■ 超大作が完結編にあわせてBlu-rayで登場
今回、紹介するのは、Blu-ray Disc牽引の使命を負った「パイレーツ」シリーズだ。シリーズ最終作「ワールド・エンド」の5月25日公開にあわせ、5月23日に第1作「パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち」と第2作「パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト」が発売された。 画質評価や、製作時のコンセプトなどは、本田雅一氏の米国現地レポートで、すでに紹介済みだが、Blu-rayの普及のためにディズニー/ブエナビスタの総力を結集したビッグタイトル。あらためて、その実力を探ってみよう。 「パイレーツ」シリーズは、言うまでも無く、ディズニー/ブエナビスタを代表する超人気シリーズだ。「ワールド・エンド」は、25日から27日までの3日間の興収で19億3,869万7,200円、動員148万6413人を記録し、日本におけるオープニング3日間の興収新記録を樹立したという。 DVDについても2006年12月直後に出荷150万枚などの記録を打ち立てており、現在の映画興行/セルビデオ市場を牽引するタイトルといっても過言ではない。また、ワールド・エンドの公開にBDビデオ発売をあわせたことから、販売店の店頭でも協力にプッシュされている。折りしもSPEの「カジノ・ロワイヤル」の発売とあいまって、先週末から、BD三昧という人も多いのではないだろうか? 価格は各4,935円。特典ディスク付きの2枚組みで、通販サイトなどでは3,000円代~4,000円前半で購入できることを考えると、比較的リーズナブルな設定といえる。 松下電器とタッグを組んでブルーレイのプロモーションを行なうなど、BDビデオ普及のための戦略製品ともいえるタイトルだが、強力なBD-JAVAコンテンツを備えた結果、DIGAシリーズを除く、BDレコーダ/プレーヤーで軒並み再生不具合を引き起こしている。 もちろん、規格に則った製品でもフォーマットの立ち上がり当初はさまざまな互換性問題が発生するもの。こうして修正を加えていくことで、新しいインタラクティブ機能などの制作/実装ノウハウなどが蓄積され、普及に拍車がかかっていくことだろう。DVDビデオの時もかなりの不具合が生じたし、当時に比べるとネットワークアップデートや放送波を用いたダウンロードなどの手法が確立されているため、幾分環境としては整備されつつあるとはいえるかもしれない。とはいえ、あまり、こうした事例が多くなってしまうと、BDが一部マニア層だけのものになってしまう可能性も。こうした互換性問題の解消に向けた、各社の積極的な取り組みにも期待したいところだ。 ■ ストーリーは難しくなったが、万人向けのエンターテイメント
ストーリーは第1作はかなりシンプル。しかし、シリーズものということで、第2作以降はやや複雑になってきている。 第1作については、DVD発売時のレビュー記事も参照してほしいが、舞台はカリブ海に浮かぶ英国植民地の港町・ポートロイヤル。総督の娘エリザベス(キーラ・ナイトレイ)は、上流階級の暮らしに息が詰まりそうな日々を送っていた。そんな彼女は、子供の頃に海で助けたウィルという少年から手に入れた黄金のメダルを宝物として身に付けている。 一方、精悍な若者に成長したウィル(オーランド・ブルーム)は、密かにエリザベスに想いを寄せている。しかし、鍛冶屋で働く彼と総督の娘では身分が違い過ぎた。そんなある日、バルボッサ船長率いる呪われた海賊「ブラックパール号」がポートロイヤルを襲撃。ウィルは、剣を手に勇敢に立ち向かうが、エリザベスをさらわれてしまう。 彼女を救うため、ウィルは、ブラックパール号の行方を知るという一匹狼の海賊ジャック・スパロウ(ジョニー・デップ)の脱獄に協力。彼と手を組み、大海原へと旅立った。 自由奔放なジャックと、ウィル達の冒険がストーリーの中心。敵なのか味方なのか、善人なのか悪人なのか、飄々と敵を欺きながら、時には間が抜けた行動も起こす、ジャックの不思議な魅力に目を引かれる。また、不潔で野蛮な海賊達の描写と戦闘、それでいてユーモラスなジャックやウィル、海賊達のやりとりのバランスの良さが、魅力的な作品だ。ストーリーのテンポもよく、このあたりが大ヒットの要因といえるだろう。 第2作の「デッドマンズ・チェスト」は、前回の大冒険から3年後を描いている。 結婚式を目前に控えたウィルとエリザベス。しかし、式の前日。突然、かつてジャック・スパロウの脱獄に加担したことを理由に逮捕されてしまう。二人の逮捕を裏で手引きしていたのが、東インド貿易会社のベケット卿(トム・ホランダー)。ポートロイヤルの権力を掌握したベケットは、二人に死刑を通告する。ただし、ある条件さえ満たせば、彼らの罪を軽減するという。それは、ジャックの持つ「北を指さないコンパス」を奪え、というものだった。 一方、ブラックパール号を手に入れたジャックは、自由な海賊暮らしを続けていた。しかし、13年前に交わしたある約束が、彼の前に立ちはだかる。