■ 身近な記録に使える手頃なアイテム 従来ビデオカメラといえば、子供を撮るものと相場が決まっていた。どんなにデバイス好きな人でも、子供がいなければビデオカメラには大して興味がなく、大抵はデジカメのほうに走っていくものである。確かにビデオカメラは、「動画は撮れるんだけど値段が……」という部分は大きい。今DVカメラのエントリーモデルは7~8万円ぐらいだが、デジカメでそれぐらい出せば、かなりいいものが買える。 だが2万円程度でそこそこVGAサイズの動画が撮れるとなれば、ビジネス用途にちょっと持っててもいいかな、という気にさせるのではないだろうか。筆者はインタビューなどを行なうときに、ボイスレコーダではなく、MPEG-4カメラで収録する。そのほうが誰の発言なのかあとで見てもはっきりするし、現場の状況を撮っておくことで検索が容易になるからである。 アイ・オー・データは、以前から「MotionPix」というシリーズでMPEGビデオカメラに積極的に取り組んでいるメーカーだ。実は2年前にも一度、このシリーズをレビューしたことがある。そのときは意外にも同業者から、取材メモとして使えないかという問い合わせが多く、そっち方面に絞ったら結構イケるんじゃないの? と思ったものだ。 今回は6月末に発売予定の最新モデル、「MotionPix AVMC321」(以下AVMC321)のサンプルモデルをお借りすることができた。これまでMotionPixはASF録画だったが、このモデルからはXviDでVGAサイズの録画が可能になっている。なおサンプル機であるため、最終的な仕様などは変更される可能性があることをあらかじめお断わりしておく。
■ 出しやすい「普通」なデザイン AVMC321には、カラーバリエーションとして3モデルがある。店頭モデルはロックブラックと、ヌーディーホワイトの2色だが、同社ファクトリストアで限定1,000台としてシルバーモデルが存在する。今回はこのシルバーモデルをお借りしている。ボディは樹脂製で高級感こそないものの、デザインに奇をてらったところがなくシンプルで、好感が持てる。以前ならMPEGカメラは「持っていること自体がネタ」のようなデザインも散見されたが、本機は比較的マジメにビデオカメラ然としている。 また本体重量も軽く、バッテリを含めても180g程度しかない。そのため液晶を開くと、自立できない。底部には三脚用の穴があるので、ミニ三脚などを併用するといいだろう。
レンズは単焦点で、マクロ、人物、遠景の3段階をスライドスイッチで切り替えるようになっている。F値は3.0で、ちょっと暗めだ。画角は資料がないが、過去に撮影したカメラの映像と比較すると、35mm判換算ではおそらく46mm程度ではないかと思われる。
レンズのすぐ下には静止画用フラッシュを装備しているが、なにせカメラ本体が小さいので、うっかりこの部分を握ってしまいがちだ。 撮像素子は1/2型、約320万画素のCMOSで、有効画素数は約310万画素。電子式手ぶれ補正も備える。8倍までのズームも装備するが、光学ではなくデジタルズーム。露出制御はオートだが、メニューに入って手動で調整することも可能だ。また測光モードもマルチ、中央、スポットの3種類を備えている。
液晶モニタは2.0型TFT液晶で、視野角はそれほど広くないが、正面から見る分には黒が締まっており、明瞭度は高い。本体上面に電源ボタンもあるが、液晶の開閉でも自動的に電源のON/OFFを行なうことができる。
背面には操作ボタン類が集中している。ズームレバーと録画ボタンが左右に並んでいるが、録画ボタンの位置は若干上過ぎるような気がする。親指で押そうとするとカメラを深く握る必要があるため、どうしても前面のフラッシュの位置に指がかかってしまう。
