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第291回:デジタルミキサー KORG「ZERO8」を試す
~ ユニークなEQやPC連携が魅力 ~



 前回KORGのデジタルミキサー、「ZERO8/ZERO4」について、製品の企画開発担当者に開発コンセプトなどをインタビューした。

 ミキサーであり、フィジカルコントローラであり、かつオーディオインターフェイスとしても使えるという非常に多機能なZERO8を、インタビュー当日に借りることができたので、ミキサーやフィジカルコントローラとしての操作性、またそこに搭載されているエフェクトの使い勝手、オーディオインターフェイスとしての性能などをチェックした。



■ 意外とコンパクトな外観。起動時はド派手にライトが点灯


ZERO8

 ZERO8はステレオ8ch、モノラルでいえば16chの同時入力ができるミキサーであるが、手元に届いたモノを見ると、思っていたよりコンパクト。先日YAMAHAのn12を触ったばかりだからかもしれないが、このサイズならDTMユーザーも無理なく置けるだろう。

 またDJ用ミキサーとして威力を発揮する機材だからライブで使いたいというニーズも高いと思うが、小さくまとまっているから、もって歩けないこともない、といった感じ。もっとも重量的には7.3kgと結構重いので、PCとともに持ち歩くなら、クルマを使うのが現実的ではあるが……

 先日、KORGにてデモしてもらった際は、PCと接続した状態で見せてもらったが、スタンドアロンでも使えるので、まずは単体で使ってみることにした。電源を入れて驚くのは、そのド派手さ。

 電源オフの状態では、モノトーンのシックなミキサーといった感じだが、電源を入れると、ほぼすべてのノブ、スイッチ類にバックライトが点灯し、起動するまでの約5秒間、赤になったり青になったりと、ピラピラと色を変えながら光るのだ。この時点で、もう明らかに既存のミキサーとは違うんだ、ということを主張している。


電源オフ時 起動時は派手にライトが点灯

 さっそく1chのRCAピンのラインインにiPodの出力を接続して、鳴らしてみた。入力ソースの切り替えスイッチをCD/LINEにし、フェーダーを上げると音が聞こえている。右上にあるアナログのレベルメーターが目立っていたが、フェーダー横にも控えめな感じで青いLEDのレベルメーターが動いていることに気付いた。


アナログのレベルメーターを備える 青色LEDによるレベルメーターも装備

 またこのレベルメーター、ステレオで1つとなっているが、入力ゲインで設定した音量が反映されているようで、フェーダーとは無関係だ。一方、フェーダーを動かすと非常に軽く、いわゆるレコーディング用のミキサーとはだいぶ違う感じだ。フェーダーの上には、A、Bというボタンがあるが、両方がオフの場合は、フェーダーで設定した音がそのままマスターへ行くが、AまたはBをオンにすると、右下にあるクロスフェーダーを経由してマスターへ行く。まさにDJミキサーといった感じになっている。

 レコーディング用のミキサーとしても使える形にはなっているが、そのように使う場合で1点気になったのがマスターフェーダーがないこと。アナログのレベルメーターの下にマスター用のレベル調整ツマミはあるが、ちょっと物足りない感じもする。なお出力はマスターのステレオ2chのほか、BOOTHが独立した形で用意されている。


液晶ディスプレイ下部にクロスフェーダーを備える ステレオ2chのほか、BOOTH出力も独立して装備



■ フィルターやアイソレータとして利用可能なEQ

 次に試してみたのがEQ。インタビューの中でも盛り上がっていたが、これが非常にユニークなEQで、基本的には3バンドのパラメトリックEQなのだが、EQ SELECTORを切り替えることで、まったく異なるものに変身する。

 Aはオーソドックスなタイプだが、Bにするとより効きが強くブーストされた感じになるなど、A~EではそれぞれEQの効き具合がかなり違う。さらに、F~GはEQではなく-12dB/octのアイソレータになっている。これは入力音を帯域ごとに分割し、各帯域の音をカットするものだ。さらにI~Jは完全に音を変えてしまうフィルター。まさにDJユーザー好みな仕様であり、Hiのパラメータがローパスフィルター、Loのパラメータがハイパスフィルター、MidがピーキングEQとして動作するようになっている。

 それぞれのチャンネルのEQ SELECTORが何に設定されているかは、右にある液晶ディスプレイでも確認できるようになっている。このEQ、アイソレータ、フィルターをいじっているだけでも1日楽しめてしまいそうな感じだ。


EQ SELECTORの切替により、EQだけでなく、アイソレータやフィルターとしても利用できる 液晶ディスプレイで、EQ SELECTORの設定内容が確認できる

 さて、iPodを鳴らしながらも、パラパラと数字が変わって気になるのがBPM。ZERO8にはBPM=テンポの自動検出機能が搭載されており、アナログで入力されている曲のテンポをリアルタイムに捉えることができる。

 使い方はいたって簡単。BPMボタンを押してBPM画面を表示させるとともに、その隣のAUTOボタンを押すと自動検出するのだ。小数点以下2桁まで表示されるため、パラパラと表示が変わるが、かなり正確に捉えているのがわかる。

