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第204回:ついに登場したDSD対応の新「VAIO」【ハード編】
~ 自社開発チップ「Sound Reality」で高音質化 ~



 ソニーから新型のVAIOシリーズが発表された。このVAIOシリーズのデスクトップモデル3機種にDSD(Direct Stream Digital)オーディオインターフェイスが搭載された。SuperAudioCD(SACD)のデジタルオーディオ方式として非常に評価の高いDSDだが、PCで直接利用できるDSDオーディオインターフェイスとしては、これが世界初となる。

 またDSDオーディオインターフェイスの搭載に伴い、ソフトウェアである「SonicStage Mastering Studio」も大幅に機能アップし、信じられないほどの高級プラグインを満載した作りとなった。実際、これがどんなものなのかを今回から3回に渡って検証する。今回はまず、全体の概要とハードウェア部分を中心に紹介する。



■ HD Audio向けチップを自社開発

 ソニーは、3月に参考出品という形でDSDのオーディオインターフェイスのICチップを発表している。これについてDigital Audio Laboratoryで、製品企画担当者へのインタビューを行なったが、ようやくそれが実際の製品となって登場した。8月30日~10月8日に順次発売されていくVAIOのデスクトップモデル、type R、type H、type Vの3シリーズ、15機種に搭載される。

VAIO type R VAIO type V VAIO type H

 ここでは特にDSDが何であるかについては解説しないが、これまでのデジタルオーディオの標準であるPCMとはまったく違う仕組み、違う概念のものだ。PCMでは24bit/96kHz、24bit/192kHzといった形でオーディオ性能が表現されるが、DSDはそれらとはまったく異なる。ビット数は1bitでサンプリング周波数が2.8225MHzであるため単純に、PCMと比較すること自体できないのである。

 DSDという言葉自体、まだ知っている人が少ないのが実情だが、SACDのフォーマットとして少しずつ一般にも広まってきている。レコーディング機器としては業務用のPyramixシステムが有名だが、3月にTASCAMが「DV-RA1000」という189,000円という低価格で製品をリリースしたため話題となっていた。そこに、VAIOがDSD搭載のPCを投入したことになる。

7mm四方のLSI「Sound Reality」

 そのキーとなっているのは7mm四方という小さなLSI、ソニーオリジナルのサウンドチップで「Sound Reality」と名づけられたLSIである。インテルのサウンドチップの規格である「HD Audio」に準拠し、24bit/192kHzなどのPCMも扱えるチップとして設計されている。

 PC用のサウンドチップそのものは、国産のPCメーカーもこれまでは海外の規格、海外の製品を利用してことが多かったが、ついにソニー自らが企画・開発し、自社のVAIOに搭載したというわけだ。

 HD Audioは32bit/192kHz、7.1ch対応などスペックだけをみるとすごそうに思えるが、実際にこれがマザーボードに搭載された製品を見ると、オーディオ性能的には劣悪というのが実情であった。インテルが規格化しただけに、HD Audioが標準になりつつあるが、誰も関心を持っていないし、ここにオーディオ性能を期待している人はいないという状況にある。

 ソニーの開発担当者によると「HD Audioには期待をしていたのですが、実際のチップでは期待した性能には達していませんでした。確かにバス幅は広がったのですが、そのぶんダイサイズが犠牲になっていました。HD Audioにはアナログ回路も含んでいるのですが、そのアナログ回路のスペースが小さく性能が悪くなってしまったのではないか」という。

 そこで、ソニー自らHD Audioの仕様に則った形で、チップの設計をし直すとともに、DSDも搭載したのがSound Realityというわけだ。ダイサイズのうちアナログ回路を中心としたオーディオ回路部分を大きく確保するとともに、アンプはすべてA級アンプを使用するなどして音質を向上させ、チップ出力段での実測値でS/N 109.8dB(カタログ値は107dB)を確保したというのだ。

 さらに、VAIOに実装した際の出力端子におけるS/Nでは109.8dBを実現するなど、DSDであるということだけでなく、HD Audioのチップとしても既存のものとは一線を画す高音質なものとして仕上がっているという。



