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第83回:フルHDプロジェクタを身近にした先駆モデル
~ クラス最高の静粛性 「三菱電機 LVP-HC5000」 ~


 今冬のフルHD液晶御三家の代表格ともいえるのが三菱電機の「LVP-HC5000」だ。なにしろ、今シーズンのフルHD液晶プロジェクタの価格破壊を行なったのが、このLVP-HC5000。今まで100万以上当たり前だったフルHDプロジェクタの半額以下となる、実売45万円での製品投入を発表。さらに発売後は30万円台前半から、場合によっては20万円台で販売されるなど、フルHDを身近にした代表格といえる。

 筆者もプロジェクタメーカーに取材に行くたびに、開発スタッフが「三菱さんがやってくれちゃったので……」という苦笑を浮かべるほどで、ユーザーと業界に与えたインパクトを相当大きいものだったと思う。

 今回は、そんな風雲児「LVP-HC5000」の実力を検証していくことにする。御三家、最後の紹介となることもあり、松下「TH-AE1000」、エプソン「EMP-TW1000」などを意識しつつ評価をしていくことにしたい。


■ 設置性チェック
 ~電動ズーム/フォーカス/レンズシフト搭載。静粛性も御三家トップ!

LVP-HC5000。左右非対称デザインを採用する。底面前方の2脚は回して高さを変えられる

 本体は非常にコンパクトで、フルHD液晶御三家の中では最も筐体サイズが小さい。334×352×125mm(幅×奥行き×高さ)で、幅よりも奥行きが長いデザインになっている。

 部屋の後部に設置した本棚等の天板に設置する疑似天吊り設置(オンシェルフ設置)をする場合には大きめの棚板を利用するなどの工夫が必要だ。なお、底面には吸排気スリットはないので、底面を天板にぺたっと橋渡し的に設置することもできる。本体重量も約5.6kgと軽い。持ってきて設置、使い終わったら片づける、といったカジュアルホームユースも行なえるはず。

 天吊り金具も純正オプションとして設定されているが、天井側に設置する取り付け金具ベースと、その取り付け金具を利用するための固定アダプタの分割構成となっている点に留意したい。天吊り取り付け金具「BR-1」は28,875円、LVP-HC5000専用の固定アダプタ「BR-HC5000S」は26,250円となっており、結論をいえばこの両方を利用しないと天吊り設置は行なえない。


横幅よりも奥行きが長い縦長デザイン。カジュアルなオンシェルフ設置にはちょっとした工夫が必要

 なお、LVP-HC3100/3000/1100を天吊り設置しているユーザーは、BR-1が全機種共用できる設計なので、固定アダプタBR-HC5000Sだけを新規購入すれば置き換え設置できる。

 投射レンズは1.6倍ズームレンズを採用、100インチ(16:9)の最短投射距離は約3.1m(競合は各3.0m)。競合が2.0倍以上なので、スペック的には御三家の中では一番下だが、8~12畳クラスまでの広さの部屋であれば必要十分な焦点距離を備えている。差が出てくるとすれば16畳以上の大きな部屋の最後尾に設置する場合だ。

 TH-AE1000やEMP-TW1000は6mの投射距離でも100インチに画面サイズを抑えられるが、LVP-HC5000の100インチ最長投射距離は5mと短い。6mの投射距離を取ってしまうとLVP-HC5000では120インチ級になってしまう。特殊な設置ケースを考えている場合は、この点に留意する必要がある。

【訂正】
記事初出時に、100インチ(16:9)の最短投射距離を誤って記載しておりました。お詫びして訂正いたします。(2月13日)


投射レンズはリモコンで操作可能な電動式ズーム/フォーカス/レンズシフト機能を搭載。この価格帯でこのギミックを実装してくるとはお見事。レンズカバーは手動式で脱着可能

 レンズシフトは左右±5%、上下±75%。全体的にシフト量は競合よりも小さい。特に左右は微調整程度のシフト量という点には、留意したい。スクリーンと相対する位置から、ずらしての投射はLVP-HC5000では不可能だ。上下方向のシフト量は競合と比較すると若干小さいが実用十分。現実的な高さに設置すれば現実的な高さに設置したスクリーンに確実に投射できる。

