今冬のフルHD液晶御三家の代表格ともいえるのが三菱電機の「LVP-HC5000」だ。なにしろ、今シーズンのフルHD液晶プロジェクタの価格破壊を行なったのが、このLVP-HC5000。今まで100万以上当たり前だったフルHDプロジェクタの半額以下となる、実売45万円での製品投入を発表。さらに発売後は30万円台前半から、場合によっては20万円台で販売されるなど、フルHDを身近にした代表格といえる。 筆者もプロジェクタメーカーに取材に行くたびに、開発スタッフが「三菱さんがやってくれちゃったので……」という苦笑を浮かべるほどで、ユーザーと業界に与えたインパクトを相当大きいものだったと思う。 今回は、そんな風雲児「LVP-HC5000」の実力を検証していくことにする。御三家、最後の紹介となることもあり、松下「TH-AE1000」、エプソン「EMP-TW1000」などを意識しつつ評価をしていくことにしたい。
■ 設置性チェック ~電動ズーム/フォーカス/レンズシフト搭載。静粛性も御三家トップ!
部屋の後部に設置した本棚等の天板に設置する疑似天吊り設置(オンシェルフ設置)をする場合には大きめの棚板を利用するなどの工夫が必要だ。なお、底面には吸排気スリットはないので、底面を天板にぺたっと橋渡し的に設置することもできる。本体重量も約5.6kgと軽い。持ってきて設置、使い終わったら片づける、といったカジュアルホームユースも行なえるはず。 天吊り金具も純正オプションとして設定されているが、天井側に設置する取り付け金具ベースと、その取り付け金具を利用するための固定アダプタの分割構成となっている点に留意したい。天吊り取り付け金具「BR-1」は28,875円、LVP-HC5000専用の固定アダプタ「BR-HC5000S」は26,250円となっており、結論をいえばこの両方を利用しないと天吊り設置は行なえない。
投射レンズは1.6倍ズームレンズを採用、100インチ(16:9)の最短投射距離は約3.1m(競合は各3.0m)。競合が2.0倍以上なので、スペック的には御三家の中では一番下だが、8~12畳クラスまでの広さの部屋であれば必要十分な焦点距離を備えている。差が出てくるとすれば16畳以上の大きな部屋の最後尾に設置する場合だ。 TH-AE1000やEMP-TW1000は6mの投射距離でも100インチに画面サイズを抑えられるが、LVP-HC5000の100インチ最長投射距離は5mと短い。6mの投射距離を取ってしまうとLVP-HC5000では120インチ級になってしまう。特殊な設置ケースを考えている場合は、この点に留意する必要がある。
【訂正】
競合のTH-AE1000と同様に、LVP-HC5000も電動ズーム/シフト/フォーカス調整機能に対応する。LVP-HC5000はリモコン操作でズーム/シフト/フォーカスをリアルタイム調整できるのだ。これは非常に便利で、設置と撤去の頻度が多い設置ケースにおいては絶大な威力を発揮する。 特にリモコンでのフォーカス調整は便利だ。スクリーンにめいっぱい近づいた状態で操作できるので、1画素が本当にシャープに見えるところまで追い込んで調整可能。画質マニアにはたまらない機能だ。
稼働時の騒音レベルはランプ駆動モード「低」で19dB。これはクラストップの静粛性能だ。ランプ駆動モード「標準」の高輝度モード時の騒音レベルは非公開だが、実際に「低」と「標準」で聞き比べても微妙な違いで非常に静かだ。静粛性に関してはどの製品と比較しても圧倒的にLVP-HC5000が優れている。 光源ランプは160Wの超高圧水銀系ランプ。最近の機種としては珍しく、光源ランプの公称寿命はランプ駆動モード「低」で5,000時間とされている。交換ランプ「VLT-HC5000LP」は26,250円とかなり安価に設定されている。本体価格も安いがランニングコストも安価だ。 吸気エアフィルタやランプ交換は側面から行なう方式。よって台置き設置でも天吊り設置でも本体を移動せずにそのまま交換できる。
■ 接続性チェック ~HDMIとDVI-Dを装備
アナログビデオ信号はコンポーネント、Sビデオ、コンポジットの各入力を1系統ずつ備えている。PC接続用としては、前出のDVI-Dとは独立したアナログRGB入力(D-Sub15ピン)を1系統持っている。この他、電動スクリーンや照明機器などの外部設備との連動を図るために、稼働中に12Vを出力するトリガー端子も設けられている。
