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第239回:スパイらしくなった新生ボンド
ソニー製品も活躍「007 カジノ・ロワイヤル」

 「買っとけ! DVD」として連載を続けてきた本コーナーですが、HD DVDやBlu-rayタイトルのリリースが開始されたこともあり、今後は、紹介するタイトルをDVDだけではなく、HD DVDやBlu-rayタイトルにも広げます。コーナータイトルは、取り上げるフォーマットにより、「買っとけ! DVD」、「買っとけ! HD DVD」、「買っとけ! Blu-ray」と変化します。
 コーナーのコンセプトは従来から変更なく、編集スタッフ各自が実際に購入したソフトを、思い入れたっぷりに紹介します。「Blu-ray/HD DVD発売日一覧」と「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。


■ BDビデオのプチラッシュ

007 カジノ・ロワイヤル

価格:4,980円
発売日:2007年5月23日
品番:BRS-43508
収録時間:約145分(本編)
画面サイズ:シネマスコープサイズ
映像フォーマット:MPEG-4 AVC/1080p
音声:英語(リニアPCM 5.1ch)
     英語(ドルビーデジタル5.1ch)
     日本語(ドルビーデジタル5.1ch)
字幕:日本語/英語
発売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

 1週間ほど前の5月23日は、計9本のBDビデオがリリースされ、プチラッシュ日だった。「パイレーツ・オブ・カリビアン」の「呪われた海賊たち」と「デッドマンズ・チェスト」が目につくところだが、ほかにも今回取り上げる「007 カジノ・ロワイヤル」、今敏監督のハイクオリティアニメ「パプリカ」など、注目作が多い。

 注目作に限って言えば、SPEやワーナー、パラマウントなどが新作のDVD化とほぼ同じタイミングで次世代DVD版も投入する機会が多くなっている。お気に入りの作品が高画質で楽しめるのも嬉しいが、まだ観ていない新作が、最初からHDで楽しめるのは嬉しいことだ。

 「007」は、英国の作家イアン・フレミングによる小説を映画化した、誰もが知る人気シリーズだ。これまでショーン・コネリーや、ロジャー・ムーア、ティモシー・ダルトン、ピアース・ブロスナンなど、様々な俳優がボンドを演じてきた。

 原作はどちらかと言えばハードボイルドタッチなスパイ小説だが、映画版は回を重ねるごとにエンターテイメント作品化。前作を超えようとするたびにスケールが巨大化し、中には原作からタイトルだけを借りてきて、ボンドが宇宙へ飛び立ち、人類滅亡を企てる敵をやっつけるなどという「SFじゃん」というレベルの作品もある。

 活躍するボンドもスーパーマン化が著しく、大爆発の中から余裕で生還し、大勢の敵に囲まれても顔に傷ひとつ負わずに敵を全滅などは朝飯前。グラマーな無名の女優がボンドガールに抜擢され、いきなりスターになるというのも良く聞く話だ。だが、そのおかげで最近のボンドは「映像は派手だが中身はスカスカ」という状況が続いていた。ある意味、ハリウッド大作映画の栄枯盛衰を体現してきたシリーズと言えそうだ。

 だが、現在のハリウッドで、これまでの反動から映画の中身にこだわる風潮が強くなっている。日本や韓国などの良質なストーリーの映画化権を、ハリウッドの大手スタジオが買い付けるというニュースも多い。そんな流れを受けたのか、ボンドも原点回帰。007シリーズ最初の小説「カジノ・ロワイヤル」が再映画化されることになった。

 「カジノ・ロワイヤル」は、'54年にテレビドラマ化された後、'67年には映画化もされている。しかし、この映画版は今でいう「オースティン・パワーズ」のようなコメディタッチの映画で、原作とはかけ離れた内容だったという。そのため、今回の映画化では「原作に忠実」がキーワード。描かれるのは「ボンドの誕生秘話」だ。前の映画版を見た人や、小説を読んでいる人はそれほど多くないと思われるので、新鮮味のある題材と言えるだろう。

