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第290回:ライブ用途のデジタルミキサー KORG「ZERO8」
~ 開発者に聞く、DJ向け機能搭載の理由 ~



 今年に入り、Rolandが「M-16DX」などのMシリーズ、YAMAHAが「n12」などのnシリーズ、USBミキシングスタジオのMWシリーズと、各メーカーが突然のようにPCとの連携を可能にしたミキサー製品を発表、発売しているが、この市場にKORGも参戦した。

 KORGが8月に発売を予定している「ZERO8」および「ZERO4」は、さまざまな機能を備えつつ、ライブでのパフォーマンスを最大のターゲットとしたミキサーだ。それぞれステレオ8ch、ステレオ4chの入力を備えたミキサーとなっている。先日、ZERO8を試用し、ZERO8の企画開発担当者にも話を伺ったので、今回と次回の2回に分けて紹介する。


ZERO8 ZERO4



■ DJミキサーの要素を導入したデジタルミキサー


ZERO8

 KORGのZERO8はDSPを駆使したステレオ8chの入力を持つデジタルミキサー。FireWireでPCとの接続もでき、PC側からはステレオ8ch=計16chの入出力を持つオーディオインターフェイスとして見える。また、フェーダーやEQなどのツマミ類はフィジカルコントローラとして使えるなど非常に多彩な機能を装備している。

 こうした表面上の機能面だけを捉えると前回紹介したYAMAHAのn12とよく似ているようにも思えるのだが、実際に触ってみるとまったく考え方の異なるミキサーであることがわかる。

 n12はレコーディング・音楽制作をいかにスムーズに行なうか、ということに主眼が置かれているのに対し、ZERO8のほうは、プレイすることに主眼が置かれているのだ。確かにオールマイティーなミキサーではあるが、いわゆるDJミキサーとしての要素を多分に持った製品なのである。



■ コンセプトは「何でも接続できるミキサー」


KORG 坂巻匡彦氏

 実際に製品を触る前に、KORGのZERO8の企画、デザインを担当した坂巻匡彦氏に話を聞いた。(以下敬称略)

藤本:YAMAHA、Roland、KORGとみんな同時期に図ったようにデジタルミキサーを発表していますが、KORGではどんなコンセプトでZERO8/ZERO4を開発したのでしょうか?

坂巻:本当にたまたま同時期になったのですが、私たち自身も驚いています。

 もともと目指していたのは、DAWなどPC上にあるホストアプリケーションのハードウェア版。ハードウェアのホストアプリケーションというか、操作・プレイする上での主軸になるものを作りたいと思ったのです。PCではオーディオインターフェイスとかMIDIコントローラー、ミキサー機能などを組み合わせて使っていますから、それらを全部入れればいいんじゃないか、というのが当初の発想です。

 ただ、社内的にはいろいろと議論になりました。それこそオーソドックスなレコーディング用ミキサーがいいのではないかなど……。ただ、普通に作っても面白くないし、何かキーワードはないかと考えていたのですが、一般のユーザーを見ると最近はPCですべて完結している人が増えています。またPCでライブをする人も多いけれど、それに適した機材があまりない。

 それならライブ用途で、ギターと接続したり、ターンテーブル、CDほか何がきても接続できるミキサーを作ればいいのではないか、と企画したのがこの製品なのです。

藤本:いわゆるDJミキサーとは見た目にもちょっと違いますよね?

坂巻:DJミキサーと普通のミキサーの特徴を混在させた製品といったところでしょうか。

 DJ用途として非常に効果的に使えるのがEQです。ご覧いただくとわかるとおり、入力ゲインのコントローラーの隣にEQセレクタというものがあります。A~Kの11がありA~Eが各音楽ジャンル向きのEQ、F~Hが周波数特性の異なるアイソレーター、そしてI~Kがフィルターとなっています。

藤本:いくつかあるEQは、どこかの有名ミキサーのEQをシミュレーションしていたりしないんですか?

坂巻:実は、某ミキサーのものをシミュレーションしておりますが、中身は伏せさせてください。

藤本:しかし、フィルターを装備したミキサーとは、なかなかユニークですね。確かにDJ用としてウケそうです。パネルを見ると、各ストリップにHi、Mid、Lowの3バンドがあり、Midは周波数を変更できるような構成になっています。このEQ周りを見るだけでも、非常に特徴的なミキサーですね。

坂巻:入力も、いろいろと工夫を凝らしています。リアパネルを見るとわかるとおり、各チャンネルにはバランス対応の標準ジャックによるライン入力、またCDプレーヤーなどと接続するためのRCAピンプラグのライン入力が用意されています。

 またチャンネルごとではなく、独立してPHONO入力が3系統、ファンタム電源にも対応したマイク入力が2系統、そしてハイインピーダンス対応のギター入力が1系統用意されており、各チャンネルのセレクタで選択できるようになっています。


ZERO8の背面端子類 各チャンネルのセレクタで独立PHONO入力やマイク入力が選択可能

藤本:なるほど、ちょっと珍しい構成ですね。多くのミキサーではマイク入力があるのは1~4ch、ギターは5ch……といった形ですが、これはどのチャンネルからも独立しているため、全チャンネルで利用できるというわけですね。

坂巻:さらに、このセレクタを見るとわかるように、FireWireのマークがついているものが3つあります。このうちAUDIOはPCからのオーディオ信号、MIDIはこのチャンネルをMIDIコントローラーとして使うもの、AUDIO+MIDIはその両方というわけです。



■ 入力に応じてゲインが切り替わるヘッドアンプ部

藤本:各ノブにバックライトが付いていて、とてもカラフルですが、アナログの入力を含めオーディオの場合は赤、MIDIコントローラーとして動作するときは青になっているんですね。また、こうしたカラフルさとはやや対照的にアナログのVUメーターが2つ搭載されているのも目立ちます。

坂巻:アナログのVUメーターを採用したのはデザイン的な面もあるのですが、より実用面で力を入れて設計したのがヘッドアンプ部分です。

藤本:具体的にどんなことをしているんですか?