 競合のTH-AE1000と同様に、LVP-HC5000も電動ズーム/シフト/フォーカス調整機能に対応する。LVP-HC5000はリモコン操作でズーム/シフト/フォーカスをリアルタイム調整できるのだ。これは非常に便利で、設置と撤去の頻度が多い設置ケースにおいては絶大な威力を発揮する。

 特にリモコンでのフォーカス調整は便利だ。スクリーンにめいっぱい近づいた状態で操作できるので、1画素が本当にシャープに見えるところまで追い込んで調整可能。画質マニアにはたまらない機能だ。

吸気はレンズ正面から見て右側面。エフフィルタはここからユーザー交換が可能

 吸気は正面右側の側面から行ない、左側面は排気するというエアフローデザイン。台置きやオンシェルフ設置時には側面に物を置いて吸排気を阻害しないように注意したい。前面にスリットは無いので、投射面への光漏れは皆無。左側面の排気スリットは光源ランプが位置的に近いこともあって若干の光漏れがあるが、投射映像への影響はない。

 稼働時の騒音レベルはランプ駆動モード「低」で19dB。これはクラストップの静粛性能だ。ランプ駆動モード「標準」の高輝度モード時の騒音レベルは非公開だが、実際に「低」と「標準」で聞き比べても微妙な違いで非常に静かだ。静粛性に関してはどの製品と比較しても圧倒的にLVP-HC5000が優れている。

 光源ランプは160Wの超高圧水銀系ランプ。最近の機種としては珍しく、光源ランプの公称寿命はランプ駆動モード「低」で5,000時間とされている。交換ランプ「VLT-HC5000LP」は26,250円とかなり安価に設定されている。本体価格も安いがランニングコストも安価だ。

 吸気エアフィルタやランプ交換は側面から行なう方式。よって台置き設置でも天吊り設置でも本体を移動せずにそのまま交換できる。



■ 接続性チェック
  ~HDMIとDVI-Dを装備

背面接続端子パネル。HDMIのほか、PC入力や、DVI-Dに備えている

 HDMI端子はVer1.2準拠で1系統を装備。さらに別系統でHDCP対応のDVI-D端子も装備する。このDVI-D端子はPC接続にもビデオ機器接続にも活用できる。デジタル接続を2系統装備しているのはありがたい。

 アナログビデオ信号はコンポーネント、Sビデオ、コンポジットの各入力を1系統ずつ備えている。PC接続用としては、前出のDVI-Dとは独立したアナログRGB入力(D-Sub15ピン)を1系統持っている。この他、電動スクリーンや照明機器などの外部設備との連動を図るために、稼働中に12Vを出力するトリガー端子も設けられている。

 端子を一通りサポートしているだけでなく、HDMI端子とは別系統でDVI-D端子を実装しているのはLVP-HC5000の特徴となっていると思う。ビデオ機器もPCも同時にデジタル接続したいというユーザーにとってはまさに渡りに舟といえる接続性を実現している。


■ 操作性チェック
 ~新デザインリモコン採用。充実した調整機能と豊富なユーザーメモリ機能

 リモコンはLVP-HC3000から一新され、一回り大きく、そしてより縦長のバー形状デザインのものになった。ユニークなのは底面の窪みが2つあるところ。この2つの窪みに人差し指と中指をあてがえば親指が十字キーの上に乗り、人差し指だけにあてがえば親指が画調調整系操作ボタンに乗り、中指と薬指をあてがえば親指が入力切換系操作ボタンの上に乗るというエルゴノミックデザインになっているのだ。


リモコンはLVP-HC3000などのものよりも大型の新タイプへと変更 2つの窪みがある新感覚エルゴノミックデザインを採用 本体上面には簡易操作ボタンが配置される。リモコンが無くてもフォーカス調整、ズーム調整、レンズシフト調整が行なえる

