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第263回:ウォークマンケータイ「W42S」の音楽再生機能を試す
~ そこにウォークマンの魂はあるか ~



■ 期待されるウォークマンケータイ

 これから携帯電話のQ&A的な入門書を出す予定がある出版社は、連絡してほしい。なぜならば、今どきのケータイの基本的なところがわかってないオジサンとしての疑問をいくらでも提供できそうな気がするからである。

 だがどうも携帯電話というのは、今後音楽方面に差別化の活路を見いだすようで、そうなると否応もなく筆者の領域に入ってくる。auのLISMOがスタートしたかと思えば、ソフトバンクがiPod携帯の投入をほのめかし、NTTドコモが米ナップスターグループと提携して定額聴き放題サービスを本年度中にスタートすると言われている。

 そこで気になる存在といえば、auが6月下旬に投入するウォークマンケータイこと「W42S」である。すでに2005年から欧州、中東、中国市場向けには「W800」、「W900」といったウォークマンケータイが投入されており、日本での発売が長らく待たれていた製品だ。

 実際に日本で発売されるモデルは、通信規格が異なることから同じではないだろうと予想されていたわけだが、確かにW42Sは見た目も日本オリジナルモデルと言えるルックスに仕上がっている。

 ウォークマンケータイは、ウォークマンなのか? 携帯電話としての特徴や機能は僚誌ケータイWatchに任せるとして、ここでは音楽プレーヤーとしての使い勝手を中心に見ていこう。



■ メカニカルで個性的なデザイン

 デザインでもっとも象徴的なのは、やはり下部に付けられた「ミュージックシャトル」とその周辺部だろう。このシャトル系のコントローラは、ウォークマンスティックことNW-Eシリーズでも搭載されており、近年のウォークマンの顔とも言える存在だ。

国内初のウォークマンケータイ「W42S」 背面にウォークマンロゴ 車のバンパーを思わせるメカニカルな「ミュージックシャトル」

 この実装の仕方が車のバンパー的でもあり、そのメタリックな質感と一見複雑な加工から、かなりメカニックでヘヴィデューティーな印象を受ける。W42Sにヤられるのはどうも男性が多いような気がしてならないのだが、そのデザインから男心をくすぐる成分が醸し出されているのである。

 捻ると曲のスキップや早送り、押し込むと再生、停止ができる。左右の小さなボタンがボリュームだ。またシャトルのリング部にはLEDライトが仕込まれており、これがプレーヤーのスキンに合わせていろいろな色に光る。色によってはかなりヤンキー度が高めな感じがするが、今どきの電話はみんなこんなふうだ。

スキンのカラーに合わせて光るイルミネーション オーディオは平形端子を採用

 本体にはステレオミニジャックの端子はなく、ケータイで採用が多い平形端子となっている。同カラーのリモコンが付属しており、このリモコンの下部にステレオミニジャックがある。

 付属のイヤホンはウォークマンの付属品としてよく見かけるタイプのものだが、SONYロゴがあるだけでウォークマンロゴがないあたり、何か微妙なパワーバランスを垣間見る思いだ。

同色のリモコンが付属 イヤホンにはウォークマンのロゴはない

 内蔵メモリは1GBあるが、メモリースティックPRO Duoスロットも備え、最大4GBのメモリが使える。音楽再生は連続30時間。実際には通話や通信なども行なうとそれなりにバッテリも消費するのだろうが、長時間再生は最近のウォークマン共通のウリである。

 付属のクレードルは、底面にACアダプタとUSBポートがある。音楽の転送時はこのクレードルにセットしてPCと接続することになる。音楽管理ソフトとしては、LISMOや内部データのバックアップ用として「au Music Port」、そしてウォークマンとしての転送管理ソフトとして「SonicStage CP」が付属している。

左側面にメモリースティックPRO Duoスロット 充電とUSB接続を兼ねるクレードル



■ 既存サービスとの両立に難あり

 では実際に音楽転送から試してみよう。ウォークマンライクな使い方としては、SonicStage CPを使ってW42Sに音楽を転送することになる。昨今SonicStageおよびウォークマンは、以前に比べると大幅な「規制緩和」が施されている。手持ちのCDを取り込んだものすら3回までの転送制限がかかる点も、ユーザーの判断で著作権管理しないという使い方もできるようになっている。

転送ソフトはもちろんSonicStage CP CDから取り込んだ曲は著作権保護しない設定にもできる


SonicStage CPの転送は、マスストレージモードで接続する必要がある

 ただ携帯電話のUSB接続には、ちょっとハマった。というのも、SonicStage CPで転送を行なうには、電話機のUSB接続モードを「マスストレージ」に設定しないといけないのである。一方「au Music Port」を使って音楽を転送する場合は、「データ転送モード」に設定しないといけない。

 つまりLISMO系とウォークマン系では、転送するときにいちいちUSB接続モードを切り替えないといけないわけである。接続設定には「ケーブル接続時に選択」というモードもあるので、両方を使うにはこの設定にしておくといいだろう。

