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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第309回:ようやく登場したAVCHD編集ソフト「VideoStudio 11」
~ わかって使えば、リーズナブル ~



■ 市販ソフトでプロキシ編集を実現

 来る来ると言われながらもなかなか来ない、オマエは蕎麦屋の出前かって状態だったのが、AVCHD対応の編集ソフトだ。もちろんカメラに付属のソフトでもある程度のことはできるのだが、それでは済まないというユーザーも多い。

 そもそも最終的な画質さえ確保できれば、再生だけでも大変なマシンパワーを必要とする高圧縮コーデックを、編集フォーマットとしてネイティブに扱うメリットは少ない。したがってマシンパワーとパフォーマンスのトレードオフでどこに落とし込むかが、課題であった。

 方法は2つある。一つはカノープスの一連のソフトウェアのように、低圧縮の作業コーデックに変換して、それで最後まで作業してしまうというやり方。これは、このファイルのままで他のソフトウェアなどに映像を渡すことができるため、複雑なワークフローになりがちなプロユーザーでも主流になる方法だ。

 もう一つは、以前からソニーが「VAIO Edit Components」で提供してきたような、作業用プロキシファイルを作成して実作業を行なうというやり方だ。プロキシはあくまでも作業時の仮ファイルであって、本番出力時にオリジナルのファイルと差し替える。したがってプロキシ作成とフィニッシュには時間がかかるが、プアなマシン環境でも作業が可能になるというメリットがある。

 「Ulead VideoStudio 11」は、後者の方法を選択したソフトだ。パッケージ版の発売は6月15日からだが、すでにユーリードのオンラインショップではダウンロード販売が始まっている。ダウンロード標準版が9,324円、ダウンロードアップグレード版が7,329円と、1万円でおつりが来る価格設定は相変わらずリーズナブルだ。

 かつては「Premiere殺し」と恐れられたVideoStudioは、AVCHD時代でも同様のパワーを発揮するのだろうか。早速試してみよう。


■ 取り込みは想像よりも簡単

 VideoStudioは、かつては気絶しそうなぐらいダッサいGUIだったが、Ver.7ぐらいからなんとか普通になったと記憶している。元々DV編集時代から存在するソフトウェアだが、その後DVDとMPEG-2の時代、HDV時代を経て、今回AVCHD対応までバージョンアップを続けてきた。したがって対応フォーマットが非常に多く、機能も豊富だ。


起動時に3つの方法から選択する

 今回のVideoStudio 11では、起動すると3つの選択肢が現われる。「VideoStudio」、「おまかせモード」、「クイックDVDウィザード」だ。このうちクイックDVDウィザードは、DVテープをDVD化する機能だ。今回はAVCHDの編集にのみ集中することにしたい。

 まずは普通に編集ソフトとして使用可能な、VideoStudioモードを試してみよう。今回は、以前テストしたソニー「HDR-UX1」の映像を、カメラ接続で取り込んでみることにした。「キャプチャ」タブに切り替えて「DVD/AVCHDからインポート」するわけだが、その前に環境設定を変更しておいた方がいいだろう。

 以前からそうなのだが、VideoStudioのデフォルトでは、キャプチャや作業用のテンポラリファイルを、マイドキュメントに保存するようになっている。つまり巨大なファイルがCドライブ内に発生することになる。

 わざわざソフトを買ってビデオ編集しようというココロザシの高い人は、別途作業用のドライブを用意していることだろう。まず使い始める前に、作業用フォルダ、あるいはプロキシ作成フォルダなどを指定し直しておくべきだ。そして一端ここでVideoStudioを終了させ、環境設定を保存・確定しておいた方がいい。というのもまだ出たばかりということで、どこかで地雷を踏むとソフトウェアが終了してしまったりする。このとき環境設定してすぐだと、次回起動したときに設定がデフォルトに戻ってしまうのである。

 さて設定が済んでソフトを再起動したら、キャプチャである。ドライブ、すなわちUSB接続したカメラを選択すると、中のクリップが一覧で表示される。各クリップを選択すると、内部の映像が再生できるので、内容を確認することができる。

 取り込みたいクリップにチェックを付けるのだが、ここでは「すべてのクリップをチェック」といった機能がないため、大半のクリップを取り込みたいときが面倒。ただこの段階で使うカットをある程度絞り込んでおかないと、プロキシファイルの作成が大変になってしまうのも事実だ。


プロキシの作成場所などを、環境設定で設定しておく ドライブ内の映像から取り込みたいものを個別に指定



■ 負荷のバランスが微妙な編集ワークフロー

 では編集タブに移って、編集作業を行なってみよう。映像をとりこんだものの、プロキシはどうなっているかというと、まだこの段階では作成されていない。ではどうやるかというと、もういきなり編集していけばいいのである。VideoStudioのプロキシの考え方は、若干変わっている。というのも、取り込んだクリップそのものを再生、あるいはプレビューするときには、プロキシは使用しないようだ。

