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本田雅一のAVTrends

コピー回数の変更だけでコピーワンス問題は解決できない




 今回のテーマはコピーワンス緩和について。総務省はデジタル放送録画のコピーワンス問題に対して、9個までのコピーを許す方向で放送局に要請を行なうという。HDDに番組を蓄積しながら9回のコピーが可能で、10回目はムーブという運用ルールになる。早ければ来年にも、対応する製品が登場する可能性がある。しかし、本当にこの方法でいいのだろうか?

 今回の緩和が実現されれば、今後は当面の間(もしかすると永遠にかもしれない)、私的複製を緩和しようという議論には発展しないだろう。ここはきちんと、ユーザーにとって良いものかどうかを考えておく必要がある。



■ 回数が増えれば問題は解決する?

 デジタル放送のコピー制御は、放送パケットの中に含まれる2bitのフラグで示されているのをご存知だろうか。ダビング時にいつも不便やリスクを強いられる、通称「コピーワンス」は、この2bitのフラグで示されるCOG(Copy One Generation)で指定されている。

 2bitということは、あと3つのコピー制御モードが存在することになるが、1つはコピーフリー、1つはコピーネバー(コピー不可)なので、実質的な残りは1つ。それがEPN(Encryption Plus Non-assertion)である。

 この2bitのコピー制御フラグと、それぞれ制御モードの意味は国際的に決められているもので、コピーワンスによる放送を日本の放送局が始める前から決まっていたことだ。ただし各フラグをどのように運用し、コンテンツを保護するかは、各国によって事情が異なるため細かくは規定されていない。

 実はここが問題で、COGは何もコピーワンスである必要はないのである。COGの本来の意味は「コピーは1世代のみ」という意味。つまり、録画した番組を何か他のメディアにダビングすると、ダビングしたメディアから別のメディアには再ダビングできない。ただし、コピー元を持っていれば何枚でもコピーが作れてしまう。

 それはマズイ。ということで、日本の場合はコンテンツを供給する側が強く要望する形で、COGを使う場合は元のデータを確実に削除するという運用になった。機器を製造する側(AV機器ベンダーやPCベンダー)も、当時、交渉を長引かせるわけにもいかず、この要求に従った。当時は「まさか、放送のすべてをCOGにするとは思わなかった」と、ある関係者は話す。

 いずれにしろ、この時、COGは複数世代の複製を防ぐという本来の目的を超えて、コピーワンスと呼ばれるユーザーにとっては悪しき運用形態を意味するようになった。その後、NHK、民放が足並みを揃えて、2004年4月5日に無料放送やCMを含めCOGをすべてオンにしてしまい、日本におけるすべてのデジタル放送にコピーワンス制限がかかることとなった。

 現在、総務省が放送局に要請しているという9回までのコピーを可能にするという案。これは、COGの運用を変更し、最大9回までの複製をひとつのマスターから行なえるようにするというものだ。たった1個のコピーから9個、ムーブを含めて10個、なんと10倍もの増加! なのだから、これで文句はないだろうというのだろうが、果たして回数が増えて解決する問題なのだろうか?


■ 使い勝手とコピー回数は同義ではない

 運用が変更されれば、ユーザーはハードディスクに録画した番組のコピーを9個作ることが可能になる。1枚はBDやHD DVD、あるいはDVDにダビングし、さらに携帯電話に転送するためメモリカードにダビングしても2コピー。まだ残り7コピーも作れる。それぞれのコピーを何らかの理由で失って、トータル4コピー作ったとしても残り5コピー。別の家族が自分のポータブルデバイスにダビングするなどの使い方をしたとしても、確かに数字の上では十分なように思える。

 しかしCOGを使ったコピー制御には、いくつかの使いにくい点があり、消費者にとっても必ずしも良い知らせだとは思えない。

 まず思いつくのは、既存機器を買い換えなければ、コピーワンスの緩和による恩恵を受けられないことだ。従来のコピーワンス対応機器は、COG付きの放送をムーブ対応とするよう設計されており、ダビング回数を管理するようにはできていない。何回コピーしたかは、機器側がカウントし、厳重に管理しておかなければならない。あと何回コピーできるかなどユーザーインターフェイスの改良も必要だろう。従来機種のアップデートで対応する範疇は超えている。

 もしかすると例外的な製品があるかもしれないが、基本的には既存機器を買い換えなければならない。家電メーカーなどは、買い換えなければ改善しないといった問題を懸念し、以前からEPNへの移行を提唱していた。

 EPNはインターネットを経由した配布を行なうのでなければ、自由にコピーを許す運用形態で、世代管理は行ななわないため孫コピーが可能だ。インターネットを経由した爆発的な拡散を防げる半面、家庭内手工業的な違法コピーの連鎖は止められない。

