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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第310回:とうとう出たキヤノンのAVCHD「iVIS HR10」
~ ハイビジョンで24Pの絵が、DVD記録で実現 ~



■ ついにキヤノンがAVCHD参戦

 全国1,000万人(根拠なし)のビデオカメラファンから一斉に「なんでここでテープなんだYo!」と突っ込まれた伝説の名機、「iVIS HV10」。昨年9月に発売された、キヤノン初のハイビジョンコンシューマ機である。

 カメラメーカーのキヤノンが作っただけあって画質は文句なしだったが、すでにAVCHDというメディアチェンジが起爆した時期であったため、HDVというフォーマットに二の足を踏んだ人も多かったことだろう。当時からAVCHDへの興味は示していたキヤノンだったが、なかなか対応製品が出てこなかった。もっともソニー、松下と違って記録メディアを自社で握るメリットがないキヤノンとしては、新フォーマットが出たからといってすぐに乗っかるのは、難しい判断だったのだろう。

 しかしソニー、松下のがんばりもあって、AVCHDはハイビジョンカメラの期待の新星として受け止められるようになった。また目的に合わせて多様なメディアから選べるのも、大きなメリットだ。

 DVDタイプの「iVIS HR10」は、キヤノン初のAVCHD機となる。DVDカメラはすでに経験があるし、それとHDVのハイビジョン技術を組み合わせて、というのは妥当な線だろう。

 実際の発売は今年8月とまだ結構先ではあるが、試作モデルをお借りすることができた。AVCHDでもキヤノン画質は健在だろうか。さっそく試してみよう。


■ これまでと同サイズに抑えたボディ

 現物を見て最初に感じたのは、新フォーマットの初号機にしては、意外に小さくできたなということだ。サイズとしてはDVDモデルの上位機種、iVIS DC50」あたりとほとんど変わらない。


カッパーカラーをアクセントとして配置

 デザイン面では、これまでのDVDカメラ路線を継承しながら若干エレガントな雰囲気の、曲面を多用したボディとなっている。また随所に配置されたカッパーカラーのパーツが、金属感を伴いながら冷たくない、穏和なイメージを作り出している。最近コンサバな色遣いの多かったキヤノンにしては、思い切ったカラーリングだ。

 では光学部から見ていこう。レンズは動画16:9モードで43.6~436mm、静止画4:3モードで40.0~400mm(いずれも35mm換算)の、光学10倍ズームレンズ。手ぶれ補正は光学式だ。

静止画サンプル
撮影モード ワイド端 テレ端
動画16:9
43.6mm

436.0mm
静止画4:3
40mm

400mm


外測センサーなど、前面はフル装備だ

 前面にはマイクとリモコン受光部がある。レンズ脇にはフォーカス用外測センサー、静止画用フラッシュ、LEDビデオライトと、フル装備だ。

 撮像素子は総画素数296万画素、1/2.7型CMOSセンサー、もちろん動画撮影時は1,920×1,080ドットのフルHDである。光学エンジンはお馴染み「DIGIC DV II」で、画像処理プロセスは「iVIS HV20」と同じだ。MPEG-4/AVCの圧縮では、松下の「HDC-SD3」などと同じくHigh Profileを採用している。動画の記録画素数は、1,440×1,080ピクセル。

 技術的にはDVDにも1,920×1,080ピクセルで記録することは可能だろうが、ビットレート据え置きのままで記録画素数を増やしても、再生画質はかえって劣化する。記録と読み出し速度に限界があるDVDメディアでは、このあたりの落としどころがノウハウになってくるようだ。


側面に並んだ4つボタンの配置もユニーク

 側面は、4つ半円状に並んだボタンがユニークだ。キヤノンのDVDモデルは、毎回このあたりのデザインに命賭けてる感じがする。

 液晶モニタは2.7型ワイド液晶で、以前のモデルよりも広視野角、高色域のものを採用している。液晶内側はかなり深いバッテリー格納スペースになっている。付属バッテリでは実撮影で55分だが、大型バッテリが装着できるようになった。この場合は実撮影70分となる。入出力端子類はバッテリ横に集められており、コンポーネントのほか、HDMIも装備している。


端子類は側面に集中。大型バッテリも使える 背面レイアウトはDVD従来機に近い

ズームレバーの張り出し部は、手が小さいユーザーへの配慮だという

 背面は比較的オーソドックスで、メニュー操作用のジョイスティック、モード切替スイッチなどがある。ビューファインダ上の穴は、スピーカーだ。

 ズームレバーは、少し外側に張り出したような形だ。これは手の小さい女性でも、楽にズームレバーに届くようにという配慮だという。確かにDVDモデルは、ディスクドライブを手のひらで抱え込まなければならないため、手の大きさが問題になるケースも多いだろう。




