例年、ゲームに関するビッグニュースは、5月の中頃に発表されることが多かった。それはもちろん、米国で、世界最大のゲームイベント「Electronics Entertainment Expo」(E3)が開催されるからである。
ところが、今年は様相が異なる。E3は、あまりに巨大なイベントになりすぎた結果、トレーディングショウとしての使命を果たせなくなっていた。そこで、一般客を排除し、招待を受けたプレスを含む業界関係のみに参加者を絞って規模を一気に縮小。開催時期も、2カ月遅らせた7月へと変え、リニューアルされた。場所は、同じカリフォルニア州内だが、ロサンゼルス市内のコンベンションセンターから、風光明媚な海岸沿いのサンタモニカへ、ちょっとだけ移動している。 規模が縮小されたこと、そして、すでに据置型・携帯型ともに世代交代が完了、ハードウェアに関する話題が少なくなるであろう、という予想から、今回のE3は規模が縮小された以上に「静か」に見える。 だが、ビジネスとして考えた場合には、各社ともにこれからが正念場。例年のごとく、マイクロソフトから始まった各社のカンファレンスでは、ソフトやサービスに関する具体的な説明が行なわれた。ここでは、「AVサイド」の視点から、興味深い事象を追った。
■ CATV局より巨大? Xbox 360のHD映像配信。日本でも有料配信を「準備中」 ある意味、もっとも強気な会見を行なったのはマイクロソフトであった。壇上の米マイクロソフト Interactive Entertainment Business Entertainment and Device Division バイスプレジデントのピーター・ムーア氏は、「この冬のホリデーシーズンには、Xbox360にゲーム業界史上最強のラインナップが揃う」と宣言、次々とそれらタイトルの発表を行なっていった。そして、最後にこう言い放った。 「みなさん、戦いは終わったよ」。その言葉が真実になるかどうかはともかくとして、ゲームラインナップの充実ぶりは、きわめて魅力的なものである。
そして、その脇を固めているのが、オンラインサービス「Xbox Live」の機能である。今回の発表の中でも特に注目なのが、HDクオリティによる映像配信である。昨年のE3で、いくつかの映画会社・テレビ番組配給会社との提携を発表後、米国では、主にテレビドラマを中心に、昨年11月より、「Xbox Live Marketplace」によるダウンロード配信が行なわれてきた。 講演の中で、グローバル・マーケティング担当バイスプレジデントのジェフ・ベル氏は、その好調ぶりを次のように説明する。 「現在、約2,000時間分の映像が蓄積されており、そのうちHD映像は500時間を超える。これは、ここから一番近くにあるケーブルTV事業者の、約2倍に当たる。再生回数も、1,000万回を超えています」。 そして、その勢いをさらに強めるものとして発表されたのが、Disney-ABC Domestic Televisionとの提携による、ディズニー関連映画のHD画質配信である。配信の対象となるのは、Walt Disney Pictures、Touchstone Pictures、Hollywood Pictures、Miramax Filmsを含むWalt Disney Studiosの作品。まずは今月中に、35タイトルがHD映像で配信される。
会場でも、「ターザン」や「ノートルダムの鐘」といったアニメ作品の他、「ブラザー・グリム」、「クイーン」などの実写作品のトレーラーが流され、両社の力の入れようが伝わってくる。映像のダウンロードは、米国内では7月から開始される。 ディズニー作品の配信は、SDサイズと720pで行われ、支払いは、他のXbox Liveコンテンツ同様、少額決済用のマイクロソフト・ポイント(MSP)で支払う。価格は、SDで320MSP(4ドル)、720pでは480MSP(6ドル)。最初に視聴してから24時間以内、もしく は購入後14日以内の視聴に限定された、一種のレンタルとなる。 Xbox Live事業のジェネラルマネージャーであるJJ・リチャード氏は、「日本でのVideo Marketplaceの準備は進んでいますが、オープンは、カナダ・ヨーロッパのあとになるでしょう。すぐに開始するつもりではいますが、いつになるかはコメントできません。また、1080pへの対応については、必ずしも必要とは考えていません。現在の画質は、Xbox360に最適化されたもので、十分きれいですから。それに、開発手順の変更や権利者との交渉も必要なので、やるとしても時間がかかると思います」と話す。