 だが、これがなかなかわからなかった。というのも、ウォークマンケータイを名乗っている割には、ウォークマン関連記述が、マニュアル全334ページ中たったの2ページしかないのである。付属のCD-ROMのドキュメントを丁寧に読んでいけばわかるのだが、メイン機能の説明がCD-ROMでしか読めないというのはいかがなものか。


ほかのビットレートのATRAC3を直接転送するよう設定を変更しても、変換しないと転送しない

 楽曲の転送は、これまでのウォークマンと違わない。ただW42Sでは、ウォークマンと言いつつ、ATRAC3 132kbpsしか再生できない。昨今のウォークマンでは、ATRAC3以外にもMP3やAACといったフォーマットも直接再生可能になっているが、自社のATRAC3plusすら再生できないのだから、大幅な後退と言っていい。

 付属CD-ROMからインストールしたSonicStage CPでは、デフォルトですべてのフォーマットをATRAC3 132kbpsに変換して転送するように設定されている。フォーマットを変換せずに直接転送するように設定を変更しても、転送先がW42Sだと強制的に132kbpsに変換されるようになっている。このあたりは、転送したものの再生できないといったトラブルがないよう、工夫されているようだ。


LISMO系転送ソフト「au Music Port」

 またSonicStage CPでは、メモリースティックDuoにしか音楽が転送できない。内蔵メモリがたとえ1GBあっても、実質的には使えないのである。一方LISMO系転送ソフト「au Music Port」で転送する際には、内蔵メモリにも転送可能だ。

 そもそもなぜSonicStage CPが必要かといえば、「au Music Port」では、すでにMP3などになっている音楽データを転送できないからである。このあたりの使い勝手は以前デバイスバイキングでレビューしているので、併せてお読みいただければ、だいたいの事情はわかるだろう。

 こうして考えると、W42Sはケータイとウォークマンが一体化したのではなく、あからさまにケータイにウォークマンを外部デバイスとしてくっつけたスタイルになっているのがわかる。以前ドコモでメモリースティックの音楽が再生できる「SO505iS」というケータイがあったが、やれることベースで考えれば、そこから全く進歩が見られない。唯一ケータイとパソコンが直結できるあたりが、ちょっと便利になった程度である。

 ちなみに欧州など海外仕様のウォークマンケータイでは、MP3などほかの音声フォーマットも直接サポートしている。このあたりの事情を考え合わせると、日本ではキャリアの強い意向から、昨今のウォークマンらしさがスポイルされてしまっているのかもしれない。



■ 凝ったアニメーションのプレーヤー画面

 メモリースティックDuoに楽曲が転送されたところで、さっそく本体で再生してみよう。音楽の再生は、独自の再生ソフト「シャトルプレーヤー」を使う。本体の再生ボタンを長押しすると、シャトルプレーヤーが起動して再生が始まる。

 プレーヤー画面には5種類のスキンがあり、十字キーの上下で切り替えることができる。どれもアニメーションが凝っており、見ていて飽きない。

5種類のスキンが用意されている

 飽きないのだが、20秒程度で勝手に待ち受け画面に戻ってしまう。ここでシャトルコントローラ部でボリューム操作やスキップなどの操作をすればまた元に戻るほか、この画面を見てぼーっとしていたい場合、再生中にメールボタンを押すことで待ち受けに戻らず、そのままスキン表示を継続できる。

 だがこのシャトルプレーヤー、独立したアプリケーションというわけではなく、どうも内蔵の音楽プレーヤーau Music Playerにスキンを被せただけのようだ。十字キーのセンターボタンを押すと、シームレスにau Music Playerに移動する。au Music Player画面からシャトルプレーヤー画面に戻るためには、クリアキーを2度押して、待ち受けに戻り、そこで、もう一度クリアキーを押す必要がある。

【訂正】
※記事初出時に、シャトルプレーヤーの表示や操作方法について誤って記載しておりました。お詫びして訂正致します。(6月28日)

内蔵の音楽プレーヤー「au Music Player」画面 Sonic Stage CPで転送した曲はライブラリで分けられる

 au Music Playerの設定を見ると、中味は2つのライブラリに分かれている。一つは「au Musicライブラリ」で、これは本体やLISMOなどから購入した着うたフルや、au Music Port経由で転送した音楽データが集まったもの。これは実際のデータが内蔵メモリやメモリースティックDuoどこにあっても、一覧で表示される。

 もう一つは「M.S.Musicライブラリ」で、SonicStage CPを使って転送した音楽データが一覧できる。こちらは元々メモリースティックにしか転送できないので、物理的な場所はメモリースティック内ということになる。

 これらのライブラリを選択して再生することもできるが、「全曲再生」を指定すれば、両ライブラリに関係なく、すべての曲が再生対象となる。

 昨今のウォークマンと違うのは、アルバム単位のようなフォルダの概念がプレーヤー側にないことだ。複数枚のアルバムを転送しても、CDトラック順などは守られるが、再生時はずらずらと繋がったリストから再生することになる。もっともau Music Player自体がウォークマンとは無関係なソフトウェアなので、致し方ないのかもしれない。