■ WAV-DSD変換の「DSD Direct」を搭載

 このようにかなりの高音質設計がされているのだが、VAIOを見てちょっとがっかりしてしまったのがその端子。実はHD Audio互換ということもあり、あの緑やピンク、青のプラスティックのステレオミニジャックが採用されており、それ以外に入出力端子が用意されていないのだ。せめてRCA端子を併設するなどしてほしかったところではあるが……。ちなみに、フロントにあるRCA端子はビデオの音声入力用であり、Sound Realityとは関係ないものだ。

端子は緑やピンク、青のステレオミニジャック フロントにあるRCA端子はビデオの音声入力用で、Sound Realityとは関係ない

 しかし、実際に音を聴いてみると結構ビックリした。目隠しでVAIOでCDを再生した音と、高級SACDプレイヤーで同じCDを再生した音をモニターヘッドフォン(MDR-CD900ST)で聴き比べたのだが、かなりいい音なのだ。

 音の雰囲気に違いがあるため、好き嫌いは分かれると思うが、解像度の面ではVAIOのほうが上で、音の細部まで表現されているのだ。またS/Nの面でもまったく遜色ないほど。見かけはピンクの端子で幻滅するが、性能面ではかなりいいところまで来ている。

DSD Direct

 ところで、このCD再生についていうと、単にチップの性能がいいというだけでなく、もうひとつすごい技として、CDからリッピングしたWAVファイルなどをDSDへ変換するDSD Directというツールが用意されている。

 先日ティアックが発売したSACDトランスポート「P-03」と同様のことがVAIOでできてしまうのだ。WAVをDSDにソフトウェアで変換する理由は、時間をかけて高精度な演算でDSDへ変換することで、再生音質を大きく向上させることができるからだ。

 開発担当者によると、「このDSD DirectではPCMの信号を30,000タップのFIRフィルターで高精度演算し、そのままDSD信号にすることにより、情報の欠落を極小におさえています。これにより、もともとPCMの持つ表現力が最大限に発揮された状態でDSDファイルに変換されます。これを直接Sound Realityでアナログ出力できるので、非常に音質を上げることができます。P-03も考え方は同じですが、DSD Directでは演算にPCのCPUを使い、さらに時間をかけることで、演算精度的には上だと思います」とのこと。

 P-03がDSDのDAコンバータなしで126万円であることを考えると、まさに画期的なシステムといってもいいだろう。ただし、P-03はリアルタイムでPCMをDSDへ変換するのに対し、DSD Directでは実時間の5倍以上の時間をかけて変換するという、根本的な性格の違いがある。

 たとえば1時間のCDアルバムを変換するのにCPUフルパワーで演算させて5時間もかかるということになる。またファイルサイズ的にはWAVファイルのちょうど4倍になるとのことだ。一度変換しておけば、後は普通に再生できるのだが、この手間がひとつのネックではある。



■ WDMドライバにも対応

 では、このSound Realityはソフトウェアとのやりとりをどのようにしているのだろか。ここまで見てきたとおり、このチップにはHD Audioという従来どおりのPCM方式とDSD方式という2つのデジタルオーディオの方式が共存している。

 HD Audioという点だけを見ていけば、ソフトウェアのインターフェイス自体は基本的には従来の考え方に則っている。つまり、通常のドライバを介すことにより、あらゆるオーディオのアプリケーションとの連携ができるようになっている。ただし、既存のHD Audioと比較すると、いくつかの違いがある。

 まず、第1のポイントはASIOドライバに対応しているということ。つまり、CubaseやLive、SONAR……といったDAWをはじめ、WinAmpなども含む多くのプレイヤー系アプリケーションで、その性能を発揮できる。メーカー製のPCが標準でASIOドライバに対応しているというのも、このVAIOが初ということになるだろう。

 ちなみに、Windows標準のMMEドライバの場合、Windowsが持っている内部的なミキサーであるカーネルミキサー(K-Mixer)を経由してオーディオ信号が入出力されるのだが、このミキサーの性能が悪いため、K-Mixerを通すことによって音質が劣化してしまう。しかし、ASIOドライバの場合、K-Mixerを経由せず、直接ハードとソフトでの信号のやりとりがされるため、音質劣化がなくなるというのが大きなメリットとなっている。

