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第239回:CD-R/RW「PlexWriter Premium II」を試す
~ AudioMASTERなどの効果をチェック ~



PlexWriter Premium II

 記録型DVDドライブが当たり前の時代に、プレクスターからDVDに対応しないCD-R/RW専用のドライブ「PlexWriter Premium II」が5月に発売された。

 内蔵ドライブの場合、記録型DVDなら1万円以下になっているが、PlexWriter Premium IIは約2万円と高価。それでもマニア層からは注目されているこのドライブ、発売から1カ月以上が経過してしまったが、どんなドライブか検証した。



■ 「CD-R/RWドライブ最終型」の後継モデルが登場

 PlexWriter Premium IIは製品名からも分かるとおり、「PlexWriter Premium」の新バージョン。PlexWriter Premiumは2003年、「CD-R/RWドライブの最終型」として発売されたCD-R/RWドライブで、プレクスターファンとしても、この宣伝文句につられて購入したのだが、「最終形のその次」が出てしまった格好でちょっと寂しい気もする。

 CD-R/RWドライブの最終型から3年後に登場した、PlexWriter Premium IIが狙っているのは、高音質なオーディオCDの作成。Digital Audio Laboratoryでは、連載当初、このテーマで記事を展開したが、結論からいうと、ドライブやメディア、また焼き方などによって音が変化してしまう可能性はある。とはいえ、これらの要因によってデジタルデータそのものが変化してしまうわけではない。1ビットたりとも違いがないにも関わらず、音が違って聴こえるのだ。

 なぜ、音が変わるのかについて、確実な結論を導き出すことは難しいが、いろいろな実験やインタビューなどの結果から、仮説を立てることはできた。それは、CD-Rに書き込んだオーディオCDをCDプレーヤーで再生する際、デジタル的には復元可能なC1エラー発生した際、プレーヤー側でサーボモーターが動作し、そのモーターの動きがアナログ的なノイズを発生させ、それがオーディオ回路に影響を与え音質が劣化する、というものだ。ただし、2倍速や等速などの遅いスピードで書き込むとC1エラーは増えるけれども音質がよくなることがあるため、この仮説だけではすべてを語ることができない。

 一方、CDに書き込まれたジッター(時間軸に対する揺れ)によって音が変わるとよく言われている。もっともここでいうジッターはCDのクロックである44.1kHzが揺れるというわけではなく、あくまでもCDに書き込まれたピットとランドを読み取るクロックのジッターであるため、音に直接影響のあるものではない。もちろんジッターが大きくあっても、デジタルデータそのものが変化してしまうということもないので、なぜこれによって音質に影響が出るのか、ハッキリしないところだ。

 このように、CDの音質に関しては、理論的によくわからないけれど、音に違いを感じることが多々あるのでオカルトっぽい話がでがちではあるが、今回はデータだけを頼りに進めていく。



■ Audio MASTER、2倍速書き込み対応などこだわりの仕様

 PlexWriter Premium IIの最大の特徴は、YAMAHAの高音質化技術「Audio MASTER」を搭載したこと。評価の高かったAudio MASTERだが、国内ではYAMAHAがドライブ事業から撤退してしまったため、Audio MASTER対応ドライブを手に入れることが困難になっていた。Plexterがそれをサポートしてくれたのは非常にうれしいところだ。ただし、Audio MASTERは当初の4倍速固定のものと、最後のドライブであるCRW-F1に搭載された等速、4倍、8倍の各スピードに対応した「Advanced AudioMASTER」があったが、Premium IIに搭載されたのは初代の4倍速固定のものだ。

バージョン2.33のPlexTools Professionalが付属

 一方、Premiumは4~52倍までの対応だったが、Premium IIでは2倍速での書き込みにも対応している。根拠は明らかにしていないが、これもPlextorの音質へのこだわりの表れだ。現在売られているドライブで2倍速に対応しているものはほかにはほとんど存在しない。なお、マニアの中には等速焼きにこだわる人もいるようだが、残念ながら等速には対応していない。これは現在発売されているメディアで等速に対応しているものがほとんどないことが理由のようだ。

 そのほか書き込み品質向上のために、ELNA製の音響用アルミニウム電解コンデンサを採用したり、面振れを約60%低減させる「Intelligent Air Flow」機構を搭載するなど音質向上を目指して、いろいろな機能・性能向上を図っている。もちろんトレイは従来どおり、乱反射を抑えるといわれる黒が採用されている。

 また、従来のドライブと同様、「PlexTools Professional」という強力なユーティリティソフトがバンドルされている。このソフトを使うことで、AudioMASTERのON/OFFほか、各種設定が可能。さらに、CDライティングができたり、「Q-Check」というメディアをチェックする機能も備えている。

 そこで今回は、このPlexTools Professionalを用いて、AudioMASTERを使った場合と使わなかった場合で、Q-Checkを使ってC1エラーやジッターの発生具合いにどんな差がでるのか比較した。



■ 日立LG製ドライブで作成したCDなどと比較

 具体的な方法としては、買ったばかりで、ほとんどキズや埃がないと思われるオーディオCDを用意。それをPlexTools Professionalのリッピング機能を用いて、WAVファイルとして抜き出す。これを同じくPlexTools ProfessionalのオーディオCD作成機能で焼く。この際、ライティング速度の設定ができるので、これを使って2倍、16倍、48倍のそれぞれで焼いてみた。一方、AudioMASTERをオンにした場合は、4倍速の固定となる。