中央部の十字キーで、メニュー操作を行なう。撮影メニューは各パラメータが円形に並んでおり、センターボタンがメニューの呼び出しと決定ボタンを兼ねる。その下のMODEボタンは、動画、静止画、録音の3モードを順次切り替える。REC/PLAYボタンは記録モードと再生モードの切り替えだ。 その下にはAV/ヘッドホン兼用端子と、USB端子がある。AV端子は通常のステレオミニプラグではなく、ポケットラジオなどで採用されているさらに小さい2.5mm径のもの。本機にはMP3再生機能もあるが、汎用の3.5mm径のヘッドフォンをそのまま使うことはできない。 USB端子は充電用電源ポートも兼用しており、付属のACアダプタの先端がUSB端子の形になっている。USBバスパワーでUSBカメラとしては動作するが、USB充電には対応していないようだ。 本体左にはスピーカーとバッテリ格納部がある。またSDカードスロットも、バッテリ部のフタを外すと現われる。それ以外にも本体には16MBの内部メモリもあり、カードがないときは内部メモリに撮影できる。16MBでは動画撮影にはとても足りないが、ボイスレコーダとしては35分録れるので、緊急時には役に立つだろう。
■ 向き不向きのある動画撮影 では最初に動画機能から試してみよう。解像度としては、高、標準、低の3段階ある。各モードの解像度は以下のようになっている。フレームレートは一律30fps、音声はMPEG-1のモノラル64kbps固定となっている。
上記のサンプルはすべてデジタルズームなしで撮影している。高画質での固定画像はまずまずだが、パンすると動きが若干引っかかる部分がある。標準は言うに及ばずだが、意外に健闘しているのが低画質だ。動かすとやはり破綻が見られるものの、固定画像ではそこそこ解像度も高く、メモ的に使うには十分だろう。
発色はグリーンが強めに出るものの、全体のバランスとしては悪くない。ラティチュードはそれほど広くなく、黒つぶれや白飛びが起こりやすいので、狙った被写体が綺麗に映ることを目的として割り切った方がいいだろう。詳しくは静止画のサンプルで確認していただきたい。 露出はオートでもそつなく撮れるが、1段階のステップが非常に大きいため、途中で露出が変わるとあきらかにわかってしまう。この現象は「解像度 高」の動画サンプルでも確認できる。 一方自分で露出補正しようと思うと、メニュー項目をいくつか送っていく必要があるため、素早い変更は難しい。動画のメニューは解像度の変更が最初に表示されるが、同じ使用環境でそうそう頻繁に変えるものでもないだろう。それよりも前回使ったメニューのところで止まっていると良かったのだが。 デジタルズームは、当然だが光学式ズームと異なり、ズームするほど画質が落ちてくる。最高の8倍では、何が映っているのか判別するのがギリギリのレベルだ。 一応バリアブルで動くことは動くのだが、ズームなしの状態から1.2倍ぐらいまでいきなりジャンプしてしまうため、滑らかなズーム動作は期待できない。単に画角変更のための機能と考えた方がいいだろう。また手ぶれ補正機能と電子ズームは排他仕様となっており、ズームを使いたいときは手ぶれ補正をなしにする必要がある点はちょっと変わっている。
撮影で困ったのは液晶面だ。平滑なアクリル板が填っているため、真正面からだと自分の顔がバッチリ反射して、肝心の映像が見えないのである。黒の締まりはノングレア加工のフィルタなどがないからだろうが、液晶の輝度がもう少し欲しい。
■ 縮小すればイケる静止画 続いて静止画を試してみよう。本体を起動するとデフォルトが動画撮影モードとなっており、静止画撮影にはモードボタンで切り替える必要がある。だが起動も切り替えも結構速いので、さほど面倒な感じはない。
等倍で表示すれば細部はかなり甘いのだが、WEBでの利用や、L判印刷などで縮小する場合は、そんなに捨てたもんでもない。静止画でも相変わらずラティチュードは狭いが、昔のCMOSトイカメラのように絵がひん曲がったりすることはない。以前のCMOSよりも読み出し速度はずいぶんレベルが上がったようである。 撮影すると、撮れた絵が左側にトテテテとスライドしていく。まあ面白いことは面白いのだが、それよりもその秒数だけ止まって撮影状況を確認させて欲しかった。 難点といえば、やはり被写体に応じて自分でフォーカスレンジを切り替えなければならないところか。レトロなフィルムカメラではこういうのはアリだが、デジタル機器でそういうのが好きな人はあまりいないだろう。 「人物」モードは70cmからとスペックにはあるが、50~60cmぐらいの距離では「マクロ」でも「人物」でも微妙にフォーカスが合わない。どうもこのあたりの距離にフォーカスの穴があるようだ。またフォーカスが微妙だったりする場合は、2インチの液晶でそれを見分けるのは困難だ。まあこんな事を言いだしたら、2万円では収まらなくなるということだろう。