 リモコンの全ボタンが自発光式に光るが、なぜかライトアップボタンはなく、リモコン上の何かのボタンを押すと発光するという操作系になっている。暗闇の中でボタンを光らせてから操作するのは難しい。十字キーの上下や[ENTER]はメニューを表示させずにタッチしても意味をなさないので、これをダミー操作としてライトアップさせるのがいいかもしれない。

 ボタンの1つ1つはまずまずの大きさで、ボタン上の文字の視認性も悪くない。CONTRASTやBRIGHTNESS調整のボタンが[CNT]や[BRT]というような略称になっていたりはするが、しばらく使えば慣れてしまうことだろう。

 電源オン、オフボタンは誤操作を避けるために個別デザインとなっており、電源オンはワンタッチで、オフは2度押し操作となっている。電源オン後、HDMI入力の映像が表示されるまで約52秒(実測)と最近の機種としてはかなり遅い…… と思いきや、「設置」メニューの「スプラッシュスクリーン」(起動画面)を[OFF]設定とすると暗いながらも電源オン約20秒後から投射映像が表示される。これならば最近の機種としては標準的な起動速度だ。高速起動を重んじる場合は起動画面をキャンセル設定しておこう。

 使用頻度の高い入力切換は、対応する入力系統に1対1に対応する個別ボタンを用意し、目的の入力にワンタッチで切換が可能だ。切換所要時間はDVI→HDMIで約5秒、HDMI→Sビデオで約4.6秒とかなり遅め。ただ、希望の入力にダイレクトに切り換えられるためストレスは秒数から連想されるほどでもない。

 アスペクト比切換は[ASPECT]ボタンを押して順送り式に行なう操作系。切換所要時間は約1.2秒と最近の機種としては遅い。

 用意されているアスペクトモードは全部で5種類。アスペクト比4:3、16:9向けの「4:3」と「16:9」の他、4:3の外周を伸張して疑似ワイド化する「ストレッチ」、4:3映像にレターボックス収録された16:9映像をパネル全域に表示する「ズーム2」がある。ユニークなのは一部のVHSやLDのソフトなどに存在した、4:3映像に2.35:1のシネスコ記録された映像をアスペクト比を維持しなおかつ字幕エリアを確保しつつパネル全域に拡大表示する「ズーム1」モードだ。

 調整可能な画調パラメータは「ガンマ」「コントラスト」「ブライト(ブライトネス)」「色温度」「色の濃さ」「色あい」「シャープネス」といった一般的なパラメータの他、[アドバンスド・メニュー]階層下の「オートアイリス設定」(後述)や各種ノイズリダクション機能の設定パラメータなど。

 設定したパラメータは各入力系統ごと個別に用意された3つのユーザーメモリ(AV MEMORY)に保存が可能だ。ただし、保存されるのは上記に上げた画調パラメータを中心とした「画質」メニューで調整可能な設定のみ。本来はユーザーメモリに一緒に記憶して欲しいランプ駆動モードの設定(「設置」メニュー階層下)やオーバースキャン"%"設定(「信号設定」メニュー階層下)が保存されない点には注意したい。

「画質」メニュー 「アドバンスド・メニュー」 「設置」メニュー。ランプ駆動モードの設定はここ
「オプション」メニュー 「信号設定」メニュー。オーバースキャンの設定はここ 「情報」メニュー

オリジナル色温度作成画面

 色温度は実用プリセット設定としては「高」(9,300K)、「標準(sRGB)」(6,500K)、「低」(5,800K)の三種類の他に、色再現性は無視して光源ランプのダイナミックレンジを使い切る「高輝度」の設定があるのが面白い。ランプモードを「標準」設定にして色温度を「高輝度」設定にするとまばゆいほどの明るさになるので、明るい場所でのプレゼン用途などではこの組み合わせを活用するといい。

 色温度モードはプリセットのほか、ユーザーによる設定も作成できる。ブライトネスとコントラストを各RGBごとに個別に調整し、定義したユーザー色温度設定は専用のユーザー定義メモリに保存できる。なお、このユーザー色温度メモリは各AV MEMORYごとに1つずつ用意されている。