 各クリップのIN点、OUT点を設定し、タイムラインに配置していく。するとタイムラインに配置したクリップが、自動的にプロキシファイルに変換されていく。プロキシが完成したら、サムネイルにプロキシのマークが付けられる。つまりプロジェクトの再生時にはプロキシが使用されるが、単に各クリップを扱う場合は、そのままネイティブなファイルが再生される仕組みのようだ。これはもう画質があからさまに違うので、すぐわかる。


VideoStudio 11の編集画面 プロキシ作成が完了したクリップには、サムネイルにマークが付く

 使用できるマシンとしては、やはり最低限AVCHDファイルがなんとか再生できる程度のパフォーマンスは必要ということである。資料によれば、HDの編集環境としてPentium 4 3.0GHz以上のCPUが条件となっている。もしクリップのプレビューからプロキシが使えれば、もっと使用条件は下げられたかもしれない。

 この方式は、マシンパワーが十分ある場合は問題ないが、プアな環境ではプロキシ作成作業が足を引っ張ることになる。だが事前にプロキシを作成しておけば、タイムライン上の編集作業は飛躍的に軽くなる。


手動でプロキシを作成することもできる

 プロキシの手動作成は、プロキシ作成したいクリップを選んでおいて、右クリックメニューから「スマートプロキシファイルの作成」を選択する。作成の状況は、「スマートプロキシマネージャ」で確認できる。

 プロキシ作成にかかる時間は、Pentium 4 2.8GHzのいつものテスト機で、20秒のクリップ変換に約5分程度であった。推奨環境を下回るスペックのマシンだが、遅いマシンを使うときにはそれなりの工夫が必要だ。実際に作業をする場合は、寝る前に取り込みを行ない、プロキシの作成を開始して夜の間に作業させるなど、運用上の工夫で逃げることをお勧めする。

 タイムラインの編集機能は、隙間を空けず自動的に前方へ向かって詰めていくスタイル。ストーリーボード形式でも編集できるが、タイムラインならクリップのトリムも楽なので、普通はこっちを使うべきだろう。

 補正機能としては、ホワイトバランスの修正機能が付いたのはなかなか良い。一般ユーザーの場合は、いきなりカラーコレクションのような高度なツールが出てきても面食らってしまうだろう。このようなGUIのほうがわかりやすいし、十分実用的である。

 オーディオの調整は、「オーディオビュー」に切り替えて行なう。タイムラインに表示される赤いラインの上下で音量を調整できる。また「サラウンドサウンドミキサー」を使えば、プロジェクトを再生しながらリアルタイムで音量調整やサラウンドのパンニングができる。まあ面白い機能ではあるが、一発勝負でやるにはあまりにも修正機能がプアなので、個人的にはお勧めできない。


ホワイトバランス修正機能は、ワンクリックながら効果が高い サラウンドミキサーまで搭載した「オーディオビュー」



■ 上手く使えば楽できる「おまかせモード」


おまかせモードで映像を読み込み。ここで新たにキャプチャもできる

 ではここで、同じ素材を使って「おまかせモード」も試してみよう。これは自動で映像作品を作ってくれる機能である。

 VideoStudio 11を立ち上げ直し、おまかせモードを選択する。キャプチャした映像を読み込ませ、あとはウィザードに沿って指定していくだけだ。

 作品の内容に沿ったテーマを選択し、各クリップに対して「必須」、「任意」といったレベル分けをすることで、使用されるクリップに優劣を付けることができる。あとはVideoStudio 11が映像を解析して、良かれと思う順番を決めてくれる。

 なんとなく意志のある感じで上手いこと繋いでくれるため、かなり楽ができるうえに、思いがけないシンクロニシティを感じたりする。iPod shuffleで、曲の流れに意志を感じるようなものである。

 プレビューして微妙に調整が必要だと感じたら、この作品構成をそのままVideoStudio 11の編集モードに持っていくことができる。カットの差し替え、トリムなど、微調整が可能なので、これをベースに手を入れていくことで、より良い作品を作ることができる。


作品に合ったテーマを選択する 取り込んだ映像に「必須」などのプライオリティを指定する おまかせモードで作成された状態をVideoStudio 11に持ち込める

 ただ今回のようなフィラー映像だからなんとなく繋がってるように見えるが、運動会や旅行など時系列があるようなものでも上手く使えるのかどうかは、実際にやってみなければ何とも言えない。

