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大河原克行のデジタル家電 -最前線-
~ レコーダ市場が一気に拡大すると業界筋が予測する理由 ~



 社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)の調べによると、DVDレコーダの年間市場規模は、2006年度実績で350万台。実は、この数字は、驚くべき停滞ぶりといえる。かつて、VHSテープが主流だったアナログ時代には、年間のVTR市場の規模は、年間700万台にも達していた。それに比べると、実に半減しているのである。しかも、2006年度実績は前年割れという状況だ。

 これは、2007年に入ってからも同様である。今年11月までは前年割れで推移。厳しい状況に変わりはない。2001年頃から、業界内では「デジタル三種の神器」という言葉が使われていた。昭和30年代の高度成長期に、家電三種の神器と言われ、家庭にとって憧れの的であった「テレビ、冷蔵庫、洗濯機」になぞらえて、成長が期待された「薄型テレビ」、「デジタルカメラ」、そして、「DVDレコーダ」を指したものだ。

 薄型テレビの国内市場規模は、2006年度実績で約700万台、2007年度には800万台を超える市場規模が見込まれ、さらに、2008年度には、900万台前後の市場が見込まれている。

 また、デジタルカメラは、今年度初の1,000万台を突破すると予測され、同時にデジタル一眼レフカメラは、25年ぶりに一眼レフカメラの需要を100万台突破の規模にまで押し上げると見込まれている。

 つまり、唯一、DVDレコーダだけが、需要を引き上げることができなかったのである。JEITAが発表している民生用電子機器の国内出荷統計をもう少し詳しく見てみよう。2001年に年間18万台が出荷されたDVDレコーダは、2002年には83万台、2003年には196万台と拡大。アテネオリンピックが開催された2004年には407万台に達した。だが、2005年には424万台とほぼ横ばい。2006年には350万台と落ち込む始末。今年9月までの状況を見ても前年割れで推移しているのだ。

 また、この傾向はいびつな状況を生み出している。「テレビはハイビジョンテレビなのに、DVDの矢沢はハイビジョンじゃないの」という、ソニーの広告で指摘する状況が起きているだけに留まらない。まだDVDレコーダを持っていればいい。薄型テレビとDVDレコーダの出荷台数の差からは、薄型ハイビジョンテレビを持っているのに、所有しているレコーダはVHSテープレコーダという状況すら容易に想像できるのだ。

 ところが、ここにきて、DVDレコーダを担当している関係者からは、やや明るい声が聞こえ始めてきた。そして、2008年度には、年間500万台の規模にまで引き上げることが可能との見通しも一部で出始めている。

 なぜ、関係者の間からは強気の予想が出始めているのだろうか。



■ なぜ、レコーダ需要が低迷したのか

 強気の予想の背景を探るには、逆に、これまでDVDレコーダの需要が低迷していた理由を考えてみるのが早道だ。DVDレコーダが低迷していた理由はいくつかが考えられる。

 ひとつは、DVDにハイビジョン録画が不可能だった点だ。もちろん、HDDに録画すればいいという解決策はある。ハイビジョンレコーダと呼ばれる製品の多くは、そうした使い方を提示している。

 だが、多くの日本人に共通した使い方は、ライブラリーとしてリムーバブルメディアに録画して、残しておきたいという使い方だ。そうなると既存のDVDレコーダの容量では足りないということになる。

 2つめの理由は、次世代光ディスクの動きだ。

 ひとつめの課題を解決する要素のひとつとして、Blu-ray Disc(BD)あるいはHD DVDを選択するという方法がある。

 しかし、ここに踏み出せない2つの理由があった。ひとつは、BDとHD DVDの熾烈な規格争いが展開されており、どちらの規格を選択していいか迷うという点だ。もうひとつは、どちらかに決めたとしても、価格が高く、購入に踏み切れないという課題だ。昨年の年末商戦でのBDレコーダの実売価格は20万円前後。一般ユーザーには高価格帯となる。そして、DVDレコーダがそうであったように、デジタル商品の1年間で価格下落が驚くほど進展する。一般ユーザーが購入に踏み切るには、ハードルが高く、もう少し待って見ようという意識が働いたともいえる。

