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第218回:VFX満載のピーター・ジャクソン版「キング・コング」
3時間以上の映像特典。未開の島の生物図鑑まで同梱

怒涛のように発売されつづけるDVDタイトル。本当に購入価値のあるDVDはどれなのか? 「週刊 買っとけDVD!!」では、編集スタッフ各自が実際に購入したDVDタイトルを、思い入れたっぷりに紹介します。ご購入の参考にされるも良し、無駄遣いの反面教師とするも良し。「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。


■ ピーター・ジャクソンが、2億700万ドルを懸けて「キング・コング」をリメーク

キング・コング
プレミアム・エディション

価格:4,490円
発売日:2006年5月25日
品番:UNLD-42208
仕様:2枚組み
収録時間:本編約188分
画面サイズ:16:9(シネマスコープ)
音声:1.英語(ドルビーデジタル5.1ch)
   2.日本語(ドルビーデジタル5.1ch)
字幕:英語、日本語、韓国語
発売元:ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパン

 史上最多の11のアカデミー賞を獲得した「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズの監督であるピーター・ジャクソン。そのピーター・ジャクソンが、「キング・コング」をリメーク。超大作映画として2005年に公開されたことは記憶に新しい。

 オリジナルの「キング・コング」は、いわずと知れた'33年に公開された、メリアン・C・クーパー監督のSF怪獣映画の金字塔。映画本編を見たことがない人も、コマ撮りのキング・コングの動きと、ヒロインのアン(フェイ・レイ)を片手に握って、エンパイアステートビルに上る姿は一度は目にしたことがあるだろう。

 映画は空前の大ヒットとなり、その後「キング・コング」というキャラクタを使った様々な作品が製作されている。日本映画でも「キングコング対ゴジラ」('62年)、「キングコングの逆襲」('67年)と何本も作られた。

 正統なところでは、'76年のリメーク版「キングコング」があり、キング・コングは世界貿易センタービルに登った。さらに、'86年に「世界貿易センタービルから墜落死したはずのキングコングが、実は人工心臓で生きながらえていた」という設定の「キングコング2」が公開された。

 キングコング2は当時、劇場で観た記憶があるのだが、どんな映画だったか、ほとんど覚えていない。映画よりも、「キングコング2 怒りのメガトンパンチ」というゲームが出ていたことが、妙に印象に残っている。ちなみに、映画「キングコング2」は、ゴールデンラズベリー賞ワースト視覚効果賞にノミネートされている。

 オリジナルが公開されてから70年以上が経過し、その間に様々な映画の“素材”として利用されてきた「キング・コング」だが、ピーター・ジャクソンは、'33年製作のオリジナル版の舞台設定はそのままにするという、真正面から取り組むことを選んだ。ただし、「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズを遥かに凌ぐという最新の技術を駆使。製作費に約2億700万ドルといわれる巨費が投じられるという超大作になった。

 「8歳のときに初めてキング・コングを観て、ずっと撮りたいと思っていた。12歳の時には、自分で撮ってみた。ひどい出来だったが……」というピーター・ジャクソンは、キング・コングに対する積年の思いを込める。「今なぜキング・コングを撮るのか?」との問いに、ピーター・ジャクソン「答えは最後の9分間に詰まっている」と回答している。

 ピーター・ジャクソンがキング・コングを撮る。それも、製作費約2億700万ドルの超大作ということで、話題性は十分。米国公開時に全米2週連続第1位獲得し、世界興収は580億円を突破。アカデミー賞も受賞こそ逃したものの、美術賞、音賞、音響編集賞、視覚効果賞の4部門でノミネートされた。

キング・コング 通常版 キング・コング UMD版
 日本では2005年12月17日に、709スクリーンで公開された。そして、最近のDVD化のペースを考えると少し遅めともいえる公開の約半年後の5月25日に、DVDが発売された。