 日本の場合、BSデジタル放送が開始時、記念特番として放送されたハイビジョンコンサート中継を録画したD-VHSテープなどが、即、オークションで販売されたことなどがあった。その後も似た事例はいくつかあったことで、放送局はコピーワンス化へと急速に傾いていった。

 とはいえ、現在、実際にEPNでの放送が行なわれている米国で、重大な著作権の問題が発生しているとは聞かない。CEA(全米家電協会)の予測では、2007年内に北米のデジタルハイビジョン放送受信世帯は5,500万にもなるという。その北米において、放送環境が日本とは異なることを差しい引いても、EPNを採用しているからコピー天国になっているといった話は聞いたことがない。

 放送局はEPNには当初から猛反対していたというが、EPNには機器を買い換えなくとも、比較的最近の機種であれば柔軟に対応できるというメリットがある。すでにファームウェアレベルでEPN対応しているものや、少々の変更で対応可能なものが多いという。そういう意味では、現状でユーザーにとってベターなのは、EPNへの移行だ。

 COGの問題は他にもある。1世代しかコピーできなければ、将来、親(マスター)を残しておかないと、メディアを移行できない。また、編集してお気に入りのシーンやCMだけを集めるといった、ある種、マニア的な遊びの提案も難しい。


■ コピー9回は「最良の解決案」なのか?

 たとえば、とりあえず数枚のDVDにダビングしておいた番組を、将来、1枚のBDやHD DVDにまとめたいと思ったとき。また、2枚の1層ディスクにダビングしておいた番組を、コストが下がった2層ディスク1枚にしたいと考えたとき。数年後、メディアのトレンドが大きな変革期を迎えて、メディアの移し替えをしたいと思ったとき。COGの場合は、録画した元のデータがそのまま残っていない限り、保存してあるメディアがあってもユーザーは何の手出しもできない。

 他にも例はいくらでもあるだろうが、アナログ時代に当たり前にできていた運用は、COGのままでコピー回数を増やしたとしてもできない。

 また、おそらく実際に今回の9回コピーが実装される場合、元になる録画データはHDD上のものに限られるのではないかと予測される。現在も光ディスクやテープに記録した番組は、他メディアにムーブすることができない。この制限は、9回コピーが可能になっても変わらないだろう。

 穿った見方をすれば、今回のコピーワンス緩和の話も、放送局などを納得させるため、COGのデメリットは理解した上で、あえて消費者にも理解が得られやすい方針として妥協策を打ち出しただけとも言える。細かな事情や将来にわたる使い勝手までを視野に入れて検討しなければ、今回の案はコピーワンスよりははるかに“マシ”な案に見えるからだ。

 しかしこれは議論のすり替えだ。一方的に、全放送局が同日に導入した全番組コピーワンスでの放送という現状を基準に考えるのではなく、アナログ停波の2011年に向けて、アナログ放送を基準に運用性の高さと違法コピー防止の両方のバランスを考えるのが本来の筋ではないか。

 以上は個人としての意見だが、実際に録画機器を利用しているユーザーは、それぞれに異なる意見を持っているだろう。中には見たらスグ消すのだから、どっちでもいいじゃないかという意見もあるかもしれない。

 だが、繰り返しになるが、今回のコピーワンス緩和が実施されれば、おそらく”次”はない。すべての放送にCOGを使うなとは言わない。しかし、全番組をCOGで放送することを是とする総務省の提案には賛成できない。コピー可能な回数の問題ではないのだ。


■ 前回記事の訂正

 前回の記事についていくつかの情報を訂正しておきたい。

 まずSilicon ImageのHDMI 1.3対応トランスミッタだが、現状の仕様でもHDオーディオストリームを映像に重畳して送信することは可能だという。ただしシステムチップ側の対応が進んでいない部分があり、いくつかの製品ではファームウェアのアップデートでの対応は難しい、あるいは無理のようだ。

 また、デコーダチップにBroadCom製を用いている製品では、アップデートでの対応が可能とのこと。国内で販売されているHDMI 1.3対応プレーヤー/レコーダの中では、東芝のHD-XA2がこれに該当する。東芝によれば、アップデートによる対応の可能性はあるが、実際にアップデートするかどうかは全くの未定とのこと。

 とはいえ、実際に国内で稼働しているプレーヤー/レコーダのほとんどが対応できないため、元記事は一部訂正を入れた上で、論旨はそのまま掲載している。

 もうひとつはBDの音声が利用できる帯域について。最大54Mbpsの帯域が利用できるBDビデオだが、記事の中でも述べた通り、BDはコンテンツをトランスポートストリーム(TS)で収録している。実はTS変換時には10%+α程度のオーバーヘッドが出るそうで、実際に有効利用できる情報は54Mbpsのうち48Mbpsになるのだという。

