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第260回:USBオーディオの音質補正機能を検証
~ クリエイティブ「Xmod」と日立マクセル 「Vraison」を試す ~



 以前、4回に渡って、MP3などの圧縮音楽の音質を補正する技術について検証した。その際は、ポータブルプレイヤーを中心にAVアンプなどについてもチェックをしたが、最近になって、USBデバイスとして、クリエイティブメディアの「Xmod」と日立マクセルの「Vraison」が登場してきた。

 今回はこれらの性能について、以前と同様の実験を行なってチェックした。

クリエイティブメディア「Xmod」 日立マクセル「Vraison HP-U48.OH-BK」のユニット部「VC-48」



■ USBオーディオに音質補正機能を内蔵

 クリエイティブメディアのXmodは「スタジオクオリティを超えるオーディオ体験」というキャッチコピーのもとに発売されたコンパクトな製品。何のための製品かやや分かりにくいのだが、大きく2つの目的を持っている。

 ひとつ目は、MP3ポータブルプレイヤーなどの出力に、フィルタのようにXmodを通して再生することで、音質補正をかけたり、3D効果を与えることができるという機能。もうひとつは、USBオーディオデバイスとして、PC側で音を再生する際、同様の音質補正効果や3D効果を利用するというものだ。

 一方、日立マクセルの「Vraison」は「高音質化システムヘッドホン for PC」となっているが、実はヘッドホンとはいってもXmodとかなり近い製品なのだ。

 というのも、VraisonはUSBデバイスとヘッドホンがセットになっており、USBデバイスのほうはXmodのように、USBオーディオとして機能するようになっている。ちなみに、Vraisonには4つの製品があり、ハイエンドモデルとしては、密閉型のオーバーヘッドタイプ、インサイドイヤータイプ、スタンダードモデルとしては、オープン型のオーバーヘッドタイプとカナル型がラインナップされている。

 今回はハイエンドモデルのうち、オーバーヘッドタイプのヘッドフォン「VH-OH48」が付属する「HP-U48.OH-BK」を使った。ただし、今回の目的はヘッドホンそのものの特性を調べるのではなく、あくまでもデバイスとして、どのように音質が変化したのかをチェックする。そのため、ヘッドホンそのものは使わず、USBオーディオユニット部の「VC-48」のみを使用した。

XmodをPCと接続して利用。ヘッドフォンは別売 HP-U48.OH-BKにはPC接続のユニット部「VC-48」にヘッドフォン「VH-OH48」が付属する



■ 手軽に使えるXmodだが、効果は微妙?

 では、順番に見ていこう。まずは、Xmodから。前述したとおり2つの使い方があるが、外部機器の信号を入力して使う場合は、オプションのACアダプタが必要になる。また評価もしづらいため、ここではUSBオーディオで再生するときの特性を見た。

 このXmodが面白いのは、Windows標準のUSBオーディオデバイスである、ということ。つまりドライバをインストールする必要なく、USBで接続すればすぐに使える。そのため、ドライバ側にはとくに設定項目もなく、音質補正などはすべて、このリモコンのような形のXmod本体が行なっているようだ。

本体に備えるハードウェアスイッチでオン/オフや調整を行なう

 本体にはX-Fi CRYSTALIZERのON/OFFスイッチと、X-Fi CMSS 3DのON/OFFスイッチの2つ、そして中央にちょっと重めのロータリーコントローラがある。このロータリーコントローラはクリックが可能で、3つあるLEDの部分もクリック可能。これらのスイッチとLEDだけで各種設定を行なっていく。

 といっても、設定内容がいろいろあるわけではない。ボリュームレベルの調整とX-Fi CRYSTALIZERのかかり具合を0~100%の範囲で設定するほか、同じくX-Fi CMSS 3Dの0~100%の設定が行なえる。現在何%になっているかを見ることはできないため、ややわかりづらいユーザーインターフェイスではあるが、慣れればそれほど難しい操作ではない。

 今回チェックするのは、このうちのX-Fi CRYSTALIZER。これが音質補正の技術であり、CreativeのWebサイトのXmodの紹介ページを見ても、「Creativeが誇る優れたX-Fiオーディオテクノロジーにより、MP3ファイルなどの圧縮された楽曲の失われたディテールと生命感を復元、映画などのサウンドを迫力のバーチャルサラウンドサウンドに拡張し、スタジオクオリティを超えるオーディオ体験を提供します」とある。

 ちなみに、このX-Fi CRYSTALIZERは以前紹介したSoundBlaster X-Fiのところでも、24bit-Crystalaizerという名前で登場してきた。SoundBlaster X-Fiにおいて、このパラメータは、16bit/44.1kHzのサウンドを24bit/96kHzにリサンプリングするとともに、音を滑らかにする、ということだった。そのため、XmodのCRYSTALIZERとはややニュアンスが違いそうだが、実際どうなるだろうか?

