今秋続々と登場する720pフロントプロジェクタ。液晶系ではエプソンの新D5パネル搭載製品などが各メーカーから発売。一方DLPも新720pチップを搭載した低価格帯の製品が続々発売されている。 今秋の「大画面☆マニア」では、実売20~30万円台の売れ筋製品をピックアップ。毎週新製品のレビューを掲載する。(編集部)
■ 設置性チェック
パナソニックの“カジュアルシアター”が今年もバージョンアップ。型番を順当に“+200”して「TH-AE900」として登場した。 一見しただけでは外観デザインの違いがわかりにくいが、筐体デザインは一新されており、その特徴は正面向かって左側の曲面状の切り落としにある。この曲面切り落としは外観デザインのアクセントとしてだけでなく、排気を横にずらす役割と、本体内部からの微妙な光漏れを投射軸方向に向けないことを意図している。
低輝度モードの「エコノミー」モードで公称25dB。これはTH-AE700よりも1dB低い。実際の動作音を聞いてみると、「ノーマル」モードの高輝度モードにおいても、かなり静かで、プレイステーション 2(SCPH-30000モデル、以下PS2)よりも聴感騒音は小さい。比較的ユーザの近くに設置したとしても動作音が耳障りになるということはほとんどないだろう。 純正オプションとして、天吊り金具類が、中小ホール用の高天井用の「TY-PKE700」(47,250円)、一般家庭用の低天井用「TY-PKE300」の2タイプをラインナップしている。これらは先代と同じで、TH-AE300の世代から引き続き使用可能となっている。既に設置済みのTH-AEシリーズのオーナーは簡単に新モデルへ移行できる。
投射レンズは、AE700から引き続きマニュアル式フォーカス&2.0倍ズームレンズ。このクラスではトップレベルのズーム倍率を誇り、小さな部屋から大きな部屋まで幅広い設置条件に対応する。100インチ(16:9)への投射距離はワイド端で約3.1m、テレ端で約6.2mで、6畳から16畳間での部屋で100インチ(16:9)投影を可能としている。 レンズシフト機能も継承され、左右方向に投射画面サイズの±25%、上下方向には投射画面サイズの±65%の画面移動が可能。部屋最後部に置いた本棚の天板上に設置する、いわゆる「疑似天吊り設置」でも、レンズシフト機能を活用するだけで設置できるだろう。
レンズシフト操作もAE700と同じく、正面に備え付けられたジョイスティック状のつまみを動かすことで行なう。競合他機種のX軸Y軸に対応したダイアルで調整するのと比べ直感的に調整できるのが特徴。AE700では、レンズの自重で調整した位置からロックをする間に落ちてきてしまったり、微妙な位置調整が困難だったりと、見た目のわかりやすさに反して扱いづらかったが、AE900ではこの操作感についてかなり改善された。つまみの入力が軽くなり、自重でレンズが落ちてきてしまうこともない。 ただ、天吊り設置にした場合は、天板に調整ダイアルがあった方がやりやすい。この、ジョイスティック操作系そのものが、どんな状況でも使いやすいという訳ではない。 光源ランプは、AE700と同型の130WのUHM(超高圧水銀系)ランプ。交換ランプは「ET-LAE900」で26,250円とランニングコストの安さは先代譲り。なお、価格こそ同じだが、先代の交換ランプとは別の型番が付けられている。
■ 接続性チェック
接続端子の種類はまったく前モデルと同じ。アナログビデオ入力としてコンポジットビデオ、Sビデオ、コンポーネントビデオ、D4が各1系統ずつ。デジタルビデオ入力としては引き続きHDMIを備えている。HDMI端子周辺はやや手狭な感じがあるが、モンスターケーブルHDMI-DVI-D変換アダプタ「MONSTER400 FOR HDMI」を接続することはできた。 PC入力はD-Sub15ピン端子によるアナログRGB入力に対応。また、後述するがHDMI-DVI-D変換アダプタを用いてのデジタルRGB入力も可能だった。
■ 操作性チェック