CMOS採用ということで、逆光でもスミアは出ない点はメリットの一つだ。ただしまともに太陽を入れ込んでしまうとクリップしてしまう。フレアに関しても、単焦点でレンズの枚数も少ないためか、よほど条件が悪くない限り出ない。 動画にはない設定としては、シャープネスや連写、セルフタイマーといった機能がある。また「合成モード」として、先に左半分を撮影しておき、後で右半分を撮影して1枚の画像にするという機能もある。何に使うのかはアイデア次第だとは思うが、とりあえずいろんな男女でアシュラ男爵の合成画像を作ってみると笑えるかもしれない。
■ MP3再生はオマケ 一方再生モードでは、MODEボタンでモードを切り替えるのではなく、トップメニューで機能を選択するようになっている。例えばムービーを選択すると、最後に撮影したムービーの先頭画像が表示される。RECボタンを押すと再生するという操作法が、ちょっとイレギュラーな感じだ。サムネイル表示機能もあり、3×3のサムネイルが表示される。
静止画は1枚ずつの表示が基本だが、スライドショー形式で表示させることもできる。またズームレバーで画像を拡大する機能もあり、こういってはナンだが意外にちゃんとしていることに驚かされる。
MP3の再生は、USBでPCにマウントしたときに表示されるMP3というフォルダ内に音楽ファイルを転送するだけだ。サブディレクトリには対応しておらず、フォルダ内に直接ファイルを置く必要がある。またID3タグなども認識せず、曲名などは表示されない。デコーダチップに機能があったから付けました的な、かなりオマケっぽい機能という印象だ。 付属のイヤフォンによる音質は、妙に中域にクセのあるやや古くさい音だが、イヤーパッドを付けると多少角が取れて聞きやすくなる。コネクタが特殊なので、一般的なイヤフォンでどんな音がするのか確認できなかったのは残念だ。もっともMP3プレーヤーは安価で上質のものはいくらでもあるので、無理に本機を使うこともないだろう。
■ 総論 MotionPix AVMC321は、画質的にはまだトイカメラの領域は出ないものの、多くを期待せず使いどころを間違わなければ、結構便利なカメラだ。一方普通のビデオカメラのように子供の成長を撮るような用途には、まったく向いていない。まず3段階の焦点距離の設定が面倒だし、動く被写体を追いかけたりすると、画像が破綻する。しかも子供の成長といった「生涯記録」というのは、10年後~20年後に再生するから面白いのである。筆者は20年後にXviDの再生ができる環境が存在するかどうか、かなり怪しいと思う。さらに言うならば、そういうファミリーマーケットに、アイ・オー・データのブランドと現状の製品流通ルートがリーチできる可能性は、ほとんどない。 この手のビデオカメラはそうじゃなく、もっとテンポラリ的な記録用途として使うべきだ。最近は社内会議やプレゼンなどの記録として、ボイスレコーダはかなり浸透してきているが、これぐらい小型のビデオカメラならば、それほど違和感なく代わりが務まるだろう。あとで何らかのテキストに落とす内容であればこそ、動画で撮っておくと解りやすいのである。 MPEG-4カメラは価格的に手頃で、機能的にも値頃感は悪くない。だが一般のビデオカメラと競合するような一般的なスペックや多機能さで争っても、台湾や韓国ならいざ知らず、日本にはそれが入り込めるマーケットがない。 それよりもとんでもなくワイドで撮れるとか、やたらとマイクの音がいいといった個性を持つポケットビデオカメラとして、パーソナルビジネス市場向けに作り込んだ方が、売り手も買い手も納得しやすいと思うのだが、どうだろうか。
□アイ・オー・データ機器のホームページ (2005年6月8日)
[Reported by 小寺信良]
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