■ 2005年の邦画代表作
映画「ALWAYS 三丁目の夕日」は、2005年11月の公開以来、大ヒット。現在も公開中の映画館もあるが、観客動員270万人、興収33億円を記録したという。また、日本アカデミー賞では作品賞、監督賞、主演男優賞など、13部門中12部門を受賞した。昨年の日本映画を代表する作品といっても過言ではない。 ヒットの理由はいろいろあるかと思うが、近年では乏しくなった近所付き合いや、テレビが初めて家に来た時のお祭り騒ぎなど、「貧しくとも未来を夢見ていた時代」を瑞々しく描き、当時を知る人には懐かしく、また、若者には新鮮な体験として提供したことなどがその理由となるのだろう。 また、本作の「建設途中の東京タワー」も公開時に大きな話題を呼んだが、折しも、リリー・フランキーの小説「東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン~」も大ヒット中とあって、東京タワーブームを巻き起こし、相乗効果で盛り上がったような印象もある。 原作は、西岸良平によるマンガ「三丁目の夕日」。監督は「ジュブナイル」、「リターナー」など、VFXを活用した作品が目立つ山崎貴というのが意外なところ。出演は吉岡秀隆、堤真一、薬師丸ひろ子、小雪など。DVDは、本編ディスクのみの「通常版(3,990円)」のほか、特典ディスクが付属する「豪華版(7,140円)」も用意される。今回は、通常版を購入した。
■ オリンピック前の東京の下町を描く
舞台は昭和33年の下町。駄菓子屋の店主・茶川竜之介(吉岡秀隆)は、芥川賞の最終選考に残ったこともあるが、今は三流少年誌に子供向け小説を書いているしがない小説家。といっても小説でメシが食えるわけでもないので、駄菓子屋をしながら生計を立てている。そんな彼が恋心を抱いていたのは、飲み屋のおかみ ヒロミ(小雪)。 ある日、ヒロミの家に引き取り手のない少年 淳之介(須賀健太)が連れられて来る。ヒロミの店で呑んでいた茶川は、酔いに任せて文学論をぶつけ、近所で自動車修理工場を営む鈴木則文(堤 真一)ら常連客の失笑を買う。そんな竜之介にヒロミはなぜか淳之介を託す。「時々おじゃまして様子見に行きます」というヒロミの甘い言葉と、酔った勢いから、竜之介は淳之介を預かることを承知してしまう。 物語は、竜之介と淳之介、ヒロミの3人を中心とした奇妙な共同生活。さらに、則文やその妻トモエ(薬師丸ひろ子)など、向かいの鈴木家の面々、さらに近隣の人々の交流を描きながら進んでいく。 鈴木家に青森から集団就職で出てきて、鈴木オートで住み込みで働く六子(堀北真希)のエピソードも面白い。大手自動車工場に就職したつもりの六子。しかし、実際は、小さな町工場でいきなり“夢の街東京”に幻滅を抱く。多くの幻滅と衝突を経ながら、徐々に東京と鈴木家に融け込んでいく様は見所の一つといえる。 当時を思い出させる数々の意匠も興味深い。鈴木家の愛車のダイハツ・ミゼットや、白黒テレビ購入時に界隈の皆が集合するあたり、当時を知る人には趣深いだろう。また、鈴木家にテレビがやってきた際に、則文が「我が家にもテレビがやって参りました。戦争から生き残って13年……」と一説ぶつなど、戦争の影を節々に感じさせられ、戦後10数年しか経っていない時代であることを確認させられる。 もう一つの見所は、劇中で再現された昭和の街並みだろう。建設途中の東京タワーや、路面電車、オリンピック以前を思わせる近隣の商店街や、飲み屋の雰囲気がうまく再現されている。CGも多用しているようだが、単純に細部までリアルという絵ではなく、絵画的というか、アニメ的な独特の暖かみを持った風景描写。節々にリアリティがあるというわけではないのだが、妙に郷愁を誘う。 竜之介の小汚い服装もなんとも味がある。特にセーターの情けない質感が、間抜けな髪型と相まって、オッサンのだらしなさを実に良く出してくれている。どうみても、風格が出そうにない吉岡秀隆の独特の高い声によるところも大きいだろうが、監督のコメンタリによると、実際に“毛玉班”を用意し、セーターの質感を出すために、こだわって取り組んだという。冒頭、店を訪れた子供達に、賞への落選を嘲笑されながら登場する竜之介を見て、「こいつ主人公かよ!」と一瞬ひるむものの、その情けなさが、いい意味で物語に引き込んでくれる。 この情けない竜之介が、飲み屋でくだを巻きながら、大江健三郎と石原慎太郎などの“最近の文壇”を批判して、日本の文学の現状を嘆くというバカバカしさ。こうした奇妙なユーモアが、単なるノスタルジーだけでない、本作ならではの魅力を加えているように感じる。
■ ノスタルジックな画質。泣き笑い音声に戸惑い