それは、ジャックがブラックパール号の船長となるため、船乗りたちが恐れる“深海の悪霊”ことデイヴィ・ジョーンズ(ビル・ナイ)と交わした「血の契約」だった。 その契約とは「13年の契約期間は終われば、ジャックはデイヴィ・ジョーンズの船で永遠の労役に服す」というもの。かくして、ジョーンズが操る巨大な深海の魔物“クラーケン”がジャック船長に迫る。かつて共に戦ったウィルとエリザベスも巻き込み、3人は再び大冒険を繰り広げる。 フライング・ダッチマン号とクラーケンを操る海賊の親玉デイヴィ・ジョーンズ、自由奔放な海賊の代表格のジャック、そして金と権力のベケット卿の3人のそれぞれの思惑に振り回される、ウィルやエリザベス。前作を代表する敵役でもあった提督のノリントン(ジャック・ダヴェンポート)が、がらりと立場を変えて登場するなど、シンプルな冒険物語だったパイレーツ1と比べると、ストーリーは複雑になっている。そうした点では、せっかくの同時BD発売なので、パイレーツ1、2と続けて観たほうがいいかもしれない。 また、前作では「ミステリアスな海賊」として描かれていたジャックの本当の姿や歴史が、デイヴィ・ジョーンズとの再会を機に徐々に浮き彫りにされていく。ジャックのファンには、ちょっと辛い描写かもしれないが、飄々とした態度の裏側の人間くささがうまく表現されており、キャラクターにさらなる深みを感じさせてくれる。 3部作の中盤、ということもあり、ストーリー的にはやや宙吊り感は否めないが、テンポがいいので勢いで2時間半の本編はさほど長さを感じず乗り切れる。また、CMでも紹介されていた「水車」のシーンなど、パイレーツらしいユーモアが健在で、シリアスでリアルな海賊達の振る舞いと、コメディが同居した、大いに楽しめるエンターテインメント作品になっている。 タコ船長ことデイヴィー・ジョーンズなど、観ているだけで大人でも目をしかめそうな怪人や、いかにも不潔な海賊が多数登場するパイレーツシリーズだが、日本でも米国でも子供ウケが非常によいとのこと。ファミリー層の支持も高いという。フライングダッチマン船上の処刑シーンなど、かなりグロテスクなシーンも出てくるので、小さな子供と一緒に見る際には、ちょっと問題があるようにも思うのだが……。
■ 高画質リファレンスディスク
ディスクは片面2層で、映像はシネマスコープサイズ。フォーマットはMPEG-4 AVC/H.264を採用している。PHLによるエンコードへの取り組みは、本田氏のレポートに詳しいが、パイレーツ1、2ともに高画質なディスクといえるのは間違いない。 パイレーツ1、2とも、本編時間が長いためか、ビットレートは10Mbps後半から20Mbps後半を推移しており、平均レートは控えめだ。ただし、揺れ動く船のはためく帆やギラギラと光る海面、水しぶきが共存するパイレーツ 2のクラーケンとの戦闘シーンなど、圧縮にとって非常に厳しそうなシーンでは、一時的に40Mbpsを超えることもある。 1、2ともに美しい風景からグロテスクなシーンまで、さまざまな場所が描かれるが、圧縮に伴う歪みらしきものは感じられず、グレインも自然に残っている。見ていて画質が気になってしまう、ということは無い。青々とした海と砂浜のコントラスト、水しぶき散る海上の戦闘シーン、ティア・ダルマの家の薄暗く、蝋燭でぼんやり照らされた古臭い調度品など、どれもディティールがしっかり見渡せ、ハイビジョンディスクならではの情報量を堪能できる。 本田氏のレポートでは、DIマスターを基準とし、マスターの違いを主因とする1、2の画質比較を行なっている。確かに比較してみると、パイレーツ 1のほうがディティールが立った、強い画に感じることもある。が、あくまで2との比較においてだ。どちらも非常に高画質なディスクで、画質チェック時のリファレンスディスクとして活用できるだろう。 DVDと見比べてみれば、フォーマットとしてのポテンシャルの違いは顕著だ。パイレーツ2のDVDは、画質のいい部分もあるが、冒頭の暴風雨に軋む船体など、MPEG圧縮らしいノイズが散見される。闇夜の帆船というところまでは認識できても、夜闇ににじんだランプは、ぼんやりとしてディティールがつかめない。BDにおいては、ランプの明かりの境界ににじみが無く、暗闇はどこまでも深く黒色の違いが確認できる。文字通り「見えなかったものが、見える」のだ。画質の違いは、37型テレビで2画面表示しても顕著にわかる。小さなディスプレイにおいても、BDとDVDとの画質差は大きく、その違いはほとんどの人が確認できるだろう。 音に関しては、パイレーツ 1、2ともに、音声は英語をリニアPCM 5.1chと、ドルビーデジタル5.1chで収録。日本語はDTS 5.1ch。そのほか、タイ語とポルトガル語もドルビーデジタル5.1chで収録している。リニアPCMは48kHz/4.6Mbps、ドルビーデジタルはすべて48kHz/640kbps。DTSは48kHz/1.5Mbpsとなっている。 パイレーツ1、2ともに、本編と特典ディスクの2枚組み。