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第285回:インターネットのループシーケンスソフト「MIXTURE」
~ 「SEUQEL」と比較。コードの扱いに特徴~



 先月紹介した、Steinbergのエントリーユーザー向けループシーケンスソフト「SEQUEL」が、まもなく店頭に並ぶ。そのSEQUEL発売の直前ともいえる6月8日に、非常にコンセプトの近い「MIXTURE」という国産ソフトが発売されている。先週、両方のソフトが届いたので、Windows XPにインストールして試してみた。

 SEQUELについては先日紹介しているので、今回はMIXTUREを中心に、両者の機能面、使い勝手の違いなどについても紹介していくことにしよう。


■ 時を同じくして登場した入門シーケンスソフト

 SEQUELとMIXTUREはともにエントリーユーザーをメインターゲットとしたループベースのシーケンスソフト。機能的に、特に目新しいものがあるわけではないが、最近のDAWの高機能化によって、難しくなったこのジャンルのソフトをエントリーユーザー向けに仕立て直したのが特徴。考え方としてはアップルの「GarageBand」に近いものといっていいだろう。


SEQUEL MIXTURE

 確かに、これまでDAWを触ったことがない人が、「Cubase」や「SONAR」、「Logic」などを起動しても、どこからどう手をつければいいのかすら分からないだろう。これらのDAWソフトは機能があまりにもたくさんあり、ASIOドライバとオーディオインターフェイスの関係、プラグインのエフェクトやソフトシンセがどういう位置づけにあるかなど、さまざまなことを理解しないと、使えない。

 そこで、機能を絞り込んだ上で、すぐに曲作りに入ることを可能にしたのが、SEQUELであり、MIXTUREなのだ。SEQUELの概要は先日紹介しているので、このSEQUELに比較する形で、MIXTUREの機能について見ていこう。


■ コンセプトは似ているが、トラック構成など細部に違い

 MIXTUREは「Singer Song Writer」などでお馴染みの、大阪の株式会社インターネットが開発したソフトで、標準価格が12,600円。SEQUELはWindows/Mac両対応のハイブリッドだが、こちらは現在のところWindows版のみとなっている。

 さっそく起動してみると、SEQUELがかなり洗練されたデザインであるのに対して、MIXTUREはややベタな感じではある。しかし、画面下側でループフレーズを選んで、画面上へドラッグして持っていくというユーザーインターフェイスは同様だ。

 フレーズの検索には、ジャンル、楽器、拍子、タイプ(ループかワンショットか)、構成(イントロかフィルインか、エンディングか)を指定して絞り込んでいく。あらかじめ入っているフレーズの数は、SEQUELが約5,000となっているのに対して、MIXTUREは約4,000。やはりオーディオのループ素材とMIDIのループ素材が混在する形になっている。

 ユーザーインターフェイス的に明らかに違うのは、トラックの構成。SEQUELは初期状態ではトラックがなく、画面下からフレーズをドラッグすることでトラックを生成していく(トラック生成方法はほかにもいくつかある)のに対して、MIXTUREはあらかじめ48トラックが置かれていて、トラック数は増やすことも減らすこともできない固定型。

 いずれのトラックもオーディオ用にもMIDI用にもなるが、エントリーユーザーは、ドラッグした素材がオーディオなのかMIDIなのかはあまり意識しないでいいようになっている。

 またトラックの概念自体にも結構違いがある。SEQUELでは基本的に1つのループ素材につき、1つのトラックを使う。実際には、1つのトラックで複数のループ素材を置くことは可能だが、MIDIとオーディオの混在はできない。また、MIDIトラックの場合、その音色はトラックで決まるため、別々の音色を鳴らすことはできず、オーディオトラックの場合、エフェクトの設定などは1つのトラック内では共通となる。

 それに対してMIXTUREの場合、1つのトラックでMIDIとオーディオの混在が可能。というのも、MIDIの音色はループ素材側で決められているためで、1つのループ素材内で音色を変化させることも可能だ。


同一トラック内にMIDIとオーディオの混在が可能 1つのループ素材内で音色を変化させることも可能

 またこれに関連して、MIDI関連の機能を比較しても、いろいろと違いがある。まず利用しているソフトシンセは、SEQUELがHALionOneで、MIXTUREはRolandのVSC。ただし、いずれもソフトシンセの設定画面などは出てこない。エントリーユーザー向けということで、あえて出していないようだ。

 とはいえ、SEQUELはカットオフやレゾナンス、エンベロープジェネレータなど音色設定のためのパラメータを画面下側で調整できるようになっているが、MIXTUREはあくまでも音色を選ぶのみとなっている。