 LVP-HC5000は、他機種に見られるような視聴ソース種別ごとに最適化されたプリセット画調モードを持たない。LVP-HC3000の時もそうだったので、三菱製プロジェクタの基本コンセプトと思われる。その代わり、それに近いものとして視聴ソース種別ごとに「シネマ」「ビデオ」「スポーツ」といった3つのプリセットガンマモードが用意されている。


オリジナル・ガンマモードの作成画面

 このガンマモードのカーブもユーザー定義が可能で暗部、中部、明部の3つの階調区分ごとに各RGBごとの出力ゲインを設定できる。3(暗中高)×3(RGB)のマトリックス式の調整インターフェースはシンプルでありながら結果をイメージしやすく分かりやすい。このユーザー定義ガンマカーブは各AV MEMORYごとに2つ用意された専用メモリに保存可能だ。

 リモコンの最下段にはコントラスト[CNT]、ブライトネス[BRT]、色温度[C.T.]、ガンマモード[GAMMA]、シャープネス[SHARP]、色の濃さ[COLOR]、ノイズリダクション設定[NR]といったパラメータ設定を直接変更できるショートカットキー的なボタンもレイアウトされている。

 このボタンを使用すると、そのパラメータだけを表示した1行分の小さな簡易UIが出てきて、表示中の映像を見ながら調整できるのだが、その時点で選択されていたAV MEMORYを直接書き換えることになるので勇気がいる。「プリセット値戻し」ボタンが1つあった方がよかったように思う。

 また、パラメータ調整は左右キーで行なうのを基本とするも、呼び出した簡易UIによっては左右キーがさらに下階層のパラメータを選択する操作に切り替わったりすることもあり、結構扱いが難しい。その意味では他機種のように画面上のどこかに簡易的にヘルプの表示が欲しいところ。

 LVP-HC5000は調整機能についてはかなり贅沢かつ充実しており、調整マニアに配慮した設計になっているといえる。


■画質チェック
 ~色ダイナミックレンジとフォーカス性能に自信あり

 液晶パネルはエプソン製、D6世代の0.74型透過型液晶パネル「C2FINE」パネルを採用。パネル解像度は1,920×1,080ドットのフルHD。本連載第77回でも説明しているが、C2FINEパネルのアピールポイントは「無機配向膜採用による縦縞ノイズの大幅低減」、「垂直配向(VA)液晶の採用により暗部階調性能の向上」の2点に集約される。

 縦縞はこれまでの透過型液晶と比較すると劇的に低減されており、普通に見ている分にはほとんど分からない。従来の透過型液晶と比較すると劇的に改善されているといっていい。

 黒浮きは、後述する動的絞り機構(オートアイリス)をオフにすると、やはりある。暗い映像の最暗部と映像が投射されていない部分の輝度格差はやはりLCOSやDLPと比べると大きい。ただし、暗部階調のリニアリティは優秀で、この点はVA液晶の優位性が実感できる。

 公称最大輝度は1,000ルーメン。TH-AE1000(1,100ルーメン)、EMP-TW1000(1,200ルーメン)と比べると、スペック的には低いものの、スペック上もっとも高輝度なEMP-TW1000と比較しても、ほとんど差は感じない。明るい映像を投射すると部屋の中がパッとあかるく見えるほどで、ランプ=標準、色温度=高輝度、アイリス=オープンとすれば、蛍光灯照明下でも普通に映像が見られるほどだ。

 公称コントラストは10,000:1。これは、例によって動的絞り機構を利用した、絞り最小の時の黒と、絞り開放の白の比較結果なので、あまり当てにはならない。ネイティブコントラストは経験的な目視判断で大体1,000:1付近という手応えだ。

 LVP-HC5000の動的絞り機構は「オートアイリス」という名称で、動作モードとしては、常時開放の最大輝度重視の「オープン」、絞り幅が最大の「オートアイリス1」、この間に絞り幅を控えめにした「オートアイリス2、3」という全4設定を持っている。