端子を一通りサポートしているだけでなく、HDMI端子とは別系統でDVI-D端子を実装しているのはLVP-HC5000の特徴となっていると思う。ビデオ機器もPCも同時にデジタル接続したいというユーザーにとってはまさに渡りに舟といえる接続性を実現している。
■ 操作性チェック ~新デザインリモコン採用。充実した調整機能と豊富なユーザーメモリ機能 リモコンはLVP-HC3000から一新され、一回り大きく、そしてより縦長のバー形状デザインのものになった。ユニークなのは底面の窪みが2つあるところ。この2つの窪みに人差し指と中指をあてがえば親指が十字キーの上に乗り、人差し指だけにあてがえば親指が画調調整系操作ボタンに乗り、中指と薬指をあてがえば親指が入力切換系操作ボタンの上に乗るというエルゴノミックデザインになっているのだ。
ボタンの1つ1つはまずまずの大きさで、ボタン上の文字の視認性も悪くない。CONTRASTやBRIGHTNESS調整のボタンが[CNT]や[BRT]というような略称になっていたりはするが、しばらく使えば慣れてしまうことだろう。 電源オン、オフボタンは誤操作を避けるために個別デザインとなっており、電源オンはワンタッチで、オフは2度押し操作となっている。電源オン後、HDMI入力の映像が表示されるまで約52秒(実測)と最近の機種としてはかなり遅い…… と思いきや、「設置」メニューの「スプラッシュスクリーン」(起動画面)を[OFF]設定とすると暗いながらも電源オン約20秒後から投射映像が表示される。これならば最近の機種としては標準的な起動速度だ。高速起動を重んじる場合は起動画面をキャンセル設定しておこう。 使用頻度の高い入力切換は、対応する入力系統に1対1に対応する個別ボタンを用意し、目的の入力にワンタッチで切換が可能だ。切換所要時間はDVI→HDMIで約5秒、HDMI→Sビデオで約4.6秒とかなり遅め。ただ、希望の入力にダイレクトに切り換えられるためストレスは秒数から連想されるほどでもない。 アスペクト比切換は[ASPECT]ボタンを押して順送り式に行なう操作系。切換所要時間は約1.2秒と最近の機種としては遅い。 用意されているアスペクトモードは全部で5種類。アスペクト比4:3、16:9向けの「4:3」と「16:9」の他、4:3の外周を伸張して疑似ワイド化する「ストレッチ」、4:3映像にレターボックス収録された16:9映像をパネル全域に表示する「ズーム2」がある。ユニークなのは一部のVHSやLDのソフトなどに存在した、4:3映像に2.35:1のシネスコ記録された映像をアスペクト比を維持しなおかつ字幕エリアを確保しつつパネル全域に拡大表示する「ズーム1」モードだ。 調整可能な画調パラメータは「ガンマ」「コントラスト」「ブライト(ブライトネス)」「色温度」「色の濃さ」「色あい」「シャープネス」といった一般的なパラメータの他、[アドバンスド・メニュー]階層下の「オートアイリス設定」(後述)や各種ノイズリダクション機能の設定パラメータなど。 設定したパラメータは各入力系統ごと個別に用意された3つのユーザーメモリ(AV MEMORY)に保存が可能だ。ただし、保存されるのは上記に上げた画調パラメータを中心とした「画質」メニューで調整可能な設定のみ。本来はユーザーメモリに一緒に記憶して欲しいランプ駆動モードの設定(「設置」メニュー階層下)やオーバースキャン"%"設定(「信号設定」メニュー階層下)が保存されない点には注意したい。
色温度モードはプリセットのほか、ユーザーによる設定も作成できる。ブライトネスとコントラストを各RGBごとに個別に調整し、定義したユーザー色温度設定は専用のユーザー定義メモリに保存できる。なお、このユーザー色温度メモリは各AV MEMORYごとに1つずつ用意されている。 LVP-HC5000は、他機種に見られるような視聴ソース種別ごとに最適化されたプリセット画調モードを持たない。LVP-HC3000の時もそうだったので、三菱製プロジェクタの基本コンセプトと思われる。その代わり、それに近いものとして視聴ソース種別ごとに「シネマ」「ビデオ」「スポーツ」といった3つのプリセットガンマモードが用意されている。
