■ 事実上の頂上決戦? デジタル放送によって機能が複雑化してきたテレビ関連機器では、「機能」なのか「わかりやすさ」なのかという選択に分かれてきているような気がする。もちろん機能がよくてわかりやすいのが一番いいに決まっているのだが、なかなか両方一度には揃ってこない。機能の実現は別として、それを操作するGUIに関しては、もはや企画や設計、デザイナーなどの製品担当者レベルで頑張ればなんとかなるという時代は終わったと言っていいだろう。 ソニーは昨年夏から、フラットテレビ“ベガ”シリーズにPSXで採用されたGUI「クロスメディアバー」(以下XMB)を搭載した。さらにこのGUIを他の製品にも搭載すべく、ガイドラインの策定を進めてきたわけだが、今回はついに「スゴ録」シリーズにも搭載されることとなった。ソニーのレコーダの現行ラインナップとしては、スゴ録とPSXという2ブランド体勢で臨んできたわけだが、GUIを統一しソニー全体のカラーとしてXMBを推進していく構えだ。 今回取り上げるスゴ録「RDZ-D5」(以下D5)は、アナログ・デジタルのスカパー!を除く全波チューナを搭載したフラッグシップモデル。意外なことにスゴ録では、これまでデジタルチューナを搭載したモデルがなかったのである。さらに記録系では、DVD+Rの2層記録メディア(DVD+R DL)に対応した点もポイントだろう。 ソニーの考えるデジタル放送時代の新スゴ録を、早速試してみよう。
■ スゴ録らしくないスゴ録?
従来のスゴ録は、ガシッと角張ったプロントパネルを採用してきた。ヨーロッパで言えばドイツ、オランダあたりの剛健なイメージだったのだが、今回のD5はガラリと変わり、柔らかいテイストになった。フランスとかイタリアっぽいといえばいいのだろうか。若干だが「コクーン」っぽい滑らかさを感じさせるデザインとなっている。 パネル上半分はアクリル塗装のシルバーで、ボタン類の多くは上部に付けられている。一時期東芝RDシリーズでも上部ボタンを採用した時期があったのだが、いつの間にかなくなってしまった。上部ボタンは、テレビの下にレコーダを設置したときに、本体操作がやりやすいというメリットがある。 左端には電源ボタンが一つあるのみで、イジェクト・再生・録画系のボタンは右側に並んでいる。またHDDとDVDの切り替えボタンは、そこから下がった前面に付けられている。
中央のDVDドライブはDVD±R/RW対応のハイブリッドで、2層メディアはDVD+Rのみに対応。搭載HDDは250GBだ。ステータス表示部はあまり大きくないが、チャンネルなどが上品なサイズで表示される。フロントパネル下半分はアルミ素材のカバーになっており、これを開けると最近では珍しく、充実したボタン類が出現する。中央表示パネルの左側にはチャンネルと入力セレクト、右側には十字キーやホーム、オプションといったボタンがならび、リモコンと同様のGUI操作が可能だ。
アナログAV外部入力が前面に1系統、さらにHDV/DV端子もある。HDVカメラからのダビングに対応するが、外部レコーダへのムーブはできない。 本体横の吸気口も、上から下に行くにしたがってサイズが小さくなるといった細かい部分にまでデザインの手が入っており、ソニー製品らしいこだわりを感じさせる。 背面に回ってみよう。アナログチューナは右側、デジタルチューナは左手に分かれている。アナログAV入力は背面に1つと前面に1つ。110度CSチューナまで搭載したからか、これで十分ということだろう。
一方出力は、アナログAVのセットが2系統のほか、コンポーネント出力、D4出力端子がある。またこれらコンポーネント群のために、アナログ音声出力が別途1系統ある。こういう組み合わせはちょっとユニークだが、実用的だ。デジタル系は、音声がオプチカルとコアキシャル、そしてHDMI出力を備えている。またデジタル放送対応ということで、モデムとLAN端子がある。
GUI操作のキーとなるリモコンも見ておこう。XMBを搭載した“ベガ”では、大型ジョイスティック付きの折りたたみ型だったが、D5の場合はこれまでのスゴ録のリモコンと大差ない。ただ中央部にはXMB操作に合わせてジョイスティックやボタン類が配置されている。 XMBの顔とも言える「ホーム」へのボタンが大きく目立つように配置され、「戻る」や「オプション」がジョイスティックの左右に大きくフィーチャーされている。また頻繁に使用する「番組表」、「画面表示」ボタンが、ジョイスティックを取り囲む。番組の再生や早送りといった操作は別途ボタンがあるが、ジョイスティックで行なうことができ、ほとんどの操作はリモコンを握り直す必要がなく、親指の届く範囲で完結している。 フタを開けると、録画ボタンやDVD用のボタンが出てくる。レコーダのリモコンで録画ボタンまで隠してしまったのは珍しいが、以前からソニーでは「おまかせ・まる録」など予約録画機能に力を入れており、手動録画ボタンは使用頻度が低いと見たのだろう。