 動的絞り機構のチェックには、シビアな明暗の変化が激しい「アビエイター」(チャプター7)を見てみたが、オートアイリス1、2、3、いずれにおいても、明暗の切り替わりで遅れて絞られる不自然な動作を確認した。絞りステップがやや粗いのと、絞り速度が遅いため、シーンが切り替わるたびにオートアイリスの介入を意識させられる。オートアイリスのアルゴリズムの改良を期待したいと共に、絞り固定モードの搭載、または動的絞りの速度調整機能などの搭載も望みたいところ。

 方針としては全体的に明るい映画ならばオートアイリス3を、暗い映画ならばオートアイリス1、がいいだろう。オープン(絞り開放、絞り無し)では前述したような遅延絞りによる不自然な明暗変化は回避できるのだが、透過型液晶の“悲しき性”、暗い映像での黒浮きはやはりオープンでは辛い。よって、基本的にはオートアイリスを活用した方がよい。

【オートアイリス使用例】
オートアイリス、オープン(開放)時は黒浮きはこんな感じにかなり強く出る 絞り幅最大のオートアイリス1では、黒浮きは低減される。ただし、その動的動作にやや難あり
DVDビデオ「Mr.インクレディブル
(C)2005Disney/Pixar

 発色の傾向としては、記憶色再現志向の彩度が強めな傾向にあるが、初心者ユーザーにはきっとウケがいいはずだ。特定の色がブーストされているわけではないので、バランスとしてはいい。赤や人肌の発色も良好で、超高圧水銀系ランプの荒々しさがうまく調教されていると思う。

 色ダイナミックレンジはズバ抜けていい。色ディテールの表現がしっかりしているので解像度が向上したような錯覚を覚えるほどだ。かといってシャープネスを強調しすぎているわけでもなく、ノイジーさはない。このあたりのチューニングは絶妙だと思う。CG、実写ともに、映像が持つ情報を100%に近い形で視覚できる心地良さがある。

 透過型液晶パネルの弱点でもある格子筋はどうか。LVP-HC5000の液晶パネルでは開口率が55%で、LCOSやDLPが開口率約90%と比べると低い。格子筋は細くはないが、輝度性能が高く、しかも画素密度が高いので、それほど目くじらを立てるほどではない。

 ただ、PCやゲーム画面、CG映画などの1ピクセル単位の表現がシビアに見た目に聞いてくる映像では気になる場合もあるかも知れない。実際に条件を変えて視聴してみたが、視聴距離を2mに固定すると150インチでは気が付くが、80インチでは気にならないという感じだ。

Windows Vistaの画面左下のスタートメニューを撮影。色収差は他競合と同等レベルだが、フォーカス性能は御三家随一だ

 レンズシフト量やズーム倍率を抑えた結果なのか、はたまたレンズ設計と精度が優秀なためなのか、フォーカス性能は良好だ。今回は左右レンズシフト未使用、下方向に30%ほど下げた状況でテストしたが、画面中央でフォーカスを合わせれば、外周の方も結構くっきりと合っていた。

 同条件で投射した場合、EMP-TW1000と比較すると、フォーカスむらはLVP-HC5000の方が少ない。これは特筆すべき点だと思う。色収差については外周にいけばやはりある。ただ、著しく解像感を劣化させるほどではない。

 プリセット画調モードはないのだが、視聴する映像ソース種別に応じたガンマモードが用意されているので、今回はこれを評価してみることにした。

 ガンマモード以外の設定は「色温度=標準」「オートアイリス1」「オーバースキャン=100%」「ノイズリダクション=全オフ」「ランプ=標準」としている。

【プリセットの画調モード(ガンマモード)】
 ソースはDVDビデオの「モンスターズ・インク」(国内盤)。撮影にはデジタルカメラ「D100」を使用した。レンズはSIGMA 18-200mm F3.5-6.3 DC。撮影後、投影画像の部分を800×450ドットにリサイズした。