 編集が終わったら、最後は書き出しだ。保存フォーマットとしてもAVCHDは有望だと思うのだが、VideoStudio 11のMPEG-4 AVC Main Profileの書き出しは、最大でVGAサイズまでしかサポートしない。具体的にはiPodやPSP用程度しか書き出せないということである。

 ここはある意味、差別化のために残してある部分なのかもしれない。ゆくゆくは別売の拡張モジュールとして発売されたり、AVCHDのディスク作成は「DVD MovieWriter」あたりの製品と連携する、といった戦略もあるのだろう。

 さてそうなると、HD解像度の書き出しの選択肢は、MPEG-2系かWMVかということになる。長期保存、また使い勝手の良さを考えたら、MPEG-2が妥当だろう。またプレーンなMPEG-2であれば、将来的にBDに保存というスタイルも視野に入ってくる。


MPEG-4 AVCの書き出しは、最大でVGAサイズまで 書き出しはファイル以外に、HDVなどのカメラにも出力できる

 もう一つの選択肢としては、HDVフォーマットでDVテープに保存という方法も可能だ。撮影メディアとしてはハンドリングが悪いテープだが、BDの一般普及までの一時的な完成品の保存と割り切れば、それほど悪いメディアでもない。VideoStudio 11では、この両方の保存が可能だ。

 HDVフォーマットでファイルとして書き出すこともできる。つまりMPEG-2 25Mbps CBRで出力するということである。書き出し設定にHDVとPCがあるのは、MPEG-2 TSにするのか、MPEG-2 PSにするのかの差である。

動画サンプル

ezsm.mpg(149MB)
おまかせモードをベースに修正を加えたもの
編集部注:動画サンプルは、HD解像度のまま、VideoStudio 11で出力したMPEG-2ファイルです。再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 今回は掲載用にMPEG-2 HD(MPEG-2 PS)で書き出しを行なってみた。約1分の作品だが、レンダリングに約15分。出力時間は色補正などのフィルタ数やエフェクト数などで変わってくるだろうが、おおまかな目安にはなるだろう。

 なおVideoStudio 11では、効率的なスマートレンダリングを行なうための「MPEGオプティマイザ」という機能がある。だが今回の編集素材はすべてMPEG-4 AVCなので、「MPEGオプティマイザ」は選択できなくなっている。

 また編集時には5.1chにも対応しているが、サラウンドで出力できるのは今のところDVDでの書き出ししかない。HDレゾリューションとサラウンド音声が両立できる書き出しフォーマットがないのは、残念だ。


■ 総論

 AVCHDカメラに付属のソフトウェアは、編集ソフトというよりも、バックアップソフトという側面が強い。ちゃんと編集して作品を作ろうと思ったら、やはり別に編集専用のソフトを購入しなければならないのは、HD時代になっても変わらないようだ。

 VideoStudio 11は、ようやく現われたAVCHD編集ソフトの、一つの選択肢となるだろう。プロキシ編集でAVCHDをサポートする市販製品は、かなり希少だ。なによりも価格が安いこと、ダウンロード販売もあって入手しやすいこと、それほどマシンパワーを必要としないのが魅力だ。

 ただ現状は、入力ソースとしてAVCHDが可能という格好で、出力に至るまでAVCHDがサポートされているわけではない。特にサラウンド音声を生かそうと思ったら、現状はDVDにするしかないのは痛い。もっとも一般の撮影で、本当にサラウンドが必要かという議論はあるだろう。そう考えれば、ステレオ出力でHD書き出しを選択した方が、現時点では理に適っている。

 AVCHDはようやく最近メーカーの囲いの中で、撮影からアーカイブまでが完結できるようになった。だが一端囲いの外に出てしまうと、まだ問題が山積しているのではないか。PC用BDドライブが売れているという話も聞かないし、DVあるいはDVD時代のような大きな連携の輪が回転し始めるまでには、まだいくつかの歯車が足りないようだ。

 ただ筆者のようなレビュアーもそうだが、AVCHDカメラの映像をなるべく画質を落とさずに編集し、しかも誰でも再生できるような形で提供するといったシンプルな用途では、実は結構使えるソフトだったりするのである。そこをわかって使えば、リーズナブルな選択肢と言えるだろう。


□インタービデオジャパンのホームページ
http://www.intervideo.co.jp/
□ユーリードのホームページ
http://www.ulead.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.ulead.co.jp/about/release/2007/070417.htm
□製品情報
http://www.ulead.co.jp/product/videostudio/
□関連記事
【4月17日】インタービデオ、AVCHD対応の「VideoStudio 11」
-レンダリング効率化の「MPEGオプティマイザ」採用
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20070417/interv.htm

(2007年6月6日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]



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