 若き日のボンドを、従来と同じピアース・ブロスナンが演じるわけにはいかない。そこで6代目としてダニエル・クレイグの起用が決定した。「初の金髪・碧眼ボンド」として話題となり、そのイメージが原作に近いかどうかで話題になったのは記憶に新しい所。こうした理由から、「カジノ・ロワイヤル」は、ダニエル・クレイグ版ボンドシリーズの再スタートを強く印象付ける作品になっている。

 なお、発売日の23日に東京・新宿のヨドバシカメラに向かったところ、「カジノ」は売り場の棚に数本ストックがあり、「パイレーツ」は売り場とレジの棚にも在庫がある状態。翌日の24日に覗いたところ、「カジノ」と「パイレーツ」ともに残りは4~5本。「パプリカ」が10本程度という状態だった。発売日に売り切れたショップもあったようだが、現在では通販サイトを含め、在庫は安定しているようだ。


■ 失敗ばかりのボンド

 ジェームズ・ボンドは、英国諜報機関「MI6」に所属するスパイ。暗殺を2度成功させ、殺しのライセンス「007」を与えられたが、スパイとしては新米だ。爆弾テロを企てているテロリストを追っていた彼は、テロリストから資金を預かり、それを違法な手段で増やしている死の商人ル・シッフルの存在を知る。

 ル・シッフルは爆弾テロを株価操作の手段として利用し、大儲けを繰り返していた。だが、ボンドにより計画は阻止され、大損してしまう。投資金を返済できなくなり、テロリストから命を狙われる彼は、その天才的な頭脳を活かし、カジノのポーカーで1,500万ドルを賭けた大勝負に出る。それを察知したMI6は、カードゲームに長けたボンドを派遣。ボンドは、財布係として財務省から派遣された美女ヴェスパーと共に、カジノでの勝負に挑むのだが……。

 これまでのボンド映画のイメージで観賞していると、意外に感じる部分が多い。ド派手なアクションもあるのだが、前半から中盤にかけてに集中しており、最初にインパクトで引きつけておいて、後半は落ち着いたサスペンスでまとめている。そのため、勧善懲悪なお決まりパターンで「“悪の親玉”を最後にボンドがやっつけて、美女と一緒にハッピーエンド」という物語を想像していると、気持ちよく裏切ってくれる。

 中盤以降は「騙し、騙され」が連続するため、登場人物の顔と名前をしっかり覚えていないと置いていかれる。細かなセリフも聞き逃さないことが重要だ。派手なアクションも楽しめるし、スパイ映画の醍醐味も味わえる。お得な作品と言えるだろう。ただ、ポーカーのルールを知らないと、テーブル上の駆け引きの緊張感は伝わりにくいかもしれない。

 何より新鮮なのは、ボンドが失敗しまくる点だ。運動神経や銃の扱いなどは人並み外れているのだが、精神的に未熟なため、スパイのくせに人を信じきって裏切られたり、任務に失敗してカンシャクを起こしたり、ボンドガールにのめり込みすぎて「スパイやめようかな」などと言い出したりする。絶体絶命のシーンでも、主人公がボンドだと「どうせなんとかなるんだろう」という感覚で観てしまうが、「なんとかならないじゃん!!」という場面が多々あり、笑ってしまった。ダンディなくせに失敗続きのボンドは、なんだか可愛い。

 つまりは、この映画は「ボンドがボンドになる物語」だ。常に先を読み、味方であっても100%信用しないという教訓。「ボンドが人間不信になる物語」と言い換えても良い。人としてどうなのかとは思うが、スパイとしては正しい成長だろう。「生身の人間」としてのボンドを描いたことで、感情移入しやすくなっており、アクションシーンだけが記憶に残るような従来のボンド映画とは一線を画す出来になっている。