 DVDは本編ディスクのみの「通常版」(UNSD-42208)と、初回限定生産の特典ディスクを加えた2枚組み「プレミアム・エディション」(UNLD-42208)の2種類を用意。さらに、2枚組みのUMD版(UNSM-42208)も同時発売された。 価格は通常版が2,980円、プレミアム・エディションが4,490円、UMD版が3,465円。

 通常版とプレミアム・エディションの価格差は1,500円。どちらを購入するのか迷うところだが、通常版には特典はほとんど入っていないという、寂しい仕様。

 一方プレミアム・エディションの特典ディスクは、3時間以上の特典映像を収録し、さらに封入特典として「スカル・アイランド徹底解読本」も同梱して、アウターケース入りと、4,490円にしては豪華な仕様。1,500円分の価値がありそうだと思い、プレミアム・エディションを購入した。


■ コマ撮りからCGになった「キング・コング」

2005年12月12日に開催されたジャパン・プレミアには、ピーター・ジャクソン監督や、ナオミ・ワッツらが来日した
 時は'30年代。大恐慌時代のニューヨーク。野心的で無謀な映画監督カール・デナム(ジャック・ブラック)は、秘密の地図を偶然入手する。その地図を元に、誰も見たことのない史上最大の冒険映画を製作するため、「ベンチャー号」で危険な航海に出ることを決意。その航海には、疑うことを知らない誠実な脚本家のジャック・ドリスコル(エイドリアン・ブロディ)と、売れない女優アン・ダロウ(ナオミ・ワッツ)もデナムの熱意にほだされ、同行することになった。

 カールは映画会社の反対を強引に振り切り、ベンチャー号を大西洋に出航させる。ベンチャー号の行き先は、海図にも載っていない幻の孤島「髑髏島(スカル・アイランド)」。荒れ狂う波、照りつける太陽に焼かれ、壮絶で困難な航海の末、ついに幻の孤島「髑髏島」に到着する。

 しかし島に上陸した途端、一行は原住民に襲われ、アンがさらわれる。乗組員たちは彼女を救いにジャングル深く入って行くが、そこで彼らは、すでに絶滅したはずの恐竜や巨大昆虫に襲われ、巨大な生物「キング・コング」を目撃する。さらわれたアンは原住民に、コングの生け贄にされてしまうのだった……。

 舞台設定やストーリー展開は'33年製作のオリジナル版からほとんど変えていないが、キング・コングは最新のCGで描かれている。さらに、政府の協力を得てウェリントン郊外に巨大な屋外セットを建設するなど、実写と映像技術を違和感なく織り交ぜている。

 全編、ピーター・ジャクソン監督が188分に情熱のありったけを注ぎ込んでいるのが伝わってくる。3時間を超える長さでありながら、飽きる暇を与えず、これでもかと驚異のシーンを詰め込んでいる。普通の映画なら3本を作れそうな映像が詰め込まれている。

 ただ、愛情があふれるあまり、リアリティを重視してストーリー伝えたいのか、エンターテインメントに徹したいのかよくわからなくなってしまっている。正直、最後まで観終っても、映像のすごさと、ストーリーのトピックしか残らなかった。結局、ピーター・ジャクソンが、キング・コングの心の動きをどう描きたかったのがわからなかったのが残念だ。ストーリーに関しては、キング・コングとアンの関係性も含め、オリジナルの「キング・コング」の優れたリメークではあるが、そこから踏み出すことは出来ていないと思う。

 とはいえ、おもちゃ箱をひっくり返したような映画で、だれることなく3時間観ることができる。その手腕はさすがだ。一点だけ気をつけたいのは、巨大昆虫がかなり気持ちが悪いこと。音響も前から後ろからゾワゾワ囲まれるので、昆虫の類が嫌いな人はかなり厳しいかもしれない。子供が見たらトラウマになりそうだ。



■ 低ビットレートでも高画質

 DVD Bit Rate Viewerで見た平均ビットレートは5.47Mbps。本編の収録時間は188分と3時間以上の大作なので、特典がほとんど入っていないとはいえ、ビットレートが低めになっているのは仕方のないところだろう。

