第3四半期決算に見る各社の薄型テレビ事業の現状 ~ 今後の価格下落への見解が各社分かれる ~ |
ソニー 大根田伸行EVP兼CFO |
各社の第3四半期決算のなかで、まず大きなトピックスをあげるとすれば、それはソニーのテレビ事業の黒字化だろう。
同社の発表によると、第1四半期が110億円の赤字、第2四半期が100億円の赤字に対して、第3四半期は130億円の黒字となり、「2006年度下期からの黒字化」という公約を実現。「第4四半期も引き続き黒字を維持し、下期を通じての黒字化を達成したい」(大根田伸行EVP兼CFO)と語る。
同社では言及していないものの、第4四半期も、第3四半期並の黒字を維持すれば、通期黒字も視野に入ってきたといえよう。
第3四半期の同社テレビ事業は、売上高は前年同期比17.1%増の4,208億円、2006年4~12月までの売上高は37.3%増の9,343億円。リアプロジェクションの低迷や、ブラウン管テレビが予想以上にマイナスとなったものの、これを好調な液晶テレビがカバーした格好だ。
なお、通期の見通しは、液晶テレビは600万台と据え置いたのに対して、リアプロジェクションテレビは180万台から110万台に下方修正。プラウン管テレビも550万台から470万台に下方修正した。
だが、計画を据え置いた液晶テレビについても、「2006年度の液晶テレビの600万台の出荷計画に対して、2007年度は1.5倍以上を出荷したい」と発言。液晶テレビでは先行しているシャープの町田勝彦社長が、「当社は、2006年度には600万台を出荷する見通しだが、2007年度にはこれを900万台にしたい」と、1月の社長方針説明会で宣言した数字を上回る成長を示唆してみせた。
そのシャープだが、第3四半期でも、好調な決算を発表している。
シャープ・町田勝彦社長。写真は1月の年頭記者会見のもの |
液晶テレビ事業は台数ベースでは、前年同期比49%増の181万台、金額ベースでは45%増の1,925億円となった。そのうち、国内は42%増の84万7,000台、32%増の1,014億円。海外は55%増の96万6,000台、63%増の910億円となっている。また、9カ月間の出荷台数は434万台、売上高は4,393億円とこちらも高い成長を維持している。
特筆されるのは、30型以上の販売比率が、上期の47%から第3四半期は59%へと一気に拡大。さらに40型以上の比率は、4%から13%へと、こちらも一気に増加した点だ。
業界全体では、40型以上の比率は年間で12%程度になると見られているが、シャープの液晶テレビ事業もそれに沿った動きへと転換している。今年1月には、大画面テレビの製造に適した亀山第2工場の第2期生産ラインが稼働しており、これにより、第8世代のマザーガラスの投入枚数は2倍規模の月3万台へと増加している。第4四半期は、さらに急速な勢いで、40型以上の比率が高まることになりそうだ。
また、シャープのテレビ事業では興味深い動きも出ている。大画面テレビの比重が急上昇したことで、1台あたりの平均単価が上期に比べて、9%も上昇したことだ。46/52型のフルハイビジョンモデルが、日米で品薄となった状況を考えると、これが潤沢に供給されていれば、2桁以上の単価上昇という結果になったとも予想される。第4四半期の単価上昇も見逃せない要素になりそうだ。
■ 明暗分かれるプラズマテレビ陣営
一方、プラズマテレビ陣営はどうだろうか。
松下電器 川上徹也副社長 |
松下電器産業は、薄型テレビ事業が順調に推移していることを示す。第3四半期のテレビ事業の売上高は前年同期比8%増の3,006億円。1桁増に留まっているが、これは工場の操業停止を急ピッチで進めているブラウン管テレビ事業の縮小が影響している。薄型テレビだけを例にとれば、プラズマテレビは、前年同期比26%増の1,867億円、液晶テレビでも21%増の731億円と高い成長を遂げている。
「国内を例にとれば、薄型テレビ全体では前年同期比33%増に対し、当社は49%増となった。37型以上の薄型テレビでは3割のシェアを確保。系列店での販売数量を加えると大画面テレビでは首位を確保しているはず」(同社・川上徹也副社長)とする。
これを牽引しているのは、やはりプラズマテレビ。川上副社長は、最近のプラズマテレビ不振の論調を一蹴、「国内のプラズマテレビの実績は、業界全体が32%増であるのに対して、松下電器は61%増と大幅な伸びを見せている。また、液晶テレビでも国内市場全体が33%増に対して、同社は41%増の成長になっている」と語る。
また、海外についても、「50型以上の大型化が進展しており、50型以上の構成比は、グローバルでは14%から20%に拡大。大画面への需要が大きい北米では21%から34%へと拡大した」という。
2009年度には、50型以上の薄型テレビ比率を5倍にする計画を掲げる |
2006年度においては、400万台の出荷計画のうち、50型以上で22%、42型で59%、37型で19%の構成比を目指しているが、「大型化はさらに進展する。2010年には、50型以上の比率は、現在の約5倍の市場規模になる。大画面になればなるほど、プラズマの優位性が発揮できる」と強気の姿勢を見せた。
ただし、プラズマテレビでは、国内シェアが7割に達するなど、一社独占の様相が強くなったのも事実。これに対して、松下はどう見ているのだろうか。