(c)DISNEY ENTERPRISES,INC./PIXAR ANIMATION STUDIOS
 
●スポーツ

 黒から白へのグラデーションバーでみると、暗部から明部にかけての立ち上がりが早く、他モードに比べて早く最明部に到達する階調特性になっていることがわかる。

 つまり、暗部階調の持ち上がりが早く、中明部表現に多くのダイナミックレンジを割くような画調になっている。

 
●シネマ

 黒から白へのグラデーションバーでみると、暗部階調にダイナミックレンジを多く割いた調整になっている。暗い映画などの微妙な暗部表現を楽しむのに向いていそうだ。全体的に暗部が沈み込んだ画作りになるのでコントラスト感は高くなる。

 ただ、アイリスが絞れてないと、最暗部のダイナミックレンジよりも黒浮きの方が気になってしまう。「シネマ」を使うときにはオートアイリスは必須という印象だ。

 
●ビデオ

 黒から白へのグラデーションバーでみると、「スポーツ」よりはゆっくりで、「シネマ」よりは早い階調特性。暗部から明部まで平均した輝度ダイナミックレンジの割り当てになっており、「リニアな階調特性」になっている。

 オートアイリス・オフ時など、黒浮きが目立ちそうな状況でも暗部階調のリニアリティは維持されており、万能性は高い。通常の使用ではAUTO設定よりもむしろこの「ビデオ」を常用した方が安心できると思う。

 
●最大輝度設定時(※参考)

 「ガンマモード=スポーツ」「アイリス=オープン」「色温度=声輝度」「ランプ=標準」とした。最大輝度投射映像の場合。このモードで視聴するとかなり明るい。

 

【映像ソースごとのインプレッション】

●Sビデオ(NEC PK-AX20、Sビデオ接続)

 インターレースのSD映像のプログレッシブ処理、スケーリング処理の品質はかなり高く、横の早い動きにもコーミングは出ない。定評のあるSilicon-OptixのHQV「Reon-VX」をビデオプロセッサに採用しているが、これが非常によい仕事をしていると思う。

 LVP-HC5000のノイズリダクション機能の1つ、TRNR(テンポラリ・リカーシブ・ノイズ・リダクション)はいわゆる3次元ノイズフィルタで時間軸方向のランダムノイズを低減化するもの。地上アナログ放送などの映像のざらつきを低減できるが、かけすぎるとグラデーション表現が動いた時に尾を引き出して見えてくるので注意。かけるとしても5以下(最大設定が15)が妥当なところか。ただ、アニメなどでは強めに掛けても悪影響が出にくい。

 BAR(ブロック・アーティファクト・リダクション)は、ビットレート不足時のMPEG映像に顕在しやすい四角状のブロックノイズを低減するもの。OFFかONの設定が行なえるが、全体的に“もやっ”とするだけで、よほどビットレートを低くして録画した映像に掛ける以外にあまり使い道はないと感じる。普段はOFF設定の常用でいいだろう。


●DVDビデオ(東芝HD-XA1、HDMI接続)

 輝度性能の高さが、明るさだけでなく、色ダイナミックレンジの高さに結びついているので、色ディテール表現力が素晴らしい。これまで一般的な液晶テレビでDVDを楽しんできたユーザーは「DVD映像にこれだけの情報量があったのか」と驚くことだろう。

 720×480ドット→1,920×1,080ドットのスケーリング品質も優秀で、角度の浅い斜め線にもぼやけた感じが無く、エッジ表現も鋭い。使用している機種によってはDVDプレーヤー側のスケーリング回路よりもLVP-HC5000の方がプログレッシブ化/スケーリング処理が優秀な場合もあると思うので一度プレーヤー側の機能をキャンセルして試してみてもいいだろう。

 動的絞り機構は「オープン」あるいは「オートアイリス3」程度の緩めにしているときは、ガンマモードは「シネマ」よりも「ビデオ」の方が相性がいい。こうすることで黒浮きに配慮した上での暗部階調のリニアリティが保たれて映像が自然に見える。