 この問題を解決するには、アルバムごとにプレイリストを作成するという方法が考えられるが、それをやって大不評だったのが過去のSonicStageであったことを考えると、なかなかうまい落としどころがないのは困ったところだ。

 そして実際に使っていて気付く重大なポイントは、結局イヤホンを使うためにリモコンを繋いでしまうと、本体のミュージックシャトルなど使うチャンスが全くないということである。どう考えても手元にあるリモコンを操作した方が早い。せいぜいプレーヤー起動時にシャトルボタンを押し込むぐらいか。



■ 既存のウォークマンと同じ音質

 最後に音質面に言及しておくべきだろう。SonicStage CPを使っても、ATRAC3 132kbpsしか選択肢がないため、出てくる音はいわゆる昔のMDウォークマンと同程度ということになる。オリジナルのCDから直接エンコードしたが、高域の粒立ちが若干粗い。シンバルのサスティン部分がヨレヨレになるあたり、どうしても圧縮フォーマットの限界を感じてしまう。

 一方でau Music Playerを使って転送した曲は、HE-AACコーデックで48kbps程度に圧縮される。ビットレートから想像するとずいぶん粗いような印象を受けるが、実際は粗いと言うよりもディテールがなくなって、ツルッとした音になるというほうが正しいだろう。

 ボーカル部分はそれなりに聞けるが、ライドやシェーカーなど金物系の高域は、半分ぐらいなくなっている感じだ。音質的には着うたフル相当だということだから、音楽配信のデータとしてはAACやATRACよりもプアだと言っていいだろう。

音質設定にはウォークマンらしい名称も見える

 音質補正機能としては、イコライザがNormalを含め5種類、BASS設定がOFFも含め3段階、高域の設定がON/OFFの2段階で設定できる。元々付属のイヤホンが低域寄りで、ボワッとした音質であるため、BASSの設定はあまり役に立たない。

 高域設定は「Harmonic Tune」という、圧縮で失われた高域を保管する技術を採用している。確かに高域のバランスはよくなるのだが、若干無理をして荒れてしまうのが残念だ。歪みを気にするのであれば、OFFのほうがすっきりする。

 ただ全体的な音の傾向は、従来のウォークマンとかなり近い。試しにMDウォークマンの最高峰「MZ-RH1」と比較して聞いてみたところ、傾向がほとんど同じだった。もちろん表現力はアンプの出来などで違いがあるが、多くの音楽プレーヤーでは、再生機を変えるだけで明らかに周波数特性の違いがはっきりわかるものだ。だが同傾向にチューニングしてあるあたり、ウォークマンブランドの意地が垣間見える。

 やはりせっかくウォークマンを名乗るのであれば、せめて現ウォークマンがサポートしているビットレートのATRAC3やATRAC3plusはサポートして欲しかったし、さらに利便性を考えればMP3やAACの再生にも対応して欲しいところだ。後日ファームウェアのアップデートなどで、ここも規制緩和されるとうれしいのだが。



■ 総論

 日本で発売されるウォークマンケータイW42Sの音楽再生機能は、むかーしメモリースティックウォークマンと言っていた時代のウォークマンと、機能的には変わらない。そしてそのウォークマンがどのような業績を上げたかといえば、言うまでもあるまい。

 だがこのケータイは、実際には売れてしまうだろう。au、ソニー・エリクソン、ウォークマンの3ブランドが揃って、注目されないわけがない。そもそも電車なんかで聴くケータイの音楽再生機能に対して、そんなにムキになって言うことないじゃないかという話は重々承知しているが、逆にそれを言いだしたら下限が限りなく低レベルになってしまう。

 その低レベル化によって消費者に聴く耳を持たせなかった結果が、結局日本の音楽シーンをダメにしたと思う。ケータイの音楽再生機能は、日本の音楽産業にとって非常に重要な位置を占める。そこにウォークマンブランドとして名乗りを上げる以上は、それ相応の位置付けとクオリティを期待しようというものだ。

 ソニー単体で出すウォークマンではなく携帯電話ということで、いろいろな制限があったり、既存サービスとの共存も図らなければならず、なかなか思い通りの仕様に仕上がらなかったのではないかと想像する。パケットを使って貰わなければ話にならないキャリアにしてみれば、ローカルで完結してしまうウォークマンの機能は、微妙なポジションなのだろう。

 「音質より利便性」は、マスの商品展開の上では正義となりうる。だが、着うたフルでは十分ではないという第一歩が、この製品が受け入れられる理由であって欲しいと願うばかりである。


□auのホームページ
http://www.au.kddi.com/
□ソニー・エリクソンのホームページ
http://www.sonyericsson.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.sonyericsson.co.jp/company/press/20060522_w42s.html
□製品情報
http://www.sonyericsson.co.jp/product/au/w42s/index.html
□関連記事
【5月22日】au、国内初の「ウォークマンケータイ」を6月発売
-1GBメモリ内蔵。「auは、まず音質より手軽さを」
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20060522/au1.htm
【6月19日】au、“ウォークマンケータイ”を20日より発売
-22日までに全国展開
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20060619/au.htm

(2006年6月28日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]



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