■ 完成度の高い静止画機能も健在

 実際に撮影する前に、記録モードについてまとめておこう。HR10では、HDモードで4段階、SDモードで3段階の画質モードを備えている。なお今回は、単一メディアに両方の解像度が記録できない関係で、SDモードの撮影は行なっていない。


動画サンプル
モード ビットレート 動画記録時間 サンプル
XP+ 12Mbps 約15分
ezsm_xpp.m2t (16.9MB)
XP 9Mbps 約20分
ezsm_xp.m2t (16.9MB)
SP 7Mbps 約25分
ezsm_sp.m2t (11.7MB)
LP 5Mbps 約33分
ezsm_lp.m2t (8.69MB)
編集部注:動画サンプルは、撮影時のH.264形式(.m2ts)。再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。


SDモード
モード ビットレート 動画記録時間
XP 9Mbps 約20分
SP 6Mbps 約30分
LP 3Mbps 約60分

 撮影中は、「クイックスタート」が便利だった。DVDはメディア認識に時間がかかるので、通常は電源を入れてから撮影可能になるまで、30秒近くかかる。ところがクイックスタートを使えば、1秒足らずで撮影可能になる。スタンバイ時にはレンズカバーも自動で閉じるので、ちょっとした場所移動などには便利だ。

 フォーカスの追従性については、以前から外測センサーを設けて正確さを追求しているが、測距点が中央しかないので(静止画の場合は9点から選択可能)、中央部が抜けた構図では後ろにフォーカスが合ってしまう現象が見られる。また16:9の画角を生かすとすると、センターにメインの被写体を置かない構図も出てくる。少なくとも測距点は横並びで3点ぐらいは欲しいところだ。


動画から切り出した静止画サンプル
測距点がセンターのみなので、中抜けする場合がある 構図を工夫すると、逆にフォーカスが来ないことも

 静止画に関しては、これまで同様高い完成度を持っている。発色やディテールの描画力、レンズの破綻のなさ、絞り/シャッター優先モード、それにCMOSのスミアレスが加わったことで、すでにコンパクトデジカメを超えたのではないかと思う。もはや参ったと言うしかない。


静止画サンプル
発色の良さは際だっている 毛並みの精細さはデジカメ並み
深度表現もなかなか綺麗だ 絞り開放、美肌モードで撮影



■ AVCHDで24Pシネマ撮影を実現


フレームレートは60iと24Pから選択

 HV20で搭載した24Pとシネマモードだが、HR10でも引き続き搭載している。これまではDVやHDVモデルで24P撮影のカメラは多かったが、AVCHDのDVD記録モデルでこれが搭載された意義は大きい。

 というのも以前からの持論であるのだが、コンシューマの映像表現として、ニュース映像に求められるような生々しい表現が本当に必要なのか、ということなのである。思い出を撮るのならば、美しく残った方がいい。それならば、映画で長く愛された24フレームというコマ数のほうが、脱現実世界を表現できるということで、意味がある。

 もちろんこれはケースバイケースで、子供を連れて遊園地で動きながら撮るのであれば60i、ムード重視で女性を撮ったり、ちゃんと三脚立ててじっくり風景と向き合う場合は24Pと、表現を変えて使い分けていくべきだろう。

 また24Pでも、ノーマルガンマとシネマ向けガンマで使い分けることもできる。ビデオ向けのノーマルに比べてシネマのほうは、若干輝度と彩度が抑え気味になる。これも名前につられて思いこみで使うのではなく、被写体と向き合ったときにどちらが美しいかで選択すべきだろう。


静止画サンプル
プログラムAEで撮影。コントラストが高く、張りのある絵だ シネマモードで撮影。ハイが押さえられ、中間部の階調が増している

 今回はほどんとXP+のシネマモードで撮影したが、全体的にHDV時代のこれでもかという絵のキレ味とはまた違って、解像感は落ちないがエッジがやわらかな印象を受ける。もしかしたらこのあたりがMPEG-4 AVC High Profileの特徴なのかもしれないが、画質が破綻することがなく、これはこれでいい感じのなじみ具合だ。

 技術的に見ると、Main Profileに対してHigh Profileのメリットは2つある。一つは変換ブロックサイズで、Main Profileは4×4と一定のため、平坦な絵柄では効率が悪くなる。一方High Profileでは、4×4と8×8のブロックが選択できるため、平坦な部分は8×8を、複雑な部分は4×4と振り分けられるため、同ビットレートでも圧縮効率が良くなる。

 もう一つは量子化マトリクスの違いだ。Main Profileは絵柄に関係なく変換ブロックを一定の量子化ステップで処理しなければならないため、平坦な絵柄での劣化が目立ちやすい。一方High Profileでは、量子化ステップを周波数に応じて可変できるため、目立ちにくい複雑な部分では量子化を荒くして、ノイズが目立ちやすい平坦な部分では量子化を細かくするといった分配が可能だ。