 まず、Xmodの基本性能チェックということで、CRYSTALIZERをOFFの状態で、サイン波を出し、UA-1000で24bit/44.1kHzで録音したもの、また同じ設定で無音を再生した際のノイズレベルをご覧いただきたい。標準のUSBオーディオデバイスと考えれば、比較的いい結果になった。

「CRYSTALIZER」オフ時の16bit/44.1kHzのWAVのサイン波を録音したもの 無音時のノイズレベル

 S/Nも77.2dB、ノイズレベルも-90dB程度と悪くない。ここでCRYSTALIZERをONにしてみると、デフォルトでは50%の設定ということだが、その結果を見ると、あまり大きな変化はない。ここで100%に設定すると、だいぶ変化は出てきて、低域が持ち上がってくるとともに、高域も多少強調されているようだ。

CRYSTALIZERオン/デフォルト(50%)設定時のサイン波 CRYSTALIZERオン/100%設定時のサイン波。高低域ともに強調されているのが分かる

 これだけでは分からないので、矩形波でもCRYSTALIZERをOFFの場合と、50/100%それぞれを見てみよう。おや? 50%でも100%でも、肝心の高域に変化はない。もしかしてCRYSTALIZERが効いていないのではと思い、何度か確認したが特に問題はなく、CRYSTALIZERをONにするとレベルが上がることだけは確認できる。

CRYSTALIZERオフ時の短形波 50%時の短形波 100%時の短形波

 引き続き、音楽も2種類再生して、OFFの場合、50/100%の場合でチェックした。まずは以前作ったドラムとベースで構成された簡単なフレーズ。これを見ると、ピークでは50%も100%も16kHz以上の音が確認できる。ただ、瞬間瞬間では、16kHz以上の音が出ていないことがほとんどのようで、それほど音に違いは感じられない。微妙にEQをかけたような違いを感じるといったところだろうか?

 次に、TINAGARAの「Jupiter」の冒頭の1分について、見てみよう。こちらでは、50%にしても100%でも、OFFの場合とそれほど大きく違いは出てこない。微妙に16kHz以上の成分も混じっているといった程度だろうか? 聴くと確かに音に違いがないわけではないのだが、あまりハッキリした効果はでておらず、これまで見てきた他社の圧縮オーディオ用の音質補正技術とは明らかに何かが違うようだ。

リズム&ベース素材
CRYSTALIZERオフ
【音声サンプル】(3.04MB)
CRYSTALIZER50%
【音声サンプル】(3.04MB)
CRYSTALIZER100%
【音声サンプル】(3.02MB)

楽曲(Jupiter)
CRYSTALIZERオフ
【音声サンプル】(15.1MB)
CRYSTALIZER50%
【音声サンプル】(15.2MB)
CRYSTALIZER100%
【音声サンプル】(15.1MB)
楽曲データ提供:TINGARA
編集部注:24bit/44.1kHzのWAVEファイルを試聴するためには、Intel HD Audio対応PCまたは、別途ハイビット/ハイサンプリング周波数に対応したサウンドカードやUSBオーディオデバイス、再生ソフトウェアが必要になります。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。



■ 補正の効果が明確な「Vraison」

 では次に、Vraisonについても見ていこう。こちらはドライバを組み込むタイプで、同時に組み込まれるユーティリティで、いろいろな設定ができるようになっている。ただし、このソフト/ドライバは製品となる最終版ではないので、多少製品とは異なる可能性はあるが、その点はご了承いただきたい。

 このユーティリティ、最初どう動かしても効果がなくておかしいと思ってマニュアルを読むと、Windowsのコントロールパネルでの設定が必要だった。具体的には、「サウンドとオーディオデバイス」の「プロパティ」の「音声タブ」で、詳細設定を選び、ここの効果のところで、「Vraison BR VC-48」を選択する。

