CEATEC2005レポートの第3弾では各社の最新の大画面関連技術を紹介していこう。
■ シャープ、コントラスト比100万:1のメガコントラスト液晶
民生向けTVとして液晶テレビを普及させてきた「液晶のシャープ」が次に挑戦するのは映像制作の現場で使われる「マスターモニター」の分野。このマスターモニター用途向け液晶パネルとしてシャープが開発し、今回のCEATECにて参考出品したのが「ASV液晶プレミアム」と呼ばれるパネルだ。 マスターモニターの世界では、映像色の最終調整を行なう用途になどに使われ、映像色に影響を来しやすい周囲の照明を消しての暗室での作業となる。
暗室での作業上、重要視されるのが最暗部の表現だ。暗い場所で見ても映像中の暗いところがちゃんと暗く映ってくれなければ、暗部の階調の調整が行なえない。よって、原理上、どうしても黒表現が明るくなってしまう液晶方式はこのマスターモニター用途には向かないとされていたのだ。そんなわけで、これまでマスターモニターはブラウン管が用いられてきた歴史がある。 しかし、長らく使われてきたマスターモニターの中には寿命が来ているものも多く、買い替え需要はあるのだが相次ぐブラウン管工場の閉鎖で、入手が困難になっているという。また、一般家庭に液晶テレビの普及が進む中で、マスターモニターも液晶にすべきだという議論も上がってきたのだとか。 そんな時代の流れの中で生まれたのが今回のASV液晶プレミアムなのである。 そのコントラスト比は実に100万:1を実現しており、この値(1メガ=100万)をキーワードにしてこの液晶を別称として「メガコントラスト液晶」と呼んでいる。 詳しい技術的詳細は行なわれていないが、バックライト側の工夫ではなく、液晶パネル側自身の工夫で実現されたもの…… というヒントは示されている。 画面サイズは37V型で、パネル解像度はリアルHDスペックの1,920×1,080ドット。37V型は中継車に埋め込むのは難しいが、スタジオでのマスタリング用途には液晶ディスプレイの奥行きの薄さもあってどうにかなる大きさだと思われる。 試作機は特設の暗室化できる展示コーナーに設置されており、実際のデモンストレーションでもほぼ完全に照明をカットしての映像を鑑賞できるようになっていた。 実際に見てみると、黒の沈み込みが、これまでの一般的な液晶パネルの常識を越えた異次元といえるほど。喩えるならば映像中の黒部分が厚手の黒画用紙でマスキングされているようなイメージ。 とはいえ、単純に黒だけが真っ黒というわけではなくリニアリティを保った暗部階調がちゃんとその漆黒から始まっており、不自然さはない。 デモでは夜景、花火、天文写真、洞窟の中などが映されていたが、花火の写真などでは最明部に黒が引っ張られて明るくなったりしないので、実際にコントラスト比100万:1が実現されているかどうかはともかくとして、ネイティヴコントラストとしても相当な性能であることは実感できた。 こうしたハイコントラスト液晶の実現では高輝度バックライトやLEDバックライトを組み合わせるケースがあり、この場合は黒の沈み込みよりは明るさのピークを上げて、最明部:最暗部の対比を稼ぐ。このアプローチは明るい部屋での視聴においてのコントラスト稼ぎにはなるが、暗室では最明部が眩しすぎて、同時に黒が浮いてしまう弊害がある。 今回のシャープのメガコントラスト液晶の最明部はごく一般的な液晶テレビと同等の500cd/m2に留まっているとのことで、眩しすぎると言うことはない。つまり、100万:1というコントラストは最暗部の落とし込みで実現されていることになるわけだ。 この技術は当面はプロフェッショナル向けということだが、民生向け高画質モニタとしての提供も切望したいものだ。
■ デュアルビュー液晶
シャープは以前、裸眼立体視を実現する「3D液晶パネル」を展示したことがあった。これは左右の目の視差に丁度合うように画素単位の仕切を設けて右目と左目で異なるピクセルを見せる技術であった。 今回のCEATECでは、この技術を別方向に応用した「デュアルビュー液晶」を参考出品していた。 デュアルビュー液晶は読んで字のごとく、左右2方向から見ると全く別の映像が見られるという液晶だ。前述の通り、原理的には3D液晶パネルと同じで、3D液晶パネルでは左右の目の幅に合わせた画素単位のマスキング構造の適用角度を広げただけ。
画面中央に対して左右にずれると、本当に反対側の映像は見えなくなり、左右位置を変えるだけで全く別の映像が見えるようになる。中央に立つと2つの映像がオーバーラップして見えるようになるが、左右で同じ映像を見られるように映せば、中央でもちゃんと普通の液晶ディスプレイのように見ることができる。
