■ SDカード命 パナソニックがSDカードにかける情熱というのは、ものすごいものがある。ご存じかどうかわからないが、プロ用ビデオカメラでもSDカードをベースにした、P2カードというフラッシュメモリに記録するカメラを強力に推進中である。このP2カード、中味はSDカードを4枚組み込んだものなのだが、「これ8GBのP2カードっていくらなんですか?」、「オープン価格でございます。」、「で、実際いくらなの?」、「……今のところ15万ぐら」、「なんですとー!!」みたいな会話が展示会などで聞かれるのである。 SDカードに記録する動画カメラというのは、今までもD-Snapシリーズとして展開してはいたのだが、考えてみれば動画対応モデル「SV-AV100」が出たのはもう2年前。ただこの製品はあくまでもD-Snapシリーズということで、まだマルチユース的な要素を色濃く残していた。 だが今回の「SDR-S100」(以下S100)は、真っ正面からビデオカメラとしてDVカメラ市場に割り込んでいく、という気合いの入ったモデルなのである。パナソニックはDVカメラ市場で強力に3CCD化に取り組んでいるわけだが、このカメラも3CCDビデオカメラとして世界最小モデルとなる。 SDカードも2GBが出て、512MBが最大だった2年前とは状況が変わった。S100の本気度を確かめてみよう。
■ 作りの良さはさすがのMade in Japan まず最初にラインナップを確認しておこう。「SDR-S100」はボディカラーがシルバーだが、ブラックモデルは「SDR-S300」という別のモデルになっている。機能的には両者変わらないが、S300はグリップや液晶外装部にカーボン繊維強化ポリマーを使用しているほか、予備バッテリ、バッテリチャージャ、カーアダプタ、キャリングケース、キャリングポーチなどアクセサリ一式が付属する。当然のことながら価格も異なり、店頭予想価格はS100が13万円前後、S300が16万5,000円前後の見込み。今回はシルバーのS100をお借りしている。
一見するとそのサイズ感は、よくあるMPEG-4ムービーカメラと同程度。しかしこの中にライカディコマーレンズと3CCDが入っているかと思うと、光学部の充実度は驚異的である。液晶外装部にはヘアライン仕上げのアルミパネルを使用し、それ以外の部分も全体的に金属質の塗装が丁寧だ。 価格は店頭予想価格で13万円前後と、決して安くはない部類に入るが、モノとしての作りは非常に丁寧で、確かに値段分のことはある。 では光学部から見ていこう。レンズはお馴染みライカディコマーで、光学式手ぶれ補正を備えた10倍ズーム。電源連動型のレンズカバーも装備されている。なおワイコンなどのコンバージョンレンズを装着する場合は、レンズカバー部ごと取り外すようになっている。
なお本機は16:9画角を積極的にサポートしており、液晶モニタも16:9のほか、動画、静止画も16:9画角で撮影できる。
CCDは1/6インチ、総画素数80万画素を3枚使用。同社の愛情サイズDVカメラ「NV-GS250」で採用のものと同等だろう。
液晶モニタは16:9画角の2.8型21万画素。ボディ側に「POWER LCD」ボタンがあり、これを押すと高輝度になる。視野角は若干狭いが、輝度は日中でも問題ないレベルだ。
背面に回ってみよう。操作ボタン類はすべて背面に集中しているが、ボタン類は少なく、非常にすっきりしている。特徴的なのは、回転式のズームレバー。従来のビデオカメラは、ズームレバーが横か上に付いており、人差し指で操作するものが大半だったが、これは録画ボタンとともに親指で操作するスタイル。 本体の上や横に付いているズームレバーだと、どっちに倒せばテレ側だったか忘れてしまって、やりたい方向の逆にズームしてしまうケースもあった。だが背面にあると書いてある文字が見えるので、久しぶりに使うときでも間違いがないというメリットはあるだろう。 その下にはメニュー操作用の十字キーとセンターボタン。以下メニュー、削除ボタンと続く。一番下はAUTOとMANUALの切り替えスイッチだ。また背面カバーを開けると、端子類がある。USB、AV集合端子、DC INと、比較的シンプルだ。
本体左側には、モードダイヤルがある。その上の黒い丸は、ホワイトバランス用のセンサーだ。上部には電源ボタンとマイクがある。電源ONのままでも液晶を閉じれば省電力になる「クイックスタートモード」があり、液晶を開けて1.5秒後に撮影開始できる。 なお本機にはHigh Speedタイプの2GBのSDカードも付属している。SDカードにはさらに高速のPro High Speedシリーズもあるが、廉価なHigh SpeedタイプでもXPモードで撮影できるので、リーズナブルだ。
