■ ノートパソコンで“ロケーションフリー” 外出先からテレビや家電製品の映像をリアルタイムで視聴できる「NetAV」機能を初めて搭載した液晶テレビ「LF-X1」から1年半。ソニーは、同機能を専用の液晶パネルではなく、パソコンで観られるようにしたベースステーション「LF-PK1」を10月1日に発売した。
2001年に発表された初代エアボードは無線LANにより家庭内でのロケーションフリーを実現した。そして、「LF-X1」ではその境界線を世界中のネットがつながる場所へと拡大。今度の「LF-PK1」ではハードウェアの垣根を取っ払い、ネットにつながったWindowsパソコンで見られるようになったのが最大の特徴だ。 まず主な仕様からおさらいしよう。地上アナログチューナを内蔵するベースステーションは、本体にMPEG-4エンコーダを内蔵。エンコードした画像をTCP/IP経由でPCへ配信する。 本体内蔵のチューナはVHF(1~12ch)/UHF(13~62ch)、CATV(C13~C63ch)を受信可能。ビデオ入力端子を2つ、S端子を1つ備え、ルータに接続するため10BASE-T/100BASE-TX端子、AVマウス出力端子を備える。 ベースステーションから動画を受信するために必要なソフトウェア「LocationFree Player(LFA-PC2)」は別売。対応OSはWindows 2000 Professional SP4、Windows XP Professional/Home Edition SP2で、Windows Me/98やMacintoshには対応していない。
■ 導入の簡単さに驚き ただし無線LANのチャンネルは要注意
さっそく導入に入ろう。まず、ACアダプタの接続、ルータとの接続など物理的なセッティングを終えた後、PCでLocationFree経由でTVを見るために必要なソフト「LocationFree Player」をインストール。ちなみに製品に付属するのは30日限定の体験版。製品版の型番は「LFA-PC2」となっており、SonyStyleでの実売価格は1,980円。LocationFreeを使う上で必須のソフトなだけに、なぜ別売にしたのかは理解に苦しむところだ。 インストール作業自体は一般的なソフトと同様で特に迷うところはない。さっそく起動すると、まず初期設定するよう促すダイアログが表示される。本体の「Setup」ボタンを押して、設定モードに切り替えた後、PC側、インストーラのダイアログに従って「次へ」のボタンをクリックすると、電源を入れたLocationFree本体へアクセスし、Webブラウザでの設定画面に切り替わる。ここで、視聴するPCとLocationFree本体のマッチングをするため、LocationFree本体側面に印刷されたシリアルナンバーを入れるよう要求される。
次いで、設定画面に移るわけだが、ここからの設定の手軽さがすばらしい。この簡単さに一役買っているのがLocationFree専用のダイナミックDNSサービスだ。 外出時に家のLocationFreeに接続するためには、常時接続回線とIPアドレスが必要だが、前者に関してはADSLと光ファイバーの普及により条件をクリアすることはたやすい。しかし、後者に関しては、固定IPアドレスを取得するのにプロバイダへ追加の料金を支払わなければならないケースが多く、一般ユーザーにはまだまだ敷居が高いのが事実。かといって、無料のダイナミックDNSサービスにサインアップして、IPアドレスなど細かい設定行なうのも簡単ではない。だが、LocationFreeには専用のダイナミックDNSサービスが用意されており、設定面での不安を打ち消してくれている。 ブラウザの設定画面に移ったら、「同意する」、「次へ」とマウスクリックすること数回、これだけで外部からの接続が可能になるのだ。「192.168.0.x」や、「210.xxx.xxx.xxx」といったIPアドレスを入力する必要もなく、接続テストも行なってくれるのでいざ外出してから「あれ、つながらないなぁ」なんてこともないわけだ。
その後、LocationFreeを設置している都道府県、地域を選択してチャンネルを設定をし、背面のAV端子に接続したビデオやDVDレコーダ、CSチューナなどのメーカー、機種設定をすれば準備完了。ここまでマニュアルを開くことなく漕ぎ着けることができた。ほとんど迷わせる点がなく、非常に優れた設計になっている。 設定で注意したい点は、設置場所ですでに無線LANを導入している場合だ。LocationFreeでは、初期状態で無線LANのチャンネル設定が1になっている。無線LANルーターも初期状態で1になっている製品が多く、そのままLocationFreeと無線LANルーターを共存させていると、電波の干渉が起きて通信のパフォーマンスが落ちる。両方とも1になってしまっていたら、どちらかを6または11にして、干渉を避けるようにするといいだろう。
■ さっそく接続。自動VBRが適切な画質に自動変換