SEQUELでは、音色設定のパラメータを調整できる MIXTUREでは、音色を選ぶのみで、パラメータ調整は行なえない

 両ソフトともに、MIDIはループ素材を利用するだけでなく、自分でMIDIフレーズを入力できる。いずれもピアノロール画面を持っているのでマウスで入力できるし、クォンタイズなどの操作も可能。


いずれもピアノロール画面からMIDIフレーズの入力が可能(画面はSEQUEL) クォンタイズなどの操作も行なえる(画面はMIXTURE)

 もともと打ち込み系を得意とするSinger Song Writerの技術をベースに作られたMIXTUREだけに、ゲートタイムやベロシティーなども細かく設定できるようになっている。ただし、SEQUELではMIDIキーボードからのステップ入力が可能となっているのに対して、MIXTUREはそもそもMIDI入力を装備していない。

 とはいえ、初心者用ということで、もっと手軽なMIDI入力手段を搭載しているのがMIXTUREの特徴。SingerSongWriterでも搭載されている「シングtoスコア」という鼻歌入力機能があるのだ。つまり、マイクに鼻歌を入力することで、自動的にMIDIへと変換されてピアノロール画面に反映される。多少、音程やタイミングに問題があっても、細かくはあとでピアノロール画面で修正すればいいというわけだ。

 もうひとつ機能面で大きく異なるのがエフェクト。SEQUELは設定画面こそHALionOne同様、簡易画面のみとなっているものの、CubaseStudio4と同様のVST3のエフェクトが搭載されている。そして、インサーションエフェクトとして使えるだけでなく、センドエフェクトとして、またマスタリングエフェクトとしても使えるなど、かなりエフェクトを多用した積極的な音作りが可能となっている。

 それに対して、MIXTUREはセンドエフェクトとしてコーラスとリバーブが使えるのみ。見方によってはエフェクトの使い方など難しいこと抜きに曲作りを楽しめる。


MIXTUREは、鼻歌入力機能「シングtoスコア」を備える SEQUELでは、エフェクトを多用した音作りが行なえる



■ コードの扱いに大きな違い。MIXTUREのユニークな自動作曲


MIDIトラックにはコード設定が行なえる

 さて、いろいろ違いはありつつも、よく似たソフトであるSEQUELとMIXTURE。しかし、1点、MIXTURE独自ともいう機能がある。それがコードに関する機能だ。MIXTUREにはコードトラックというものがあり、ここにC、Am、D7、G……といったコードを設定することができ、MIDIトラックの演奏がこのコード設定によって変化するようになっているのだ。

 ループシーケンサは一般的にテクノ・トランス系、ダンス系などの曲に向くといわれているのは、コード変化をつけづらく、単調になるため。しかし、MIXTUREの場合、コード設定ができるため、かなり曲の流れに変化がつけられる。

 もともとアレンジソフトというジャンルのソフトから発展してきたSingerSongWriterは、曲のジャンルを決めてとコードを振れば曲が作れるのが大きな特徴。このMIXTUREにもその基本が受け継がれているというわけだ。

 ちなみに、そのコードは1つずつ自分で指定してもいいが、コード自動生成という機能によって、曲のジャンルを指定して、大きな構成を決めるだけで、自動的にコード進行を作り出してくれる。まさに自動作曲ソフトといった感じだ。

 もちろん、自動的に付けられたコードを後で修正することも可能だ。ただし、実際にMIDIとオーディオのフレーズが貼り付けられている状態で、コードを設定しても、コードに従って展開するのはMIDIのフレーズのみで、オーディオのループはコードが変わっても、なんら変化しない。

 オーディオをコードに従わせるワザとしては、後でコードを設定するのではなく、予めコードを設定し、さらに、オーディオフレーズはループさせて伸ばすのではなく、コードが変わるところで、再度貼り付けることで、小節単位とはなるが、トランスポーズしてくれる。


コード自動生成では、曲のジャンルを指定するなど、簡単操作でコード進行が自動生成できる 手動でのコード設定も行なえる

 ただ、よく見てみると、ピアノやオルガン、ストリングス系、ブラス系などのループ素材はすべてMIDIとなっている。オーディオであるのはリズム系を中心に、ベース、ギター、シンセサイザなどの一部があるといったところ。実は、この辺の考え方がSEQUELとMIXTUREの最大の違いといってもいいのかもしれない。

 ちなみに、SEQUELのほうは、コード設定はできないが、トランスポーズは可能。したがって、マイナーコード、7thコードといった展開はできないが、音程の変化は可能。またMIDIだけでなくオーディオループに対してもトランスポーズができるようになっている。

 次にチェックしたいのが、ループ素材のインポートについて。前述のとおり、SEQUELには約5,000、MIXTUREには約4,000のループ素材が用意されているが、それ以外のループ素材を利用できるのだろうか?