リモコンの最下段にはコントラスト[CNT]、ブライトネス[BRT]、色温度[C.T.]、ガンマモード[GAMMA]、シャープネス[SHARP]、色の濃さ[COLOR]、ノイズリダクション設定[NR]といったパラメータ設定を直接変更できるショートカットキー的なボタンもレイアウトされている。 このボタンを使用すると、そのパラメータだけを表示した1行分の小さな簡易UIが出てきて、表示中の映像を見ながら調整できるのだが、その時点で選択されていたAV MEMORYを直接書き換えることになるので勇気がいる。「プリセット値戻し」ボタンが1つあった方がよかったように思う。 また、パラメータ調整は左右キーで行なうのを基本とするも、呼び出した簡易UIによっては左右キーがさらに下階層のパラメータを選択する操作に切り替わったりすることもあり、結構扱いが難しい。その意味では他機種のように画面上のどこかに簡易的にヘルプの表示が欲しいところ。
LVP-HC5000は調整機能についてはかなり贅沢かつ充実しており、調整マニアに配慮した設計になっているといえる。
■画質チェック ~色ダイナミックレンジとフォーカス性能に自信あり 液晶パネルはエプソン製、D6世代の0.74型透過型液晶パネル「C2FINE」パネルを採用。パネル解像度は1,920×1,080ドットのフルHD。本連載第77回でも説明しているが、C2FINEパネルのアピールポイントは「無機配向膜採用による縦縞ノイズの大幅低減」、「垂直配向(VA)液晶の採用により暗部階調性能の向上」の2点に集約される。 縦縞はこれまでの透過型液晶と比較すると劇的に低減されており、普通に見ている分にはほとんど分からない。従来の透過型液晶と比較すると劇的に改善されているといっていい。 黒浮きは、後述する動的絞り機構(オートアイリス)をオフにすると、やはりある。暗い映像の最暗部と映像が投射されていない部分の輝度格差はやはりLCOSやDLPと比べると大きい。ただし、暗部階調のリニアリティは優秀で、この点はVA液晶の優位性が実感できる。 公称最大輝度は1,000ルーメン。TH-AE1000(1,100ルーメン)、EMP-TW1000(1,200ルーメン)と比べると、スペック的には低いものの、スペック上もっとも高輝度なEMP-TW1000と比較しても、ほとんど差は感じない。明るい映像を投射すると部屋の中がパッとあかるく見えるほどで、ランプ=標準、色温度=高輝度、アイリス=オープンとすれば、蛍光灯照明下でも普通に映像が見られるほどだ。 公称コントラストは10,000:1。これは、例によって動的絞り機構を利用した、絞り最小の時の黒と、絞り開放の白の比較結果なので、あまり当てにはならない。ネイティブコントラストは経験的な目視判断で大体1,000:1付近という手応えだ。 LVP-HC5000の動的絞り機構は「オートアイリス」という名称で、動作モードとしては、常時開放の最大輝度重視の「オープン」、絞り幅が最大の「オートアイリス1」、この間に絞り幅を控えめにした「オートアイリス2、3」という全4設定を持っている。 動的絞り機構のチェックには、シビアな明暗の変化が激しい「アビエイター」(チャプター7)を見てみたが、オートアイリス1、2、3、いずれにおいても、明暗の切り替わりで遅れて絞られる不自然な動作を確認した。絞りステップがやや粗いのと、絞り速度が遅いため、シーンが切り替わるたびにオートアイリスの介入を意識させられる。オートアイリスのアルゴリズムの改良を期待したいと共に、絞り固定モードの搭載、または動的絞りの速度調整機能などの搭載も望みたいところ。
方針としては全体的に明るい映画ならばオートアイリス3を、暗い映画ならばオートアイリス1、がいいだろう。オープン(絞り開放、絞り無し)では前述したような遅延絞りによる不自然な明暗変化は回避できるのだが、透過型液晶の“悲しき性”、暗い映像での黒浮きはやはりオープンでは辛い。よって、基本的にはオートアイリスを活用した方がよい。
色ダイナミックレンジはズバ抜けていい。色ディテールの表現がしっかりしているので解像度が向上したような錯覚を覚えるほどだ。かといってシャープネスを強調しすぎているわけでもなく、ノイジーさはない。このあたりのチューニングは絶妙だと思う。CG、実写ともに、映像が持つ情報を100%に近い形で視覚できる心地良さがある。 透過型液晶パネルの弱点でもある格子筋はどうか。LVP-HC5000の液晶パネルでは開口率が55%で、LCOSやDLPが開口率約90%と比べると低い。格子筋は細くはないが、輝度性能が高く、しかも画素密度が高いので、それほど目くじらを立てるほどではない。 ただ、PCやゲーム画面、CG映画などの1ピクセル単位の表現がシビアに見た目に聞いてくる映像では気になる場合もあるかも知れない。実際に条件を変えて視聴してみたが、視聴距離を2mに固定すると150インチでは気が付くが、80インチでは気にならないという感じだ。