2002年10月発売の「TH-AE300」に採用された小型リモコンをAE500、AE700と3代に渡って長らく継承し続けてきた、TH-AEファミリーだが、ついにTH-AE900で一新された。ビデオレコーダのリモコンかと見間違えそうな大柄な多機能デザインだが、ただ大きくなっただけではなく、AVアンプのリモコンのような学習型多機能リモコンに進化した。 リモコンの最上部には[電源]ボタンが○型と□型の2つあるが、○型はTH-AE900本体の電源オン/オフを行なうもの、もう一つの□型は学習機能を利用して登録した機器を一括に電源オン/オフするものだ。○型[電源]ボタンでプロジェクタの電源を入れて、□型[電源]ボタンで電動スクリーンを下ろし、AVアンプやDVDプレーヤーに電源を入れる……といったことが可能になるわけだ。 なお、電源を投入してから、PANASONICロゴが表示されるまでの所要時間は約10秒(実測)、実際にHDMI入力されている映像が表示されるまでの所要時間は約23秒(実測)であった。最近の機種としてはかなり遅めの部類になる。 最上段右端には[ライト]ボタンがあり、これを推すことでリモコン上の全ボタンがオレンジ色のバックライトにより自照する。また、この[ライト]ボタン自身は蓄光式で、理にかなった設計となっている。
その下には、TH-AE900のリモコンの最大の特徴とも言える学習リモコンに関連したボタンが並ぶ。 詳しい設定方法はここでは触れないが、セグメント式の液晶ディスプレイを備えた本格的なもので、TH-AE900を含めた最大8基までのAV機器をコントロールすることができる。 リモコンにはPJ(TH-AE900自身)、DVD(ビデオレコーダ)、VCR(ビデオデッキ)、TV/TNR(テレビ/チューナ)、AMP(アンプ)、USER1、USER2、USER3という8個のカテゴリ記号があらかじめ登録されており、それぞれのカテゴリに対応する手持ちの機器を設定していくことで、このリモコンだけで各AV機器のさまざまなコントロールが可能になる。 たとえば手持ちのDVDプレーヤーに対応するメーカーコード(マニュアルに一覧表が記載されている)をカテゴリ“DVD”に登録すれば、TH-AE900のリモコンでDVDの再生制御や音声切り替えなどができるようになる。TH-AE900のリモコン上の[チャンネル][音量][再生][停止]…といったプロジェクタ操作には全く関係なさそうな操作ボタンはそうした関連機器をコントロールするために実装されている。 カテゴリUSER1~3はユーザのアイディア次第で自由に割り当てることができるためのもので、たとえば電動開閉スクリーンやリモコン照明器具、エアコンの操作などを割り当てるといいだろう。実際の各機器のリモコンの信号をTH-AE900のリモコンに取り込んで学習させ、任意のボタン(学習リモコンセクションのボタンに限定されるが)に機能を割り当てることができる。たとえば、カテゴリUSER1を選択して[再生]ボタンを押すことでスクリーンの開閉を行なうことなどが可能だ。 実際にデノンのDVDプレーヤー「DVD-2910」や、AQUOS LC-37AD1を登録して学習リモコン機能を活用してみたが、暗闇の中で機器それぞれのリモコンを捜さないで済むのがいい。 TH-AE900の操作系に戻ると、基本的なメニュー操作は[メニュー]ボタンでメニューを出して、十字キーと[決定]ボタンで階層メニューを辿っていくというオーソドックスな操作系を採用する。メニューのデザインはTH-AE700までのものから一新され、動作もきびきびとしている。
「映像の調整」で設定できる基本的な画調パラメータは「ピクチャー(コントラスト)」、「黒レベル(ブライトネス)」、「色の濃さ」、「色あい」、「シャープネス」、「色温度設定」など。なお、色温度はK値設定ではなく、基準値からの“±”調整という形式を採用している。
また、AE700から採用された「シネマ・カラー・マネージメント(CCM)」も引き続き搭載している。CCMは投射映像中の任意発色に対して、選択式に出色の傾向を調整できる機能で、特定の純色を艶やかにしたり、肌色に好みの赤みを加えたりといった操作をGUIベースで行なえる画調チューニング機能だ。 この機能を起動すると投射中の映像が静止。十字カーソルが現れるので、これをリモコンの十字キーで操作して、映像中の調整したい色を含む映像をポイントする。その元の色を見ながら希望の色へ変更する操作を行なっていく。同系色への影響がないわけではないので、実際にはそれほどお手軽ではないのだが、単なるRGBのゲイン値やオフセット値で行なう調整よりは格段に直感的ではある。CCM調整は最大8ポイントまで登録可能で、前述のピクチャーなどの基本画調パラメータなどと共に1~3の「プロファイル」(ユーザーメモリ)に登録することもできる。 