 ノイズリダクション機能の1つ「MNR(モスキート・ノイズ・リダクション)」はMPEG映像の輪郭付近でもやもやと立ちこめるモスキートノイズを低減するもの。こちらも強めに掛けると、MPEG映像のGOP切換時のポッピングが低減できるが、レリーフや布などの微細凹凸表現が潰れてしまう。こちらもかけるにしても5以下(最大設定は15)だろう。


●ハイビジョン映像
 (HD DVD=東芝HD-XA1/HDMI接続、BD=PLAYSTATION3/HDMI接続

 フルHD対応というスペック以上にピクセル描画の精度が高く、“見た目”としての解像感が素晴らしく高い。1ピクセル単位の描画のシャープさについては、他競合2機種よりも上だと感じる。これは、投射レンズのフォーカス性能が相対的に高いこと、そして色ダイナミックレンジが高いことに起因すると思われる。フィルムグレインの微妙な瞬きも(見方によってはノイズみたいなものだが)、毎フレームキッチリと見えるのには感銘を受ける。

 視聴はDVDと同じ、ガンマモード=ビデオ、動的絞り機構=オートアイリス3,あるいはオープンでいいだろう。

 また、余計なスケーリングを排除するために「信号設定」メニューの「オーバースキャン」の値をデフォルトの97%から100%に変更しておくことをお勧めする。これはDVDビデオ視聴の際にも有効なので、基本、LVP-HC5000を100%設定で常用するとのもありだと思う。


●PC(NVIDIA GeForce7900GTX/HDMI接続、Windows Vista)
入力解像度 アナログRGB DVI-D
640×480ドット
720×480ドット △1
720×576ドット △1
848×480ドット △1
800×600ドット
1,024×768ドット
1,152×864ドット
1,280×720ドット
1,280×768ドット
1,360×768ドット
1,280×960ドット
1,280×1,024ドット
1,400×1,050ドット
1,600×1,200ドット ×
1,920×1,080ドット

 LVP-HC5000のDVI-D端子はPCとのデジタルRGB接続にも対応しているが、全域を表示させるためにはオーバースキャン設定を100%設定に変更する必要がある。

 また、デジタルRGB接続時、「アドバンスド・メニュー」階層下の「入力レベル」は「ノーマル」から「エンハンスド」設定にしないと暗部が潰れ気味になってしまうので注意したい。

 アナログRGB、デジタルRGBともに、対応度は非常に優秀だ。また、スケーリング処理が優秀なためか表示品質が高い。とはいえ、最も美しかったのはパネルのネイティブ解像度の1,920×1,080ドットモードだ。



※パネル画素に一対一に対応した表示……、正常表示……、表示はされるが一部に違和感あり……、表示不可能……×
*1 640×480と誤認して一部ドットが掛けた表示になる

●ゲーム(Xbox 360、アナログRGB接続/PLAYSTATION 3、HDMI接続)

 目に余るような残像はなし。違和感なくプレイできる。表示遅延を恐れる人はTRNR、MNR、BARなどのノイズリダクション機能を全てOFFにしたほうがよい。

「ガンマモード=ビデオ」「色温度=標準」「オートアイリス1」「オーバースキャン=100%」「ノイズリダクション=全オフ」「ランプ=標準」にて撮影
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■ まとめ
 ~フルHD液晶プロジェクタ御三家の選択方針指南

 今回で透過型フルHDプロジェクタ3モデルの全てを評価し終えたので、ここで全機種を振り返ってみたい。

 設置性についてはレンズズーム倍率/シフト量についてはTH-AE1000≒EMP-TW1000>LVP-HC5000といった感じ。最短投射距離スペックは全機種ほぼ同等だが、投射距離を長く取ったときにLVP-HC5000が映像を小さくできないという弱点はある。8~12畳前後で100~120インチという画面サイズにしたいという一般的なホームシアター設置ケースには3機種とも同レベルで対応できるのであまり大きな問題にはならないと思う。

