■ ビデオカメラの行く末 ビデオカメラの将来像を考えると、限りなく小型・軽量化が望まれる一方で、十分なサイズの光学部を備えるべきという、一見矛盾した命題と戦って行かざるを得ないことになる。光学部は「小さいと暗い」という物理的宿命を背負っているため小型化にも限度があるが、電源部や記録部は小さいに超したことがないわけで、バッテリの高密度化や記録メディアの小型化は必須となるわけである。近年現れた動画記録メディアでビデオカメラに搭載されたものには、ソニー・日立が推進するDVD、松下が押すSDカードがあるが、その中庸路線を行くのがビクターのHDD記録だ。 Microdriveというメディアは、メモリーカードの容量が貧弱なころには大容量の高級品というイメージもあったが、最近ではメモリーカードも大容量化するにしたがって、高額になっている。大容量が必要な動画記録にとってみれば、今Microdriveはかなりリーズナブルな選択となってきた。 昨年秋にデビューしたHDD記録のムービーカメラ、ビクターの「Everio」は、縦型・横型を同時発売して話題となったが、今年6月に発売される最上位新モデル「GZ-MC500」(以下MC500)は、横型オンリー。また、今回は3CCDモデルとなり、さらなる高画質化を図っている。 Zooma! では、初代Everioの「GZ-MC200」は以前レビューしたことがある。今回はこれの直系となるMC500、その進化を辿ってみよう。
■ ビデオカメラらしい? 精悍なスタイル まずはボディから見ていこう。前モデルの記事と比較していただくとよくわかるのだが、基本的な構造はほとんど同じで、今回は3CCD搭載による改善点が注目ポイントということになる。デザイン的には光学部が他のボディ部と同じつや消しのブラック仕上げになっており、前モデルみたいにペカペカ光っていない点だけでもなかなか好感が持てる。フォルム全体が前モデルのぎこちなさを綺麗に削り、ビデオカメラらしい精悍さを身につけた感じだ。
レンズ部は、35mm換算で動画時46.2mm~462mmの光学10倍ズーム、静止画時は43mm~344mmの光学8倍となっている。前モデルから比較すると、動画のワイド端は若干広くなっているが、静止画では逆に狭くなっている。動画のみ、CCDの撮像範囲を広げたワイドモードでの撮影が可能な点はそのままだ。
フィルター径は37mmだが、標準でレンズフードが付属しており、これを外さないとフィルタなどは装着できない。鏡筒部には細身のフォーカスリングを備えており、前モデルでは十字キーで行なっていたマニュアルフォーカス操作が、大幅に改善されている。また鏡筒部上部には、ポップアップフラッシュが内蔵されている。手動でオープンするタイプで、強制発光も可能だ。
CCDは、1/4.5型133万画素の3CCD。撮像エリアは動画で約69万画素、静止画で123万画素となっている。3CCDモデルは静止画の画素数が少なめになるので普通だが、MC500では緑色のみ画素ずらしを行ない、500万画素の静止画が撮影できるとしている。 ボディ右側には、録画・再生のモード切替兼電源スイッチが設けられている。このスイッチが結構固く、録画に設定するつもりが勢い余って再生まで行ってしまうことがあるのが難点だ。またこのスイッチ下には、フォーカスのオートとマニュアルの切り替えボタン、USB端子がある。
側面後部のダイヤルは、以前は電源・モード切替ボタンであったのだが、今回は撮影モード切替のダイヤルに変わっている。フルオートとマニュアルしかなかった以前からすれば、アイリス優先やシャッタースピード優先など全部で8モードと、大幅に増えている。 ダイヤルのセンターは、動画・静止画・ボイスモードの切り替えボタンとなっている。以前は使用頻度の低いボイスモードを経由しなければモードが一巡できなかったのだが、今回は長押しでボイスモード、それ以外は動画と静止画が素早く切り替わるように改善されている。 後ろ側に回ってみよう。液晶モニタは1.8型の13万画素で、半透過型のポリシリコンカラー液晶となっている。ボタン類の数や配置は前モデルを踏襲しており、メニュー操作は十字キーで行なう点も変わりない。
シャッターボタンは2段になっており、静止画時には1段目でフォーカスロック、2段目で撮影される。ただ2段目の押しは手応えがあまりなく、むにゅっと沈む感じなので、シャッターチャンスにはちょっとキビシイかもしれない。 ズームレバーは、左右に倒すタイプ。非常に柔らかく作られており、ほんの少しの力でも倒れるようになっているあたりは、賛否両論ありそうだ。 正面左側はドライブ部となっている。ドライブカバーを開けると、DVテープ大のバッテリと、Microdriveスロットが並んでいる。ドライブ部前面には、ヘッドホン端子、AV集合端子、電源端子がある。またストラップには工夫があり、カメラ前部に接合パーツを取り付けて、グリップベルトとしても機能するようになっている。
■ 安定した発色の動画撮影機能 では動画撮影から試してみよう。撮影初日はあいにくの曇天でかなり暗かったのだが、MPEG-2らしくない解像感の高さが十分感じられる。また3CCDらしく微妙な発色の差も捉えている。実は撮影時には液晶モニタの発色が芳しくないせいか、緑の微妙な色の差などは本体モニタ上では確認できなかった。しかし家に帰ってテレビモニタで確認すると、一般的な3CCDビデオカメラと遜色ない結果となっている。
