CEATEC1日目、BDAブースで開かれた会見で、松下電器産業 蓄積デバイス事業戦略室の小塚雅之室長が放った一言が話題となった。 「本当に日本でHD DVDは売っているんですか?」 現状で、日本での販売実績がBlu-ray Discにとって圧倒的にということを示してのものだが、非常に大胆な発言だ。その言葉の真意はどこにあるのか? また、現在BDが置かれている状況をどう見ているのか? BD規格策定のキーマンでもある、小塚氏本人の口から語ってもらった。
■ 「9:1」の現状を強調 -まずは、初日の会見のコメントですが、実に大胆な一言でした。
小塚:去年のCEATECでもBDAブースで記者会見をやりましたが、各社の代表者が一言ずつ言うだけではあまり報道されないわけです。製品も発表も多いのに。CESやIFAではBDAのスポークスマンがBDの概況を記者会見で報告するので、大きく報道されますが。 そこで日本でも記者会見を開き、しっかり説明をしようということになりました。客観的な事実に基づいて、状況を正しく伝えるために「全部調査会社のデータに基づいてやりましょう」、ということにしたんです。実際、我々の不満は、マーケティングデータでは「9:1」なのに、記事ではなぜか「五分五分」のように書かれてしまうということでしたから。だから、まずは「9:1」であることを十分理解してもらえるようなプレゼンテーションをしよう、と。 そこで「多少インパクトがないと記事にはしてもらえない」ということで、かなり刺激的に例の発言したんです。反響の大きさから言い過ぎたかな、とは思いますが。 -日本で、圧倒的にBlu-rayが強い、ということは間違いがない、と。 小塚:ええ。そこを是非伝えたい、というのが皆の思いでした。それをその場にいたBDAメンバーを代表して私が話した、ということです。(東芝の)藤井さんも、数字については全然文句言いませんでしたよね? それは認めている、ということですよ。
-HD DVD陣営は、「BD陣営はPCを見ていない」と言っていますが。 小塚:それはちょっと違います。ちゃんと見ていますよ。例えば日本市場ではPCでも9:1と説明しました。ただ彼らとは、PCに対する考え方が違います。 PS3でBlu-ray Discを見ない、とHD DVD陣営は主張しています。確かにPS3ユーザーは(BDプレーヤーのユーザーほど)BDを「買わない」ですが、「見ない」わけではないんです。 多くのPS3のユーザーは、レンタルで見ているんですよ。私たちが(米ビデオレンタル大手の)Blockbusterから聞いているのは、レンタルの利用率がBDとHD DVDでは9:1くらいになりました、ということです。現状、ゲーム機は高いし、ゲームソフトも映画に比べて高いので、さらにBDの映画を買う、というところまでは行かないけれど、映画は見たいからレンタルする、ということでしょう。だから、(HD DVDとは)レンタルの回転率が違った、ということです。 パソコンでBDを見るか、という話ですが、そりゃあポータブルプレーヤーとして見ますよ。でもそういう人々は、家にBDプレーヤーを持っている。プレーヤーを持っていて、リビングではそれで映画を楽しんでいる人が、移動中にPCでも同じディスクで映画を楽しむ、ということでしょう。PCしか買わない、ということはあり得ないですよ。 それに日本では、パソコン用ドライブでも、記録機能付きのものを買うでしょう。HD DVD陣営の言っている「PCのシェア」というのは、滅茶苦茶な話ですよ。 -最近、「HD DVD対BD」という図式は、実は水平分業のパーツメーカーと、垂直統合の家電メーカーの戦い。すなわち、パーツ屋が利益をとるのか、家電屋が利益をとるのか、の違いなのではないか、と思っているのですが、どうですか? 小塚:まったくその通りだと思いますよ。 パソコンと同じように、チップセットもミドルウエアも、パーツもどこかから買ってきて、中国メーカーが組み立てて終わり。家電メーカーはそれにブランドをつけるだけ、というのが、HD DVD陣営の考えるビジネスモデルではないですか。そうなると、日本の家電メーカーは光ディスク事業の継続が困難ですよね。ITと家電の融合が狙いではなくて、ITが家電のビジネスモデルを屈服させることが狙いなんじゃないの、と思ってしまいますよね。 -東芝は、パソコンにどんどん搭載していく、という方向性を鮮明にしているようですね。 小塚:彼らが言っていることで矛盾していると思うことは、「買ってきた映画ディスクはコレクションする」と言っているのに、ディスクへの放送録画は否定していることです。テレビ番組の録画はコレクションしないの? と思いますよね。ヘンですよね。ネットから引き出してHDDに入れるだけ、と言うならまだ論理が一貫しているのでわかりますけれど、どちらかだけというのは、ありえません。 うちの娘なんて、好きなタレントが出ている番組を録画し、ディスクにダビングして、自分の部屋でいつも観ていますよ。そういう使い方が普通じゃないですか? -レコーダ市場がない、アメリカなどでの戦いはどう見ていますか? 小塚:レコーダー市場がない、といっても「記録型ディスク」を使わないわけではないでしょう。パソコンでの記録もあるでしょうし。重要なのはビデオカメラではないでしょうか。アメリカではDVDのビデオカメラが普及していますが、それを置き換える形で、BDやAVCHDが普及していくことになるでしょう。 それから日本でもビデオカメラから直接DVDディスクへダビングする記録型ポータブルDVDドライブが、爆発的に売れています。「ディスクにダビングしたい」というニーズがあるからですよ。それに応じて、セットで販売できるので店舗の単価も劇的に上がっています。結局、HDDに移した後、最後に何に残すの? という問題が重要です。 私たちの光ディスクに対する考えは常に同じです。映画はきれいなまま観たい。日本にはWOWOWやBS-hiのように、すばらしいコンテンツを放送してくれる局があるわけですから、それをそのまま残しておきたい、と思うのも自然なことです。 地上波も日本は画質がいい。アメリカだと、ハイデフといっても8Mbpsくらいですから、日本ほどきれいじゃない。日本の地上デジタル放送の画質だったら、残したいと思うじゃないですか。 ■ 互換性のない「AVCREC」と「HD Rec」 -気になっているのが、DVDへのハイデフ記録方式。HD DVD陣営による「HD Rec」と、ブルーレイDIGAで採用した「AVCREC」の問題です。双方に互換性はないですよね?
小塚:ないですね。 -というのは、松下はDVDフォーラムに入っていて、HD Recへの対応も可能なはず。でも、やらない。 小塚:やらないですよ。絶対に。HD RecはHD DVDの規格ですから。 -とすると結局、再生互換性の問題から、HD RecもAVCRECも、ほとんど使われないままに終わってしまうのでは、と危惧するのですが。 小塚:AVCRECは、BDディスクの価格が高い時期に安価なDVDメディアも使っていただければいいな、という位置づけでBDを支援する規格です。ですから、現状は、ハイビジョン放送が充実している日本市場での展開を考えています。 -AVCRECは、BDのサブセットである、と。 小塚:そうです。あくまでBDのサブセットです。BDはハードもまだ価格が高めですから、少しでも多くの「ハイビジョンのまま映像を光ディスクに記録したい」、「短時間の番組でいいからHDで録りたい」というお客様の要望に応えたい、ということです。現状100円前後で販売されているDVDディスクでも、HD放送が約1時間半記録できる。凄い機能だと思います。 -AVCRECは、さほど互換性は重視していない? 小塚:AVCRECは、HD DVDの規格である「HD Rec」とは別ものですから、BDとHD DVD間に互換性がないと同じように互換性はありません。AVCRECはBD規格ですから、各社が規格に則って作れば、もちろん互換性はあります。基本的には、BDでやっているものと同じなので、他のBDメーカーもサポートしてくると思いますよ。 また、BDの書き込み速度も進化しています。新DIGAでは、4倍速の書き込みも可能になりました。あちら(HD DVD)はまだ1倍速のようですが。 -確かに。DVDの時もそうでしたが、4倍速くらいになると、一気に実用性が高まる印象があります。 小塚:そうですね。今年のBW900は1TBのHDDも搭載していますから、かなりお買い得感は高まっていると思います。 