「一人勝ちで残ってもプラスとはいえない。1社が勝って、喜んでいるわけではない」と語る。メーカーの選択肢が広い液晶テレビに対して、ただでさえ選択肢が少ないプラズマテレビが1社独占状態になっているのでは、量販店の売り場において、展示のボリューム感を出せずに、むしろマイナス要素になりかねない。これ以上、プラズマテレビ市場におけるシェア拡大が行き過ぎると、松下電器が自らの首を締めることにもなりかねないといえよう。
松下電器の好調ぶりを尻目に、プラズマ陣営で苦戦しているのが日立製作所だ。第3四半期決算も、薄型テレビ事業は依然として赤字から脱却できないままだ。いや、同事業を含むデジタルメディア・民生機器は、前年同期に比べて赤字幅を132億円も拡大し、営業損失はマイナス190億円となっている。
日立の三好崇司執行役副社長 |
「薄型テレビは、計画数量に対しては予定通りに進捗している。年間80万台の計画はなんとしてでも達成したい」と同社 三好崇司執行役副社長は語る。第3四半期におけるプラズマテレビの出荷台数は、47%増の25万台。液晶テレビの出荷台数は80%増の18万台となっている。
つまり、出荷台数では好調な伸びを見せているが、収益が追いついていないというが実態だ。「さらなる原価低減への努力が必要だと感じている。同業他社とも原価低減について一緒に取り組んでいくなどの施策によって、2007年度の黒字化を目指す」とする。
同社では、得意とするHDD搭載モデルに加えて、iVDRを搭載した新たな製品を投入し、付加価値戦略で収益確保へとつなげる考えを示した。
■ 今後も価格下落傾向は続くのか
ところで、各社の収益確保という点では、価格下落動向が大きく影響するのは明らか。年率25~30%の勢いで下落している価格を、今後どうなると見ているのだろうか。これはメーカーによって意見がわかれている。
ソニーは、「40型の液晶テレビは30%程度の価格下落と想定していたが、それが35%程度下落している。予定より前倒しで下がっている。松下電器が11月にプラズマテレビで大きく値段を下げたことが影響している」と指摘する。サンクスギビングディの翌日に一部販売店などで、松下電器のプラズマテレビが驚くべき価格で展示販売されたことを指しており、それを機に価格下落が進展していることを指摘してみせた。
また、日立製作所でも、「欧米での価格下落は予想以上のもの」と指摘。シャープでも、「2006年は、業界全体としては、2割から3割程度、価格が下落していた。これは想定よりも大きな幅」と語る。
価格下落の張本人と指摘された松下電器では、国内で約26%の下落と発表。「グローバルでは業界全体が25%であったのに対して、当社は22%程度に留まっている」として、他社の価格下落が大きかったことを示してみせた。
決算を通じたコメントは、価格下落の張本人は誰かという、犯人探しの様相を含んだものとなったが、いずれにしろ、価格下落は予想以上に進展しているというのが各社に共通した意見であることに間違いはない。
では、今後は、どうなるのだろうか。多くのメーカーに共通するのは、依然として価格下落が続くというものだ。しかし、こんな見方も一部では出ている。
シャープでは、「プラズマの価格下落は進みそうだが、液晶テレビでは、32型の価格下落にある程度目処がついてきたこと、40型以上への需要が高まる一方で、大画面パネルを生産できる液晶パネルメーカーは、当社のほか、もう1社に限定されることから、需給が逼迫し、価格下落にはつながらない」と分析。「2007年は、液晶テレビ全体では15%程度の下落に留まるのではないか」と、価格下落が今後落ち着くとの見方を示している。
とはいえ、大画面領域でぶつかるプラズマテレビの価格が下がれば、液晶テレビも価格を下げざるを得ないのは明らか。シャープの思惑通りに市場が動くかどうかは難しいといえそうだ。
□ソニーのホームページ
http://www.sony.co.jp/
□シャープのホームページ
http://www.sharp.co.jp/
□松下電器産業のホームページ
http://panasonic.co.jp/
□日立製作所のホームページ
http://www.hitachi.co.jp/
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(2007年2月16日)
= 大河原克行 = (おおかわら かつゆき) |
'65年、東京都出身。IT業界の専門紙である「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を勤め、2001年10月からフリーランスジャーナリストとして独立。BCN記者、編集長時代を通じて、15年以上に渡り、IT産業を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。 現在、ビジネス誌、パソコン誌、ウェブ媒体などで活躍中。PC Watchの「パソコン業界東奔西走」をはじめ、Enterprise Watch、ケータイWatch(以上、インプレス)、nikkeibp.jp(日経BP社)、PCfan(以上、毎日コミュニケーションズ)、月刊宝島、ウルトラONE(以上、宝島社)、月刊アスキー(アスキー)などで定期的に記事を執筆。著書に、「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社)、「松下電器 変革への挑戦」(宝島社)、「パソコンウォーズ最前線」(オーム社)など。 |
[Reported by 大河原克行]
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