ユーティリティ上で調整が可能 効果を反映するには、コントロールパネルの設定変更が必要

 Xmodと同様に音質補正をかけない状態で、サイン波と無音時のノイズについて見てみると、S/NはXmodよりもやや劣るが、ノイズレベル的にはだいたい同じ程度だ。

音質補正オフ時のサイン波 ノイズレベルはXmodとほぼ同等

 音質補正は、ユーティリティ画面の「Bit-Resolution」でかける。リッチ/ナチュラルの切り替えと、16kHz補間のON/OFFというパラメータがあり、マニュアルを読むと、リッチのほうが、より強く補正をかけるもの、また16kHz補間はまさにMP3のための補正とのこと。そこで、16kHz補間をONにして、リッチ、ナチュラルのそれぞれでテストを行なった。まずサイン波では、それぞれ高域が大きく持ち上がっていることが確認できる。

16kHz補間をオン、リッチ設定時のサイン波 16kHz補間をオン、ナチュラル設定時のサイン波

 次に、矩形波で同様の実験を行なった。これを見ると、リッチでもナチュラルでも非常にきれいに補正されているのが分かる。ただよく見ると、高調波の周期が本来の定期的なものではなく、ややボケた感じにはなっている。さらに、2つの音楽ファイルで試してみても、結構キレイに補正してくれた。

補正オフ時の短形波 リッチ時の短形波 ナチュラル時の短形波

リズム&ベース素材
音質補正オフ
【音声サンプル】(3.02MB)
リッチ設定
【音声サンプル】(3.02MB)
ナチュラル設定
【音声サンプル】(3.02MB)

楽曲(Jupiter)
音質補正オフ
【音声サンプル】(15.1MB)
リッチ設定
【音声サンプル】(15.3MB)
ナチュラル設定
【音声サンプル】(15.1MB)
楽曲データ提供:TINGARA
編集部注:24bit/44.1kHzのWAVEファイルを試聴するためには、Intel HD Audio対応PCまたは、別途ハイビット/ハイサンプリング周波数に対応したサウンドカードやUSBオーディオデバイス、再生ソフトウェアが必要になります。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。



■ 44.1kHz以上の高域まで補正?

 しかし、ちょっと妙なのが、普通CDの44.1kHzの音を周波数分析すると、高域は22.05kHzあたりが0になる感じで減衰してくるが、かなり高いレベルになっている。しかも、ユーティリティ画面に表示されるスパクトラムアナライザは44.1kHzのMP3を再生しているのに、22.05kHzはおろか、48kHzまでの表示があり、かなり高い周波数まで出ている。内部で96kHzへリサンプリングした上で補正をかけているということなのだろうか?

WaveSpectraでの分析結果

 実際、このスペクトラムアナライザが信頼できるものなのか、UA-1000側を24bit/96kHzで録音した後、WaveSpectraで分析したみた。その結果は確かに、かなりの高域まで出ているようだ。ただ、それでも原音そのものに戻っているわけでは決してなく、MP3化することでにごった音色がキレイに戻るわけではないが、抜けた聴き心地のいい音にはなっている。

 ただ、1点大きい問題があった。それは曲が始まる際に、瞬間的なノイズが必ず入るということ。サイン波の波形を見ると分かるとおり、曲が始まってから約170msec後に効果が出るようで、ここでブチっとなるのだ。よくできている製品だけに、この点はぜひ改良していただきたいところだ。

 なお、このBit-Resolutionの技術は日立マクセルのオリジナルではなく、九州工業大学 ヒューマンライフIT開発センター 佐藤 寧 教授との共同開発。どうやら、東芝の「gigabeat S/V」シリーズの「H2C」と出所は同じ技術のようだ。ただし、この結果を比べて分かるようにチューニングはかなり異なり、結果の波形もずいぶんと違う。

 今まで圧縮音楽の音質を補正する各社の製品を試してきたが、まだまだいろいろと改良の余地がある技術ということがわかった。今後とも各社が切磋琢磨して、よりよい製品が登場することを期待したい。

□クリエイティブメディアのホームページ
http://jp.creative.com/
□製品情報(Creative Xmod)
http://jp.creative.com/products/product.asp?category=209&subcategory=668&product=15913
□日立マクセルのホームページ
http://www.maxell.co.jp/jpn/index.html
□製品情報(Vraison)
http://www.maxell.co.jp/jpn/consumer/sound/vraison/index.html
□関連記事
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http://av.watch.impress.co.jp/docs/20061031/maxell.htm
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【7月24日】【DAL】携帯プレーヤーの音質補正機能を検証 その2
~ 「リ.マスター」と「CCコンバーター」で高域に異なる変化 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20060724/dal244.htm

(2006年11月27日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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