■ 当たり前すぎるほどのビデオカメラ では実際に撮影してみよう。動画形式はMPEG-2 VBRで、704×480のSD-Videoフォーマットに準拠している。オーディオは各モードとも48kHz/16bitのMPEG-1 Layer2固定だ。気になるのが各画質モードでの2GBの撮影時間だが、以下のようになっている。
以前のSV-AV100の時代では、最高画質で10分しか撮れないという衝撃的な状況だったわけだが、25分撮れるとなると、それで済むケースもあるだろう。だがまあ一般的にはSPモードで撮るか、いっぱいになったらPCなどの外部ストレージに移すか、ということになるだろう。もう一枚2GBのSDカードを用意するという選択肢もあるが、今はまだコストの面で合うかは微妙なところだ。なお今回の動画サンプルは、録画モードのサンプルを除いて、すべてXPモードで撮影している。
新開発のMPEG-2エンコーダはかなり優秀で、水面などを撮ってもMPEG特有の画質劣化はほとんど見られない。このあたりはレコーダで鍛えられている部分なだけに、信頼性は高い。
画角はワイド端が不足するため、旅行や風景などの撮影ではワイコンは必須になるだろう。その代わりといってはなんだが、光学10倍ズームでもテレ端はまずまず納得いくサイズまで詰められる。またマイクもズームと連動して指向性が変わる「ズームマイク」機能も装備している。このあたりの入念さは、一連の台湾製MPEG-4カメラとは全然レベルが違う。
液晶を開けるだけですぐに撮れるクイックスタートは快適で、逆に液晶を閉じておくだけで省電力になるという安心感がある。バッテリはマニュアルによれば連続1時間20分、実用45分となっているが、駆動部分がないこともあって保ちがよく、今回一時間半弱のテスト撮影では、半分も減らなかった。 マニュアル設定はユニークで、スライドスイッチをマニュアルにセットしたのち、十字キーのセンターを押す。1プッシュ状態では、十字キーの上がテレマクロ、下が美肌モード、右が逆光補正となっている。もう1プッシュすると、今度は露出などがマニュアルで決められる。
十字キーの下を押すと、まずホワイトバランスの選択、さらに下がシャッタースピード、もう一つ下が絞り調整、もっと下が増感調整と、どんどん下に行くほど調整箇所が増える。上ボタンでは戻れず、一番下まで行ってローテーションする。 フルマニュアルというわけではなく、シャッタースピードを選んだ段階で適正値の絞りに勝手に設定されるため、どちらかというとシャッタースピード優先的な使い方になる。
マニュアルフォーカスも装備されているが、オートフォーカスの追従性が高いため、接写したとき以外はほとんど使う機会はなかった。 マニュアル撮影時に気をつけたいのが、液晶モニタのモードだ。ノーマルとダイナミックの2種類があるが、ダイナミックだとかなりビビッドに見えるため、マニュアルでの露出補正は液晶モニタを信じると失敗する。実は今回の夕景撮影はこれに気がつかなかったため、ちょっと絞りすぎてしまった。通常はノーマルに設定しておくべきだろう。
■ 動画と設定が共有できる静止画撮影 続いて静止画機能を見てみよう。記録画素数としては、2,048×1,512、1,280×960、640×480、HDTV(1,920×1,080)の4モード。元々CCDは80万画素しかないため、画素ずらしによる高解像度化である。例えばネコの毛並みなど細かいディテールは、若干誤魔化してる感じもあるものの、ラフに見た場合の印象は悪くない。
動画と静止画の切り替えは、間に動画再生モードが一瞬入るものの、なかなか高速。またマニュアル設定の状態をそのまま引き継ぐので、頻繁に動画と静止画を切り替えて撮りたいときには、使いやすいだろう。 ライカディコマー特有のコントラストの高い表現が得意で、ダイナミックな映像が楽しめる。欲を言えば、絞り開放による深度表現では、もう少しボケ足が長く欲しいところだ。CCDサイズが小さいのでしょうがない部分ではあるのだが、レンズが良質な分、惜しい感じがする。
絞りの形がイヤな感じで見えるわけではなく、フレアも少ないため、構図決めにあまり制限がないのはうれしい。16:9の画角の面白さと相まって、純粋に撮影が楽しめるカメラに仕上がっている。
SDカードは、衝撃に強い、低消費電力、小型、軽量などいろいろなメリットがあるが、アクセススピードが速いことも特徴だ。そういう意味では、静止画の連写モードぐらいはあっても良かったかもしれない。