同条件で投射した場合、EMP-TW1000と比較すると、フォーカスむらはLVP-HC5000の方が少ない。これは特筆すべき点だと思う。色収差については外周にいけばやはりある。ただ、著しく解像感を劣化させるほどではない。 プリセット画調モードはないのだが、視聴する映像ソース種別に応じたガンマモードが用意されているので、今回はこれを評価してみることにした。
ガンマモード以外の設定は「色温度=標準」「オートアイリス1」「オーバースキャン=100%」「ノイズリダクション=全オフ」「ランプ=標準」としている。
■ まとめ ~フルHD液晶プロジェクタ御三家の選択方針指南 今回で透過型フルHDプロジェクタ3モデルの全てを評価し終えたので、ここで全機種を振り返ってみたい。 設置性についてはレンズズーム倍率/シフト量についてはTH-AE1000≒EMP-TW1000>LVP-HC5000といった感じ。最短投射距離スペックは全機種ほぼ同等だが、投射距離を長く取ったときにLVP-HC5000が映像を小さくできないという弱点はある。8~12畳前後で100~120インチという画面サイズにしたいという一般的なホームシアター設置ケースには3機種とも同レベルで対応できるのであまり大きな問題にはならないと思う。 電動ズーム、フォーカス、シフトはTH-AE1000とLVP-HC5000に搭載。設置、撤去の頻度が高い場合に、この機能が有用なのは言うまでもないが、常設時でも便利な活用ができる。リモコン操作で画面の大きさを自在に変えられるため、例えばズーム最大倍率にして4:3映像をスクリーン一杯に表示して楽しむ、といった活用ができる。絶対必要な機能ではないが、あれば便利に活用できてしまうのが電動レンズ制御機能なのだ。 これに未対応のEMP-TW1000は今世代の戦いではいわば少数派となってしまったのがつらい。この流れで行けば今後、もしかするとこの機能はフルHD液晶プロジェクタには搭載されて当たり前になっていくのかもしれない。 接続性については、三者間に大きな差なし。TH-AE1000はHDMI入力を2系統装備、LVP-HC5000はDVI-D入力を持つがD5入力を持たないといった、それぞれに細かい特徴が現れているが、これが決め手になることはないだろう。 操作性は学習型リモコンを採用したTH-AE1000がもっとも高機能だが、EMP-TW1000やLVP-HC5000のリモコンもシンプルで使いやすく普段の使用で不便を感じることはないと思う。接続性と操作性はいずれも時代やニーズをそれなりに組んだ洗練されたものになっており、どれを選択しても問題はない。 画質については三者とも同じC2FINEパネルを活用しているわりには、それぞれにある程度の特徴が出ている。 TH-AE1000はスムーススクリーンにより透過型液晶の泣き所である格子筋を消して"しっとり"画質を実現している。 一方、EMP-TW1000とLVP-HC5000はこうしたギミックを持たず、1画素を的確に1画素として描き出す液晶らしい“くっきり”画質に仕上げている。ただし、投射レンズのフォーカス性能がよいLVP-HC5000は、このくっきり度においてEMP-TW1000よりも若干優れていると感じる。 VA配向採用で黒浮き低減を謳ったC2FINEパネル。たしかに黒浮きは幾分改善はされてはいるものの、ランプ輝度が高いこともあってやはりそれなりにある。これを低減するために三者全部が動的絞り機構を組み合わせているが、この機能に関しては、LVP-HC5000が三菱LVPシリーズ“初”実装ということもあってか競合二者に一歩及ばずといった印象。 くっきり画質派は、「動的絞り機能を積極活用派」ならばEMP-TW1000。「(動的絞り機構を使わない)ネイティブコントラスト至上主義者」ならばLVP-HC5000といえる。
□三菱電機のホームページ (2007年2月8日) [Reported by トライゼット西川善司]
AV Watch編集部 |
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