 結論からいうと、MIXTUREはあらかじめ用意されている素材以外は利用できないようだ。Program Filesフォルダの中を調べていくと、これら4,000の素材はMIXTUREフォルダ内のMIDIフォルダ、WAVEフォルダ内に格納されていることが分かった。

 よく見てみると、MIDIデータの拡張子はss6となっており、SingerSongWriter6のデータ形式であることが分かる。一方のオーディオファイルはRealLoops1、RealLoops2、RealLoops3の3つに分かれて入っている。

 ただ、ここに別のファイルを入れても認識されず、あくまでもあらかじめ用意されているものだけが利用できるようだ。ただし、直接レコーディングしたものについては、これをループ素材として利用することは可能である。


SEQUELでは、楽曲ファイルだけでなく、ACIDizedデータや、Apple Loopsなども素材として利用できる

 それに対してSEQUELのほうは、先日の発表資料では、WAV、AIFF、ACIDized WAVそしてMP3となっていたが、実際に使ってみるとやや異なるようだった。まず、インポートの方法は、WindowsであればExplore、MacならFinderからWAVやAIFFをトラックへとドラッグ&ドロップすることで取り込める。これをさらにメディアベイへドラッグ&ドロップすると、ジャンルや楽器名、雰囲気などの情報を追加した上で、ユーザー素材として保存できるようになっている。

 さっそくいつも利用しているACIDizedデータをドラッグ&ドロップで、トラックへ置いてみたのだが、うまくいかない。確かに、取り込むことはできるのだが、うまくテンポがあってくれないのだ。手動でテンポの設定ができるので、その方法を使えばピッタリ合うが自動的にはうまくいかない。普通のWAVデータをインポートするのと変わらないようだ。これだと、ACIDizedデータのインポート可とはいえないだろう。

 ここで試しにGarageBandのデータ形式であるApple Loopsをドラッグ&ドロップで持ってきてみたところ、こちらはバッチリうまくいった。ただし、Apple Loopsに埋め込まれているジャンル名や楽器名などは、うまく持ってこれないので、今のところ手動で設定するしかない。この辺は、いずれアップデートなどで改善されるかもしれない。


■ エントリー向けの「分かりやすさ」が魅力

 SEQUELとMIXTUREの機能を比較しながら紹介してきたが、どちらかが優れていて、どちらかが劣るというものではなく、微妙な方向性の違いによって、機能が違ってきているようだ。 <--

 使い勝手においても同様に差があるが、気になったところでいうと、まずループ素材のプレビュー機能。SEQUELはACIDなどと同様、シーケンスデータを鳴らしながら、それに同期する形でプレビューできるので、どの素材がマッチするか、すぐに確認できるのに対し、MIXTUREは、やや不便に感じる。 -->

 SEQUELはシングルウィンドウでの操作を前面に打ち出しており、MIDIのピアノロール画面なども、すべて下の表示部で操作できるようになっている。それに対してMIXTUREは別にウィンドウを開く形になっているが、かえって分かりやすいようにも思える。そもそも、それほど多くのウィンドウが存在しないので、ピアノロール画面などが別に開いてもあまり複雑に感じることはない。

 もうひとつ、SEQUELにはあるミキサー画面が、MIXTUREにはないのがちょっと気になった。トラック画面上で、各トラックのレベル調整ができるので、それでだいたい事たりるが、全体を捉えにくいのがネックになるかもしれない。

 いずれのソフトもエントリーユーザーにとって分かりやすいことは間違いない。ぜひ、これらのソフトを通じて、このDTM・デジタルレコーディングの世界へと多くの人が踏み入れてくれることを期待したい。


□インターネットのホームページ
http://www.ssw.co.jp/
□製品情報
http://www.ssw.co.jp/products/mixture/index.html
□関連記事
【5月21日】Steinbergのループシーケンスソフト「SEQUEL」
~ 豊富なライブラリと、シンプル操作が特徴 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20070521/dal282.htm
【5月11日】インターネット、鼻歌入力対応の直感系楽曲作成ソフト
-フレーズやコード進行を配置して楽曲作成
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20070511/internet.htm

(2007年6月11日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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