■ 「バットマン」その1
映画「バットマン ビギンズ」は、人気アクションシリーズの第5作目。ゴッサム・シティーで活躍するダーク・ヒーロー「バットマン」が誕生するまでを描いている。個人的には、バットマンと言えば、プリンスのテーマ曲と第2作「バットマン リターンズ」までの記憶はあるものの、ファンというほどの思い入れは無いシリーズ。 そんなこともあって、最新作「バットマン ビギンズ」についても、テレビで見た「渡辺謙が悪役の親玉として出演し、謎の言語を話す」という以外の知識は無く、発売までほとんど意識していなかった。 しかし、ストーリー解説を読んでみると、大富豪の御曹司が、放蕩の限りを尽くしたり、忍術集団に加盟しながらバットマンとして生まれ変わるらしく、荒唐無稽なストーリー展開はなかなか期待できそうな趣。とりあえず購入してみることに。 DVDは本編ディスクのみの通常版と、メイキングなどを収録した特典ディスクが付属する特別版が用意され、価格は通常版が2,980円。特別版は3,980円。特別版が売り切れていたため、今回は通常版を購入した。監督はクリストファー・ノーラン。出演はクリスチャン・ベール、マイケル・ケイン、リーアム・ニーソンほか。
■ バットマンは恐怖の象徴
大富豪の御曹司として幸せな少年時代を送っていたブルース・ウェイン(クリスチャン・ベール)。両親は事業の成功の傍ら、荒廃したゴッサムシティーの再生を目指し、鉄道の敷設などの様々な社会事業、公共事業にも取り組んでいた。両親の愛と、父のポリシーである“博愛”の精神を心に刻むブルースだが、両親を目の前で殺されて以来、彼の人生は一変してしまう。 湧き上がる復讐心は押さえきれず、しかし、両親の教えである博愛精神を受け継がなければならないという使命感の葛藤の末、ブルースは何不自由ない生活を捨て去り、世界中を放浪する。さらに、犯罪者の心理を知るため犯罪に手を染め、異国の地で罪人となってしまう。 そんな彼の資質を見抜いたのは、ラーズ・アル・グール(渡辺謙)が率いる“影の軍団”だった。ラーズの片腕であるデュカード(リーアム・ニーソン)は、刑務所でケンカに明け暮れるブルースのもとに現れ、彼を「導く」と告げる。ブルースは、悪を倒し、恐怖心に打ち勝つ術を身に着けるため、心身を極限まで鍛え上げる。しかし、長い修行を終える頃、ブルースは影の軍団の真の目的を知ってしまう。 影の軍団を抜け出したブルースは、ゴッサムシティーへと帰還。昼は自堕落かつ、大金持ちなプレイボーイ。しかし夜になると悪に牛耳られたゴッサムシティーの再生を目指す「バットマン」となることを決める。 判事や警官を買収し、ゴッサムシティーを仕切るマフィアのファルコーニ(トム・ウィルキンソン)は、ブルースに警告する。「(議員や警官の買収など)街を仕切るのは恐怖の威力だ。どう突っ張っても理解できない世界。人は理解できないモノを恐れる」。そして、デュカードのトレーニングでは、「己が恐怖となり、敵の心に沈み込め。人は目に見えないモノを恐れる」と教えられる。 “ゴッサムシティーのプリンス”ブルース・ウェインは彼らから教えられた手痛い体験を糧に恐怖を与えることが過ちをただす方法と知る。そして、かつて井戸に落ち、コウモリにおそわれた経験から、「自分の恐怖の源」という“バットマン”となり、ファルコー二、そして影の軍団の陰謀に立ち向かう。 つまり、恐怖を与えることと克服することがバットマンの重要なテーマとなっており、このポイントが非常にうまく描かれている。そのため、バットマンを人間的で、苦しみを知るキャラクターとして親しみを持って感じられる。 父の死による復讐心。その心をいかに消化して、正しい方向へ導けるかという葛藤が、ブルースにぐっと感情移入させてくれる。そして昼の荒唐無稽なバカ富豪ぶりと、その影に潜むゴッサムシティーの再生への思いという相反する側面を行き来しながら、彼なりの孤独を浮かび上がらせる手法は見事なものだ。 