3つのユーザーメモリはマニュアルには、ビデオ系グループ(コンポジットビデオ、Sビデオ、コンポーネントビデオ、D4)とPC/HDMIグループとで個別に管理され合計6個のユーザーメモリが利用可能と記載されているのだが、今回の評価機ではいずれの入力においても共有されるような動作をしていた。最終仕様ではマニュアルの仕様になるものと思われるが、ハード仕様の都合が感じられるユーザーメモリのグループ管理はわかりにくいので、他社製品に倣って完全共有仕様とするか、あるいは各入力ごとに管理するなど、直感的にわかりやすい仕様にして欲しい。 入力切り替えはユーザーメモリ管理とはまた異なるグループ管理方式仕様。[ビデオ]でコンポジットビデオ→Sビデオの順送り切り替え、[コンポーネント]でコンポーネントビデオ→D4の順送り切り替え、[HDMI/PC]でHDMI→PCの順送り切り替えが行なえる。切り替え所要時間はSビデオ→D4で約1.0秒(実測)、D4→HDMIで約1.0秒(実測)と非常に高速だ。アスペクト比切り替えは[アスペクト]ボタンによる順送り方式。用意されているアスペクトモードは[4:3]、[16:9]、[ジャスト]、[ズーム]、[Vスクロール]、[Hフィット]の6種類でTH-AE700よりも1種類多い。 [ジャスト]は4:3映像を画面中心から徐々に引き延ばす疑似ワイドモード。[ズーム]は4:3映像にレターボックス記録された16:9映像をパネル全域に表示するためのモードだ。[Vスクロール]はアナログRGB入力を利用したPC接続専用のモードで、縦解像度が720ドットを超えた画面モードを1,280×720ドットのパネル解像度で切り出して表示する。表示エリアはリアルタイムでリモコンの十字キーで移動することができる。新設の[Hフィット]は4:3映像をパネル解像度の横方向にピッタリ合わせて拡大する。なお、いずれのアスペクトモードへも切り替え所要時間はゼロで、操作した瞬間に切り替わり、非常に高速であった。 [映像モード]ボタンはプリセット画調モードを順送り式に切り替える操作ボタン。切り返え所要時間はこちらもゼロ秒。ややもたついた感のあったTH-AE700から高速化されている。 リモコン最下段には画調パラメータ調整用のメニューを呼び出すためのショートカットキーとして[メイン][アドバンスド][CCM]の3つがレイアウトされている。 [メイン]はピクチャーをはじめとした基本画調パラメータ群、[アドバンスド]はガンマカーブ、コントラスト、ブライトネスをRGBレベルで設定するパラメータ群、[CCM]は前述のシネマ・カラー・マネージメント機能のGUIを呼び出すためのボタンとなっている。 ユーザーメモリの管理は依然としてわかりにくいが、その他の操作系はTH-AE700からだいぶ洗練され、動作スピードも一世代分の向上が感じられて好感触。学習リモコンの搭載はいろんな意味で話題を呼びそうだが、個人的には好印象で、暗闇で操作することに配慮されたプロジェクタリモコンで、ホームシアター内の全ての機器を暗闇の中で一元操作できるのは便利。今後も、後継機種に受け継がれていって欲しいと思う。
■ 画質チェック 液晶パネルはエプソン製の0.7型の1,28×720ドット解像度のD5パネル。解像度こそ先代のTH-AE700と同じだが、D5パネルでは開口率が向上し、より多くの光を通すことができるようになったという利点がある。先代のTH-AE700のD4パネルでは開口率50%だったのに対して、TH-AE900のD5パネルでは60%に向上している。 その甲斐あって最大輝度は前モデルよりも100ルーメン明るい1,100ANSIルーメンとなった。ただし、先代TH-AE700も十分に明るかったこともあり、実際の体感上の明るさの違いはあまりない。 公称コントラスト比は5,500:1という、DLPプロジェクタ並みの値を実現した。これはTH-AE700の2倍以上。なお、このコントラスト比の劇的な向上はパネルの改良ではなく、ダイナミックアイリスのさらなる進化によって実現されたものだ。 ダイナミックアイリスとは、表示映像の平均輝度に応じて1/60秒周期でリアルタイムに絞り(アイリス)を開閉して光量を調整する機構のこと。TH-AE900では、この絞り開閉量の絶対量が増え、コントラスト向上へと繋がった。具体的に言えば、暗いシーンでは一層光を絞るようにし、明るいシーンでは一層多くの光を通すようにした、ということだ。 5,500:1という公称コントラスト比はこの絞り最小の時の最暗部と絞り開放時の最明部との対比の結果であり、一連の映像を見続けてやっと体感できるものということになる。