 電動ズーム、フォーカス、シフトはTH-AE1000とLVP-HC5000に搭載。設置、撤去の頻度が高い場合に、この機能が有用なのは言うまでもないが、常設時でも便利な活用ができる。リモコン操作で画面の大きさを自在に変えられるため、例えばズーム最大倍率にして4:3映像をスクリーン一杯に表示して楽しむ、といった活用ができる。絶対必要な機能ではないが、あれば便利に活用できてしまうのが電動レンズ制御機能なのだ。

 これに未対応のEMP-TW1000は今世代の戦いではいわば少数派となってしまったのがつらい。この流れで行けば今後、もしかするとこの機能はフルHD液晶プロジェクタには搭載されて当たり前になっていくのかもしれない。

 接続性については、三者間に大きな差なし。TH-AE1000はHDMI入力を2系統装備、LVP-HC5000はDVI-D入力を持つがD5入力を持たないといった、それぞれに細かい特徴が現れているが、これが決め手になることはないだろう。

 操作性は学習型リモコンを採用したTH-AE1000がもっとも高機能だが、EMP-TW1000やLVP-HC5000のリモコンもシンプルで使いやすく普段の使用で不便を感じることはないと思う。接続性と操作性はいずれも時代やニーズをそれなりに組んだ洗練されたものになっており、どれを選択しても問題はない。

 画質については三者とも同じC2FINEパネルを活用しているわりには、それぞれにある程度の特徴が出ている。

 TH-AE1000はスムーススクリーンにより透過型液晶の泣き所である格子筋を消して"しっとり"画質を実現している。

 一方、EMP-TW1000とLVP-HC5000はこうしたギミックを持たず、1画素を的確に1画素として描き出す液晶らしい“くっきり”画質に仕上げている。ただし、投射レンズのフォーカス性能がよいLVP-HC5000は、このくっきり度においてEMP-TW1000よりも若干優れていると感じる。

 VA配向採用で黒浮き低減を謳ったC2FINEパネル。たしかに黒浮きは幾分改善はされてはいるものの、ランプ輝度が高いこともあってやはりそれなりにある。これを低減するために三者全部が動的絞り機構を組み合わせているが、この機能に関しては、LVP-HC5000が三菱LVPシリーズ“初”実装ということもあってか競合二者に一歩及ばずといった印象。

 くっきり画質派は、「動的絞り機能を積極活用派」ならばEMP-TW1000。「(動的絞り機構を使わない)ネイティブコントラスト至上主義者」ならばLVP-HC5000といえる。



□三菱電機のホームページ
http://www.mitsubishielectric.co.jp/
□製品情報
http://www.mitsubishielectric.co.jp/projector/home/products/lvp_hc5000/index_b.html
□関連記事
【2006年10月11日】三菱、フルHDプロジェクタ「HC5000」に予想を上回る注文
-「予想を上回る注文で納入まである程度日数が必要」
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20061011/mitsu.htm
【2006年8月22日】三菱、フルHD解像度の液晶プロジェクタ「LVP-HC5000」
-実売45万円で10月発売。D6/C2FINEパネルを搭載
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20060822/mitsu1.htm
【2006年12月22日】【大マ】透過型フルHDプロジェクタの新基準
~ 成熟した新dreamio。「エプソン EMP-TW1000」 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20061222/dg77.htm
【2006年12月8日】【大マ】“カジュアルシアター”も「フルHD」に
~ フルHD透過型液晶プロジェクタの実力は? 「松下 TH-AE1000」 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20061208/dg76.htm

(2007年2月8日)

[Reported by トライゼット西川善司]


西川善司  大画面映像機器評論家兼テクニカルライター。大画面マニアで映画マニア。本誌ではInternational CES他をレポート。僚誌「GAME Watch」でもPCゲーム、3Dグラフィックス、海外イベントを中心にレポートしている。渡米のたびに米国盤DVDを大量に買い込むことが習慣化しており、映画DVDのタイトル所持数は1000を超える。

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AV Watch編集部

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