 ちなみに、同じマシンには、以前に購入したPlexWriter Premiumがあるので、PlexTools Professionalでそちらのドライブを選択したところ普通に動作する。もしかして、ファームウェアを最新にしておくとAudioMASTERも使えるのではと思ったが、やはりそういうわけにはいかなかった。

PlexToolsのリッピング機能でWAVファイルとして保存 同ツールのオーディオCD作成機能でCD書き込み 速度を変更して作成。2倍速書き込みも選択可能
AudioMASTERをオンにすると4倍速固定になる 残念ながら旧モデルではAudioMASTERは利用不可

 さて、このようにして焼いた4枚をQ-Checkでメディアチェックをするのだが、参考用に原盤であるオーディオCD、そして別のマシンの日立LG製の「GSA-4082B」というDVDドライブで焼いたものも用意して比較してみることにする。ちなみに、今回選んだCD-Rメディアは太陽誘電の「CDR80TY」。秋葉原で20枚組み700円弱で先週買ったものだ。

 なお、音質の評価については、MP3のビットレートの違いのように顕著に出るものではなく、波形測定ではまったく差が見えるものでもない。また、どのプレーヤーで聞くかによっても音の特性に違いがでる。先ほどの仮説がある程度正しいとしたら、サーボの影響がどのようにアナログ回路に影響を与えるかによって音の変化はまちまちになる。そのため、今回はPlexToolsのグラフだけを比較した。



■ オリジナルCDがエラー最多? データだけでは計れない音質の違い

 最初にC1/C2エラーのチェックを行なったが、チェックの際の読み取り速度を4倍速のCLV、8倍速のCLV、10~24倍速のCAVの中から選択するようになっている。オーディオCDとしてチェックするので、本来なら等速がいいのだが、その選択肢はない。また、4倍速CLVと10~24倍速CAVのそれぞれで試してみたところ、結果はほとんど差のないものだったので、10~24倍速CAVで比較した。

 その結果は以下の通りだ。いずれのメディアでもC2エラーは発生しなかった。もしかしたらAudio MASTERだけC1エラーが少ないのではと期待したが、結果だけを見ると、かえってC1エラーの数はAudio MASTERが一番多い結果となってしまった。

 日立LGのドライブで焼いたものよりC1エラーが多いのはちょっと不思議だが、それよりすごいのはオリジナルのCDでは、C1エラーの数が一桁増えてしまっている。CDはプレス工場によって音質に違いが出るといわれるが、この結果を見る限り、確かにかなり違うのかもしれない。書き込み速度やAudioMASTERなどの細かい差よりも、単純にCD-Rにコピーすることで音がよくなるということを意味しているのだろうか。

【C1/C2エラーチェック】
左から2倍速、16倍速、48倍速書き込みの結果。違いはほとんど感じられないが、わずかに2倍速書き込み時のC1エラーが多い
左からオリジナルCD、LGドライブ使用、AudioMASTER有効時の結果。オリジナルCDが最もC1エラーが多い

 では、次にジッターについても見てみよう。このグラフのうち青い線がジッターで、赤い線がベータ。ベータのほうは、レーザーパワーによるピットの深さの不均整を表すもので、11T振幅の中心電圧が0Vからどの程度ずれているかを測定し、ピットとランドの占める割合のバランスが表示している。

 ベータのほうはあまり差はないが、ジッターのほうは多少違いが見える。もっともジッターは絶対値で表現されているのではなく、3T~11T(または14T)信号のジッター値の平均を示しているので、ディスク全般でのばらつき傾向の変化を見ることはできるが、異なるディスク間での比較はできない。その意味では、これも参考値ということになるが、Q-Checkの結果だけをみると、Audio MASTERにすれば何かが大きく変わるということでもないようだ。

【ベータ/ジッターチェック】
左から2倍速、16倍速、48倍速書き込みの結果。
左からオリジナルCD、LGドライブ使用、AudioMASTER有効時の結果。

 ただし、この結果だけを見て、どのスピードで書いても差がない、日立LGのドライブでもPlexWriter Premium IIでもほとんど同じ、ということにはならないのが難しいところ。確かにMP3とAACの違いのような大きな差はないが、測定できないレベルでの差はあり、再生するプレーヤーによっては、その差がハッキリと感じられる場合もある。

□プレクスターのホームページ
http://plextor.jp/index.php
□製品情報
http://plextor.jp/product/premium2/index.php
□関連記事
【4月18日】プレクスター、「AudioMASTER」対応のCD-R/RWドライブ
-19,800円。音響コンデンサ採用、2倍速CD-R書込み対応
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20060418/plextor.htm
【2001年6月3日】【DAL】ヤマハ「CRW3200」試用レポート
~ 「Audio Master」とCD-RWの新機能を試す ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20011105/dal33.htm
【2001年6月11日】【DAL】迷信だらけのデジタルオーディオ[特別編]
~ドライブメーカー「プレクスター」に聞く、CD-Rの変化~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20010611/dal14.htm

(2006年6月12日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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