繰り返しになりますが、AVCRECは、お客様がハイビジョンを、より身近に楽しむ為の記録媒体の選択肢を広げるものです。例えば良い映画はBDで残すけれど、ちょっとそこまでは……という番組はAVCRECを選択していただくということです。AVCRECに関して重要と思っていることは、音を5.1chのまま残せる、ということです。私も映画が大好きなのですが、今までのDVD記録では、映像がSDになること以上に、音声が2chになってしまうという点が、映画ファンとしては非常に寂しかったもので。 -LTHのBD-R(有機系色素利用ディスク)を利用した際の、互換性はどうですか? 小塚:問題ないですよ。現時点でまだ、市販ディスクがないため、どこのメーカーの、どの製品でも100%読める、という試験ができないので微妙な言い回しになっていますが、問題が出るとは思っていません。基本的に規格の設計段階で、「互換性に問題が出ないように」という条件で規格を決めているわけですし。ファームウエアのアップデートが必要な機種は出るかもしれませんが。さらに言えば、有機系色素のディスクでも、ファイナライズは不要です。無機系ディスクと同じ感覚で使えます。その分、規格化作業は厳しかったのです。 -確認しますが、HD Recについては「DVDフォーラム内のDVDに関する規格」ではなく、「DVDフォーラム内のHD DVD規格のサブセット」ということですね? すると、HD Rec対AVCRECも、「HD DVD対BD」の下部構造として存在している、という認識なんですね。 小塚:そうですね。単純な話で、AVCRECは、BDのディスク価格がまだ高い時や、たまたま家にBDがなかった時などにディスクに残すもの、と考えています。とすれば、変換を伴わず、そのまま書き出せる方がいいじゃないですか。メディアにこだわっているわけではないのです。 (ビデオカメラ用の)AVCHDも、メディアは関係のないフォーマットですよね。あれはアプリケーションフォーマットで、HDDであろうがメモリであろうが関係ない。同じように、AVCRECのフォーマットも、個人的にはメディアフリーにしてもいいのではと思っています。現在はなにも決まっていませんが、将来はAVCHDと同様に、例えばSDカードにAVCRECで書けてもいいと思います。技術的にできるかどうかの検証が必要ですが。 -HD DVD陣営も、同じようなことを言っていますね。「映像形式を同じにすることが重要。ディスクフォーマットは関係ない」と。 小塚:双方で考えていることは、ちょっと違う気がしますけどね。 HD DVDのフォーマットは、従来のDVD規格を整理しないで、HD DVD規格を策定したので、規格が乱立していてお客様からはよく解らない状態です。一方はMPEG-2 PSで録って、他方ではTSで録る。お客様にわかりづらい。さらに、VRモードとビデオモードがあるわけですから、もう理解するのが大変ですよ。 -それを、BDにして再整理した、と。 小塚:そうですね。記録側は、DVDの際、-RAMだ、-RWだ、+RWだと、規格が乱立してしまったものを、BD-R/REだけにして、きれいに整理しました。 例えばディスクのファイナライズにしても、DVD-RAMで必要なかったことが好評でしたので、BDではBD-REでもBD-Rでも無くしました。アドレッシングにしても、基本は+RWで使っているのと同じウォブルに情報を載せる方式ですが、新しいアイデアを入れて、より信頼性が高く、2層でも作りやすいものにしています。アプリケーションもTS記録のみです。 みんな、赤(DVDの世代)のディスクで、色々と反省があったので、それに学んで作り直したわけです。LTHで互換性を大切にしたのも、DVDでいろんなディスクが出てユーザーが混乱しやすかったという問題への反省です。そうじゃないとコンセプトがぶれてしまう。 それに対して、HD DVD陣営は、彼ら自身がはっきり言っていますよね。「HD DVDはDVDである」と。2層の大容量ディスクでファイナライズが必要だなんて、使い勝手の面では不便ですよ。記録が終わった後に、ユーザーはファイナライズ処理で長時間待たなければいけないわけですから。 アプリケーションについても、ディスクでビデオを本格的にやるのは、DVDが初めてでしたので、やはり反省点があるんです。だから、様々な手直しを入れています。 