ブルースの本当の姿を知る、執事のアルフレッド(マイケル・ケイン)や、ウェインカンパニーのかつての重役であるフォックス(モーガン・フリーマン)らのサポートも頼もしい。ユーモアを伴いながら、いかにもヒーローものの脇役らしいさまざまな道具を生み出してくるなど、ヒーローアクションとしての側面も、ぬかりなく押さえている。 また、ブルースの豪邸やウェインタワーに象徴される富と繁栄、そしてその下層の市街地であるゴッサムシティーの対比も、ブルースの抱える矛盾の象徴として感じれれる。ヒーローアクション映画としては、アクション自体はさほど派手では無い。また、忍術などアクションのベースとなる格闘術がかなり怪しく、古めかしいのが、不思議と本作の雰囲気に合っているように感じる。
■ 画質は良好。バットマンらしい? サラウンドも魅力
DVD Bit Rate Viewerで見た平均ビットレートは6.59Mbps。本編は約140分と長めではあるが、特典は予告編のみということもあり、ビットレートは比較的高めだ。 解像感はそれほどでもないが、落ち着いた画調。基本的に夜、それも深夜の市街地など、暗く、点光源が幾つかあるようなMPEG圧縮には厳しいシーンが多いのだが、ノイズはあまり感じられない。全編を通して暗いシーンが続くもの、暗部の階調表現はしっかりしており、暗い中でも階段の手すりの質感などがしっかりと再現されている。 ただし、黒浮きの強い一昔前の液晶プロジェクタなどでは、暗部の細かなニュアンスが確認できないこともあり、調整する必要があるかもしれない。
音声は英語と日本語をそれぞれドルビーデジタル5.1chで収録。ビットレートは英語が448kbps、日本語が384kbps。カーチェイスなどのアクションシーンでは、かなりマルチチャンネルが活用され、スピード感ある音場が楽しめる。 個人的に印象に残ったのは、埠頭のコンテナ置き場の戦闘シーン。バットマンが麻薬の密売現場で密売人と戦うのだが、この緊張感がうまく音場として再現されているのだ。迷路のようなコンテナ置き場で、バットマンが突然背後や頭上に現れて一撃を加え、一人また一人と倒していく。密売人達がコンテナ置き場で前後を見失いながら追いつめられていく姿か、前後左右に加えられる乾いたリバーブとともに、「目に見えない恐怖」として体験できる。 特典はトレーラのみというなかなか潔い仕様。メイキングぐらい入っていてもいいとは思うが、特別版との価格差が1,000円なので、より詳しく知りたいと言う人やバットマンシリーズのファンであれば、特別版を購入した方がいいだろう。 なお、特別版に付属する特典ディスクには、特典映像として「ジャーニー・ビギンズ」、「精神と肉体の鍛錬」、「ゴッサム・シティー建設」、「ケープとマスク」、「撮影への道」などのメイキングやドキュメンタリーを収録。さらに、極秘資料やアート・ギャラリーなども収めており、、初回限定でBOXケースが付属する。
■ 満足の本編。同時発売のセットがもう少し安ければ……
バットマン ビギンズというタイトルからもわかるとおり、バットマンの誕生を描いた映画。そのため、バットマンシリーズを特に追いかけていなくても十分楽しめる作品に仕上がっている。 特に人間くさいヒーローとしてのバットマンは、アクションファンならずとも、広く楽しめる魅力を有していると感じた。個人的にも未見の「バットマン フォーエヴァー」なども見てみたいと感じたが、同時発売のバットマンシリーズ4作に、特典ディスクを加えてセット化した「バットマン・アンソロジー コレクターズ・ボックス」は15,750円とかなり高価。旧作なのだからもう少し安価な設定であれば購入しやすいのだが……。
□ワーナー・ホーム・ビデオのホームページ (2005年11月8日) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
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