 ビートのある曲なら、どれでもほぼ間違いなく捉えることができたが、そうでない曲の場合はTAPテンポ検出機能も搭載されており、AUTOの隣にあるTAPボタンをテンポに合わせて叩くことで、テンポが検出できるようにもなっている。ここで検出したテンポは後で紹介するBPMディレイなどのエフェクトで活用できる。


テンポを自動検出するAUTO BPM機能を搭載 BPMボタンを押した後、AUTOボタンを押すだけで自動検出を開始。TAPボタンで手動のテンポ検出も可能

 もちろん、ZERO8にはRCAピンのラインイン以外にも、リアパネルに数多くの入力端子がある。各チャンネルに同じRCAピンのラインインがあるほか、バランス対応の標準ジャックによるラインインもある。さらにDJ用としては必須のPHONO入力が3系統、またファンタム電源対応したマイク入力がキャノン/標準ジャック切り替えで2系統。ハイインピーダンス対応のギター入力が1系統と、いろいろな機器が接続できる。

 各チャンネルに用意されている2種類のラインは、そのチャンネル専用だが、PHONO、マイク、ギターは全チャンネル共用で、入力セレクターを使って選択できるようになっている。もし、全チャンネルのセレクターをすべてGUITARとしたら、すべてに同じギターの信号が入ってくることになるという仕様だ。

 多少贅沢な使い方といえるかもしれないが、これだけの入力を存分に活用し、16+αチャンネルのオーディオの入力セレクターとしても利用できそうだ。

 次に使ってみたのがエフェクト。ZERO8にはチャンネルへのインサーション、センド・リターン、そしてマスターの3系統の独立したエフェクトが搭載されている。

 いずれも同じエフェクトのようで、リバーブ、ディレイ、コーラス、フランジャー、ディストーション、EQ、コンプレッサ……とプリセットが111種類あり、一通り何でもそろっている。液晶ディスプレイ下にあるCHANNEL、SEND、MASTERという3つのボタンを押すことで、設定できるようになっており、液晶上にあるノブでプリセットを選択したり、パラメータを動かしていく。

 各チャンネルへのインサーションは、いずれかのチャンネルに1つのみ利用できる。またセンド・リターンは、各チャンネルでセンドレベルを決め、アナログメーターの下に位置しているZERO FXでリターンレベルを決める形になっている。

 この111あるプリセットの中で目立つのがXY LPF12やXY LFO WHO、XY DISTORTIONなど頭にXYがつくもので、計70種類もある。実はこれ、タッチパネルになっている液晶ディスプレイを指で触ることで、リアルタイムにパラメータを変更できるタイプのエフェクトだ。「KAOSS PAD」と同じような感覚で操作できるエフェクトであり、まさにライブパフォーマンス向きのエフェクトというわけだ。


ディスプレイ下部のCHANNEL/SEND/MASTERボタンでエフェクト設定を行なう タッチパネルでパラメータ変更可能なエフェクトは70種類

 また前述のBPMと連携させるエフェクトが数多くあるのも大きな特徴。BPM DELAYでは、曲のテンポにピッタリマッチした形でディレイをかけることができるほか、LOOPERは、リアルタイムに2拍分とか1小節分をサンプリングし、それをループ再生する。この辺もDJパフォーマンス用として、かなり使えそうだ。

 なお、この内蔵のエフェクトとは別にセンド・リバーブのエフェクトと並んでEXT 1、EXT 2というものがある。これは外部接続のエフェクトで、リアに2系統のエフェクトを接続できる。接続したら、使い方自体はセンド・リバーブの内蔵エフェクトと同様となっている。



■ PC連携時はオーディオI/Fとして利用可能。DAW連携にも対応

 ここまでZERO8本体のみで使える機能について見てきたが、PCとFireWire接続することにより、さらに機能を発揮できるようになっている。対応OSはWindows XPとMac OS X。添付のCD-ROMにはドライバ、ユーティリティおよび、「Ableton Live Lite 6 Korg Edition」がバンドルされている。

 接続されると、PC側には16in/16outのオーディオインターフェイスとして認識される。Windowsの場合、MMEドライバとしてもASIOドライバとしても利用することができるので、添付のLive Lite 6に限らず、SONARでもCubaseでも利用することができる。


Ableton Live Lite 6 Korg Edition ASIOドライバとしても利用可能

 では、その16in/16outが実際にどうルーティングされるかというと、まず出力がわかりやすい。ZERO8には16個の出力がパラで並んでいるわけではないので、普通のオーディオインターフェイスとは異なる。そう、出力されたものが、ZERO8のミキサーへと入っていくのだ。ただし、ZERO8側の各チャンネルの入力セレクターがFireWireのAUDIOもしくはAUDIO・MIDIに設定されている必要がある。ミキサー側の使い方、使い勝手などは、アナログ信号の入力時とすべて同じ。

 ただし、AUDIO・MIDIを選択した際は、センド・リターンエフェクトおよびEXF 1、EXF 2のツマミがフォジカルコントローラとして割り当てられてしまうため機能しない。

