も試してみよう。本機では、静止画の保存先をDVDにするかメモリーカードにするかを、モードダイヤルで選択する。メディアによって若干使い勝手が異なる点に注意が必要だ。まずDVDに対しては、画質設定がない。容量に余裕があるので、常に再高画質で撮るようになっている。その代わりと言ってはなんだが、メディアへの書き込み時間が長いので、撮影のレスポンスはかなり落ちる。連続で何枚か撮影しようと思っても、メディアへの書き込み中にはシャッターが切れないのだ。 つまり、非常にシャッターチャンスに弱いカメラになってしまうのだ。例えば、 「あーカモがが泳いできてぇー照り返しの中にぃー入ったナーーーァウ!!」 [ディスクに保存中です] 「なぬー!!」 みたいなことがたびたび起こる。 一方SDカードを使った静止画撮影では、このようなことは起こらず、普通のデジカメ並みに軽快に撮影できる。またこちらでは、「FINE」、「NORM」、「ECO」3段階の画質モードが設定できる。ただSDカード撮影の場合は、動画撮影からの切り替えに10秒ほど時間がかかるのが難点だ。動画と静止画を頻繁に切り替えたいときには、向いていない。 フォーカスに関しては、元々ビデオカメラという特徴を生かして、静止画モードでも構えただけでも常時追従している。シャッターボタンの1段目を押したところでもう一度フォーカスを取り直すのだが、フォーカスが取れているならそのまま一気に下まで押し切ってしまえば、シャッターは切れる。 ただどうしても2段ボタンがあると、ついフォーカスを取り直してしまって、中途半端な状態でシャッターを切ってしまうこともあった。うまく使えばレスポンスのいい撮影が可能なはずだ。
撮影された絵としては、変に色を作ることもなく、ビデオ側とほぼ同じトーンとなる。発色自体は悪くないのだが、ディテールの細かい部分に、偽色らしきものが見られるのは残念だ。このあたりの静止画のアルゴリズムは、やはりデジカメも作っているメーカーのほうが有利のようである。
■ 総論 DVDカメラを誰に売るのか、という点で、日立とソニーのスタンスは大きく違うように思える。ソニーがDVDメディアを武器に、今までビデオカメラに興味の無かった層の開拓を目指しているのに対し、日立は結構地道にDVカメラからのリプレイスを狙っているという印象を受ける。そこはやはり、DVからのリプレイスが進めば進むほど自社のDVカメラシェアを縮めることになるソニーと、元々DVカメラのシェアがゼロで売れば売るだけ新規開拓の日立では、そのスタンスも違って当然だろう。
販売戦略としては、同社が手慣れた白物家電ライクな売り方は興味深い。3月中にこの春モデルを買うと、もれなくミキハウスとのコラボバッグのセットが貰えるという。筆者もこの現物を見たが、オマケで貰えるバッグとしては、かなり質のイイものだ。子供が居ない人には今ひとつピンとこないかもしれないが、ミキハウスブランドは小さい子供を持つお母さん方に絶大な信頼がある。 編集に関しても、PCでどうこうということではなく、カタログ上では今お使いのDVD-RAM/R対応DVDレコーダで編集ができるんですよ、というところを先に持ってきている。ベアディスクの採用で、よりそのあたりが訴求しやすくなったということだろう。 今回のGX20は、もはやDVDカムは今どきのDVカメラと遜色ないレベルの商品であることをアピールしている。だがあまりそれを意識しすぎると、今度はDVDカムだから良かった「イージーさ」が減退してしまう。 おそらくはそのために、GXシリーズとMVシリーズを分離したのだろう。簡単にさくさく撮るならMV780、DVカメラと同じ感覚で使いたい人はGX20ということになる。
だが、ビデオカメラの付加価値は、なにもメガピクセルだけではない。DVDやメモリ、HDDといったメディアをグループ内で全部を押さえ、しかも強大な生産能力と半導体技術まで持ち合わせる、日立らしい付加価値の創造を期待したい。
□日立のホームページ (2005年3月16日)
[Reported by 小寺信良]
AV Watch編集部 av-watch@impress.co.jp Copyright (c) 2005 Impress Corporation, an Impress Group company. All rights reserved. |
|