本編の収録時間は133分。DVD Bit Rate Viewerで見た平均ビットレートは6.98Mbps。画質は良好で、ノイズなどは少ないが、独特の暖かみのある色調の再現がなかなか難しい。液晶プロジェクタ「TH-AE500」で見たところ、どうにも黒浮きが目立って、CRTテレビで見た時のような色再現が難しかった。 プロジェクタやテレビ側で、輝度を抑えめで、色温度を若干落としたシネマモードなどを選択するとしっくりくる。ちょっと誇張気味に色の濃さを上げてやると、本作の持つ少し古めかしい独特の質感が生きてくるように感じた。 CGベースと思われる繁華街の風景などは、目を見張るような解像感がある。ハリウッドの大作と比べると、CGと実写の区別が付きやすいような感触もあるが、本作の場合は、それがうまくノスタルジックな印象を醸し出している。
音声は、ドルビーデジタル2.0ch(192kbps)/ドルビーデジタル 5.1ch(448kbps)/DTS(768kbps)を収録。別段アクションシーンなどがある訳でも無いので、3種類もトラックがある割に、あまり聞かせどころはない。ただし、バイクでの移動シーンでの適度な包囲感や、則文の立ち回りなどでリアチャンネルが鳴っていることは確認できる。 音声で注目されるのは、「映画館泣き笑い音声」だろう。これは、通常のドルビーデジタル2ch音声に、映画館の観衆の泣き笑い音声を加えて、映画館風に楽しめるというユニークな特典。 泣かせどころで、たっぷり泣かそうという配慮なのかもしれないが、ちょっと意図的すぎて逆に気になってしまうのでは?、と思っていた。しかし、実際聞いてみると、泣き所で泣かれるのはあまり気にならなかった。それより、気にさわるのが、笑いの方だった。則文が六子を追い込むシーンは確かにユーモラスではあるものの、「そこまで面白いか?」というぐらい、観客が笑いやがるので癇に障る。 その他でも、微妙に笑いのツボが合わなくて、段々楽しむ気持ちが萎えてくる。もっともこういう特典自体は面白いと思うし、ある意味、観客の笑い/泣きどころが分かるというのも興味深いところだ。 特典は、予告編やキャスト紹介のほか、山崎監督によるオーディオコメンタリも収録している。本編に合わせてひたすら撮影時のエピソードを騙ってくれるので、結構ためになる。例えば、昭和の人にしては手足が長すぎるという小雪については、「何を着せても清楚になるので、相当派手な服を用意した」という。六ちゃん(堀北真希)は、「ホラー映画に沢山出ているので叫びが本当にうまい」と評価している。 上野駅については、「外観はミニチュア、中はCGなどを活用している」という。ミニチュアといっても相当大きな規模のようで、引きでとるとかなり本物らしく見えるとのこと。本編を見ながら気になる背景などがあると、大抵監督が説明してくれているので、2度目に見る時などに気になったら、音声を切り替えるというのも有りだろう。 さらに、「プロデューサの阿部さん(阿部秀司氏)が本当にうるさかった」とのことで、テレビの分解シーンについては、「新品のテレビがこんなに汚れている筈がない」と録り直しを要求するなど、細かい意匠のクオリティアップには多いに寄与したようだ。「装飾班が本当に細部までこだわっていた。当時とても流行した布団の柄を見て、その柄だけで泣く人もいた」とか。 また、「脚本をかいた時にはあまり気付いていなかった」とのことだが、「俳優達の演技と実際の画を見ると、思いの外戦争の影が見えてきた」というコメントには妙に納得させられた。
■ シンプルな良作
ノスタルジックなかつての東京の姿を、CGやミニチュアを駆使しながら、本物以上にリアルに感じさせる監督やスタッフの手腕も感じさせられた。単にノスタルジーに訴えるだけでなく、適度なユーモアを交えて復興期の東京が描かれており、若い人でも充分に楽しめる作品になっている。 3,990円という価格も十分納得できる価格。メイキングや未公開映像などを収録した特典ディスク付の「豪華版」も7,140円で用意されているが、コメンタリでかなりの部分をカバーしてくれたので、個人的には通常版でも満足と感じた。 ストーリー展開もわかりやすく、段々と大きくなってくる東京タワーの姿と、そこで暮らす人々もあわせて成長していく。そのシンプルさを素直に楽しむことができた。折しも第2東京タワー(墨田タワー)の建設も決定。600m級のタワーが間もなく建設される予定だが、その建設時に見える風景はどんなものなのだろうか? 少なくともこんなに郷愁を誘うような姿にはならないとは思うのだが……。
□ALWAYS 三丁目の夕日映画の公式サイト (2006年6月12日) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
AV Watch編集部 av-watch@impress.co.jp Copyright (c)2006 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved. |
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