 一方、入力の方は、各チャンネルの入力セレクタで選んだ信号がそれぞれパラで入ってくる。たとえば1chの入力セレクタでPHONO 1を選んだ場合、1L&1RにPHONO 1の信号が入ってくる。ここで、気になるのは、それが各チャンネルのEQを経た音なのか、フェーダーを経た音なのか、といった点だ。実はこれ、自由に設定できるのがユニークなポイント。液晶パネル上でI/Oのセッティング画面を開くと、プリEQなのか、プリフェーダーなのか、ポストフェーダーなのかが選べる。

 この3つに限らず、EXT 1のセンドレベルなのか、EXT 2のセンドレベルなのかを選べたり、実際のチャンネルとはまったく別に、BUS AやBUS B、マスターなどを割り当ててしまうことができる自由度の高い設計になっている。

 ところで、ZERO8をオーディオインターフェイスとして見たときに気になるのがサンプリングレート。ZERO8自体はいろいろなサンプリングレートに対応しており、ドライバ側で切り替えることができる。最高で192kHzで動作する仕様になっているのだが、ステレオで8ch、普通でいうところの16chも装備しているため、サンプリングレートによって動作状況が変わってくる。

 まず、44.1kHz、48kHzで使っている場合は、ZERO8のすべての機能が使える。しかし、96kHzに設定すると内蔵の3系統のエフェクトが使えなくなってしまう。192kHzにすると、エフェクトが使えないほか、チャンネルEQも機能しなくなり、ステレオ4chの入出力に限られる。また、192kHzへの変更のみはドライバでの切り替えではなく、SETUPボタンを押しながら本体をオンにする必要があるなど、ある意味、特殊なモードとなるのだ。


入力信号の送信設定は、かなり自由度が高い PCのドライバ設定でサンプリングレートを切り替えられる

 次に、ZERO Editというユーティリティだが、これはPC側からZERO8のセッティングをいろいろと変更するためのツール。基本的には、本体側ですべてコントロールできるのだが、PC側でコントロールすることで、使い勝手がある程度よくなる。

 具体的な設定内容としては、フェーダーのカーブ、MIDIコントローラとしてのアサイン、そして前述のオーディオI/Oとしてのセッティングだ。またEQの設定状況を画面で確認することもできる。ただし、本体側でタッチパネル式の液晶ディスプレイが搭載されており、ユーザーインターフェイスも優れていることから、必ずしもPC側でこのZERO Editを使う必要性は感じなかった。


フェーダーのカーブ設定 MIDIコントローラのアサイン


入力信号の送信設定 EQの設定状況がPCから確認できる

 また、フィジカルコントローラ機能は、青く光っているノブやスイッチ類がすべて使えるので、さまざまな活用ができる。バンドルされているLive Lite 6での利用はもちろんのこと、各種DAWで利用もできるのだが、残念ながら現状ではLive Lite 6を含め、設定ファイルなどが公開されていないため、ユーザーが1つ1つアサインしていかないと使えない。先日の、KORGの坂巻氏へのインタビューでは、いずれアサインしたテンプレートなどを公開したいとのことだったので、ぜひ期待したいところだ。

 最後に、ZERO8をオーディオインターフェイスとしてみたときの性能がどんなものなのか、いつものようにRMAAというツールを使ってテストした。確認したところ、RMAAが先日メジャーバージョンアップしており、多少テスト項目も増えていたが、バージョン6.05を使ってテストした。

 テスト環境としては、まず1chをプリEQでの入力にし、2chへ出力した音を特に加工しないまま、マスターから出力させ、これを直結した状態でテストをした。単純なオーディオインターフェイスではなく、途中にEQ、フェーダーなどを経由するため、入出力部分の純粋なチェックにはならないが、参考にしてほしい。なお、192kHzのモードはやや特殊となるため、ここでは44.1kHz、48kHz、96kHzでのチェックを行なっている。


RMAAループテスト結果。左から24bit/44kHz、24bit/48kHz、24bit/96kHz


 ZERO8を実際に使ってみると、先日チェックしたRolandの「M-16DX」や、YAMAHAの「n12」とは、同じデジタルミキサーであってもまったく性格の異なるものだった。

 まさにライブパフォーマンス用途のミキサーといった感じだが、一般のDJミキサーと比較すると、圧倒的に機能は豊富で、価格的にも割安。レコーディング用途としても使えるが、やはりメインはDJ用。DJたちが、今後どう評価していくのか気になるところだ。


□コルグのホームページ
http://www.korg.co.jp/
□製品情報
http://www.korg.co.jp/Product/Dance/ZERO/
□関連記事
【7月23日】【DAL】ライブ用途のデジタルミキサー KORG「ZERO8」
~ 開発者に聞く、DJ向け機能搭載の理由 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20070723/dal290.htm
【7月9日】【DAL】アナログ感覚を活かしたデジタルミキサー
~ 「ヤマハ n12」。Cubaseとの強力な連携が魅力 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20070709/dal289.htm

(2007年7月30日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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