■ 高速スクロールが快感 では早速スゴ録+XMBの世界を体験してみよう。ホームボタンを押すと、XMBが起動する。左から「設定」、「ミュージック」、「ビデオ」、「地上」、「BS」、「CS」、「外部入力」となっており、それぞれの縦列に機能や番組などの項目が並ぶという作り。 地上波は先にアナログのチャンネルが並び、さらに下に行くとデジタルテレビとデータ放送が出てくる。BSなどはラジオやデータ放送なども含めると膨大なチャンネルがあるのだが、PS2の描画エンジンを使っていなくても高速に上下スクロールできる。
ただその高速移動で狙ったチャンネルが素早く選べるかというと、それはまた別問題である。現時点でXMBはサブツリーの存在を許していないので、トップ階層のカテゴライズがおおざっぱだと縦列が異様に長くなる。特にデジタル放送の場合は、1局でチャンネルが3つあるので、縦が局数の3倍になってしまう。このあたりをいかに効率よくまとめて表示できるかは、別にスゴ録に限らずこれからのテレビやレコーダには課題となるだろう。
各放送波の先頭には「番組検索」があり、その次に「番組表」が来る。番組表はリモコンに専用ボタンがあるため、メニューから選ぶ必要はない。一方番組検索はリモコンに専用ボタンはないが、メニューの突き当たったところなので、選ぶのに不自由はない。このあたりの作りは、さすがによくこなれている。 番組表を見てみよう。アナログ放送のみGガイドを使っており、オプションによってチャンネル別とジャンル別に切り替えができる。各番組は横1行で表示されるだけで、表組みという感じでもないため、全体の見通しが良くない。おまかせ・まる録や検索、ジャンル別表示を上手く使うべきだろう。 一方デジタル放送の番組表は、ちゃんと表組みになっている。同時に4ch分表示可能なのだが、1局に付き2~3chの枠があるため、現実には2局分の情報しか表示されないところは残念。なおこの番組表は、あと2段階拡大表示できる。枠が小さくて解説文が読めないときなどは便利だ。
またオプション設定で、特定の5ジャンルを色分け表示することができる。色までは指定できないが、番組表をブラウジングして見たいものを探すときは便利だ。 「おまかせ・まる録」にも若干の機能変更が成されている。以前はジャンル1/キーワード4指定だったのが、今回はジャンル1/キーワード3となっている。キーワードの数は一つ減ったが、実際にはさほど困らないだろう。
また新たに「放送」という選択肢が増えている。各放送波を個別に指定できるほか、全デジタル放送を対象にすることもできる。ただしそれにアナログ波を含めることはできない。録画モードの違いや番組表提供先の違いなどいろいろオトナの事情があってのことだろうが、同じキーワードで全波を検索したいときは、別途アナログ波用のまる録条件を作る必要があるのは面倒だ。 録画予約では、前回の上書きを行なう更新録画や毎週予約、最長60分の録画延長などが設定できる。ただ番組表からの録画予約に対しては、手動で録画開始・終了時間の調整ができない。短い番組が番組表の都合で一つにまとめられているような場合は、我慢して枠全部の番組を録るか、最初から手動で録画予約を行なわなければならない。 予約録画で優れているのは、野球などの延長で後に続く番組の放送時間がずれた場合に、自動的に録画終了時刻を延長してくれる機能があることだ。野球延長で悔しい思いをしたことがある人はありがたい機能だろう。
また最終回だけ放送枠が違うなどの場合に、番組表から番組名を追跡して予約内容を変更してくれる「番組追跡録画」機能を搭載している。なおこれらの機能は、デフォルトでONになっているので、ユーザーは特に意識することなく利用できる。 さらに番組名が省略されたりするような番組でも対応できるように、追跡に使う番組名を手動で変更できる機能も備えている。
■ 自動化された再生NR 続いて録画・再生系を見てみよう。デジタル放送に対しては、HD解像度のままダイレクトに録画できるDRモードを備える。DRモードで録画できるのはHDDのみで、地上デジタル放送で約24時間、ビットレートが地上デジタルより高いBS/110度CSデジタル放送で約21時間(SD放送は約47時間)、HDVで約20時間の録画が可能。 後は従来のスゴ録と同様、「HQ+」と「HQ」は切り替え式、以下「HSP」から「SEP」まで、全部で9段階の録画モードがある。
録画時のDNRはシンプルで、0から3までの4段階があるのみ。デジタル放送には効かない。一方再生時には、ランダムノイズを減らすFNR、ブロックノイズやモスキートノイズを減らすBNR/MNRのレベルを調整できる。また今回はHD放送のために、自動でNRレベルを変動させる「DマトリックスNR HD」を搭載。NRを最大にセットしても、ノイズが少なければ働かないといった具合に、効果が状況に応じて変動するようになっている。
録画された番組は、すべて「ビデオ」列に縦に並ぶ。ソート順は変えられるにしても、PSXと違ってスゴ録のターゲットはもっとテレビ好きな人だろうから、おまかせ・まる録の自動録画分も含めると、録画本数はかなりの数になるだろう。それが1列でしか並ばないのは、レコーダのGUIとしてはまだ改良の余地がある。ジャンル別でツリー枝分かれなど、もう少し録画後の番組を面白く探せる機能が欲しいところだ。録画された番組に対する検索機能や、期間による自動削除があってもいいだろう。