 それにしても、鑑賞中にソニー製品が大量に登場するのが気になった。ストーリー上、必要なのでソニー・エリクソンの携帯電話が何度も大映しになるのはまだしも、ノートパソコンは全部VAIOで、必ず液晶パネル裏のロゴマークがキッチリ見えるアングルで撮影。ヴェスパーがサイバーショットで街並みを撮影するシーンも、デジカメがしっかり前に突き出されている。

 最も印象的だったのは、ボンドがバハマのリゾートホテルのセキュリティルームに侵入し、監視カメラの記録をチェックする場面。監視映像が記録されたディスクにBlu-rayのロゴマークがチラッと見えて、そのディスクが、壁に埋め込まれた3台のBDレコーダ「BDZ-V9(もしくはV7)」に挿入されたので、思わず吹き出してしまった。監視業務用に民生用のBDレコーダは使わないと思うのだが……。「大人な事情」を感じつつも、AVファンは細かいポイントでニヤリとさせられる映画だ。ネットワークウォークマン(NW-HD5)も登場しているので探してみよう。


■ いかにアストンマーティンを壊すか

 ディスクは片面2層で、映像はシネマスコープサイズ。フォーマットはMPEG-4 AVC/H.264を採用している。ビットレートは、冒頭のモノクロシーンで20~28Mbps程度、アクションでは35Mbpsまで上がるシーンもある。

 PS3のユーザーなら、PLAYSTATION Storeで配信された予告映像をダウンロードした人も多いだろう。あの映像もMPEG-4 AVCだが、ビットレートは4~10Mbps程度で、最大でも12Mbps程度。BD版は倍以上のビットレートを割いている。

 予告映像はそもそも画角が異なり、ビスタサイズに近い。BD版を観る前は予告でも十分に綺麗だと思っていたが、比較すると歴然とした差がある。まず、予告版の色味は赤が強く、人肌もピンクがかって血色が良く見える。コントラストも強調ぎみだ。

 BD版はこうした誇張が抑えられ、一見すると地味だ。だが、比較すると、予告編では肌の質感や顔の細かいシワがコントラスト強調で飛んでいた事がわかる。遠景のフォーカスも甘い。BD版では暗部の情報量も豊富で、階調はリアルそのもの。ボンドの上司・Mの顔のシワで特に違いが顕著だ。今までのBDの中では平均以上の画質だが、同日発売の「パイレーツ」(特に2作目)と比較すると、新作にしてはざらつきや色抜けの悪さが気になり、驚くほど高画質というわけではない。

 音声は英語をリニアPCM 5.1chと、ドルビーデジタル5.1chで収録。日本語はドルビーデジタル5.1chのみだ。リニアPCMは48kHz/4.6Mbpsで収録。ドルビーデジタルは英語が48kHz/448kbps。日本語が48kHz/640kbpsとなっている。

 サウンドデザインは派手目で、冒頭の爆発シーンからサブウーファが目一杯活躍する。移動感、包囲感も良好。ドルビーデジタルからリニアPCMに切り替えると、ベースボリュームがグッと上がると同時に、音圧も高まる。逃走劇の際に足元で跳ね飛ぶ砂利の細かい音や、鉄骨の「コーン」という響き、大爆発が起きた時の「ヒュオオオ!!」と迫りくる爆風の風切り音、どれをとっても桁違いに生々しくなる。音のエッジも際立ち、耳が良くなったように錯覚する。リニアPCM 5.1chが入力できないAVアンプの環境でも、2ch/PCMで鑑賞した方が迫力を感じられるかもしれない。

 特典映像は「ジェームズ・ボンド 誕生までの物語」と「生身のジェームズ・ボンド」、「ボンド・ガールは永遠に」、「ミュージック・ビデオ」などだ。

 「誕生までの物語」は、ダニエル・クレイグへのインタビューが中心。ボンド役が決まった時「役者として別の目標があった。ボンドをやったら、その先どうなるのかわからないから不安だった」という。大チャンスには間違いないのだが「ボンドの役者」というイメージは一生ついてまわる。それゆえの悩みが大きかったようだ。突然マスコミに追われるスターになった戸惑いも口にしており、親近感の湧くインタビューだ。