この提携について、個別インタビューの中で、ムーア氏は次のように説明する。「ディズニーとは強固な提携を結び、配信から得られる利益をシェアする形でビジネスを行ないます。パソコンだと、どうしても途中でハックされて映像を盗まれる可能性がありますが、Xbox Liveならば、そんなことは起こらない。この点もディズニーに評価されたのだと考えています」 そうなると気になるのは、HD DVDとの連携や棲み分けだ。この点について、ムーア氏はかなりコンサバな考え方であるようだ。「正直、ダウンロード販売は未来のモデルだと思う。5年、あるいは10年かかるかも知れません。でも、15年ほど前のことを思い出してみてほしいんですが、約1MBのデータが入らないフロッピーディスクを、僕たちは使っていたじゃないですか。光ディスクをみて、『げ、あんなもの使ってたんだ』と思う日が来るだろうな、とは思う。でもそれは、やっぱり遠い先の話。日本やシンガポール、韓国などの、すばらしくブロードバンド回線の発達した国々では、実現の日も近いかも知れないが、アメリカでは、まだまだでしょう」。 すなわち、Xbox Liveでのダウンロード販売そのものも、実ビジネスというより、「未来を指向した可能性のアピール」という意味合いが強いようである。なお、こうなると気になるのは、いつ日本で実現するのか、ということである。今回会見の中では、米国のみで行なわれていた映像配信を、カナダ・ヨーロッパでも、年内に開始すると発表されている。 権利関係で問題が山積しているが、日本でのサービスに期待が高まる。ムーア氏は、「現在、準備が進んでいます。ただし、いつ、どのようなコンテンツを用意して始まるのかは、まだ明かすことが出来ません。サービスで人気を得るには、ディズニーのようなハリウッド作品だけでなく、ローカルなテレビ番組なども用意しないといけないでしょうね」と回答した。 あまりに強気なマイクロソフトだが、問題も山積している。現在もっとも大きな逆風は、俗に「リング・オブ・デス」と呼ばれる、Xbox 360の故障に関する保証問題だ。「この欠陥の影響は」と問うと、ムーア氏はすぐに次のように訂正した。 「あれは欠陥ではないですよ。リコールでもない。なにより、ご心配・ご迷惑をおかけした日本のファンに謝罪したいと思います。故障が起きることについて、保証期間を3年延長する、という措置を執る、ということです。問題が起きれば、すぐに我々が、無償で対応いたしますのでご安心下さい」 このことが、夏や年末の商戦に与える影響についても、「まったくない。各種のブログなどを見ても、我々の対応には、みなさん好意的な声を寄せていただいています。ですから、悪評による売れ行きの減速はない、と考えています」と、やはり強気な姿勢を崩さない。もちろんその裏には、ラインナップに対する自信があるから、ということなのだろう。
■ 映像クイズにカラオケ・パフォーマンス。「AVカジュアルゲーム」でWii対策を そんなラインナップの中で、ちょっと目立ったのが「AV系カジュアルゲーム」とでもいうような流れである。 昨年末以降、アメリカでは、MTV Interactiveの「GuitarHero2」というゲームが大人気となっている。これは、言ってしまえばギター型コントローラを使った「音ゲー」であり、日本でも流行ったコナミの「ギターフリークス」にそっくりな内容なのだが、「なりきり」に対する徹底ぶりが人気の秘密となっている。なにしろ、ギターコントローラ制作はギブソンとのコラボ、楽曲はもちろん、MTVの手によるロックの名曲ばかりなのだ。 今回のカンファレンスも、トップを飾ったのは、その続編である「RockBand」。ギターの他に、ドラム・ボーカルを加えたセッションができるのが特徴だ。
また、特に「カジュアルゲーマー向け」としてアピールされたのが、「Scene it?」というゲーム。このゲーム、実は元々コンピュータゲームではなく、DVDビデオを使ったパーティーゲーム。映画などの1シーンを再生し、それに関するトリビアを答えあう、というものだ。 日本ではほとんど知名度がないが、アメリカではかなりポピュラーなゲームで、ディズニー作品だけで構成された「Disney Edition」、人気ドラマ「フレンズ」のシーンだけのバージョン、さらにはジェームズ・ボンド作品ばかりを集めた「James Bond Edition」など、いい意味でバカっぽいゲームでもある。Xbox 360版は、これの映像をHD化し、付属の「ボタンだけコントローラ」を使って遊ぶのだという。 どちらにも共通するのは、高性能ゲーム機の性能を使い、映像や音声はリッチにしつつも、遊ぶ対象者は問わない、という方向性である。
同じような試みは、SCEも取り組んでいる。元々日本で音ゲーがヒットした時は、PS1やPS2向けタイトルとしても人気があったのだが、現在市場を引っ張るのは欧米。SCEヨーロッパ開発によるカラオケゲーム「SingStar」が、「2億ドルを売上げ、1,000万本を販売し、3億曲がダウンロードされた」(SCE・ワールドワイドスタジオ社長のフィル・ハリソン氏)という。 PS3版では、USB接続のビデオカメラ「PLAYSTATION Eye」と連動、自分のパフォーマンスをビデオにして、プレイヤー同士で共有したり、評価してもらったりできるという。 Wiiは、日本だけでなくアメリカでも好調だ。その流れに負けないためには、自分たちの強みを生かしつつ、他社の強みをとりこんでいこう、という発想なのだろう。