DVDビデオの再生においては、映像を1080i/720pにアップコンバート出力する機能がある。これが結構効果的で、HD解像度のモニタで見ると、細かな肌のディテールも再構築される。DNRの効き具合も、よりしっかり確認できる。字幕の輪郭はさすがに良くならないが、過去に録画したDVDももう一度これで見直してみたくなる。
ただし、著作権保護のため市販のコピープロテクトされたDVDでは、アップコンバート出力できるのはHDMI出力のみで、D4/コンポーネント出力には480pまでしか出力できないので注意したい。
■ 編集系がウィークポイント 続いて編集・ダビング系を試してみよう。編集機能はプレイリスト作成、A-B間消去、タイトル分割、タイトル結合の4種。プレイリスト作成では、必要部分をイン点アウト点で指定するスタイルだ。再生や早送り、コマ送りなどのコントロールはジョイスティックだけでも可能なので、編集操作自体をすべてジョイスティックだけで賄うことが可能になっている。
難点は、ボタンに対する動作レスポンスが遅いことだ。例えばポーズボタンで止めても、すぐに止まらず10フレーム以上滑ってしまう。編集作業では、いかに自分の意志どおりに映像が動いてくれるかが作業スピードに大きく影響する。この編集レスポンスに関する意識は、まだまだレベルが低い。 また必要部分を確定するたびにいちいち編集画面から外に出されてしまうので、数ポイント編集したい場合には非常にまどろっこしい。このヒト達はプレイリストを一体何に使うと想定しているのだろうか。
またデジタル放送の番組は、プレイリストを作ってもムーブの対象にはできない。これが可能なのは、今のところ東芝のZ1だけのようだ。D5では、デジタル放送の番組を編集してムーブするには、A-B間消去を使って不要部分を削除するしかない。 A-B間消去も、操作法としてはプレイリスト編集と全く同じだ。そして同じように、1カ所削除するたびにいちいち編集モードから抜けて番組選択画面に戻されてしまう。 DVDへのムーブは、メディアもCPRM対応でなければならないのはご承知の通りだ。D5で使用できるCPRMメディアは、DVD-RとDVD-RWのみ。DVD+R/RWでもCPRMに相当する規格が提唱されているものの、現在はまだ存在していない。したがってせっかくのDVD+R DLも、アナログ放送でしか威力が発揮できないのは残念だ。 編集部の方で、D5で作成したDVD+R DLコンテンツの再生互換テストを行なったので、参考までに掲載しておく。
※結果は編集部がテストした個体によるもので、同機種でも個体によって結果が変わる場合があります。編集部では結果を保証できません。
■ 総論 ソニー初のデジタル放送フル対応モデルとして、期待のスゴ録「RDZ-D5」だが、いろいろな意味で得て不得手のある機材である。XMBを使って、ややこしくなったレコーダ全体の機能を把握しやすくなった点は評価できる。しかし機能的にはまるでテレビのためのGUIで、レコーダのGUIとしては練り込みが足りないのではないか。“ベガ”ともPSXとも違うユーザー層のあり方を、もう少しGUIに反映させるべきだろう。 番組予約に関しては、以前から力を入れている自動録画機能の充実度は、他社に一歩も譲らない構えだ。特にスポーツ延長時の自動録画時間調整など、ユーザーが手放しで運用しても不都合がないように作られている。しかしデジタルとアナログ放送が同時録画できなかったり、DR録画で大量にストレージを使用する割にはHDDが250GBだったりと、機能的にもの足りない部分もある。 再生系は上質で、特にDVDがアップコンバートできる点は今後の重要なトレンドとして、高く評価したい。だが記録系では、せっかくの2層記録メディア対応がデジタル放送には生かされない。このままDVD+R/RWのDRM対応が遅れれば、日本ではソニーだけがかなり不利な立場に追い込まれるだろう。 編集機能はレスポンスが悪く、また機能的にも「編集」という作業手順を全然理解していないのかワザとやってんのかよくわからないが、作業の流れを分断するような作りとなっており、他社に大きく水を空けられている。特にチャプタの扱いは、以前の機種から比べても大幅に悪くなっている。設定方法も自動で6分、15分が設定できるだけで、手動では設定できない。また前回のスゴ録に搭載された「特徴点検出機能」とかは、一体どこいっちゃったんだろうか。 同じスゴ録の名前が付いていても、D5はかなり従来のラインナップとは違ったマシンだ。なーんか型番も違うしパネルデザインもかなりテイストが違うし、ブランド同じでも作ったカンパニーは別という「コクーンの悪夢」を連想してしまうのだが……。 デジタル放送対応DVDレコーダの頂上決戦として取り上げたのだが、機能的には東芝Z1の勝ち、全体像のわかりやすさはD5の勝ち、といったところだろうか。デジタル放送時代のレコーダは、機能とわかりやすさの両輪が揃うまでには、もう少し時間がかかりそうだ。
□ソニーのホームページ (2005年6月1日)
[Reported by 小寺信良]
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