坂巻:それぞれのチャンネルに搭載されているこのアンプは、単純なアンプではないんです。マイク、ライン、ギターなどの入力に応じてセンターでちょうどいいレベルになるようにゲインが切り替わり、かつゲイン幅を必要であろう範囲、つまりクリップしづらい範囲に切り替わるような仕掛けをしているのです。

 たとえば、標準ジャックのライン入力はある程度大きいレベルの信号が入ってくることが想定されますので、最大ゲインは少なめになっています。一方RCAピンジャックのライン入力はiPodなどを接続することが考えられますので、最大ゲインを大きめにしているといった具合です。

 そのほかPHONO入力は代表的なカートリッジに合わせて調整し、かつ出力の大きなカートリッジを使用した場合でもクリップしないように設定しているのです。

藤本:なるほど、それはユーザーにとってなかなか便利ですね。そのほか気になるのが、エフェクト部です。チャンネルストリップの下のほうを見ると、ZERO FX SENDというノブがありますから、センドエフェクトとして使えるわけでよね?

坂巻:はい、このZERO8には独立した3系統のエフェクトが搭載されており、全111種類のプリセットが用意されています。この3系統のうちのひとつがセンド・リターンで用いるものです。そのほか、マスターで使うもの、チャンネルにインサーションとして使うものがあります。

藤本:各チャンネル別々にインサーションできるのですか?

坂巻:いいえ、インサーションとして1つあるだけなので、いずれかのチャンネルのみで利用する形になります。ただ、ここでもプレイを楽しむ、ということをコンセプトとしているので、使えるエフェクトを多数用意しています。

 特にコンソール右下にある液晶ディスプレイはタッチパネル式になっており、KAOSS PADのような形で使うことができます。グラフィックイコライザの設定なども、このディスプレイを指でなぞることでできるようになっています。また、TAPディレイもライブなどでかなり活用できると思います。


タッチパネル対応ディスプレイを搭載 イコライザ設定もタッチパネルで直接操作できる

藤本:先ほどからのデモを見ていて気になっていたのですが、テンポが表示されているけれど、結構フラフラと数字が動いていますが、これはPCからの信号ではないんですか?

坂巻:実は、ZERO8には、オートTAP機能を搭載しており、iPodなどから入力されたアナログの信号に対してもテンポを検出し、表示することができるのです。さすがに、小数点以下は動いてしまいますが、リズムがはっきりしている曲ならほぼ正確に捉えることができます。

藤本:なるほど、そういう仕組みなんですね。しかし、小数点第2位までテンポを表示させるマシンも珍しいですね。多少テンポが揺れているとはいえ、小数点以下ならディレイに反映させるという意味ならほとんど問題になりませんね。



■ PC連携は、バンドルソフト利用で、より使いやすく


PCと接続し、オーディオインターフェイスとしても利用が可能

藤本:ここまでZERO8、ZERO4本体の話が中心でしたが、PCとの連携機能についてももう少し教えてください。

坂巻:こちらもいろいろな機能が用意されています。まずはZERO Editというエディタがバンドルされているので、これでZERO8、ZERO4の設定をいろいろと変更することができます。本体でもタッチパネル付きディスプレイを用いてさまざまな設定ができますが、PCから操作することで、より使いやすく、管理しやすくなります。

 たとえばフェーダーのカーブをセッティングしたり、MIDIのアサインを変更したりできます。またオーディオインターフェイスとして使ったとき、アナログ端子の入力された信号をプリEQでPCへ送るのが、プリフェーダーなのか、ポストフェーダーなのかといった設定もできるようになっています。


フェーダーのカーブセッティングが行なえる MIDIのアサインも変更可能 入力信号の送信設定なども可能

藤本:アプリケーションとしてはAbleton Liveがバンドルされているんですよね?

坂巻:はい。やはりコンセプト的にマッチするLiveを採用しました。Live Lite 6 Korg Editionという特別版になります。

藤本:ということは、各MIDIコントローラーがあらかじめアサインされていたりするのでしょうか?

坂巻:残念ながら現行バージョンでは、対応していません。いずれアップデータなどの形で対応したいと思っています。

藤本:すると、SONARやCubase、LogicといったDAWのテンプレートもまだないわけですよね。いくらMIDIコントローラーとしてつかえるとはいえ、やはり自分で設定するのはなかなか面倒です。ぜひ、そうしたテンプレートについても提供をお願いしたいですね。

坂巻:はい、なんとかがんばって提供していきたいと思います。とにかく、プレイヤーの立場で使いやすいものに仕立て上げたので、ぜひいろいろと試してみてください。

藤本:ありがとうございました。

 今回のインタビュー後、実際にZERO8を借りてPCに接続するなど試したので、次回は試用記についてじっくりと紹介する。


□コルグのホームページ
http://www.korg.co.jp/
□製品情報
http://www.korg.co.jp/Product/Dance/ZERO/
□関連記事
【7月9日】【DAL】アナログ感覚を活かしたデジタルミキサー
~ 「ヤマハ n12」。Cubaseとの強力な連携が魅力 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20070709/dal289.htm

(2007年7月23日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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