シャープではデュアルビュー液晶技術はサイズや解像度に依存しない技術であることを強調しており、7V型の小型タイプから45V型の大型タイプまでを一挙公開した。 すでに7V型のデュアルビュー液晶はトヨタ自動車の「アルファードG/アルファードV」に実用採用されており、展示ブースではこのユニットを展示。運転席側からはナビ画面、助手席側からは映像コンテンツが楽しめるというデモンストレーションを行なっていた。なお、ナビユニットは富士通テン開発のものだ。 7V型のデュアルビュー液晶のナビ用モニタ活用はその特性が十二分に活かされた分かりやすいが、大型サイズのデュアルビュー液晶はどのような活用が見出せるのだろうか。 シャープでもそのアプリケーションについては模索中とのことだが、いくつかのアイディアは既にあるという。 まず、45V型に代表される大型タイプは公共の場などのインフォーメーションディスプレイなどが考えられる。百貨店などのエスカレータの上りと下りで異なるフロアのセールス情報を表示したり、駅や空港の通路では道行く人の進行方向に合わせた情報や地図を提供する、といったアイディアがあるという。
中型の26V型前後では、民生向液晶テレビにこの機構を盛り込んで提供するのも面白いだろうという。例えば、現在の液晶テレビの2画面同時表示機能は、画面を左右に分割して表示する方式を採用しているが、デュアルビュー液晶ならば、それぞれの映像をフルサイズにて2画面表示できる。左方向にいる大人はニュースを楽しみ、右方向にいる子供はゲームを楽しむといった活用をフル画面表示で提供できるわけだ。ただし、音声はどうするのかという問題残るのだが。 このデュアルビュー液晶だが、ある程度の制限もある。 まず、左右で異なる映像を表示した場合はそれぞれの映像の水平解像度は半分になってしまうという点。1,920×1,080ドットのパネルのケースならば左側表示が960×1,080ドットで、右側表示が960×1,080ドットで行なわれる。 解像度が半分になるのは現在の2画面同時表示でも似たようなものなので大した問題ではないかもしれないが。映像が大きいまま表示できる分、デュアルビュー液晶の方が得られるメリットが大きいといえる。 ちなみに、左右で同一映像を映し出す場合はパネル全域にフル解像度の映像を映せばいいので解像度低下は起きない。 さて、7V型は今後もカーナビ機器への応用が進みそうな気配だが、26V型以上の中型/大型デュアルビュー液晶の具体的な製品化計画は現在は未定だという。しかし、3D液晶パネルよりも、現在の映像コンテンツ向きのソリューションであるため、製品化の可能性は高いと筆者は見るのだがどうだろうか。
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■ CYVIZ/ケーシーシー商会
デジカメが600万画素だ、800万画素だ、と高解像度化する中、それを表示できるディスプレイ機器はほとんどなく、民生用のテレビもやっとフルHDスペックで200万画素という状況。 そんな中、日本のケーシーシー商会が展示していたのがノルウェイCYVIZの700万画素/80V型リアプロジェクション・ディスプレイシステム。 解像度は驚きの3,560×1,780ドットでフルHDスペックのハイビジョンの約3.5倍。コントラスト比2,000:1。ピーク輝度は800cd/m2。消費電力は2,500W。 ブースでは超高解像度で撮影された衛星写真や芸術作品を圧縮無しのリアル表示デモを行なっていた。 一体どのような仕組みなのか。実は構造は意外にシンプル。実は背面に横3列、縦2列で合計6台のプロジェクタを設置、これをスクリーンに投影しているだけなのだ。 しかし、こうした配列型プロジェクションシステムの場合、それぞれのプロジェクタからの映像と映像との間に継ぎ目が出てしまうはず。ところが、このシステムでは全くの一画面にしか見えない。これはどうしてなのか。 このシステムでは各プロジェクタからの映像同士をオーバーラップさせて表示しているため継ぎ目が出ないのだ。といっても映像が重なった部分はスタック投影状態になり輝度値が2倍となって明るくなってしまうはず。実機の投射映像にはそういった輝度違いの境界線も見えない。 これは各プロジェクタ側の映像エンジン側でこの重なってスタック投影される部分の輝度を意図的に落とす処理を行なう機構が組み入れられているからなのだ。 