~ 補正ONで「Supreme」は「H2C」に比べ特殊な変化 ~ |
Media KEG HD30GA9 | gigabeat S60V |
中でもSupremeは早くからその名前は知られており、Digital Audio Laboratoryでも5年前、2001年12月に最初に取り上げている。ここで扱ったのはSupreme2を搭載したTDKの「MP3 Audio Magic XPサラウンド」。また翌年にはケンウッドにSupremeについての取材も行なっている。
その後もTDKはMP3 Audio Magicシリーズとして、Supremeを搭載したソフトをいろいろリリースしていたが、現在ではすべて取りやめになり、ソフト自体流通もしていない。なかなか面白いアプローチのソフトではあったが、そもそもPCで音楽をいい音で鑑賞するという文化が根付かなかったのか、あまり流行ることもなく消えてしまったようだ。
そのSupremeがケンウッド自身のプレーヤーに搭載されたので、以前の実験を多少思い出しながら検証してみたい。一方の東芝のH2Cテクノロジーも先日インタビューしたとおりであり、九州工業大学の技術を東芝のデバイスへポーティングするとともにチューニングを行なったものだ。実際どの程度の違いがあるのかを見ていこう
まずは音質補正技術のチェックの前に各機器の基本性能からチェックしてみた。前回同様、-6dBの1kHzのサイン波を再生し、UA-1000を用いて録音した。
さっそくそのサイン波を録音した結果をスペクトラム分析してみたところ、不思議な結果が見えてきた。Webサイトや雑誌でのレビューで評価の高い、ケンウッドのHD30GA9で、あまり素直でない結果となっているのだ。グラフを見ると2kHz、3kHz、4kHzと高調波がかなり出ているほか、ほかの周波数帯でもノイズがかなり目立つ。S/Nを見ても、58.08dBとあまり芳しくない。それに対してgigabeatのほうは、かなりMP3本来のスペクトラムに忠実で、S/Nも83.24dBといい結果になっている。
「Supreme」オフ時のサイン波 | 「H2C」オフ時のサイン波 |
無音のMP3を再生したときのノイズレベルを比較しても、同じ傾向が現れる。つまりHD30GA9では-65dB程度とかなり大きいノイズが常に乗っているのに対し、gigabeatは-92dB程度と非常に優秀。前回の2製品も並べて比較すれば、gigabeatとD-Snap Audioは極めて低ノイズなのに対し、HD30GA9だけはちょっと質が落ちるという結果だ。
HD30GA9での無音MP3再生時 | gigabeatでの無音MP3再生時 |
「Supreme」設定時 | 「H2C」設定時 |
「Supreme」オン時のサイン波 | 「H2C」オン時のサイン波 |
続いて、矩形波はどうだろうか? まず、音質補正技術をオフの状態で見てみよう。これを見て驚くのは、HD30GA9は補正しているわけではないのに、高調波が出ていて、MP3化する前のオリジナルのWAVに近い結果となっているのだ。一方のgigabeatはMP3データのスペクトラムに非常に忠実な結果となっている。なお、横軸を対数にしたグラフでは、特に目立った変化はなかったため、今回は横軸をリニアにとったものだけにしている。
「Supreme」オフ時の矩形波 | 「H2C」オフ時の矩形波 |
では、ここにSupreme、H2Cテクノロジーをオンにするとどうなるだろう? すると、さらに驚くことにSupremeにおいては、高域のレベル的にも、ほぼオリジナルに忠実な結果となった。H2Cテクノロジーもかなりがんばっており、オリジナルに近づけてはいるが、Supremeの再現具合いと比較すると、やや見劣りしてしまう。さすが、音質補正技術の老舗だけのことはあるようだ。
「Supreme」オン時の矩形波 | 「H2C」オン時の矩形波 |
ただ1点気になったのは、HD30GA9の時間軸に対する音量の変化だ。本来なら-10dBと一定レベルの矩形波であり、MP3化してもレベルの変化はない。ところがHD30GA9では一定周期でのうねりがあるのだ。さらにSupremeをオンにするとそのうねりが、さらに激しくなる。ただし、聴感上、うねりを感じるほどのものではなかった
通常のMP3 | HD30GA9では一定周期のうねりが発生 | Supremeをオンにするとうねりが増す |
リズム&ベース素材 | |
「Supreme」オフ時 【音声サンプル】(3.03MB) |
「H2C」オフ時 【音声サンプル】(3.05MB) |
楽曲(Jupiter) | |
「Supreme」オフ時 【音声サンプル】(15.1MB) |
「H2C」オフ時 【音声サンプル】(15.1MB) |
その一方で、gigabeatはMP3のデータを忠実に再生しているといった感じだ。HD30GA9はデジタルで意図的に変換して高域を持ち上げているのか、それともアナログ回路上でそうしているのかはハッキリしないが、この辺は明らかに違う。ただし、リズム&ベースのハイハットの音をチェックしたとき、2つの機種間で大きな音の違いはあまり感じられない。
では、ここでSupremeとH2Cテクノロジーをオンにして、それぞれを再生してみよう。その結果、それぞれ高域が持ち上げられているが、HD30GA9のSupremeでは、オリジナル以上に高域が上がっているのがわかる。一方、gigabeatのH2Cテクノロジーでは、16kHzを境に、一段レベルが下がっているのが確認できる。
リズム&ベース素材 | |
「Supreme」オン時 【音声サンプル】(3.18MB) |
「H2C」オン時 【音声サンプル】(3.07MB) |
聞いた感じではSupremeのほうがよりハッキリ音が変わっていることを実感できる。またどちらも聞き心地はよくなっているが、オリジナルを再現するような音かというと、そうではない。やはり、オリジナルの復元というのは、なかなか難しい。
高域を大きく持ち上げているため、音量オーバーでクリップした |
ただ、ここで一点、HD30GA9で問題が生じてしまった。高域を大きく持ち上げているだけに、JUPITERで音量オーバーし、クリップしてしまったのだ。これはSound Forgeで波形を見れば一目瞭然で、聞くとハッキリと音が割れているのがわかる。もっともこれはUA-1000に入力した際のレベルオーバーであって、HD30GA9の出力で割れているわけではない。そこで、UA-1000の入力レベルを下げて、音が割れないようにしたデータを載せておくので、これでSupremeの音を確認していただきたい。
楽曲(Jupiter) | |
「Supreme」オン時 【音声サンプル】(15.1MB) |
「H2C」オン時 【音声サンプル】(15.2MB) |
楽曲データ提供:TINGARA |
このように見ていくと、HD30GA9はかなり特殊な音の特性を持っていることがわかる。つまりMP3サウンドそのものを忠実に鳴らしているわけではないが、結果としてそれが聞き心地のいい音となり、一般の評価も高いのだろう。この音をどう評価するかはユーザー次第だが、ケンウッドではマイスター制度など、人間の耳でテストし、良いと感じた音を作り上げていくという、まさにオーディオメーカーらしい製品作りをしているようだ
次回は、ポータブルプレーヤー以外での音質補正技術についてもチェックしてみる。
□ケンウッドのホームページ
http://www.kenwood.com/jhome.html
□東芝のホームページ
http://www.toshiba.co.jp/
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(2006年7月31日)
= 藤本健 = | リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。 最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。 |
[Text by 藤本健]
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