透過型液晶や反射型液晶(LCOS)の民生向けフロントプロジェクタの高級機が1,920×1,080ドットパネルを採用し「フルHD」を謳うようになってから久しいが、ついにその流れが民生向け単板式DLPプロジェクタにもやってきた。その第1号機とも言えるのが今回紹介する「VP-11S1」だ。 価格は189万円とかなり高価でソニーの「VPL-VW100」と比較しても約50万円高い。果たして、その実力はどのくらいのものなのだろうか。
■ 設置性チェック ~設置自由度はかなり高いが、騒音レベルも高い
本体はマランツ伝統ともいえる投射レンズを突き出させたデザインを踏襲。
本体サイズは405×481×158mm(幅×奥行き×高さ)で、いわゆる低価格普及機と比較するとかなり大きい。レンズシフト機能を組み合わせれば、サイドボードや本棚などの天板に設置する疑似天吊り設置も理論上は可能だが、天板の奥行きが50cm近く必要なので一般的な本棚などにそのまま載せるのは難しい。 本体重量は約13kg。頻繁な移動はたやすいことではないが、男性一人でも持てるレベルではある。とはいえ、この大きさでこの重さはやはり基本、常設設置ということになるだろう。 天吊り常設向けの専用天吊り金具としては「MOUNT20」(44,100円)が用意されている。なお、天吊り金具とVP-11S1の本体重量は総計20kgを超すので実際の天吊り設置施工の際には天井補強が必須となるはずだ。投射レンズはコニカミノルタ製の1.45倍マニュアル式ズームレンズを採用している。 100インチ(16:9)の最短投射距離は約3.2mで、いわゆる低価格普及機の短焦点性能に競合できるほど。「マランツ機は大きな部屋でないとダメ」というイメージを払拭している。 それでいて100インチ(16:9)の最長投射距離は約4.7m。長い投射距離でも不用意に画面を大きくせず現実的なサイズに収めることができるというのは特筆すべき点だ。つまり、VP-11S1は6畳クラスの小さな部屋から12畳クラスの大きな部屋まで対応できる、かなり自由度の高い設置性を持っているといえる。
この高い設置性の自由度をさらに後押ししてくれるのがレンズシフト機能だ。 VPL-11S1では投射画面を上下に移動させることができ、その範囲は上に165%(0.8H,1H=画面の縦方向の長さ)、下に85%(0.4H)まで。画質を重んじるマランツではこのシフト範囲のうち、光学的な高画質が維持されるのは上100%(0.5H)までとしており、それ以上(0.5H~0.8H)を「拡張レンズシフト範囲」と名付け、どちらかといえば非常用という位置づけにしている。VPL-11S1にはフォーカステストパターンの「格子模様」を表示する機能が搭載されているが、この格子模様が白色で表示されていれば「標準レンズシフト範囲」内にあることを表しており、それ以上シフトすると表示が緑色になり、これを「拡張レンズシフト範囲」としている。 また、マランツでは、「同じレンズシフト位置でも、レンズのズーム状態をテレ(縮小)方向に振った方が高画質が維持される」としている。画質を重視するユーザーは、このあたりのガイドラインも踏まえつつ、導入前の設置シミュレーションをじっくりと行なった方がいい。 なお、レンズシフト状態は本体上面パネルのダイヤルを回転させることで操作ができるが、操作は重くもなく軽くもなく使いやすい。それでいて、レンズの自重でシフト位置が変わってしまうこともなく、操作性はいい。なお、VP-11S1のレンズシフト機能は上下垂直方向に特化しており、左右水平方向には対応していない。つまり、設置時にはVP-11S1は必ずスクリーン正面中央に相対する必要があるということだ。 吸排気のエアーフローデザインは投射レンズ脇と底面のスリットから吸い込み、正面向かって左側面と背面のスリットから吐き出すようなデザインとなっている。吸排気スリットの数が多いので、設置の際にはこれらを塞がないように気をつけたい。 吸排気スリットが多いためかなのか、騒音レベルは最近の機種としてはかなり大きめ。マランツも騒音値の公称値を公開していない。VP-11S1の騒音レベルを身近なマシンで例えるとソニー・プレイステーション2(SCPH-30000)はおろか、Xbox 360よりも大きいほど。設置位置は視聴位置よりも2mは離しておきたいという感じはする。 光源ランプは最近の機種としては高出力タイプといえる200Wの超高圧水銀系のSHPランプを採用する。ランプの公称寿命は2,000時間と標準的。交換ランプは先代VP-12S4と同じ「LU-12VPS3」(52,500円)が純正設定されている。本体価格は200万近い高級機のVPL-11S1だが、交換ランプの価格はまずまずで、ランニングコストは低価格普及機とそんなに開きはない。 光漏れは皆無。吸排気スリットの数が多いVP-11S1だが、そこからの光漏れもない。