システムに用いられているプロジェクタのベースはProjection DesignのDLPプロジェクタ「F1+」の1,400×1,050ドット/2,500ANSIルーメンモデル。これにオーバーラップ処理のための輝度調整映像エンジンが組み込まれている。なお、オーバーラップさせる領域は縦の端320ドット、横の端320ドット領域になる。 言うまでもなく表示システム側にはPCが必要になる。今回のデモに用いたシステムでは6基のプロジェクタを使っていることからデュアルディスプレイ出力可能なNVIDIA製PCI接続ビデオカードを3枚使っているとのこと。 基本的には受注生産のシステムでプロジェクタを2灯光源式のF3へ変更したり、画面サイズをより大きくしたり、プロジェクタの数を増減して別のアスペクト比に変更することもできるという。 価格はプロジェクタ6基のシステムで2,000万円(PCは含まず)。Projection Designの「F1+」プロジェクタ単品が300万であることを考えるとそれほどバカ高いわけではないが個人で買えるものではないことも確か。 学術研究分野、医療、ジオグラフィックなどの分野への応用がメインとなるが、北欧の某自動車メーカーのデザイン部門への導入実績もあるという。
■ 次世代PDP開発センター(APDC)
今回のCEATEC2005では「次世代PDP開発センター」(APDC:Advanced PDP Development Center Corporation)という、これまであまり耳にしてこなかった企業が展示ブースを構えていた。 APDCはNEDO技術開発機構(日本の産業技術とエネルギー・環境技術の研究開発とその普及を推進する独立行政法人)に参画する企業で、次世代プラズマディスプレイパネル(PDP)の基礎技術を研究開発し、日本のPDP産業の発展に協力する活動を行なっているところ。出資企業としては富士通、日立製作所、松下電器、パイオニアなど、PDPをフラットテレビの中核商品としてリリースしている企業が名を連ねている。 このAPDCブースでは、現在開発中の次世代PDP関連技術が展示されており、PDPの進化の方向性を垣間見ることができた。 最も注目を集めていたのが高効率発光技術の展示だ。 もともと蛍光体が紫外線を受けて発光するプラズマ画素の発光効率は悪く、これがPDPの消費電力の高さに直結している。1,920×1,080ドットのフルHDスペックのPDPでは画素開口面積がさらに小さくなり、プラズマ画素が暗くなることが懸念されてきた。 ADPCでは従来比2.5倍の高効率発光の仕組みの開発に成功、40V型の試作パネルの展示を行なっていた。プラズマ画素の発光効率向上には希ガスの材質、蛍光体の材質、プラズマ放電の仕組みといった要素が関係してくるわけだが、今回の展示では具体的にどういった技術ブレークスルーがあったかは示されていない。 今回の試作機では、明るさ効率の指標値である1ワットあたりのルーメン値にして3.5lm/Wを達成し、消費電力は従来比の半分である150Wにまで抑えられているという。現行の最も明るいPDPでも2.0lm/Wというから、相当な高効率ぶりだ。 現在、フルHDスペックの1,920×1,080ドット解像度のPDPは最小サイズでも50V型という状況だが、この技術が実用化されれば40V型クラス、あるいは液晶が得意としている20V型から30V型クラスの高解像度PDPの実用化すら起こりうるかもしれない。
■ 液晶テレビの高速応答化技術の最新事情
液晶テレビでたびたび指摘される残像問題。 液晶パネルは、常時発光しているバックライトの光を液晶画素の状態変化で明暗を制御し、階調、カラーフィルタを組み合わせてはフルカラーまで作り出している。映像が激しく動くときには、液晶の状態変化そのものを人間の目が知覚してしまうことになり、これが残像やブレとなって見えてしまうのだ。 理論的には一般的な映像のフレームレートである毎秒60コマ(60フィールド)の映像表示ならば、1フレームの表示につき、1/60秒≒16.66msの応答速度があれば間に合う。 ところが、人間はこの16.66msの間、液晶画素の状態変化そのものを見てしまう。では応答速度を10msにすればよいかというそういうわけでもない。人間は映像を見るときにある程度大局的に全体を見るので、応答速度が10msになったとしても、その間の液晶画素の状態変化を全域で見てしまい、結局、残像やブレを感じてしまうのだ。 