 そして、最後の理由が、ダビングの問題だ。VHSテープで慣れ親しんだユーザーにとってみると、録画やダビングの制限があるという点では、敷居が高い。デジタル録画のダビングに関しても、普及の足かせになっていたと見ることができよう。

2006年11月発売の松下製BDレコーダ「DMR-BW200」は発表時の実売価格が30万円前後。下位モデル「DMR-BW100」は24万円前後だった 2006年12月発売のソニー製BDレコーダ「BDZ-V9」は実売30万円前後。下位モデル「BDZ-V7」は25万円前後 2006年7月発売の東芝製HD DVD/HDDレコーダ「RD-A1」は39万8,000円


■ 課題が一気に解決した年末商戦

 だが、今年の年末商戦で、これらの問題が一気に解決したともいえる。

 DVDにハイビジョンを録画するという点では、MPEG4 AVCエンコーダ技術により、4倍の長時間録画を実現。松下電器や東芝がこの規格を採用したレコーダを年末商戦から投入している。DVDディスクにも、ハイビジョン映像を録画することができ、しかも、4.7GBで約1時間40分、9.4GBのディスクでは約3時間20分のハイビョン録画可能になる。4倍録りをコミュニケーションメッセージとして強調した松下電器のDVDレコーダ「DIGA」は、前年同期比2桁増という好調な売れ行きを見せ、一部製品は品薄という状況になっている。

11月発売の松下製「ブルーレイDIGA」新モデルはいずれもAVC記録に対応する 同じく11月発売のソニー製BDレコーダ新モデルも、AVC記録に対応。価格設定もDIGAより安く、人気を集めている

 2つめの次世代光ディスクレコーダの価格の影響については、今年の年末商戦から実売価格で10万円前後の新製品が登場してきたことで解決されようとしている。

 この年末商戦からレコーダ新製品をBlu-rayに一本化したソニーは、最下位モデルの市場想定価格を14万円前後に設定。年明けには10万円を切る実売価格になると見込まれている。また、シャープがHDDを搭載しないBlu-rayレコーダを10万円を切る価格設定で投入。東芝も同様に、HD DVD/HDDレコーダ「RD-A301」を14日から市場投入。同モデルは10万円以下の実売価格への下落も見込まれる。

シャープのBDレコーダ新モデル「BD-AV1」はHDDを搭載せず、10万円以下で販売 東芝のHD DVDレコーダ「RD-A301」はAVC記録で、DVDに「HD Rec」が可能に

 このように次世代光ディスクレコーダが、DVDレコーダの中位機と同等の価格帯からのラインアップとなり、購入しやすい価格帯にまで下がってきているのだ。

 さらに、行方が混沌としていた次世代規格の行方についても、国内のレコーダ市場では、BDが90%を上回る圧倒的シェアを獲得。BCNの調べでも、次世代光ディスクの10~11月のシェアは、BDレコーダ陣営のソニーが57.1%、松下電器が32.3%、シャープが8.7%%となったのに対して、HD DVDの東芝が2.0%。12月中旬以降、東芝のHD DVDレコーダであるRD-A301が戦略的価格で発売されたことで、シェアの変動があるだろうが、これだけの差から、BD陣営をひっくり返すのは難しいといえそうだ。

 そして、最後のダビングの問題についても、コピー9回、ムーブ1回というダビング10が、来年以降、正式にスタートすることになると見込まれ、年末商戦の主力製品でも、ダビング10への準拠をネットワークアップグレードなどを通じて明らかにしている機種もある。