例えば、ポップアップメニュー。BDでは、DVDの感覚(DVDナビゲーションコマンド)で、簡単に作れます。そういう機能が必要だ、と思ったから、拡張して作ったんです。HD DVDのようにHDiでメニューを書く必要はありません。 ピクチャー・イン・ピクチャーなどの視覚効果も、マルチアングルを使えばできます。ですから、HDiで可能といっていることのほとんどは、別にBD-Javaを使わなくとも実現可能です。唯一出来ないと思える視覚効果は、ピクチャー・イン・ピクチャーの映像を再生し、そのウインドウサイズを動的に変える効果です。 -でも、まだピクチャー・イン・ピクチャーを実現したBDタイトルはないですよね。 小塚:はい。もうすぐ出て来ると思いますので、ご期待ください。 ■ ゲームのためのJAVAがBDの思想 -インタラクティブ機能がどのくらいウリになると考えていますか? 小塚:日本では、ほとんど意味がないです。DVDの場合を考えると、日本では、レンタルが主体で、しかもレンタル用タイトルにはボーナスコンテンツがほとんど入っていない。それでユーザーは満足しているわけですから、日本ではあまりウリにはならないでしょう。 アメリカの場合も微妙です。Warner Bros.の映画「300」は、BD版がHD DVD版の2倍、売れています。BD版には、HDiでのインタラクティブ機能が無いのに、です。(CEATECのHD DVDの会見で)HD DVD版でのネット機能/インタラクティブ機能にMicrosoftの方が言及していましたが、それがあっても半分しか売れないのなら、それに意味はあるのかな、というところです。 私たちは、インタラクティブ機能を否定しているのではなく、HDiが実現しているような簡易インタラクティブ機能は訴求力が小さいと思っています。ユーザーはもっとゲームのような高度なインタラクティブ機能でないと、認めないと考えています。だからBDでは、「パイレーツ・オブ・カリビアン2」に入っている「ダイスゲーム」や「リーグオブレジェンド」のシューティングゲームのような本格的なゲームをBD-Javaで実現しているんです。今回、CEATECの松下ブースでデモしたように、シューティングゲームだってBD-Javaなら実現できます。 私たちがなぜゲームのような高度なインタラクティブ機能を入れたかったかというと、ディズニーが必要だと主張したからです。ディズニーは、DVDの時にも非常に凝ったタイトルを作っていたし、ウェブサイトでも、フラッシュやJavaを使っていろんなゲームを提供しているじゃないですか。また、自分の体験としても、うちの子供が、何時間もディズニーのゲームをプレイしているのを、目の当たりにしています。「もうやめなさい」といっても、なかなか止めない(笑)。 親としては、映画のディスクを買ってあげても、1回観てポン、と放り投げて終わりならば、もう買いませんよね。でも、子供がそのディスクで何時間も、何回も楽しんでいるのなら、親は「ああ、買って良かったな」と思うじゃないですか? そのように買ってからも繰り返し楽しんでくれないと、また買ってもらえないんです。 だから規格策定の際に、ディズニーの要望を真摯に受け止めたうえで、彼らに、こう話したんです。「ゲームを作るなら、フラッシュかJavaで作るでしょう? 誰も(HDiのような)XMLで書かないでしょう」と。 -やりたいのは、シンプルなインタラクティビティではなく「ゲーム」だ、と。 小塚:そうですね。PS3レベルではなく、PS2レベルの、ということです。我々が使っている「Uniphier」のチップセットだと、2Dグラフィックであれば、PS2に近いことがフルHDで実現できます。今は3Dグラフィックスの扱いについて、規格内では規定していませんが、それも今後は考えていきます。 つまり、ゲームを作りやすいという意味ではプログラム言語(JAVA)のほうが作りやすいでしょう。(HD DVDのインタラクティブ機能の)HDiで、インベーダーやギャラクシアンは作れないでしょう。そんなにインタラクティブが売りというなら、パックマンでいいから本格的なゲームをHDiで作ってみせてよ、と言いたいですね(笑)。 CEATECのHD DVD基調講演で、HDiの特徴、といって紹介されたことのほとんどは、本当は現状のDVDの機能でできてしまいます。