■ 接続性チェック ~HDMI入力を2系統装備。PC入力にも対応
接続端子パネルは背面にレイアウトされている。 デジタル入力端子としてはHDMI端子を2系統装備。HDMI端子はHD DVDやBlu-rayなどではなかば必須であり、PLAYSTATION 3のような最新ゲーム機にも採用されるので、この2系統装備は時代に適合した英断だといえる。 アナログビデオ入力端子としては、コンポーネント入力(RCA)を2系統、コンポジットビデオ入力と、Sビデオ入力を1系統ずつ実装する。コンポーネント出力を持ったAV機器はレコーダからゲーム機まで幅広いのでこれはありがたい。なお、D端子は備えていない。 PC入力はアナログRGB入力のD-Sub15ピン端子を1系統装備する。DVI端子はVP-11S1には実装されていないが、市販のDVI-HDMI変換アダプタを用いてPCとHDMI接続したところ、オーバースキャンもされず問題なく表示された。 この他、サービス向け端子のRS-232C端子、外部機器連動用のトリガ端子を3系統備える。 トリガ1端子は本体電源オンに連動してDC12Vを出力するものでスクリーン連動用といったもの。トリガ2端子はアスペクトモードに応じてDC12Vを出力するユニークなもので、16:9、4:3の映像ごとにスクリーンの巻き上げ位置を変更したりする場合に活用できる。第三のトリガ端子のリモート入出力端子はマランツ製品をディジーチェーン接続して連動制御するために用いる。
■ 操作性チェック ~使用頻度の高い機能に専用ボタンでアクセス。ユーザーメモリは18個!
リモコンは縦に長いバー状のもので、そこに緩いくぼみがありここに人差し指の付け根をあてがって持つと十字キーの上に親指が添えられるエルゴノミックデザインを採用。 リモコン右側面にはスライド式のスイッチがあり、これを入れるとリモコン上の全ボタンが自照式に発光するギミックが搭載されている。発光ボタンが横にあるのは暗闇でも押しやすいだけでなく、リモコンの上下を判断するのにも便利で使いやすい。 リモコン最上部に左右離れた形でレイアウトされているのは電源オフの[STANDBY]ボタンと電源オンの[ON]ボタン。[ON]ボタンを押して実際にHDMI入力された映像が表示されるまでの所要時間は44.0秒。最近の機種としてはかなり遅めといわざるをえない。 その下の段にある4つのボタンは基本的な画調パラメータを調整するためのものだ。 左端の[IRIS]は文字通り投射レンズの絞り(アイリス)状態を設定するもの。VP-11S1の投射レンズには迷光低減のために2段階切り替え型のアイリス機構が組み込まれているが、この[IRIS]ボタンを押すたびに絞りがF3.0(絞り開放)←→F6.0(絞り切り)と交互に切り替わる。メカニカルな切り替えではあるが押した瞬間に切り替わり待ち時間はない。
[LAMP]ボタンは、押すたびにランプの駆動モードを「省電力」←→「標準」と交互に切り替えるもの。省電力モードではかなり暗くなるので常用は「標準」でいいだろう。 [C.TEMP]は色温度の切り替えを順送り式に行なうもの。色温度は5,250K/5,800K/6,500K/7,500K/9,300Kの5段階に加え、最大輝度を得るためハイブライト(HB)モードが選択可能となっている。 [GAMMA]はガンマカーブを順送り式に切り替えるもの。ガンマカーブはA/B/C/D/Eの5モードに加え、シアター、スタンダード、ダイナミックの3つのプリセット画調モード用が登録されている。Aが最も暗部階調再現に振ったモードで、Eが最もコントラスト重視に振ったモードになっており、これも切り替え所要時間はゼロに等しく高速だ。 その下にある9個のボタンは入力切り替え用のもの(うち2個は機能しないダミーボタン)。[C1][C2]がコンポーネントビデオ1、2、[S]はSビデオ、[V]はコンポジットビデオ、[H1][H2]がHDMI1、2、[RGB]がPC入力に対応しており、各入力端子に1対1に対応する。ボタン名表記は分かりにくいが、順送り操作をすることなく、希望する映像をワンタッチで呼び出せるのはかなり軽快だ。なお、入力切り替えの所要時間はHDMI→コンポーネントビデオで約2.9秒、コンポーネントビデオ→Sビデオで約2.9秒とまずまずの速さ。 