 コピーワンスの環境が大幅に緩和され、テレビの視聴者が、デジタル録画を行う上で、かなり敷居が下がることになるといえよう。

10月+11月のメーカー別次世代DVDレコーダ台数/金額シェア コピーワンス(上)とダビング10(下)の運用ルール比較
出典:電子情報技術産業協会


■ 北京オリンピックを追い風に成長曲線描く

 こうしたDVDレコーダの需要を阻害していた要因が、いよいよ解決すると見られるのに加えて、2008年は北京オリンピック需要が見込まれる。これも、DVDレコーダ需要を促進する材料になるだろう。

 こうした課題解決と、需要を喚起するトピックスが加わったことで、業界筋では強気の見通しを立てている。

 調査会社であるMM総研は、先頃、DVDレコーダの国内出荷台数見通しを発表。2006年度には、前年比16%減の360万台に留まっていたDVDレコーダ市場は、2007年度には2年ぶりにプラスに転じて410万台になると予測。さらに、北京オリンピック需要が見込まれる2008年度には18%増の485万台、2009年度には9%増の530万台に達するものと予測した。2009年度には次世代光ディスクの構成比が55%と、過半数を越えるものと予測している。

 主要なDVDレコーダメーカーの予測値も、同様の成長曲線を描いており、業界全体が、この方向で一致している。

DVDレコーダ国内出荷台数見通し(2007年11月 MM総研調べ)
2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度
(予測)
2008年度
(予測)
2009年度
(予測)
2010年度
(予測)
国内出荷台数
(万台)
75 217 443 430 360 410 485 530 600
成長率 - 189% 104% -3% -16% 14% 18% 9% 13%

出荷構成比予測
2006年度 2007年度
(予測)
2008年度
(予測)
2009年度
(予測)
2010年度
(予測)
DVD 99% 86% 65% 45% 40%
次世代DVD 1% 14% 35% 55% 60%

 とはいえ、まだ年末商戦の動きだけを見ると、その回復曲線を描ききれてはいない。一部メーカーでは、DVDレコーダが品薄となっているが、生産台数がそれに追いつかず、年末商戦を慎重な姿勢で見ていたメーカーのうれしい誤算が、業界予測ほどの成長曲線を描けない要因のひとつともなっている。

 これがいつから動き出すかが、メーカー各社にとって焦点といえる。つまり、オリンピック需要に向けた戦略的提案とそれに向けた強気の量産体制がいつから敷かれるのかが注目点であり、そこからDVDレコーダ市場の本格的回復が踏み出されることになる。

 かつてのVTR時代に比べると、年間300万台程度の需要が顕在化できていなかったともいえるDVDレコーダ市場。年末商戦から来年初めの需要期をきっかけに、「正常」な市場規模に戻ることができるだろうか。


□関連記事
【12月5日】年末商戦の次世代レコーダ台数シェアはBDが98%
-BCN調査。「東芝のレコーダ商戦はこれから」
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20071205/bcn.htm
【7月12日】「コピーワンス」見直しは「コピー9回」へ
-10回目でムーブ。地デジ録画の運用ルール見直し
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20070712/soumu.htm

(2007年12月20日)


= 大河原克行 =
 (おおかわら かつゆき) 
'65年、東京都出身。IT業界の専門紙である「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を勤め、2001年10月からフリーランスジャーナリストとして独立。BCN記者、編集長時代を通じて、15年以上に渡り、IT産業を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。

現在、ビジネス誌、パソコン誌、ウェブ媒体などで活躍中。PC Watchの「パソコン業界東奔西走」をはじめ、Enterprise Watch、ケータイWatch(以上、インプレス)、nikkeibp.jp(日経BP社)、PCfan(毎日コミュニケーションズ)、月刊宝島(宝島社)、月刊アスキー(アスキー)などで定期的に記事を執筆。著書に、「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社)、「松下電器 変革への挑戦」(宝島社)、「パソコンウォーズ最前線」(オーム社)など。

[Reported by 大河原克行]


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