例えば、スターウォーズのDVDは、メニューとかすごく凝っていて面白いですが、それとあんまり変わらない機能をHDiで紹介していました。僕自身もスタートレックは好きで、今回の(HD DVDの)デモもいいな、と思います。ただ、別にHDiだからできるというわけではなくて、DVDの機能で十分実現可能なことです。 私は、DVDのフォーマット作りに関わり、DVDのナビゲーションコマンドシステムを作り、オーサリングシステムも作りました。良いものを作った自負はありますが、同時にDVD製作者から「使いにくい」、「こうして欲しい」などと改善提案を言われ続けました。その反省もあります。BDでは、それに答えたつもりです。映画を楽しむ人のために、いかに使いやすくするか、そういう思いで作ったのがBDというフォーマットです。 もちろん、BDにもネットワーク機能があります。ただ、アクトビラのようなネットサービスが出始めています。お客様の事を本当に考えるならば、ネットワーク機能を、ディスクの中に無理に閉じこめたり、フォーマットで規定してしまったりする必要があるのかは、疑問です。 例えば、ビデオカメラで撮った映像をYouTubeに上げる方法とか、パソコン上のSNSといかに連携すべきかとか、そういったところまでを考えるのが「ネットワーク化」のはず。ディスク内のネットワーク機能でマーケティングリサーチをするための機能に、意味があるとは思えません。だって、ネットワーク機能がお客様のためにならないじゃないですか。ネット家電の中でどうあるべきか、そこまで話してからやるべきだ、と個人的には思っています。 BDにも、どのように通信すべきか、という規定はしてありますので、ネットワーク機能を実装することはできます。でも、それはBD-Javaを使ったもので、ウェブをどう扱うべきか、は規定していないんです。Javaのアプリがサーバーと連携する場合にはどうするかという点だけを規定しているので、ウェブブラウザはなんでもいい。アクトビラがあるならそれを使えばいいし、別でもいい。どうするかは議論していますよ。やるだけならすぐにでもできる。 -ディスク内からウェブサイトが見れても、それだけではダメ、ということですか。 小塚:そうです。そんなのでいいなら、5、6年前に「インタラクティブDVD」とか「ウェブDVD」という形で、さんざん議論しています。うちやSonicからいろんなアイデアを出しましたが、普及していないでしょ。 今、個人的にいけそうな気がするのはSNS連携ですね。本当に流行っていて、映像もネットにアップロードするというサービスが見えてきているからです。それらと連携させるのなら、意味があると思います。 つまり、ディスクで決めるべきことと、システムで決めるべきことは違います。我々は、あれ(HDiのネットワーク機能)はシステムで決めるべきことだと思っています。ディスクで「マイクロソフト・システム」をしようとしているから、我々には理解できないし、合意できないのです。今のHD DVDのインタラクティブ機能は、「Microsoftの、Microsoftによる、MicrosoftのためのHDi」という感じではないですか?(笑)。 繰り返しになりますが、ディスクフォーマットというのは長く使うものです。そこに、インターネットのように変化するものを「規格」として固定化してしまうのは無理があると考えています。最低限だけを決めておけばいい。例えば3Dグラフィックエンジンにしても、ここで決めてしまっては進歩しようがない。枠組みだけ決めておいて、使いたいと思う人が拡張できるようにしておいた方がいい、と判断したのです。 でも、映画を見る部分は絶対に変えない。そういうポジションにしたわけです。 私にはネットワークサービスはわかりませんから、そこは「わかる人」に決めてもらうために、「接続方法」だけ決めておけばいいんじゃないの、という発想です。今の段階では、5年後のニーズはわかりませんからね。少なくとも私たちは5年前、SNSのようなものを発想できなかった。そういうことは、光ディスクのように「硬い」もので決めてしまうわけにはいかないのです。