この下と右に逆L字型に配されているのは画調モードボタンだ。VP-11S1の画調モードの管理はやや変わっていてプリセット画調モードは「シアター」、「スタンダード」、「ダイナミック」の3種類しかないが、これら3つのプリセット画調モードをベースにしてエディットできるユーザーモードがそれぞれ3つずつ用意されている。 さらに、ゼロから作り込めるユーザー画調モード用のメモリがユーザ1~9と9個用意されている。つまり、3×3+9=18の18個のユーザーメモリが用意されていることになる。なお、この18個のユーザーメモリは全入力系統で共有される形で利用される。つまり、たとえばSビデオ入力選択時に画調調整して作り込んだユーザーメモリ1はHDMI入力選択時にも呼び出せると言うことだ。 なお、調整可能な画調パラメータとしては「コントラスト」、「明るさ」、「色の濃さ」、「色あい」、「シャープネス」といった基本パラメータに加え、「色温度」、「ガンマ」、「ランプモード」、「アイリス」、「ノイズリダクション」、「黒レベル」なとがあり、これらは全てユーザーメモリとして調整結果を保存することが可能だ。 リモコンボタンを光らせるためのスライドスイッチ付近に並ぶ4つの[B1][B2][B3][OFF]ボタンは、VP-11S1の特徴的な機能である「ブランキング」機能を呼び出すためのもの。このブランキング機能とは画面の上下左右の外周を任意のドット分だけ黒帯で覆い隠す機能のことで、たとえばオーバースキャンをキャンセルしてドット・バイ・ドット表示させたときに外周にゴミが表示される場合など、この機能を利用して隠すことができる。極力スケーリングによる拡大縮小表示を避けたいというマニアには使いでのある機能となるかもしれない。 アスペクト比は、十字キー左下の[ASPECT]ボタンによる順送り式切り替えか、最下段の[FULL][NORMAL][ZOOM][THRU]ボタンによる一発切り替えによって変更可能。 用意されているアスペクトモードは以下の5つ。
Vストレッチモードのみ、順送りで切り替えられる専用アスペクトモードということになる。アスペクトモードの切り替えは瞬時に行なわれるので待ち時間はなし。 十字キー下の4つのボタンはVP-11S1の動作モードを切り替えるためのもの。 [CINEMA]は3-2プルダウンモードのオン(オート)、オフを切り替えるもの。[VCR MODE]は古いビデオソースなどの再生時、走査線がぶれるなどの症状の改善を試みる。これは通常はオフで常用するのが望ましい。[BLACK]は黒レベル基準値の変更を行ない、画調パラメータの「明るさ」、「コントラスト」とは別管理のとなる。日本と海外では映像の黒レベルの開始点が違う場合があり、そうした映像の正常表示を行なうために利用する。
[PATTERN]は本体設置時のフォーカス合わせや水平垂直出しの際に利用する格子模様を投射するためのもの。 上級ユーザーの使用頻度が高い入力切り替えとアスペクトモード切替を独立ボタンレイアウトしていたり、使用頻度は高くなくても、主要な調整項目や機能設定についてもメニューを潜ることなく機能にアクセスできる専用ボタンを設定しているのがマランツらしい。VP-11S1をマルチユースモニター的に活用したいと考えている人にとっては、この操作系に満足ができるのではないか。 惜しむらくは、ピクチャーインピクチャー的な2画面表示や表示映像をスチル化する静止機能といった最近の薄型テレビに搭載されている面白系便利機能が一切搭載されていない点か。また、汎用リモコンを流用している関係からか、機能しないダミーボタンがある点も、200万円近い商品と考えると、もうひといきがんばってほしかったと思う。
■画質チェック ~単板式DLPプロジェクタとしては最高位の暗部階調表現
VP-11S1の画質面における最大のトピックはなんと言ってもそのパネル解像度だろう。既に業務用DLPプロジェクタでは採用されていたとはいえ、民生用単板式DLPプロジェクタとしては初めて1,920×1,080ドットのフルHD解像度に対応したのがこのVP-11S1だけに注目度は高い。