 映像はスコープサイズをスクイーズ収録。画質は、動きの激しいシーン多いのでビットレートの低さの影響が気になるところだが、全編デジタル処理されているのでDVDとの相性がいいのだろう、ビットレートが低いことによる画質の破綻はほとんど感じられず、解像感のあるクリアな映像に仕上がっている。暗部ノイズもほとんどない。このビットレートでどうやって、画質を維持しているのか不思議なほどだ。

 全体的に、現在のDVDの画質レベルの中でも高レベルにある。ただ、クリアすぎて、'30年代の雰囲気が乏しいのと、合成している背景が少し安っぽく感じてしまうシーンがあるのが気になった。色調や明暗もデジタル処理で周到に調整されているので、暗くつぶれて見にくいということもない。その点では危うさはないが、深みには欠けるかもしれない。

 音声は英語、日本語ともにドルビーデジタル5.1chで収録。ビットレートは英語が448kbps、日本語が384kbps 。盛り上がるシーンの多い映画なので、音の見せ場も多い。積極的にリアが使用され、サラウンド感は高い。また、LFEも効果的に利用されている。特に、船が難破するシーンや、恐竜が突進するシーンの地響きの音響はド迫力だ。音質面で大きな不満はないが、DTSが入っていれば、さらに嬉しかった。

 なお、本編のチャプタ数は50も設定されている。188分あるとはいえ、かなり細かい設定となっている。字幕は日本語と英語に加え、韓国語も収録している。

DVD Bit Rate Viewerでみた平均ビットレート

 本編ディスクには特典として、タイアップしているフォルクスワーゲンのCMのメイキング「フォルクスワーゲン トゥアレグ & キング・コング」(約2分)と、「NYC物語 ~“WISH YOU WHERE HERE”~」の予告編(約1分)のみ収録している。オーディオコメンタリもないので。本編ディスクのみ通常版には、ほとんど映像特典がないことになる。

 プレミアム・エディションの特典ディスクには、「監督によるイントロダクション」(約3分)、「続・製作日記」(約152分)、「スカル・アイランドの自然史」(約17分)、「KONG'S NEW YORK,1933」(約28分)、「スタッフ・クレジット」(約3分)を収録している。ちなみに、特典ディスクの音声は英語のみだが、字幕は7カ国語も入っている。

 映像特典のメインは、やはり「続・製作日記」。これは、Webサイトで展開していた製作日記と連携した内容となっており、公開33週間前のポスプロの初日から週単位でカウントダウンして、ポスプロの過程を約2時間半に渡って解説している。

 撮影日別と部門別のチャプタメニューが用意されており、どちらからでもたどる事が可能という、こった仕様になっている。もちろん、全編を連続再生することも可能だ。

 解説されるのは「ピックアップ」(撮り直し)や、「ミニチュア」、「視覚効果」、「音響」など全域に渡り、内容も濃い。映画業界を目指している人にはかなり参考になるだろう。ただ、スタッフの数や質、機材、環境のどれをとっても、ここまで高いレベルで映画を作れる機会はまずないだろうが……。

 続・製作日記では、「キング・コング」はフィルムもスキャンしてデジタル化して作業していることが明かされる。データ容量は1.9TB、フィルムに換算すると200万フィート、時間にして370時間という膨大なデータとなったという。基本的にほとんどの作業はコンピュータ上で行なわれており、作業しているスタッフの後ろのソファーで足を伸ばした監督が、指示をしているのが印象的だ。

 また、音楽のジェームズ・ニュートン・ハワードとピーター・ジャクソン監督は、テレビ電話とデータのやりとりだけで、実際に会ったことは一度もないというのには驚かされた。これも、デジタル化されたことの恩恵の一つだろう。