1フレームあたりのコントラスト比は、実際その映像を見るとDLPプロジェクタやLCOSプロジェクタにはまだまだ及ばない。 たとえば暗いシーンが続くと、黒が明るく見えてしまう「黒浮き」に、やはり気づいてしまう。とはいえ、閃光きらめくアクションシーンなどでは、圧倒的な明暗を体感することができ、臨場感はたしかにある。 そして、透過型液晶プロジェクタとしてはパナソニックだけがもつ画素格子を低減する「スムース・スクリーン」機能も改良が施された。スムース・スクリーンは各画素からの出力光に対し微細光学系を介入させ、ここで複屈折を起こして出力光を微妙に拡大して画素格子を低減させる。TH-AE700までは、画素格子の黒い格子線が見えなくなるのはいいが、全体的に画素がぼやけて見える弊害があり、ハイビジョン映像などを映したときには競合機よりもシャープさが足りないという印象を持たれることもあった。 TH-AE900では、複屈折光学系に対するコーティングを改良することで、このスムース・スクリーンの出力光に対する乱反射を低減し、画素単位の精鋭感を増しているという。
実際に画素を見てみると、一画素がさらに細かい“田の字”状に分割されて見えるのは同じだが、先代までと比べて確かに周囲への滲み出しが減っていることが見て取れる。映像全体として見たときには、TH-AE700とパネルの実解像度は同じでも、見た目の解像感はTH-AE900の方が高く見える。 発色の傾向としては記憶色に準じたチューニングがなされており、超高圧水銀系ランプでは不得意なはずの赤にも鋭さがある。人肌にも自然な赤みが乗っており、超高圧水銀系ランプ特有の黄緑に寄りがちになる特性は上手く調整されている。 階調表現はダイナミックアイリスのオン、オフで絶対的な光量が大部変化するが、バランス自体はいずれにおいても良好。暗部の微妙なグラデーションも単板式DLPのようなノイジーな感じにはならず、アナログ的ななだらかな表現となっている。なお、ダイナミックコントラストがオンの状態では絶対的な黒の沈み込みは映像の平均輝度に左右されるため、明るいシーンの中の黒は時折強く浮いた見え方をすることもあった。
■ まとめ
世代を重ねることに進化するTH-AEシリーズ。今回のTH-AE900は、この価格帯としてはTH-AE700の時点でかなり極まっていた画質に対しさらなる改良が施され、単なるマイナーモデルチェンジではなく、2005年モデルとして、高いコストパフォーマンスを身に付けた新機種に仕上がっている。 また、学習リモコン機能による操作性の進化やスムース・スクリーン機能の改良は、新規ユーザーへの訴求力が強いだけでなく、歴代のTH-AEオーナーに対してすら買い換えたくなる魅力がある。
特に新スムース・スクリーンの効果は大きく、これまでなんとなくあった「スムース・スクリーンだからぼやけるのは仕方ない」という妥協から解放された。ある意味、本来スムース・スクリーンが目指していた機能が、やっとTH-AE900にて具現化されたといっても過言ではない。 画質面であえて注文を付けるとすれば、ダイナミックコントラスト機能。絞り開放時にかなりの黒浮きを出すのが気になる。このままでは、コントラスト5,500:1はスペック表記のための数値でしかないという感じがぬぐえない。 改善策としてはくつかある。1つは、ダイナミックアイリス機能はオン/オフだけでなく、機能の掛け具合を3段階程度に設定できるようにする方法。もう一つは少々面倒だが、そのフレームの平均輝度が明るくてもまとまった暗部領域がある場合には、これを認識して、絞りの開き具合を抑えるなどの適応型処理を行なう方法だ。これができれば、ハイコントラスト感と黒の沈み込みに適度なバランスを与えることができるようになるはずだ。 また、プリセット画調モードが多すぎて逆に使いどころをわかりにくくしている点も、統合/整理などを行なった方がいいだろう。マニュアルやカタログの「シネマ1=しっとり画質」「シネマ2=深みのある画質」という説明もわかりにくい。ユーザーメモリの管理方法もそろそろ改善が必要だろう。 細かい点ではあるが、熟成されたTH-AEシリーズとして、完成度が高い製品だけに、さらなる進化を期待してしまう。 □松下電器のホームページ (2005年10月13日) [Reported by トライゼット西川善司]
AV Watch編集部 |
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