■ 「ネット配信」への警戒感から早期解決も? -パラマウントがHD DVDについて、戦争が長期化するのでは、という話もありますが。 小塚:そういう話もありますが、結果的にアメリカで起きている話をお伝えしますと……。 まず、Microsoftがなぜ、あれ程HD DVDをサポートするのか? という疑問があります。Microsoftにとって、光ディスクはそんなに重要な技術とは思えないのにもかかわらず、です。 そのため「Microsoftは、HD映像の配信をブロードバンド配信で行なうことを重視している。だから、Blu-rayの市場が立ちあがって、パッケージメディアがHD映像配信の主流となると困る。このためHD DVDにコミットしており、規格戦争状況が継続している」という観測が支配的です。 パッケージでなく、ブロードバンド主体となると誰が影響を受けるのかというと、DVDのパッケージメディアで儲かっている、映画会社ですよ。彼らは、DVDで売上の半分をまかなっている。同時にWalmartのような小売店も影響を受けます。例えば、ディズニーの「白雪姫」のようにヒットするタイトルが出れば、最初の1週間で、彼らは200万枚を販売するわけですから。これが、ブロードバンド配信が主流になると、これらはみんな中抜きされる可能性がある、ということです。 Paramountの報道後、このような観測がでてきましたから、大手流通も動きだしたようです。日本では、こういうブロードバンド配信の話は「たられば」話のように思われます。でも、映画会社は心配しています。 5年前、韓国ではDVDが売れていました。でも、今はブロードバンド配信が広がって、DVDの売上がほぼゼロになってしまいました。映画会社は韓国オフィスを閉鎖して、日本オフィスと統合しています。もちろん、韓国というブロードバンドが凄く発達した国の特有な事象でしょうけれど、日本やアメリカであり得ない話、というわけではないと。つまり小売りが中抜きとなることに本気で不安視しています。このような状況では、味方は増えないと思いませんか? -Microsoftが、「自分たちだけビジネスがうまくいけばいい」と思っている、ということですか。 小塚:そう思わざるをえないと思いませんか? それには、みんな抵抗するでしょう。この年末商戦の際、Walmartで非常に低価格(200ドル以下)のHD DVDプレーヤーが大量に売られる、という噂がありました。我々も、これは怖い、と考えていました。しかし実際には、Walmart自身が「Aクラスブランドのプレーヤーしか売らない」と発表しています。 単にプレーヤーが安ければいい、ということでも無いのです。安ければ売れるなら、ゲームビジネスはもっと単純だったはずですよね? 趣味で買うものだから、ちょっとの価格差に本質的な意味はないんです。「俺はこれが欲しいから買うんだ」と、納得できるだけの材料が必要なんです。 -すなわち、良い製品が必要だ、と? 小塚:そういうことです。 ワーナーが先日アメリカで実施した大規模なマーケットリサーチの結果では、顧客はBDに100ドル程度のプレミアを払っても良い、という結果が出たそうです。今発売されているHD DVDの299ドルのプレーヤーには、1080/24pでの出力がない。24p対応しているHD DVDは399ドル。HD DVDは、やっと映画ファンが重要と考える、24p機能の規格化を開始したばかりですし。 誤解を招いたかもしれませんが、数の論理でBDが良いと言っているわけではありません。Blu-rayでいいものを早く作りたいから、みんなで集まって作っているわけです。当然参画するエンジニアの数が多ければ、それだけいいものができやすいですからね。 -日本のパブリッシャーがもう少しタイトルを出してくれれば、元気になるんですけどね。 小塚:そうですね。まあ、コンテンツという面では、アメリカがやはり主戦場になりますね。すいませんが、まだ日本までなかなか手が回っていない、というのが実情です。もうすぐ、色々と出てくると思いますが、まずはレコーダーをたくさんお買い上げ頂いてインストールベースが増えてから、ですね。 □関連記事 (2007年10月19日)
[Reported by 西田宗千佳]
AV Watch編集部av-watch@impress.co.jp
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