 アクションやスタントシーンの解説も豊富。特に面白いのは、ボンドカーのアストンマーティンが、何回転も横転しながらクラッシュするシーン。予告編でも使われているので観た人も多いだろう。ウン千万円する車が大破するだけでも冷や汗ものだが、時速300kmを出すような車なので重心が低く、安定性が高いため、実際の撮影ではなかなか横転しなかったそうだ。

 最初は15cmの台に乗り上げて横転させるつもりが失敗。45cmにしてもダメ、ついには「カノン砲」と呼ばれる、空気の力で道路にシリンダーを発射する装置を車に内蔵。ガツンと地面を叩いて“自分から”横転したのだという。「7回転半は世界初かもしれない」と笑顔の特撮スタッフに、つられて笑ってしまった。

 内容は充実しているが、同日に発売された「パイレーツ」シリーズと比べると、BD-JAVA機能を使ったインタラクティブ機能などは無く、新鮮味は薄い。しかし、歴代ボンドガールのインタビューをまとめた「ボンドガールは永遠に」のみSD解像度で、他の特典はHDで収録しているのは評価できるポイントだ。


■ 粋なボンドをハイビジョンで観る

 これまでも、DVDで映画を見ながら、ヨーロッパの街並みなどを「綺麗だなぁ」と感じた事はある。しかし、BDビデオで表示される豪華なカジノや、南国の楽園バハマは、現実離れしているほど美しい。「青い空、白い砂浜、水着の美女」と聞くとあまりにもチープな楽園像だが、思わず口が開きっぱなしになるほど美麗な映像だ。

 そこに、アストンマーティンでボンドが登場。オーダーメイドのスーツを着込み、マティーニに口をつけ、美女とたわむれる。晩御飯を牛丼にしようかラーメンにしようか考えている我が身を振り返ると次元の違いに笑えてくるが、こうしたハイエンドな生活をハイビジョンで観賞すると「夢見心地」の度合いが、DVDより遥かに高いと気付いた。これだけでも一見の価値はあるだろう。

 また、見事に6代目のボンドを演じたダニエル・クレイグにも賛辞を送りたい。絶世の美男子というわけではないが、神経質そうな顔立ちと、鋭い眼光が、今までのボンドにはない「スパイらしさ」を感じさせる。従来のボンドは「甘いマスクのプレイボーイ」というイメージが強かったが、個人的にはKGB出身のロシアのプーチン大統領のような顔が「スパイらしい顔」だと考えているので、6代目は私の中のボンド像に非常に近い。

 なお、次回作は2008年末に公開予定で、今回の「カジノ・ロワイヤル」の物語を引き継いだ、続編的な内容になるという。ここからも、1話完結型だった従来の007からの改革を感じさせる。今後、“人間らしさ”を維持したまま、どのようにシリーズが展開するか。今から楽しみだ。

●このBDビデオについて
 購入済み
 買いたくなった
 買う気はない

前回のDVD版「時をかける少女」のアンケート結果
総投票数2,871票
購入済み
1,635票
56%
買いたくなった
988票
34%
買う気はない
248票
8%

□SPEのホームページ
http://www.sonypictures.jp/
□タイトル情報
http://www.sonypictures.jp/homevideo/catalog/catalogDetail_JPDVDBRS-43508.html
□映画の公式ページ
http://www.sonypictures.jp/homevideo/casinoroyale/index.html
□関連記事
【3月16日】「007カジノロワイヤル」と「パプリカ」がBD/DVD/UMD化
-どちらも片面2層。「カジノ」はH.264収録
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20070316/spe1.htm
【2月13日】欧州版PS3購入者にBDビデオ「007/カジノ・ロワイヤル」を提供
-PLAYSTATION Network登録者50万人にプレゼント
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20070213/scee.htm
【Blu-ray/HD DVD発売日一覧】
http://av.watch.impress.co.jp/docs/bdhdship/

(2007年5月29日)

[AV Watch編集部/yamaza-k@impress.co.jp]


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