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第264回:コルグのDSDレコーダ「MR-1」を試す
~ 手軽にDSD録音! 付属ソフトでPCM/DSD高速変換 ~



DSD対応レコーダ「MR-1」

 12月23日、いよいよコルグから1bitオーディオに対応したDSDレコーダの第1弾「MR-1」が発売された。内蔵HDDの不足から、フル生産になっていないこともあって、かなり品薄状態のようではあるが、なんとか1台お借りすることができた。

 1bitオーディオのレコーディングがどんなものか、既存のポータブルレコーダと比較した使い勝手や機能などについて検証した。



■ 製品が増えてきたDSDレコーディング環境

 「1bitオーディオレコーディング」≒「DSD(Direct Stream Digital)」というと、SACD制作のための専用機で行なう特殊な世界だと思っていたが、ここ数年で急速に身近なものになってきた。その先陣を切ったのは以前にも紹介したTASCAMブランドのレコーダ「DV-RA1000」だろう。手ごろな価格とまではいえないものの、従来数百万円したものが、メーカー希望小売価格で189,000円にまで下げた功績は大きかった。

 TASCAMはこの10月にはHDDを内蔵した上位機種「DV-RA1000HD」を同262,500円で発売を開始している。

TASCAMのDSDレコーダ「DV-RA1000」 HDD内蔵の上位モデル「DV-RA1000HD」も10月発売

 一方、ソニーが「Sound Reality」というチップと「SonicStage Mastering Studio」の構成で実現させたVAIOでの1bitオーディオのレコーディング機能も斬新だった。このDSDを実際に使っている人がVAIOユーザーにどの程度の割合いるのかは疑問ではあるものの、PCで手軽に扱えてしまうというのは、画期的な出来事だった。



■ 手軽に持ち運べる“生録”DSDレコーダ。競合はR-09?

 そして今度はコルグだ。記事のとおり、12月にポータブルレコーダのMR-1を発売し、1月下旬には一回り大きい「MR-1000」が発売される。今回発売されたMR-1は、64×120×24mm(幅×奥行き×高さ)で200gと手のひらサイズのコンパクトなボディ。20GBのHDDが内蔵されており、PCやMacとUSB 2.0で接続し、データのやりとりができる。

 ポータブルレコーダとしては、いまEDIROLの「R-09」が非常に売れているようだが、ある意味これにぶつける製品となっている。DSD対応であったり、HDD搭載など、R-09とはかなり方向性が異なってはいるものの、コンパクトなレコーダを持ち歩いて、生音を録音するという意味ではまったく同様の使用用途になる。

 またMR-1は、DSDだけでなく、リニアPCM(BWF)録音にも対応しており、16bit/44.1kHzから最高24bit/192kHzまでの録音/再生が可能だ。さらに将来的にはファームウェアのアップデートによりMP3での録音も可能になるとのことなので、その意味でもR-09の競合といえるかもしれない。

コンパクトなボディのMR-1 最大24bit/192kHzのPCM録音が行なえる R-09と比較すると少し大きめで、ちょっと重い

 ただ、実際にこの2機種を比較すると、いろいろな違いもある。HDDが搭載されていることもあり、見た目上は、R-09より大きく、ちょっと重い。また、標準でソフトケースが付いてくるのも一つのポイントだ。

 さらにR-09はコンデンサマイク内蔵なのに対して、MR-1は外付けとなっているのも大きな相違点といえる。これは好き嫌いの問題もあると思うが、MR-1には、プラグインパワー型の小さなステレオのコンデンサマイクが付属しており、これを使ってレコーディングする。このコンデンサマイクを取り付ける金具も同梱されており、カメラの三脚などに取り付けられるようになっているのだ。

 MR-1本体とコンデンサマイクの接続は左右別々にミニジャックで繋ぐ。この端子はバランス/アンバランス両対応になっており、ステレオミニを利用すればバランス接続が可能だ。また、入力レベルに合わせてマイク/ライン入力をスイッチで切り替えることができる。

ソフトケースが付属する マイクは内蔵せず、付属のコンデンサマイクを接続して利用する マイク/ラインの入力はスイッチで切替可能



■ 高音質なDSD録音。VAIO連携用の「DSF」形式もサポート

 MR-1の最大の特徴はなんといってもDSDの録音/再生機能。DSDフォーマットのサンプリングレートはSACDと同じ2.8224MHz。ファイル形式は「DSDIFF」、「DSF」、「WSD」の3種類から選択できる。

3種類のDSDフォーマットに対応

 この3種類について簡単に説明すると、DSDIFFは、「Direct Stream Digital Interchange File Format」の略でSACDの制作過程で用いる業務用ファイル形式。