■ 本体ではほとんど見るだけ
続いて再生、編集系を見ていこう。動画再生モードでは、撮影したクリップが4列3行のサムネイルで表示される。このサムネイルはページが変わるごとにいちいち作り直すため、検索性はあまり良くない。 サムネイルを選んでセンターボタンをクリックすると、再生が始まる。そのままほっとけば、次々にクリップが再生されるというスタイル。左右ボタンでクリップ単位のスキップが可能だ。またポーズ状態ではコマ送りもできる。本体には編集機能やプレイリスト作成機能のようなものはなく、削除ができる程度だ。 一方静止画も機能的には同じようなもので、サムネイルはページごとに毎回作り直すが、動画よりも若干速い。再生方法としては、1枚ずつ見るか、スライドショー表示にするかが選択できる。
静止画撮影では、ハイビジョン対応テレビで見たときにピッタリ収まる「HDTVモード」を備えるのは、昨今のトレンドである。しかし高解像度の静止画を、HD対応テレビにビデオ出力できるデバイスがそうないのもまた事実だ。せっかくスライドショー表示機能もあることだし、本体にD3出力でもあると良かったのだが。 SDビデオの編集用として、「MotionSD STUDIO」というソフトが付属する。バージョンはまだ1.0だが、SDカードからの動画取り込みから動画編集、BGMやテロップも入れられるなど、なかなか多機能なソフトだ。左側にツールボックスが常時起動しており、そこからモードを切り替えて使用する。 編集作業は各ボタンにいちいちツールチップが表示されて鬱陶しいが、それを除けばMPEG編集の割にはレスポンスはいい。タイムラインとストーリーボード形式に切り替えて編集できるが、素材クリップをいったんタイムラインに並べてからでないと、イン点アウト点を決められない点は使いにくい。基本的にはストーリーボードで編集するタイプの作りのソフトだろう。 出力は、MPEGファイルやDVD-R、DVD-RAMなどが選べるが、オーサリング機能はない。それぞれのフォーマットに応じたMPEG-2ファイルを生成するか、そのままDVD-R/RAMに書き込みを行なう。ただスマートレンダリング機能はあるので、画質モードを落とさない限り、全編再エンコードということはない。
また今回は試していないが、DIGAでもムービーの編集やDVD保存ができる。すでにSD-Video対応DIGAを持っている人なら、そっちのほうが楽かもしれない。
■ 総論 メモリーカードに撮るMPEGカメラというと、今ではアジアのPCベンチャー企業が作るMPEG-4録画のものが大半となってしまった。だがパナソニックのSDR-S100は、アプローチとしてはビデオカメラのエンジンを丸ごと使い、記録だけMPEG-2にエンコードしてSDカードにした、という印象を受ける。使い勝手なども、まさにビデオカメラそのものだ。ただマニュアル撮影は不可能ではないが、操作性はあまり良くない。基本的にはフルオートで撮るカメラだと思った方がいい。 記録メディアが小さくなることで、本体サイズを決める要因はほとんど光学部のみとなる。その気になればもっと小さくできただろうが、光学部をケチってまで小さくしなかったところは好感が持てる。使い方もシンプルで、記録時間さえ納得できれば、普通のビデオカメラとしての用途はこなせるだろう。 気になる点としてば、2GBのSDカード付きはうれしいが、ちょっと値段が高い。すでにネットでは、HDVのソニー「HDR-HC1」が12万円台まで下がってきていることを考えると、それを押してまでSD解像度で撮るかという判断は微妙だ。 またすでに4GBのSDカードも発売されているが、これはデバイス側もFAT32対応が必須となっている。S100のようなカメラこそ大容量メディアの対応が必須なわけだが、現時点では対応未定となっている。 それにしても、SDのビデオカメラ市場は今後、DV、DVD、HDD、SDカードと4メディアの争いになってくるのだろうか。それぞれにメリットがあり、また機能も拮抗していることもあって、選択が難しいところだ。それぞれのメディアしかできないことを機能に盛り込んでいかなければ、消費者はリーズナブルな方向へ流れていく。 コンシューマでパナソニック1社だけのSDカードムービーは立ち上がるのだろうか。プロ機のP2の行方もふまえて、非常に興味のあるところだ。
□松下電器のホームページ (2005年9月28日)
[Reported by 小寺信良]
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