ちなみに動画撮影モードは、以下のようになっている。最高画質でも付属の4GB Microdriveで1時間撮影可能なので、特に節約する必要は感じない。そもそも内蔵バッテリでは、連続で1時間、実時間30分しか撮影できないのである。したがって今回のサンプルは、すべてウルトラファインで撮影している。また音声はドルビーデジタルで記録される。
翌朝は多少晴れ間が覗いたので、追撮してみた。光量が十分なせいか高コントラストで張りのある映像が撮れた。ただ色味が若干ペタッとなってしまう感じは、前モデルほどではないにしろ、絵柄によっては多少感じることもある。これはどちらかと言えば、エンコードパラメータのクセなのかもしれない。
今回は撮影モードが増えたが、実際の撮影ではマニュアルモードが一番使いやすかった。というのも、このモードは常時完全フルマニュアルというわけではなく、必要なときにマニュアルフォーカスに切り替わるし、露出は自動で、必要であればシフトできる。絞り優先など他のモードができたおかげでパラメータが大幅に少なくなっており、ビデオカメラとしてちょうどいい使い勝手になっている。
ワイド端は、4:3ではもう一息引ききれない感じがある。せっかく解像度がいいのに、十分なヒキ絵が撮れないのは惜しい。ワイドモードにすれば画角が広がるのだが、モニタ上では横に押しつぶされ縦長の表示になってしまうのが難点だ。最近はDVカメラでもワイドモードに力を入れるようになってきているが、モニタもワイドの画角じゃないとアングルが決められないという「絵心」をきちんと理解してくれるメーカーというのは、案外少ないものである。
ついでにエフェクトも試してみた。「映画効果」に多少期待したのだが、フレームレートが変わる程度で、ガンマなどは変わらないようだ。またこれらの効果は、撮影後にかけることもできる。
撮影していて困ったのが、スタートボタンの反応だ。確か初代では1段目で動画は録画開始・停止できたと記憶しているのだが、今回は2段目でしか録画開始・停止しないように変更された。しかしこの2段目まで押し込むのに結構力がいるので、撮ったつもりが撮ってなかった、止めたつもりが止まってなかったということがたびたびあった。また三脚に固定していても、スタートボタンが固いせいで、録画直後がどうしても揺れてしまう。 いろいろと検討した結果2段目スタートに変更されたのだろうが、それにはもう少しボタンの作りを良くしないと、使いづらい。またシャッターボタンとして、場所的にここがベストなのかという疑問もある。
■ 精細感の高い静止画撮影機能 続いて静止画を試してみよう。やはり3CCDでありながら500万画素の静止画って大丈夫なのか? というところが一番の関心だろう。CCD自体は各133万画素しかないわけだから、当然画素ずらしを行なうことになる。MC500の画素ずらしは、RGBのうちGだけを縦横に半ピクセルずらして、4倍の密度を稼いでいる。従来画素ずらしといえば輪郭部などが眠く、どうもマヤカシっぽい印象があったのだが、MC500の場合そういう印象はなく、輪郭部はかなりシャープだ。
細いラインなどにはジャギーを感じるケースもあるが、印刷すればかなり良好な画質が得られるだろう。本機はPictBridgeに対応しており、プリンタをダイレクトに接続して印刷することができる。 色味に関しても、動画とは別プロセスで処理を行なっていることもあって、動画のような平坦さがなく、発色はなかなか豊かだ。またオートブラケットや連写機能も備えており、デジカメとして使っても満足できる作りとなっている。
再生機能もふるっていて、スライドショーをAV端子からビデオ信号として出力できるといった機能などを備えている。 ただ再生仕様で謎なのは、ヒストグラムが再生時にしか出せない点。普通は撮影するときに露出の参考にするものだと思うのだが、撮ったあとでヒストグラムを見せられてもー。後から反省したり研究したりせよということなのだろうか。
■ 総論 ここのところビクターは、ビデオカメラ系でなかなか元気がいい。HD記録DVカメラをいち早く展開してのちのHDV規格策定へ拍車をかけたあとは、プロ機でもHDVを展開するなど、業界でもユニークな存在となっている。またEverioにしても、HDD記録型ビデオカメラという新機軸を、従来のファミリーユースだけでなくビジネスへの活用も視野に入れていくという。今回Everioのフラッグシップ「GZ-MC500」は、動画にしろ静止画にしろ、その画質はもはや普通のビデオカメラ、デジカメと同レベルにあると言っていいだろう。ズーム倍率やワイド端はもう一息という感じもあるが、まあそれも用途次第だろう。なにも子供の運動会を撮るだけがビデオカメラではないのである。 難点を上げるとすれば、やはり価格とバッテリかと思う。オープン価格ではあるが、店頭予想価格は17万円前後と、よほどこのカメラにフィットした用途を持っている人じゃないと、なかなか買いづらい。 一方バッテリはコンパクトにできているのだが、連続1時間、実働30分はキビシイ。せっかくMPEG-2記録ならではの「画質を落として長時間記録」も、ACアダプタ必須/外部バッテリ必須では、用途が限られてしまう。ハンディなビデオカメラとしての活用を考えると、やはり実働で1時間ぐらいは欲しいところだ。 だがMC500の登場で、小型ビデオカメラの可能性というか、活用枠が広がったように思う。大きいカメラにしか撮れない絵があるように、小さいカメラでしか撮れない絵というのもまた存在するのである。今後はビクターがこのソリューションをどう舵取りしていくのか、楽しみだ。
□ビクターのホームページ (2005年5月25日)
[Reported by 小寺信良]
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