さて、そんなわけで、液晶テレビメーカーは、これまで様々な技術を開発し、液晶パネルの残像やブレを低減する試みを行なってきた。毎年様々な技術開発が行なわれ、年々良くなっているが、今回のCEATECでも、各液晶テレビメーカーブースには、独自の新しい液晶パネルの高速応答化技術が展示されていた。 ●パナソニック~クリアフォーカス駆動 「液晶画素の状態変化を見せないようにすればいいのだから、一度、液晶画素が目的の状態になったら、次の状態の表示に移行する前に黒にしてしまおう。そうすれば視覚上、状態変化は見えにくくなるはず」 こういうアプローチで残像やブレ低減を行なうのが、今では多くの液晶テレビメーカーが採用している黒フレーム挿入技術だ。 ただ、これでも黒色から始まる液晶画素の状態変化を見ることになるので完璧ではない。また、液晶画素を黒にしたところで、時間内に黒になるとは限らず、そもそも黒になるまでの状態変化だって見えてしまうことになる。
そこでパナソニックが開発したのはクリアフォーカス駆動と呼ばれる液晶駆動技術。黒フレーム挿入を行なうのは同じなのだが、液晶画素を黒にするのではなく、バックライトを消灯してしまうのだ。 ところが、これでは液晶パネルが細かく明滅してチラツキとなってしまう(フリッカーを感じるようになってしまう)。しかし思い出して欲しい。ブラウン管ディスプレイでもリフレッシュレートが60Hzの時はちらついて見えるが、これをフリッカーフリーとよばれる75Hz以上(欧州基準では85Hz以上)にすると、チラツキを感じなくなる。 クリアフォーカス駆動では、バックライトオフによる黒挿入の他、このフリッカーフリーのアイディアも適用する。 クリアフォーカス駆動では60コマ毎秒(60Hz,60fps)の映像に対し30コマ分を補間し、90コマ毎秒に変換して表示してやるのだ。これでリフレッシュレートはいわゆる90Hzとなるわけでフリッカーフリーとなる。 もともと60コマ毎秒しかない映像をどうやって90コマ毎秒にするかというと、算術的に補間してやるのだ。例えばある画素が白から黒になったとすると、その間の灰色を補間するようなイメージだ。なお、実際にはこのような単純な線形補間ではなく、「どの画素がどっちに移動した」といったような動きベクトルまでに配慮した適応型補間処理がなされるとのこと。 極端な例え話をすると、鳥が60コマで飛んでいるシーンがあったとすると、その軌道に配慮した30コマ分の映像を水増しして90コマの映像に作り替える、いわゆるキーフレームアニメーションみたいな処理が行なわれると思えばよい。 パナソニックによれば、この処理によって残像やブレが従来比50%低減できたとしており、この技術は今年登場した液晶VIERAのLX500シリーズに採用されている。
□関連記事 ● ビクター~高速液晶ドライバ 日本ビクターの「高速液晶EXE」と銘打たれて発売されたばかりの「LT-37LC70」に搭載されている高速液晶ドライバも、考え方はパナソニックのクリアフォーカス駆動に近い。 パナソニックのクリアフォーカス駆動では90Hzでバックライトをオン/オフして黒挿入を行なうが、日本ビクターの高速液晶ドライバでは黒挿入を行なわない。 その代わり、通常、60コマ毎秒の映像を120コマ毎秒に倍速化している。つまり、黒挿入による明滅をやらない変わりに補間挿入するフレーム数を増やすアプローチを取っているわけだ。
□関連記事 ● シャープ~高速動画表示技術 独自のインパルス駆動表示で実効4msの応答速度を実現したという展示がシャープブースにて行なわれていた。担当者によれば、詳しいことは一切話せないが、黒フレーム挿入やバックライト制御は行なわない方式だという。 となれば過電圧のオーバーシュートで中間色の応答速度を上げる方式だと思われるが詳細は不明。 なお、展示コーナーでは比較対象用として従来型を「6msホールド型」として紹介しており、新開発の方は「4msインパルス方式」として紹介している。 ちなみに、ホールド型とは常に発光する方式を指し、画素の状態変化が見えてしまう方式のこと。インパルス方式は瞬間的に光らせる短残光方式なので単純に考えれば黒を挟み込む方式のはず。でも、黒挿入は行なっていないというので…。こちらは、また、詳細が分かり次第レポートすることにしよう。
□CEATECのホームページ (2005年10月8日) [Reported by トライゼット西川善司]
AV Watch編集部 |
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