特典ディスクもBlu-rayだが、こちらは1層/25GBのディスクとなる。ただし、特典の多くはDVDに入っていたものとほぼ同じで、SD解像度での収録となる。もっとも、パイレーツ 2のNGシーン集や各地域のトレーラーなど、日本版DVDには入っていなかった特典も用意されている。 メイキングや製作背景なども勉強になるのだが、BD-JAVAを活かした特典はDisc 1、本編ディスクに入っている。 まず、「パイレーツ1」を観てみよう。ここで、BD-JAVAを生かしたコンテンツとして、「海賊たちの真実」が用意されている。本編の再生中、ある画面のトリビア情報を示すものとして、画面右に「金貨」を表示する。気になった場合は、ここでリモコンの決定を押すと、その金貨を「貯金」する。本編再生終了した後に、気になったトリビア情報をまとめて再生し、確認できるというものだ。 海賊たちの真実の再生には、メインメニューの[プレイ]から、[海賊たちの真実付きで本編を見る]を選択する必要がある。また、各トリビア情報は[海賊たちの真実について]の[インデックス]から個別に再生することも可能だ。なお、ソフト発売当初、PS3でこの[インデックス]を立ち上げると、再生停止してしまっていたが、パイレーツリリースの翌日に公開された最新ファームウェア Ver.1.80を適用したところ、不具合が修正されていた。 機能的には、気になったトリビア情報だけを後で「まとめて見る」というだけなので、さほど「次世代感」は無い。しかし、金貨を模した機能の作りこみ方など、随所にディズニーらしさを感じられるのは面白い。 さらに、「パイレーツ 2」には、よりインタラクティブ性の高い「ダイスゲーム」を収録している。これは、海賊達とサイコロで勝負するというゲームで、対戦相手の海賊ピンテルとプレーヤーが、それぞれに与えられた5つのサイコロを振り、容器の下に隠す。相手のサイコロの目を見ないで、自分と相手の2つの容器の下にあるサイコロの出目の合計を[5が2つ]などと予想する。 要するに勝負して、負けると1つづつサイコロが奪われて、最終的に手持ちの5つのサイコロが無くなったほうが負け、という仕組み。ただ、ルールについては、画面上で説明してくれるが、正直、何度かプレイしないと理解できなかった。
この海賊達の映像は、俳優達をつかって撮り直したとのことで、フルHDで海賊達が、動き、プレイに応じてアクションを起こす。プレイ中に、「デイヴィー・ジョーンズの臭い息をかぐ羽目になるぜ」と笑い出したり、こちらが勝つと「ビギナーズラックだ」などと、動きに応じてコメント。さらに、プレイ中に予想せずに放置していると、「お前さんの番だぜ」などと怒られるなど、非常に細かく作りこまれている。
ただし、各アクションごとにフルHDのムービーで応答することから、きびきびゲームを楽しむことは出来ない。プレイ開始まで1分ぐらい海賊達のやりとりを聞いて、ようやくゲームスタート。その後、各アクションごとにムービーを見ながらでないと進まないので、手軽さはない。ゲーム性を楽しむというよりは、海賊のアクションなどの映像を楽しみながら、ゆとりを持ってプレイしたいところだ。子供達は海賊のアクションなどを喜ぶだろうし、大人でも十分楽しめるのだが、問題はゲームのルールが難しくて、子供にはわかりにくいことだろうか……。 ■ トリロジーBOXは想定内でも、今こそ楽しいBDビデオ化
映像については文句無くおすすめ。Blu-rayプレーヤーを所有しているのであれば、現時点で最高の品質と機能を体験できる。価格も4,935円と2枚組みのBDとしては比較的安価で、手に取りやすいディスクといえるだろう。 超人気シリーズのため、すでにDVDを所有している人も多いだろうが、それでもクオリティにこだわる人やBDの実力を体験してみたい人にとって、十分試すだけの価値がある。 もっとも、シリーズの最終作のである「ワールド・エンド」が上映中。おそらく、年内にはBD/DVD化がされ、さらに、3部作の「トリロジーボックス」化というのも当然予想される。それらを考えると、購入を躊躇してしまうかもしれない。だが、パイレーツシリーズを本格的に楽しむのであれば、BDビデオで2作を見て、ワールド・エンドを見に行く、というのが、現時点で最高の楽しみ方。会社や学校でも話題に出来るエンターテイメント体験としては、映画上映中の今こそが一番の時期とも言える。 なにはともあれ、Blu-rayの可能性を追求した、金も人もかかったビッグタイトル。Blu-rayの今を知り、そのポテンシャルを確認する意味でも、BDプレーヤーの所有者はセットで手元に置いておきたいタイトルだ。
□ブエナ・ビスタのホームページ (2007年6月5日) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
AV Watch編集部 av-watch@impress.co.jp Copyright (c)2007 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved. |
|