■ アウトプットにこだわるSCE、インプットにこだわる任天堂 マイクロソフトのカンファレンスに対し、SCEのそれは、少々地味であった。勝利宣言もなければ、以前のような「強烈なビジョンのアピール」もない。じっくりとタイトルとセールスをアピールするという、地に足のついたものであった。実際、「メタルギアソリッド4」や「キルゾーン2」といったタイトルのクオリティは、PLAYSTATION 3(PS3)の性能でなければ出し得ない、という謳い文句に強い説得力を感じる、きわめて印象的なものであった。 ただし、有力なPS3向けゲームタイトルの発売日が、ほとんど2008年以降であるあたりが、同社の抱える問題の根深さを物語るといえるだろう。 ハード的な話題は、やはり新型PSPだ。プログレッシブ対応テレビでなければゲームが表示できない、という欠点はあるものの、外部出力がついたことは、やはり喜ばしい。
この理由はおそらく、UMDビデオのビジネスが、相対的に弱体化していることと無縁ではあるまい。元々PSPに外部映像出力がなかった理由は、UMDビデオの「アナログコピー」を防止するためであった。プレゼンの中で「UMDビデオの販売本数も前年比で35%アップした」(SCEA ジャック・トレットン プレジデント兼CEO)というコメントがあったものの、販売店などでの陳列状況を見れば、好調とは言い難いのがわかる。 UMDビデオのビジネスが小さくなっている以上、そのコピー防止に必要以上に神経質になるのではなく、ユーザーの希望を重視しよう、ということになったのであれば、まことに喜ばしいことである。ちょっと回りくどいやり方ではあるが、PSPをテレビにつなぎ、さらにPS3とリモートプレイでつなげば、世界中どこからでも、自宅内の映像や音楽、写真をみんなで楽しめるわけで、旅行時などに威力を発揮しそうだ。 もちろん、未来に対する展望がなにも示されなかったわけではない。今回のプレゼンは、会場と、PS3向けに提供されるバーチャルワールド「Home」を併用する形で行なわれていた。Home内で登壇者を模したキャラクターが動く、ということそのものには驚きも目新しさもないが、今後の可能性を予感させる新たなサービスの公開もあり、興味深かった。 そのサービスとは、携帯電話から送った映像を、Home内の自宅などに展示するものだ。デモでは、XMBを採用したソニー・エリクソンの携帯電話を使い、ワンクリックでHome内へ送信していた。
連携はそれだけではない。Home内では、自分や友人の姿、それに風景などのスクリーンショットが取れる。それを、Home内から、別途用意されたサーバーに送ると、ウェブサイトとして用意されたSNSに表示して、「Homeの外」の世界、すなわち、通常のインターネットへと関係を広げていくことができるようだ。 先日、SCEの川西泉CTOにインタビューした際にも、「PLAYSTATION Networkは、ゲーム機だけで閉じた世界ではなく、PCも視野に入れたものである」旨の発言があったのだが、今回示されたHomeのサービスは、この発言を裏付けるもの、といえるだろう。 ただし、Homeのようなアプローチを取るのは、SCEだけに限られる。マイクロソフト・ムーア氏は、「個人的な感想だが、バーチャルワールドはPCのものだと思う。パーソナルな体験であり、3メートルの距離で、テレビで使うのは似合わないのではないでしょうか。Xbox Liveは、完全に機能ベースで、素早く動くものを狙っています。だから、ああいった手法に興味はありませんし、計画もありません」と話していた。 任天堂側にも、こういったサービスの計画はないようだ。日本で圧倒的に好調であり、米国市場でも勢いが加速しつつある任天堂は、そのハードの特性からか、リッチなAVをもったサービスを指向していない。
だが、プレゼンの中で、任天堂・宮本茂氏は次のようなコメントを発した。「我々がWiiのコンセプトを考えた時、Wiiがリビングの中心にあり、ひとりでも多くの家族が関わり、そこからコミュニケーションが生まれることを想像しました」。 これはすなわち、テレビにつながったなにかから「受け取る」ものを重視するのではなく、テレビにつながったなにかに「インプット」することで得られる、コミュニケーションを重視している、ということでもある。だからこそ、「アウトプット」に近い、AV関連の機能や高画質化とは一線を画しているのだろう。 結局、AVメーカーとしてのソニーを出自として持つSCEは「出力」に知恵を使い、ゲームメーカーが出自である任天堂は「入力」に知恵を使う、ということが、違いに現れているということではないだろうか。
□Electronic Entertainment Expoのホームページ(英文) (2007年7月12日)
[Reported by 西田宗千佳]
AV Watch編集部 |
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