 もちろん低ビットレートモードではいくらHigh Profileといえども限界があるが、他社では15Mbpsモードも出てきた中で、12Mbpsでさほど不満のない画質を実現している。

動画サンプル

ezsm_24p.mpg (134MB)

ezsm_rm.mpg (21.2MB)
XP+と24Pで撮影した動画サンプル 室内撮影サンプル
編集部注:動画サンプルは、ユーリード「VideoStudio 11」で編集し、記録時の解像度のままMPEG-2で再出力したものです。再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。



■ DVDビデオ並みの編集機能を実現

 AVCHDの場合は、いつも編集環境が問題になるところだ。HR10の場合は、本体内でプレイリストを作成し、その中でシーンの分割、削除ができるようになっている。以前からSDのDVDカメラで実装していたGUIで、HDでも同じ事ができるわけだ。


プレイリストモードでの編集は、従来DVD機と同じ クリップの移動もできる

 ただ、本体のボディを使っての編集は、機能を呼び出すFUNC.ボタンがボディ脇、機能選択のジョイスティックが背面、映像の操作が液晶下と、操作する箇所が分散しているため、使いづらい。ちゃんと編集しようと思ったら、付属のリモコンを使って操作した方がいいだろう。


編集するならリモコン操作のほうが楽

 当然ながらメディアをファイナライズしてしまうと、プレイリストの作成もできなくなる。メディアにDVD-Rを使うときは、あとでファイナライズの解除もできないので、その点をじっくり考える必要がある。

 またファイナライズは、カメラにACアダプタを接続しているときしかできないようになっている。確かに安全を考えれば、電源の安定は重要だが、撮ったものをその場で人に渡す場合に不便だ。ある程度のバッテリ残量がある場合は、電源なしでもファイナライズできたほうが良かっただろう。

 一方PC用のソフトとしては、今回からCorel Applicationsが付属する。その内訳は、DVD MovieWriter SE、WinDVD SE、GuideMenuの3つである。DVD MovieWriterはUleadのオーサリングソフト、WinDVDはInterVideoの再生ソフトとして知られるわけだが、両社とも今はCorel社の傘下となっているので、Corel Applicationsというわけだ。

 今回はまだソフトウェアの日本語化が完了していないということでお借りできなかったが、ソニー、松下がオリジナルソフトをバンドルしているのに比べ、市販レベルのソフトが付属するのは、かえって汎用性が高くなって便利かもしれない。


■ 総論

 コンシューマにおいては、ビデオカメラなんてオートで簡単に撮れればいい、というニーズが中心であることは、まあ間違いない。そういう意味では先日レビューした、マニュアル機能が一切ない代わりに面白い再生機能を盛り込んだソニーの「HDR-SR7」などは、ビギナーには使いやすいだろう。

 一方キヤノンもフルオートモードはもちろんあるのだが、綺麗な風景に出くわしたときに、本腰をいれて本気で撮るときに応えてくれるキャパシティがある点が大きい。また24P撮影やシネマモードなど、これまではクリエイター向けの製品限定であった機能を当たり前のように入れてくるあたり、やはりこれは「家電」ではなく「カメラ」なのだ、という主張が伝わってくる。

 DV時代のビデオカメラは、これまで小型化、価格などで競争してきた。これはある意味ユーザーレンジが単層だったので、商売としてマスを取りに行くには、わかりやすい競争で済んでいたのだ。

 しかしハイビジョンという表現力を手に入れたことで、今後はデジカメのように、ユーザーレンジがもっと細かくセグメント化されていくと考えられる。例えば誰にでもカンタン小型軽量というレンジ、シーンモードや露出優先モードが多彩で撮影自体を楽しむレンジ、フルマニュアルでこだわり感が満足できるレンジ、といった具合に。

 ようやくビデオカメラによる動画撮影も、コンシューマ文化として成熟期に入りつつある、ということなのかもしれない。


□キヤノンのホームページ
http://canon.jp/
□ニュースリリース
http://cweb.canon.jp/newsrelease/2007-06/pr-hr10.html
□製品情報
http://cweb.canon.jp/ivis/hr10/index.html
□関連記事
【6月13日】キヤノン、同社初のAVCHDカム「iVIS HR10」
-1,440×1,080ドット録画。AVCHD編集ソフト付属
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20070613/canon.htm
【5月8日】米Canon、同社初のAVCHDカム「HR10」を8月に北米で発売
-フルHD CMOSで1,440×1,080ドット録画
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20070508/canon.htm

(2007年6月13日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]



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