■ 映画よりもセットが話題に?
撮影後のセットは一般に有料公開され、観光名所として多くの人が訪れた。しかし、尾道出身の大林宣彦監督が「セットは映画の中で初めて意味を持つ。戦争やふるさとを商売にしているようで恐ろしい」と批判したことも話題に。個人的には映画そのものよりもセットの方が印象に残っている奇妙な作品だ。 セットの見学には行けなかったが、テレビで取り上げられるたび、スケールの大きさに圧倒された。同時に、監督が「ウパー!」で知られる迷作「北京原人 Who are you?」と同じ佐藤純彌氏だと知り「こんなもの造っちゃって採算とれるのかなぁ……」と、余計な心配をしたことを覚えている。 だが、予告で流れる映像は邦画とは思えないほど迫力満点。公開してみれば400万人を動員し、興行収入は50億円と、大ヒットを記録。反町隆史や中村獅童の熱演も高く評価された。 原作は、23年前に書かれた辺見じゅんによる同名小説。大和の乗組員3,333人の内、生き残った260数名の消息を追い、117人の人々を見つけ出し、膨大な取材の積み重ねて書き上げた大作である。
DVDは「通常版」(DSTD-02566/3,990円)と「特別限定版」(DSTD-02603/8,190円)の2タイプを用意。通常版は本編ディスクのみ、特別限定版は2枚の特典ディスクを同梱した3枚組となっている。発売翌日である8月5日に新宿のビックカメラに向かったところ、通常版/特別限定版ともにまだ在庫があった。今回は特別限定版を購入した。
■ 最初から男泣き 鹿児島県・枕崎で漁師をしている神尾(仲代達矢)のもとに、内田真貴子(鈴木京香)と名乗る女性が現れる。鹿児島から船で5時間以上かかる東シナ海のある地点まで連れて行って欲しいと懇願され、15歳の漁師見習い・敦とともに、3人は船出する。その地点とは北緯30度43分、東経128度04分。60年前、15歳だった神尾(松山ケンイチ)を乗せた戦艦・大和が撃沈された地点だった。 昭和19年2月、憧れの大和に乗り込んだ神尾たち特別年少兵を待ち構えていたのは、厳しい訓練と上官のシゴキの毎日。だが、対空機銃の射手である内田二兵曹(中村獅童)、烹炊所の班長・森脇二主曹(反町隆史)ら、尊敬できる先輩と出会い、それぞれの持ち場で懸命に役割を果たしていく。 その後、レイテ沖海戦での実戦を経験。少年達は、いつ、誰が死ぬかもわからない戦場の厳しさを知り、自らの命の意味や、陸で自分を待つ母親や幼馴染の少女の事を想う。 だが、戦況はさらに悪化し、米軍が沖縄に来襲。そして「一億総玉砕の第一陣」として、大和に沖縄への無謀とも言える特攻が命じられる。つかのまの帰港で肉親らとそれぞれの別れをする少年兵達。彼らを乗せた大和以下10隻の艦隊は、戦闘機の援護も無いまま、沈むことを覚悟した最後の航海に出るのだった……。 物語のベースは史実だが、現代の神尾と真貴子の物語が時折挿入され、大和の物語は神尾の回想という形で描かれていく。プライベート・ライアンやタイタニックと似たような構成だ。一応の主人公は神尾なのだが、上官を含め、各々のキャラクターが立っているため、「乗組員全員が主人公」といった趣だ。 最大の特徴は、大和の乗組員の視点で物語が展開すること。カメラは少年兵に密着し、彼らの生活や悩み、家族との別れなどを情感豊かに描いていく。特に、最後の出撃前に「死んだらいけんよ」と泣きながら我が子を抱くことしかできない母親や、「今までありがとう。僕の事は忘れてください」という手紙を出す少年兵など、ストーレートに胸を打つ場面が多く、彼らの幼さも相まって悲痛さに涙がこぼれる。もっとも、個人的に大和や神風特攻の物語にはめっぽう弱いので、開始10分とたたず、大和の船影が写し出されただけでウルウルしていたのだが。 ただ、それぞれの乗員があまりにもドラマチックな別れをするため、映画としてのあざとさが見える部分もある。また、視点が徹底して大和乗員に固定されているため、戦争の全体像や戦況は登場人物のセリフやナレーションで簡単に触れる程度。大本営の様子や天皇陛下が登場することもなく、米軍に至っては飛来する戦闘機のみでアメリカ人は1人も登場しない。巨大な戦艦大和を舞台としているにも関わらず、閉鎖感というか、箱庭感がある。 また、「海軍精神の注入」の名のもとに行なわれる少年兵達への鉄拳制裁やケツバットなど、辛いシーンも含まれているのだが、靖国や天皇陛下などの言葉はほとんど登場せず、軍国主義下の独特の雰囲気は感じられない。そのため、大和の玉砕に至った理由や、戦時下の思想などがよくわからない人にとっても飲み込みやすい物語になっている。 同時に、そのあたりをバッサリ切り落として良いものなのかという疑問も浮かんだ。