 このため規格上利用可能な映像の最大レートである40Mbpsを活用するには、全音声、全サブピクチャなどの合計が8Mbps以下でなければならない。24bit/48KHzリニアPCMで収録してしまうと、1ストリームでこのほとんどを使ってしまうため、リニアPCM収録の際には16bitを採用する場合が多い。

 いずれにしろ、画質にもっとも大きな影響を及ぼす映像ビットレートのピーク値を最大にするには、音声も圧縮して収録する必要があり、今後ともロスレスの音声圧縮の重要性は増していくだろう。

 上記の映像ピークレートに関する諸事情は、実は映画スタジオやポスプロ関係者の間でも、あまり認知されていないそうだ。言い換えれば、今後、認知が広がるにつれて高分解能のロスレス音声を採用するケースが増えていくはずだ。


■ 今回のお勧めAVコンテンツ

 前回からコラムの最後に書いているお勧めコンテンツ。前回はWOWOWの新番組「コールドケース3」をお勧めした。米国の社会的な背景や時代ごとの空気感を知らないと楽しめない部分もあるが、ハマれば毎週見たくなる。第1話はあまり日本人向きではなかったが、第2話はいまの日本の社会にも通じるところがあるエピソードだった。

BDビデオ版 HD DVDビデオ版

 さて、今回お勧めしたいのはパラマウントピクチャーズ「ドリームガールズ」。BDとHD DVDの両方で発売されている(もちろんDVDも)。両フォーマットとも2枚組構成で、2枚目の特典ディスクの中身までHD映像になっているのは、同じパラマウントの「M:i:III」などと同じだ。

 両フォーマットを比較してみたが、画質はややBD版の方が上回っている。HD DVD版はギラギラのドレスや、派手なライティングのシーンで、ブロック歪みがやや目立った。BD版も厳しいシーンでは多少、ブロックを感じるところもあったが、さほど気にするほどではない。ただしマスターは上質なようで、高いコントラスト感や丁寧な階調、細かなディテール感などなかなか。どちらのフォーマットを購入しても、もう片方と比べない限り不満とは思わないだろう。

 もっとも、このコンテンツを取り上げたのは、画質が理由ではない。映画としてデキがすばらしいのだ。ビル・コンドン監督はミュージカル「シカゴ」の映画化も行なった人物で、ブロードウェイミュージカルの映画化は2度目。さすがに手慣れたもので、歌が始まっても芝居が全く止まらない。常に映画としての動き、ストーリーの進行をさせつつ、歌詞をセリフ代わりにどんどん話が進む。

 ストーリーは色々なところで紹介されているので省略するが、再生可能な機器をお持ちなら、BD版かHD DVD版を購入すべきだろう。

 ひとつ残念な点は、BD版はドルビーデジタル、HD DVD版はドルビーデジタルプラスでの収録のみでロスレスやリニアPCMのトラックは用意されていないことだが、この映画は劇場公開時も、ナローレンジで高域の伸びやかさがなくあまり良くなかった。BD版とHD DVD版の音質差もほとんどない事を考えると、元々のマスターの質がイマイチなのかもしれない。

□関連記事
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http://av.watch.impress.co.jp/docs/20070717/fca.htm
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-10回目でムーブ。地デジ録画の運用ルール見直し
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20070712/soumu.htm
【3月9日】「ダビング許可」などコピーワンス見直しで議論
-議論は平行線。新ルールの可能性も検討
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20070309/soumu.htm
【2006年8月2日】地デジのコピーワンスを見直し。「EPN」運用へ
-12月までの検討状況公開を求める
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20060802/soumu.htm

(2007年7月20日)


= 本田雅一 =
 (ほんだ まさかず) 
 PCハードウェアのトレンドから企業向けネットワーク製品、アプリケーションソフトウェア、Web関連サービスなど、テクノロジ関連の取材記事・コラムを執筆するほか、デジタルカメラ関連のコラムやインタビュー、経済誌への市場分析記事などを担当している。
 AV関係では次世代光ディスク関連の動向や映像圧縮技術、製品評論をインターネット、専門誌で展開。日本で発売されているテレビ、プロジェクタ、AVアンプ、レコーダなどの主要製品は、そのほとんどを試聴している。
 仕事がら映像機器やソフトを解析的に見る事が多いが、本人曰く「根っからのオーディオ機器好き」。ディスプレイは映像エンターテイメントは投写型、情報系は直視型と使い分け、SACDやDVD-Audioを愛しつつも、ポピュラー系は携帯型デジタルオーディオで楽しむなど、その場に応じて幅広くAVコンテンツを楽しんでいる。

[Reported by 本田雅一]


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AV Watch編集部

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