「ビエラにリンク」の“に”の意味とは? ~ リンクマーケティングを進める松下電器の年末商戦 ~ |
リンク機能を訴える数々の店頭POP | ドアホンも「ビエラにリンク」商品のひとつ | VIERA Linkを実現するリモコン |
「ビエラにリンク」のロゴには、ひょうたん型を採用 |
余談ではあるが、「ビエラにリンク」のロゴは、ひょうたんを横にしたような形にしている。
実は、パナソニック製品のマーケティングを行なうパナソニックマーケティング本部は、「ひょうたん」にはこだわりがある。
すべてのマーケティング戦略が、東京・浜松町にあるパナソニックマーケティング本部が入居するビルのひとつの部屋で決定されている。その部屋に入っている机が、実は「ひょうたん」の形をしている。社内では、「ひょうたん部屋」と言われるこの部屋で、当然、「ビエラにリンク」の戦略も決定された。
ひょうたん型をロゴに採用したというだけでも、この戦略にパナソニックマーケティング本部が、どれだけ力を入れているかが伝わってくる。
■ 新たな「リンクマーケティング」とは
「ビエラにリンク」によって、HDMI接続以外にも広がりを見せる |
「ビエラにリンク」を打ち出した今年の年末商戦において、松下電器は、大きなテーマに挑んだ。それは、「リンクマーケティング」という新たな取り組みだ。
これまで、松下電器のマーケティング戦略は、逆算のマーケティングと呼ばれる手法だった。発売日に認知のピークを置き、そのための宣伝活動、広報活動、販売店向け教育プランの実行のほか、物流、生産、部品調達、製品企画のプランをすべて設定していくという手法だ。これにより、すべての組織の活動が、発売日に向けて集中し、ここから一気にトップシェアを獲得する垂直立ち上げを実現するというわけだ。
実は、この手法は今年も変わっていない。だが、今年の場合は、リンクマーケティングの言葉が示すように、主要製品のすべての発売時期をほぼ同じくして、市場に投入するという手法を新たに導入した。
松下電器産業パナソニックマーケティング本部・西口史郎本部長 |
「これまでは、薄型テレビ、DVDレコーダ、デジカメといった製品が、それぞれ独自にマーケティングに取り組んできた。だが、今年はすべての製品の発売日を集中させ、製品の枠を越えた共同マーケティングに挑んだ。その結果、これまでは約3カ月の間に分散して投入されていた新製品を、8月下旬から9月前半までの約1カ月の間に投入した。これは、とりもなおさず、リンクを訴求するための仕掛け」と、松下電器産業パナソニックマーケティング本部・西口史郎本部長は語る。
唯一、DVDレコーダだけが、10月のCEATEC会場で発表され、10月末から発売という格好になったが、これは新たな技術への対応などに時間を要したため。むしろ、CEATECの目玉展示と位置づけたことで、会場において改めて「ビエラにリンク」を訴求するきっかけにもなったといえよう。
つまり、このリンクマーケティングは、逆算のマーケティングを進化させたものだといえる。
店頭展示のリンク提案の一例 |
従来の逆算のマーケティングでは、製品企画から生産、物流、営業、宣伝などの組織ごとにハラバラだった動きを一本化することで達成した。リンクマーケティングでは、これを維持しながら、さらに、製品の枠を越えた足並みを揃えたマーケティングへと踏み出したもの。まさに、縦糸と横糸が編み込まれたようなマーケティング体制になったといえる。
「マーケティング手法をもう一歩進めた、業界最先端の手法といえる。4年前に、大坪文雄社長が、パナソニックAVC社の社長時代に、テレビを中心にデジタル機器のビジネスユニット(BU)を門真に集結させ、同じ場所で、つながる商品の開発を開始した。また、中村邦夫会長の社長時代から、マーケティング本部を設置し、これを一か所に集結してマーケティングを行なえるようにしている。こうした流れがなければ、リンクマーケティングを実現することは難しかった」(西口本部長)。
そして、西口本部長自身が、今年4月にテレビ事業部門のBU長から、パナソニックマーケティング本部長に就任。BUとマーケティング本部を強く結びつける役割を果たしている点も、リンクマーケティングの実現には重要な要素といえる。
BUとマーケティング本部は、それぞれの立場から、当然、意見を戦わせることが多い。西口本部長は、「マーケティング本部に異動するにあたって、BUのメンバーには、『市場の代表として、180度違ったことをBUに求めることもある』と宣言してきた」と明かす。
両者の適度な緊張感の維持も、このリンクマーケティングの実現を支えているといえるだろう。
■ 商品の強みを訴えるフルハイビジョンビッグバン
もうひとつ、松下電器が年末商戦において打ち出したのが、「フルハイビジョンビッグバン」である。これは、リンクの訴求とは別に、それぞれの製品の強みを訴えたものといえる。