ただ、「なぜ年端も行かない少年達が死ななければならなかったのか」、「負けるとわかっている無謀な作戦が実行されたのか」という疑問を抱くキッカケには十分なるだろう。そうした要素も組み込んでくれれば映画としての厚みがグッと出たと思うのだが、悪く言うと「お涙頂戴映画」に見えてしまうのが残念な点だ。 映画としての見所は、なんといっても大和の映像と戦闘描写だ。大和の全長は263m、艦橋の高さは40mで13階のビルに相当する。引きの映像で巨大な甲板の上を小さな人間が歩くシーンでは、呆れるほどの巨大さが良くわかる。原寸大セットと背景CG、人物を上手く合成したからこそできた映像といえるだろう。 ただ、大和全体を作ったわけではないので、アングルに制約が生じたのか、似たようなアングルの映像が多いことが気になる。例えば鳥のような視点でカメラが近づき、甲板の主人公にまでズームするなどの、大和全体をアクティブに写した映像が無い。終盤の激戦では、ハエのように群がる戦闘機と、雨のように対空機銃を全方位に撃ちまくる大和という引きのショットはあるが、凄まじい遠景か、近い固定アングルかの2つしかなく、両者のつながりに乏しい。後述する特典のインタビューによれば、監督によるこだわりなのだそうだが……。 大和と言えば、史上最大の46cm主砲(3連装砲塔)を忘れてはならない。発射された徹甲弾は約35km先にある、厚さ391mmの装甲も打ち抜くという破壊力。発射する前に人員を船内に収容しないと、爆風と衝撃波で甲板にいる味方がみんな吹き飛ばされてしまうという冗談のような大砲だ。映画ではサブウーファを震わす轟音で再現されており「こんな映像/音声で大和の主砲発射が観られるとは」と、画面に向かって敬礼してしまった。 反面、主人公達の戦闘シーンは悲惨の一言に尽きる。多くの観客は、米軍戦闘機が発射する機銃の威力に驚くだろう。戦艦の大砲から見れば小さな銃だが、航空機の機銃の威力は普通の小銃とは次元が違う。直接当たれば人間の体など木っ端微塵。映画ではさすがにそこまでのシーンは無いが、血しぶきが舞い、対空機銃に固定した足だけ残して体が後方に千切れ飛ぶなど、容赦の無い描写が続く。「壮絶な死」という形容詞がこれほど当てはまる場面も無いだろう。 俳優陣の熱演も評判通り。反町演じる森脇と、中村獅童演じる内田はいかにも上官の命令を無視しそうな芯のある男っぷりで、2人の熱い友情も良く伝わってくる。現代の神尾を演じた仲代達也も流石の演技力で、静かな涙をさそう。少年兵達も海軍式敬礼や艦内でのキビキビした動きを再現しており、随所に海軍らしさが伝わってきた。 ただ、精神偏重主義に批判的で「日本は敗れて目覚めるしかない」と信じるクールな臼渕大尉を演じるのが長嶋一茂というのはどうなのだろう。いや、演技は悪くないし、死を前にした船員達の心を救う含蓄のあるセリフも感動的なのだが「バラエティで天然ぶりを発揮しまくっている一茂に言われてもなぁ」と、妙に冷めた気持ちになってしまった。
■ 46cm主砲を鳴らしきる。特典は山盛り DVD Bit Rate Viewerでみた平均ビットレート5.81Mbpsと低め。画質は標準レベルで、解像度は低めだが、発色は暖色系を中心に鮮やか。人の温かさを強調するような絵作りだ。遠景では疑似輪郭が気になるシーンもいくつかあった。暗部も色がざわついているが、作品の雰囲気から考えるとそれほど違和感はない。最後にかけての戦闘シーンは、煙の中を飛行機が飛び交い、めまぐるしくアングルが変わるなど、厳しい条件だがよくねばっている。 音声はドルビーサラウンドとドルビーデジタル5.1chの2種類。ドルビーサラウンドは384kbps、ドルビーデジタル5.1chが448kbps。サラウンドは非常に音場が広いのが特徴。BGMだけでなく、風や波の音などの環境音も遠くで部屋を包み込むように鳴る。DSPモードを何か入れてしまったのかとAVアンプの設定を確認してしまった。久石譲による空気感あふれるBGMにはこのくらいのサウンドデザインが似合うだろう。センターのセリフはキッチリ聞き取れるので観賞中のストレスはない。ただ、雄大すぎて定位感は今ひとつだ。 音声の見せ場はなんといっても戦闘シーン。機銃の音や戦闘機が飛び交う音はどれも鋭利で明瞭だ。ただ、画面の激しさから考えると重低音は控えめ。圧巻は46cm主砲の発射音。7、8種類の音を組み合わせ「映画館が壊れるほどの音が作りたかった」(音響の柴崎氏)という音は必聴だ。もちろん実際に大和の主砲など聞いたことはないが、戦車の主砲や榴弾砲なら間近で聞いたことがある。もはや音ではなく、風圧というか、空気の固まりにぶん殴られるような体験だったが、大和の音もそれに近く、空間が震えるような音でゾクゾクする。単なるドーンとか、ボーンとかいう低音とは一味違う。サブウーファレベルを思い切って上げ、それぞれの環境で最高に迫力がある主砲音を追求してみるのも面白いだろう。