映像パネルのDMD(Digital Micromirror Device)チップは0.95型で解像度は前述の通り1,920×1,080ドット。パネル(DMD)枚数は民生機なので1枚、すなわちロータリーカラーフィルターを組み合わせた単板式DLPプロジェクタということになる。DMDチップを独占製造するTexas Instruments(TI)は当面民生機に3板式DLPソリューションを持ち込む方針はないと宣言していることから、3板式を待つのは得策ではないだろう。 もう一点気になるのは1,920×1,080ドットが“リアル”解像度なのかという点だろう。 TIは時分割画素描画技術を用いることで、960×1,080ドット解像度の100万画素DMDチップで1,920×1.080ドット相当の200万画素映像を映し出すSmoothPicture技術を発表しており、これがリアプロジェクションテレビに広く採用されている。VP-11S1ではこのSmoothPictureベースではなく、リアル解像度の1,920×1,080ドットのDMDチップを採用している。 実際にその投射映像を見てみると、解像感は圧倒的。プロジェクタの場合、液晶テレビやプラズマテレビと違ってRGBのサブピクセルが分離していないため、サブピクセル同士の干渉による偽色が発生しにくく画素数以上の高い解像感がある。また、DMDの特長でもある画素間の隙間が非常に狭いために、100インチオーバーの大画面として投射してもざらついた粒状感がほとんど感じられない。 投射レンズもなかなか優秀で、若干の上方向レンズシフトを活用した状態での視聴をしたが、フォーカス精度が高く、目立ったフォーカス斑は確認されなかった。色収差も最低限で、映像の外周で若干確認できる程度で、解像感を劣化させるものではない。この卓越した光学性能も、VP-11S1のトータルな高解像感に貢献していると思って間違いない。
最大公称光出力は700ANSIルーメン。省電力モードで600ANSIルーメンとなるが、700ANSIルーメン時は蛍光灯照明下でも映像の概要は確認できるほど明るい。遮光カーテンを引く程度の薄明かりを作り出せば、食事をしながらのニュースやバラエティ番組程度の視聴は行なえる。 ところで、読者の中には、民生普及価格帯機と比較してかなり高出力な200Wランプを用いていてなんで700ANSIルーメンしかないのか? と疑問を感じた方もおられるだろう。これにはワケがある。 VP-11S1を含む単板式DLPプロジェクタでは回転させたRGBのカラーホイールに光を通し、時分割式にRGBの単色映像を表示して、視聴者側の脳でフルカラーを認識させる時間積分型フルカラー表現を行なっている。つまり、瞬間、瞬間的には各RGBの単色映像を投射しているわけだ。 そしてVP-11S1も採用する超高圧水銀系ランプは緑(G)や青(B)と比べて赤(R)の出力特性が弱いことが知られている。そこで、VP-11S1ではGB光をカラーホイールに通す際に、ランプの光出力を減退させてRGBのスペクトルバランスをフラットにする仕組みを取り入れたのだ。マランツによれば、緑(G)と青(B)での光出力をいくらか切り捨てることで、VP-11S1では通常の超高圧水銀系ランプに対し相対的に赤出力を25%も高められた、という。本来ならば1,000ANSIルーメンクラスの最大輝度が得られる光源ではあるが、マランツでは色純度を向上させることを優先したというわけだ。 その甲斐あって、確かに超高圧水銀系ランプ採用機とは思えないほど赤の純度が高い。水銀系は赤が朱色に寄った感じがあるものなのだが、そういう傾向はかなり抑えられており、鋭い赤が出ている。緑や青も鮮烈で、色再現性に関しては200万円近い価格に見合ったクオリティにはなっている。人肌の発色は、やや緑が強い印象もあるものの、概ね良好。超高圧水銀系ランプでここまで出せていれば立派なものだろう。 色深度も単板式DLPながらがんばっている。おそらく単板式DLPの機種の中でトップレベルの色深度が再現できていると思う。単板式では表現の難しい2色混合のカラーグラデーションも疑似輪郭がほとんどなく良好であった。
これは、新開発の7セグメント6倍速カラーフィルタによる恩恵が大きいだろう。回転速度は実に10,800rpm、分解能周波数でいうと360Hzにもなるわけで、これが色深度の深さに結びついているのだ。 それでは、この6倍速化により単板式DLPの最大の弱点である、色割れ(カラーブレーキング)が無くなったか…… というと通常の映像を見る限りではだいぶ目立たなくなったが、やはりまだ時折感じる。今回、たまたま著名ゲーム開発者の6人に評価に立ち会ってもらう機会に恵まれたが、うち3人が色割れの知覚を訴えていた。6人ともプロジェクタの予備知識がほとんど無いものの、職業柄フレームレートを目視で判別できる人なので、かなり特殊な結果だとは思うが、いずれにせよ、6倍速でも色割れを感じてしまうのは筆者だけでないことは確認できた。 