ここまで来たら、いよいよLocationFreeに接続。接続ボタンを押してから約7~10秒程度で接続が完了。アナログ地上波の動画が映りだした。画質は1~6のマニュアル設定と、デフォルトで設定されているオートの合計7種類が用意されている。ウィンドウの右端にマウスカーソルを持って行くと、テレビのチャンネルおよび外部入力の一覧が表示され、見たい局・入力をクリックすれば映る仕組みだ。 ちなみにベースステーションとPCは1対1で機器認証が行なわれ、動画のデータは暗号化されている。同時に2台以上のPCからベースステーションに接続することもできない。 チャンネルの切り替えに4~5秒かかることを除けば、テレビチューナ搭載のパソコンを使っているのと同じ感覚。まずはビットレートを「自動」にして視聴した。この自動設定は、回線状況によって自在にビットレートを変える、ソニー曰く「ネットワーク適応型VBR」とのこと。参考までにマニュアルの最高画質モードである「6」が2Mbps程度、「1」が150kbps程度らしい。この実験時は、802.11gの家庭内無線LAN経由で接続しているため、ほぼ2Mbps固定だったのだろう。画質は安定しており、乱れることはまったくなかった。
■ 条件のきびしいスポーツの動画で画質チェック
回線がボトルネックにならない家庭内無線LANの環境下で、多数の人間が同時に動き回り、動画圧縮には条件が厳しいサッカーで、マニュアルの「1」から「6」までを鑑賞。 まず、最高画質となる6だと、動きが激しい引いたショットでもほとんどブロックノイズがなく、通常の放送を観るのとほとんど変わりない。さすがに観客席のアップのような画の要素の多いシーンは描写が雑になるが、画質だけに集中して観ないかぎり気にならないレベル。 5だと動きのある物体の輪郭を中心にノイズが目立ち始める。ただし、スポーツ番組を、6と比較しながら見れば明らかにクオリティは落ちるが、動きの少ない番組を見るのならばほとんど違いは感じられない。サッカーを観ていても、6同様、圧縮ノイズによって選手の顔や背番号が判別できなくなることはない。 4、3あたりになると細かい動きを追うのがきびしくなってくる。全体としてどういう流れでゲームが進んでいるかははっきりとわかり、アップであれば個々の選手の顔も判別できるが、チラつきが気になるようになってくる。芝生や観客席は階調がなくなりベタッとした感じになる。引いたショットだと選手、背番号の判別が難しい。だがスコアなど画面のテロップもまだ読めるレベルだ。 2になるとさらにその傾向がきつくなり、おおざっぱな試合の流れがわかるレベル。引いた画像だとなんとか攻めているチーム、守っているチームの動きが捉えられるが、寄るとなにが起こっているのかわからなくなることもしばしば。引いた画ではもちろん、ある程度寄ってもユニフォームの背番号やスポンサー名を読むのは難しい。 1だと、完全にグラウンドの中でなにが起こっているのかわからないレベル。なんとなく「サッカーをやっているのかな?」ぐらいのレベルで、ラグビーとの判別は人の数の多さが違うな、ということでかろうじてわかる。個々の選手の判別はもちろんできず、チームカラーをようやく判別できる、といったところ。ニュースや静止している人間のアップならば人の判別も可能で鑑賞に耐えるが、スポーツ系は厳しい。個人的には、サッカーを快適に鑑賞するならば3が最低ラインかなといったところだ。
■ 外部からの接続にもチャレンジ。光ファイバー環境必須? 次に、この製品の神髄とも言える外出先からの接続にチャレンジ。外出先からのアクセス方法は、LAN内接続の時とまったく同じ。LocationFree Playerを立ち上げれば、登録したLocationFreeの名前がリストに現れ、接続をクリックするだけだ。 LocationFreeから動画を送り出す筆者宅のインターネット回線は50MbpsのADSL接続。ところが、収容局からの距離も3kmあり、下り1.5Mbps、上りは170kbps程度しか出ていない。事前にLAN内での画質チェックを終えていただけに、厳しい画質になるだろうとは予測していたが、実際、予測通りになった。東京メトロ神谷町駅のMzoneのアクセスポイントから自宅のLocationFreeにアクセスして観た動画はマニュアルモードでいうと1か2の画質。 ニュースや動きの少ないネタ系のお笑い番組ならば鑑賞可能という感じだった。スポーツのような動きの多いソースを外出先から観るためには、やはり、上り1Mbps以上は欲しいところだ。上りの細いADSLだとサービスの種類、収容局からの距離によってさまざまだが、満足なクオリティで見たいのであれば、光ファイバー環境が必要だろう。