 DSFは、VAIOのSound Reality + SonicStage Mastering Studioで使われているファイル形式。これを使って作成したDVDを「DSDディスク」と呼んでおり、一般ユーザーが作成可能なSACDのような位置づけになっているが、DSDディスクとSACDの間に互換性はない。

 そしてもうひとつのWSDは「Wideband Single-bit Data」の略で1ビットオーディオ・コンソーシアムが策定したフォーマット。まだWSDを採用している機器はあまりないが、先日、早稲田大学にて開催された「1ビットフォーラム2006」で参考出品していたパイオニアのレコーダはWSD対応となっていた。


メインメニュー

 PCMを選んでも、DSDを選んでも、レコーディング方法などはすべて同じで、至って簡単。単に赤い録音ボタンを押してレコーディング・スタンバイにした後、再生ボタンを押すだけだ。録音レベルについては、メニューにあるREC LEVELを用いて設定する。左右別々に-95.5dB~+31.5dBまでの範囲で調整できるようになっているので、ヘッドフォンでモニタしながら、レベルメーターを見て調整していくといいだろう。

 また、このレベル調整を含め、各設定については、側面にあるメニューボタンとプッシュ操作可能なジョグダイアルを利用して操作していく。そもそも、それほど設定項目が多くないこともあって、マニュアルなど見なくても操作で戸惑うことはほとんどない分かりやすい構成だ。


側面にはジョグダイヤルやメニューボタンなどを備える 録音レベルはメニューの「REC LEVEL」で設定する ヘッドフォンでモニタしつつレベルメータを見て調整

 実際に付属のコンデンサマイクを用いて試してみたところ、非常に高音質での録音ができる。16bit/44.1kHzのPCMなどと比べると、かなり音がきめ細かくなることが実感できる。

 PCMの24bit/192kHz使用時との違いが分かるかといわれると、よく分からないのが正直なところだが、とにかく手軽にDSDレコーディングができるのはすごいの一言だ。



■ PC上でDSD再生が可能になる変換ソフト「AudioGate」

 このMR-1の面白いのは、ハードだけではない。Windows/Mac用のオーディオフォーマット変換ソフト「AudioGate」がバンドルされており、DSDのデータをPCMに変換したり、PCMのデータをDSDに変換できるなど、大きな威力を発揮してくれる。

WindowsとMacの両OSに対応する変換ソフト「AudioGate」 PCM/DSDの相互変換に対応

 VAIOにバンドルされている「DSD Direct」でもPCMのDSD変換が可能だが、AudioGateは双方向での変換が可能。また、非常に高速なのも特徴で、実時間の数倍をかけて変換するDSD Directと比べて、AudioGateでは、CPUにPentium D 2.8GHzを搭載したPCを使った場合で、実時間の3分の1程度で変換できた。

 コルグの開発担当者によると、「VAIOのDSD Directの場合、30,000タップのFIRフィルターで高精度演算しているが、AudioGateでは精度を保ちつつ、演算量を減らすアルゴリズムを採用することで高速化を実現している」という。実際、この高速化によってできるメリットは、DSDからPCMへのリアルタイム変換ができるので、普通のPCでもDSDファイルの再生ができてしまうのだ。編集機能などは備えていないが、ゲインの調整やフェードイン/アウトといったごくごく簡単な処理だけはできるようになっている。

 実際、MR-1とPCをUSB接続してみると、PCからは外付けドライブとしてMR-1のHDDの中身が見え、PCM/DSDIFF/DSF/WSDのフォーマットごとにフォルダが分かれてデータが収録されている。DSDのデータをPCにコピーした上で、AudioGateで読み込んで再生してみたところ、なんの問題もなく再生することができた。

 さらに1ビットオーディオ・コンソーシアムのホームページでは、WSD形式のサンプルファイルが公開されており、誰でもダウンロードが可能になっている。これをAudioGateで再生してみたところ、非常にきれいな音で聞くことができた。これだけでも大きな価値があるソフトだ。

 人によっては、AudioGateだけ欲しいと思うかもしれないが、不正コピーを防ぐため、プロテクトがしっかりかかっていた。ソフトをインストールしただけで起動すると、メッセージが出てきて使えないのだ。ここにMR-1を接続してはじめて起動する。次回以降はMR-1なしで単体起動したが、この辺もなかなかうまくできているところだ。

フォーマットごとにフォルダを用意し、各録音ファイルを保存している 初回起動時にはMR-1の接続が必要

 今回はMR-1のファーストインプレッションをお届けしたが、年明けには開発者インタビューや、VAIOやTASCAM機材との互換性についての検証も予定している。


□コルグのホームページ
http://www.korg.co.jp/
□製品情報
http://www.korg.co.jp/Product/DRS/MR-1/
□関連記事
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(2006年12月25日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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