 個人的には興味深かったのは、音の収録。本物の蒸気船を動かしたり、車をつぶしたり。音のハンティングするためだけに、どれほどの予算と人員と時間を懸けているのかがわかる。最終的に全部で5万の効果音、10万のファイルになったという。

 CGについてもかなり細かく解説されているが、撮影現場でブルースクリーンを使わなかったシーンでは、コンピュータ上で手作業で輪郭を縁取って切り抜くという気の遠くなりそうな作業が行なわれていて、かなり人間くさい部分もあるのが面白い。

 またロード・オブ・ザ・リングでも使用されていたが、主要な出演者にはCGスタントが作られていることに、改めて驚かされた。実際に、本編の中で普通にCGスタントが登場して演技しているのだが、本編を見ているだけでは不自然さを感じなかった。もちろん、まだ使えるシーンは限定的だが、技術の進歩はすごいと素直に思う。

 デジタル化していることで、色調などもコンピュータ上で自在に調整が可能になっている。例えば昼のシーンを夜にしたりすることも、フィルタを利用したりすることでフィルムでも可能だが、デジタル化したことで、顔だけ色を残したりと、細かい調整ができるようになっている。

 さらに、初代キングコング(の骨格)も登場。ピー・ジャクソンやスタッフが子供のようにはしゃいでいるのが微笑ましい。さらに、初代キングコングでコマ撮りまでしている。

 映像特典では続・製作日記のほかにも、「スカル・アイランドの自然史」で、髑髏島をドキュメンタリー風に、髑髏島に住む生物について、監督らが各種スケッチや、映像を交えて解説している。本当に髑髏島があると信じてしまいそうな手の込んだ作りになっていて、一つの作品に仕上がっている。

 また、「KONG'S NEW YORK,1933」では、この映画の舞台である、大恐慌に陥った'93年のニューヨークの時代背景を当時の映像を交えて、解説される。この中で禁酒法についても触れらるているのだが、映画本編の中でも、冒頭ではなかった酒の広告が、終盤には見られるという時代の流れを表現していることが明かされる。


■ プレミアム・エディションに内容には満足も、S.S.E.が出るかも

 プレミアム・エディションの封入特典の「A NATURAL HISTORY OF SKULL ISLAND」(スカル・アイランド徹底解読本)は、カラー117ページにも及ぶ、キング・コングや恐竜たちが住む未開の島「スカル・アイランド」の解読本。

 ピーター・ジャクソンや製作陣がこの映画のために創り上げた島と、そこに生息する生き物の全貌をカラーイラストで紹介し、映画に登場しない生き物の生態も詳しく掲載されている。非常に内容が充実しており、空想図鑑として、これだけでも十分楽しめる。

 ピーター・ジャクソン版「キング・コング」は、映画としてストーリー的には一歩踏み込みがたりないとも感じるが、3時間楽しめるという意味では見て損はない。DVDとしても画質や音質も高レベル。また購入するのであれば、特典ディスクとスカル・アイランド徹底解読本の内容が充実しているので、1,500円高くてもプレミアム・エディションをお薦めしたい。

 心配なのは、ピーター・ジャクソン監督のことなので、「ロード・オブ・ザ・リング」のような、スペシャル・エクステンデッド・エディション(S.S.E.)がリリースされる可能性が、販売元が違うとはいえ、かなり高いこと。本編がさらに長いバージョンという可能性もあるが、DVDとしてもプレミアム・エディションには、DTSの追加や、本編を2枚組みにして高ビットレートという余地が残されている。ただ、それがリリースされる時期には、ユニーバーサルなのでHD DVD版の発売が見えきているかもしれないが……。

●このDVDについて
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□ユニバーサル・ピクチャーズのホームページ
http://www.universalpictures.jp/
□製品情報
http://www.universalpictures.jp/sp/kingkong/
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-2枚組みのプレミアム版も用意。UMDも2枚組み
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(2006年6月5日)

[AV Watch編集部/furukawa@impress.co.jp]


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