ロケセットに行っていない身としては、まるで尾道まで旅をしたような紹介映像が嬉しい。セットの中を歩き回るような映像で、撮影中の模様も紹介。さらに、一般公開で人が押し寄せ、ハイチーズならぬ「ハイ、ヤマト!!」で記念撮影をしているところなども。名物「大和カレー」もおいしそうだ。ちなみに2005年7月から2006年5月までの約10カ月で、延べ100万2,000人が来場したというから凄い。 撮影の舞台裏では、自衛隊の艦船も協力。大和とほぼ同サイズの護衛艦を航行させ、船首が波をかき分ける映像を上から撮影。波の映像だけを大和セット映像と重ね合わせることで、大和が航行してるように見えるという寸法だ。 特撮監督の佛田氏によれば、最初は当時撮影された記録フイルム映像をデジタル処理で復元して使おうと考えていたが、これが頓挫。フルCGで作る案も出たが、模型を使った従来の特撮が確実だと判断。最終的にミニチュア80%、CG 20%という割合で作られているという。模型制作は呉の大和ミュージアムの1/10大和を作ったスタッフに依頼。1/35サイズ(全長約7.5m)と、1/17.5の艦橋ミニチュアを作ってもらったという。 戦闘シーンでは大規模なプールを使ったのだと考えていたが、佛田氏のアイデアで水しぶきを砂で代用する方法を採用。模型大和でも、現実に近い質感の水柱が表現できたという。映画を見ていても、よもやそれが砂だとは思わなかったので非常に驚いた。見事なアイデアだ。
さらに、封入特典として100ページにおよぶ解説書「秘録・大和伝説」を同梱。これまた良く出来た本で、原作者へのインタビューや人物相関図など、映画関連の内容に加え、大和セットの探訪記や、セット解体時の模様なども見ることができる。また、大和の装備や構造も超詳細な資料も収めており、読み物として十分楽しめた。
■ 戦争映画が苦手な人も観るべし 事実を克明に追ったドキュメンタリー映画ではなく、かといって完全に架空の物語というわけでもない。「大和を舞台にした人間ドラマ」といった趣だ。原作者の辺見じゅんも映画化にあたり「戦争映画にはしないで欲しい」と注文をつけたという。「“男たちの大和”は愛と死の物語」なのだと。観賞後、その言葉が深く胸に響いた。 軍事マニア的視点で見ると「沖縄までの片道の燃料しか積んでいなかったのは誤って広まった情報で、本当は十分な燃料があったんだ」とか、「対空機銃の反動があんなに少ないわけがない」など、いろいろと注文を付けたくなるが、ヒューマンドラマとしての作品の魅力に影響があるほどではない。 逆に、マニアックな雰囲気が薄いため、戦争映画が苦手だと言う人にも観て欲しい作品だ。登場人物は男だらけで、目をそむけたくなるような描写もあるが、それがこの映画の本質でもあるため、避けるわけにはいかない。死んでいく少年兵達の姿が戦争のむなしさを強烈に訴えてくる。そして、「死ぬとわかっていても戦う」男達の姿に、同性として、何かえもいわれぬ熱いものがこみ上げてきた。 特典内容は非常に充実しており、通常版(3,990円)と特別限定版(8,190円)の2倍以上の価格差も個人的には許容範囲。パッケージに描かれた無骨な大和のシルエットにグッときたら、迷わず特別限定版を選ぼう。靖国神社への参拝が問題になっている昨今だが、もう一度戦争のことを考え直すキッカケとしても、意味のある作品だ。
http://www.toei-video.co.jp/ □DVDのソフト情報 http://www.toei-video.co.jp/DVD/sp21/yamato.html □映画の公式ページ http://www.yamato-movie.jp/ □関連記事 【4月10日】東映ビデオ、「男たちの大和/YAMATO」を8月にDVD化 -限定版は3枚組み。6億円で大和セットを建造した大作 http://av.watch.impress.co.jp/docs/20060410/toeiv.htm (2006年8月8日) [AV Watch編集部/yamaza-k@impress.co.jp]
AV Watch編集部 av-watch@impress.co.jp Copyright (c)2006 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved. |
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