西口本部長は、「フルハイビジョンという観点では、春先まで他社の後塵を拝していたという反省がある。だが、この秋からは、フルハイビジョンビッグバンといえるだけの商品を揃えることができた。これが、今年の年末商戦の特徴。高画質の訴求を徹底的に行なう」と語る。
なかでも、同社が訴求に力を入れているのが、DIGAである。「これまで不可能だったフルハイビジョン映像をDVDに残すことができる4倍録り機能によって、購入を促進することができる。フルハイビジョンをディスクに残したい、しかも、それほど長時間のフルハイビジョン録画は必要ないという人には、最適の商品が投入できた。既存のDVDレコーダからDVDレコーダへの買い換えも促進できる」とする。
DVDレコーダやBDレコーダは4倍録りを訴求 |
37インチに液晶テレビを新たに投入。フルハイビジョンビッグバンを実現 |
また、薄型テレビでは、37インチに液晶テレビを新たに投入。37インチまでフルハイビジョンの枠を広げた。「松下電器はプラズマという認識が強いせいか、37インチモデルでは、依然としてプラズマの方が販売台数が多い。液晶を投入しても、プラズマテレビの販売台数は減少しておらず、液晶テレビの追加分だけ、37インチにおけるシェアが上昇している」という。
もちろん、SDハイビジョンムービーやデジタルカメラも、フルハイビジョンビッグバンの構成要素となっており、これらの製品においても、フルハイビジョン画質の店頭訴求に余念がない。
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【8月9日】松下、フルHDプラズマ/液晶「VIERA」7製品を9月発売
-プラズマと倍速37型液晶で「フルHDビッグバン」
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■ 早くも品薄の商品も
リンクマーケティングおよびフルハイビジョンビッグバンによる提案は成功しているといえそうだ。西口本部長は、「年末商戦のポイントはいかに商品を供給できるかにかかっている」と前置きし、「DVDレコーダ、ハイビジョンSDムービー、デジタルカメラはすべて前年同期比2桁以上の伸びを達成している。想定を遙かに越える売れ行き」と、現時点の好調ぶりを示す。
なかでも、DVDレコーダやBDレコーダは、慢性的な品薄の状況が続いている。BCNの調べによると、次世代機を含めたDVDレコーダ市場全体における松下電器のシェアは11月実績で35.5%。金額ベースでは、38.5%。松下電器によると一部量販店店舗では4割を越えるシェアを獲得しているようだ。
「専門店ルートを含めると50%を越えるシェアが視野に入っている。供給が安定すればそれも可能」と強気の姿勢を見せる。同社では、DVDレコーダの増産体制を敷いており、品薄の解消に取り組んでいる最中だ。
「薄型テレビ以外のデジタル機器の市場は縮小傾向にあった。だが、今年の商戦では、リンク機能によって、あらゆる商品が伸張している。2008年の北京オリンピック需要に向けて弾みがつく」。また、主力となる薄型テレビでは、37インチ以上に占める42インチ以上の比率が、昨年の40%から、今年は60%に拡大しており、「リビングの標準は42インチという認識が浸透している」と大画面化が進展していることを示す。
こうした売れ行きを見ると、リンクマーケティングとハイビジョンビッグバンで挑んだ年末商戦は、予想以上に、大きな成功を収めているといえそうだ。
□松下電器産業のホームページ
http://panasonic.co.jp/
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(2007年12月13日)
= 大河原克行 = (おおかわら かつゆき) |
'65年、東京都出身。IT業界の専門紙である「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を勤め、2001年10月からフリーランスジャーナリストとして独立。BCN記者、編集長時代を通じて、15年以上に渡り、IT産業を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。 現在、ビジネス誌、パソコン誌、ウェブ媒体などで活躍中。PC Watchの「パソコン業界東奔西走」をはじめ、Enterprise Watch、ケータイWatch(以上、インプレス)、nikkeibp.jp(日経BP社)、PCfan(毎日コミュニケーションズ)、月刊宝島(宝島社)、月刊アスキー(アスキー)などで定期的に記事を執筆。著書に、「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社)、「松下電器 変革への挑戦」(宝島社)、「パソコンウォーズ最前線」(オーム社)など。 |
[Reported by 大河原克行]
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