 このVAIOのコントロールパネルを開くと、Sound Realityのアイコンがある。ここで各種設定ができるようになっており、詳細設定ではASIOのバッファ設定などもできる。またダイレクトモニタリングにも対応しているようだ。アプリケーション側から見てみると、「ASIO STHDA Driver STHDA output Channel #0」というようなドライバ名で見える。

VAIOのコントロールパネルを開くとSound Realityのアイコンが ドライバ名は「ASIO STHDA Driver STHDA output Channel #0」となっていた

 STHDAとはSigmaTel HD Audioの略。SONY Sound Realityという名前にはなっていないようだった。今回使ったモデルがtype Hという出力がステレオに限定されたものであったため、出力ポートはひとつしか選択できなかったが、サラウンド対応したモデルであれば、複数ポートが選択できるはずだ。

 ためしにバッファサイズを小さくしてみたところ、44.1kHzのモードでは設定上2msecまで持っていくことができたが、SONARで試したところ、音切れが発生してしまった。結局一番小さくて安定したのは6msecであった。

 DTM的な観点からいうともう1点特徴がある。それはSONARなどで使うWDMドライバにも対応していることだ。これはASIOとは別方式だがカーネルストリーミングという方法でK-Mixerをバイパスできるようになっている。以前試したRealtekの「ALC860」というHD Audioのチップではダメだったが、Sound RealityならこれもOKのようだ。

SONARなどで使うWDMドライバにも対応している

 ここまでは、Sound RealityのPCM的な側面だが、一番のポイントはなんといってもDSD部分だろう。このDSDを使った際のソフトウェアとのやりとりはASIOを使うことになる。MMEもDirectXもWDMもDSDをサポートしておらず、Steinbergが3月にASIO 2.1というASIO 2.0上位互換でDSDをサポートしたアーキテクチャにより、ASIOが利用できるようになっている。

 ただし現在のところ、ASIO 2.1をサポートしているアプリケーションはSonicStage Mastering Studio 2.0のみ。とはいえ、オープンな規格であるため、今後ASIO 2.1を利用してDSDのやりとりができるソフトはフリーウェアなども含めて登場してくる可能性はあるが、今後に期待したいところだ。

 以上、今回はハード面を中心に見てきたが、次回は実際にSound RealityのDSD機能をSonicStege Mastering Studioを使ってレコーディングしたり、編集、再生する機能を検証する。


□ソニーのホームページ
http://www.sony.co.jp/
□製品情報(VAIO typeR)
http://www.vaio.sony.co.jp/Products/VGC-RC70/
□製品情報(VAIO typeH)
http://www.vaio.sony.co.jp/Products/VGC-H71S/
□製品情報(VAIO typeV)
http://www.vaio.sony.co.jp/Products/VGC-VA200DS/
□関連記事
【8月30日】ソニー、「VAIO」で民生用PCで世界初のDSD録音/再生対応
-「Sound Reality」を搭載。WAV/DSD変換機能も搭載
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20050830/sony1.htm
【8月29日】ティアック、CDのPCMをDSDに変換するSACDトランスポート
-DSD/PCM対応DACと組み合わせて再生。各126万円
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20050829/teac.htm
【6月20日】【DAL】189,000円のDSD対応レコーダ
~ 「DV-RA1000」でDSD録音は浸透するか? ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20050620/dal195.htm
【5月9日】【DAL】ASIO 2.1がSACDのフォーマット「DSD」に対応
~ 対応チップ搭載VAIOで、DSDという選択肢を提供 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20050509/dal189.htm
【4月7日】Steinberg、DSD入出力に対応した「ASIO 2.1」を発表
-音楽製作機器でのDSDフォーマットの普及へ促進へ
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20050407/stein.htm
【2004年9月6日】【DAL】Intelの新規格「HD Audio」を検証する
~ 前編:対応マザーボードを使って環境を構築 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040906/dal159.htm
【2004年9月13日】【DAL】Intelの新規格「HD Audio」を検証する
~ 後編: 192KHz/24bit再生や各種性能をチェック ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040913/dal160.htm

(2005年9月5日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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