まぁ、こればかりは原理的にどうしても免れないので、割り切りは必要になる。ちなみにどうしても色割れを感じてみたい人は、[PATTERN]ボタンで格子模様を表示して視線を画面内で上下左右に動かしてみるといい。RGBに分解された格子模様が見えるはずだ。あるいは映画の白色文字の字幕を左から右に読んでいくだけで文字がRGBに分解されて見えることもある。 さて、7セグメントの内訳はRGBがそれぞれ2セグメントずつ、残る1つは暗部階調再現と暗緑色再現に特化したND+DGのセグメントだ。NDはNeutral Densityで減光を意味し、DGはDark Greenを意味する。単板式DLPといえば暗部階調表現が苦手なわけだが、この6倍速分解能に加えてND+DGセグメントの効果もあり、暗部階調のディザリングノイズが驚くほど低減されている。
また、この単板式DLPとは思えないほどの暗部階調表現のきめ細やかさは、VP-11S1に搭載された新開発のDMDドライバチップ「DDP3021」も少なからず貢献していると思われる。従来、10bit分解能で制御していたガンマカーブを、DDP3021では12bit化したのだ。「暗い色の服の陰影」、「黒いグランドピアノに映り込んだ情景」などは単板式DLPにとっては拷問のような映像のはずだが、こうした工夫の複合的な成果により、パッと見、3板式液晶と変わらないリニアで滑らかな暗部階調表現ができている。暗部階調表現に厳しめの画質マニアでも、これならば合格点が出せるはずだ。 公称最大コントラストは6,500:1となっているが、これは動的ランプ駆動などのギミックを使わないネイティブコントラストの値。6,500:1はアイリスを絞ったF6.0状態なので、実際その映像を見ると明部の輝きがかなり落ちてしまう。アイリス開放のF3.0時の数値は公開されていないが、数千:1はありそうで、平均的な3板式液晶プロジェクタを遙かに凌ぐコントラストが得られている。恐らく液晶からの移行組ならばアイリス開放時でも、十分なハイコントラスト感を実感できるのではないだろうか。 なお、VP-11S1には、低価格普及機で流行中の動的なアイリス制御や動的なランプ駆動によるハイダイナミックレンジ機能は搭載されていない。これは、ネイティブコントラスト性能に自信があるからだろう。実際、黒浮きはかなり抑制されており、同時に明部のダイナミックレンジも十分だ。小細工無しでも十分にハイダイナミックレンジな表現は実現できていると感じる。
■ まとめ ~高い基本画質性能が「フルHD」を際立たせる どうしても「フルHD」というトピックばかりが取り沙汰されてしまうが、使ってみると、「単板式DLPプロジェクタ」としての基本画質性能が高いことにまず驚かされた。 暗部階調表現が非常にリニアリティに富んでおり、色深度が深いことにも感動を覚える。投射レンズの性能もなかなかで、フォーカス斑も色収差も少ない。パネル解像度をフルHDにしただけでなく、フルHD解像度を的確に投射可能な光学性能を身につけている、という印象だ。また、ビデオプロセッサ「GF9351」が優秀で、その卓越したIP変換とスケーリング処理が、「質感」としての画質を1段階上のものにしてくれている。 こうした基本画質性能の向上が「フルHD」をさらに引き立てているという感じで、「フルHD」プロジェクタとしても「単板式DLPプロジェクタ」としてもVP-11S1の画質は優秀だ。 レンズシフト機能と高倍率レンズの採用で設置性が向上、HDMIも2系統装備で接続性にも死角がない。価格を度外視すればとても万人向けの製品となったと思う。惜しむらくは、動作音がやや騒がしいという点か。 やはりネックとなるのは価格だろう。 「フルHDプロジェクタ」というキーワードだけに目を向ければソニー「VPL-VW100」が136万5,000円。189万円のVP-11S1との価格差は大きい。ただし、交換ランプ価格は、VPL-VW100がキセノンランプを採用している関係で、VP-11S1の2倍も高価(103,950円)で、ランニングコストの面ではVP-11S1の方が圧倒的に安い。 50万円の価格差に対し、「最高位の単板式DLPプロジェクタ画質」の価値や、「ランニングコスト」をどう見極めるか、が選択の要となるだろう。
□マランツのホームページ (2006年7月13日) [Reported by トライゼット西川善司]
AV Watch編集部 |
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