■ 「いまさら」なAVマウス連携が実に便利 さらにLocationFreeには標準でAVマウスが付属し、リビングにあるAV機器を遠隔操作できるリモコン機能がある。筆者宅にある東芝製HDD/DVDレコーダー「RD-XS57」とスカパー! のチューナーをLocationFreeに接続。LocationFree Playerの入力をビデオ1に切り替え、リモコンボタンを押すとソフトウェアリモコンが現れる。 XS57では、ソフトウェアリモコンの「番組表ボタン」がXS57の「番組ナビ」に、「メニュー」が「編集ナビ」に、「タイトル」が「見るナビ」に、「ツール」が「クイックメニュー」にそれぞれアサインされていた。このほか数字キーや決定キー、4方向の矢印キーをソフトウェアリモコンは備えている。
RDシリーズをお持ちの方ならおわかりになると思うが、これだけのボタンがアサインできれば、再生、録画の基本的な操作はすべて行なえる。XS57に至っては、「番組ナビ」からオススメの番組の録画予約も可能だ。長期の出張や旅行に行っていても、日本で人気のある(といってもRDユーザーだけが集計対象だが)番組がチェックできるわけで、遠隔操作で可能な操作としてはかなりレベルが高い。前述のように、ボタンを押してから反応するまで3、4秒かかるため、「家にいるときと同様にサクサク操作で……」とまではいかないが、「旅行先から観られる」だけでなく「録れる」のは大きなアドバンテージだ。
ちなみに、HDD/DVDレコーダーをリモコン操作の対象にすると、2台目のAV端子に接続した機器の操作ができなくなる。ソフトウェアリモコンのインターフェイスがHDD側の操作と、DVD側の操作に割り当てられ、2台目の機器の分のインターフェイスがなくなってしまうためだ。しかし、リモコン操作の設定は外出先からでもLocationFree Playerから変更が可能になっている。CSチューナーとHDD/DVDレコーダーを同時に切り替えながら閲覧できないのはちょっと残念だが、一度設定メニューに戻り、機器設定を変えれば、LocationFree本体のビデオ入力2に接続した機器の映像も写るので致命的ではない。 個人的に一番うれしかったのは、スカパー! の動画を飛ばせることだ。私事で恐縮だが、家には2台テレビがある。リビングのプラズマと自室の14インチブラウン管だ。スカパー! では個人的な趣味のサッカーだけでなく、家族も好きな映画を観るので、リビングのプラズマにチューナを設定している。が、私が観たいのはほとんどの場合サッカーであり、それが共用のテレビでしか観られない状況に非常に困っていた。録画して部屋で観るという手もあるが、XS57の本体を毎回運ぶのも面倒くさいのでDVD-RAMなりにコピーしなければならない。かといって、さらにもう一台スカパー! のチューナを買うのも気が引ける。 しかし、このLocationFreeをお借りしてその悩みがほんの数日間だが一気に解消した。本体はCSチューナ、XS57と接続。自室であまったパソコンを使ってゆうゆうとスカパー! を視聴できる。しかもソフトウェアリモコンでチャンネル操作もできるので、いちいち部屋を往復する手間もない。たった数mの距離が阻んでいたロケーションの壁をアッサリと越えてしまった。年に数度ある海外滞在時に家のXS57やCSチューナにアクセスできたら……などと考えたら、もういても立ってもいられなくなり、お借りしたLocationFreeでスカパー! を流すかたわら、ブラウザを立ち上げオンラインで購入手続きを取ってしまった。 ■ ワイヤレスで世界中に伝送。エポックメイキングな製品 まず、新たに「ロケーションシフト」の概念をもたらしたこの製品の意義を高く評価したい。最近、あまり景気のよくない話題の多いソニーだが、こうした新しい利用スタイルを生み出す製品を見せられては、「さすが」と言うほかない。 地上波テレビを飛ばすだけではなく、いまやレガシーなAVマウスを応用して家のテレビ周りの環境をも持ち出せるようにしたこともAVマニアにはうれしいポイントだ。一方で、使いこなすのにネットワークやAVの専門的な知識が不要で、初心者にもやさしい設計であることも触れておきたい。 また、これまでのAirBoardやLocationFreeは、液晶パネルが含まれていたため高価だったが、この製品では観る端末をパソコンに絞っており、価格も33,000円と一気に安くなった。しかし、もっとも重要なのは再生部分をソフトウェア化したことにより、世界中のWindowsパソコンをプレーヤーとして使えるようになった点だろう。パソコンとブロードバンド環境さえあれば、トータル3万円強ですぐにワイヤレスかつグローバルなテレビ視聴環境が整うことのインパクトは大きい。広い層に訴えかける条件を揃えたといっていいだろう。 放送をワイヤレスで、世界中に送り出す環境を与えた、という意味でエポックメイキングな製品。実質的に競合製品はなく、まさにワン・アンド・オンリーの存在だ。日常的にパソコンを持ち歩く人はもちろん、自分専用のテレビが持てない人、出張の多い人に特に勧めたい一台だ。 □ソニーのホームページ (2005年10月7日)
[Reported by 伊藤大地]
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