【バックナンバーインデックス】



“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第339回: 制度ではなく技術で解決する米国の権利処理事情
~ テクノロジーと頭は使いよう ~



■ 独自技術と独自ルールでフェアユースを歩むTiVo

デジタル放送対応
「TiVo HD DVR」

 International CES2008 3日目は、米国の権利処理事情について取材した。米国で大きなシェアを持つレコーダ・ブランドが「TiVo」である。高度な番組情報サービスをベースとしたレコーダで、常時HDDが一杯になるまで、ユーザーの好みに合う番組を自動録画する。日本のレコーダとは、考え方がかなり異なるレコーダである。

 最初はアナログ放送波だけに対応していたが、最新のTiVo HD DVRやTivo Series3 HDではデジタル放送のハイビジョン映像の録画も可能となっている。

 米国におけるデジタル放送のコンテンツ管理はEPNであるというのが日本側の認識であるが、米国で取材する限り、実際にはほとんど使われていないというのが現実のようだ。というのも、EPNで暗号化されている放送は有料放送だけなので、そういうプレミアムコンテンツは基本的にコピーなどしない、というのが米国では一般的な意識である。

 TiVoはDVDドライブを持たないHDDのみのレコーダだが、無料放送の番組はPCにコピー可能。元々TiVoのHDDは、独自のTiVo Guardという方式で暗号化されており、PC上での再生は、TiVo専用のソフトウェアを使ってこの暗号を解除し、再生する。

 またPC経由でPMPにも番組がコピー可能だが、ここでは暗号化は行なっていない。なぜならば、転送する時点で解像度が下がっていること、放送の番組にはウォーターマークが入っているため、映像ソースが特定できることから、フェアユースの範疇であると判断している。ここでいうウォーターマークとは、デジタル的な認証技術ではなく、画面の隅っこにオーバーレイされている放送局のロゴマークのことである。

 実際にTiVoのブースでは、TiVoで録画したデジタル放送のハイビジョン番組をPCにコピーしたのち、iTunesを使ってiPodに番組を転送して再生していた。

 しかし米国のトレンドとしては、PMPなどに転送して視聴するには、テレビ番組というのは長すぎるという意見が多く、実際にはほとんど行なわれていない。これはある程度の大都市であっても、通勤・通学手段に電車を使わず、通勤時間も短いということも関係するだろう。また公共の場所でも都市によっては治安が悪く、のんきにテレビなど見ていられる雰囲気ではないということもある。

TiVo用外付けHDDドライブ

 TiVo HD DVRやSeries3 HD用には、eSATAで接続する増設用HDDがある。これも特定のTiVoと接続した時点で暗号化され、取り外して別のTiVoに接続しても、再生できないようになっている。運用のキーとなるTiVo独自の暗号化は、オリジナルのハードウェアチップで行なわれており、取り外すことはできない。

 また現在のTiVoマシンは、単なるレコーダではなく、ネットワークサービスと細かく連携した情報サービスのほか、ブロードバンド回線を使ったコンテンツダウンロード端末の役割も果たしている。

 現在はAmazonと提携し、約2万本のコンテンツのダウンロード配信やレンタルができるようになった。もちろんこのコンテンツの暗号化も、TiVo独自のTiVo Guardで行なわれており、権利者側はそれを納得の上でAmazon上に作品を提供している。

 これらコンテンツの購入は、単に番組名などで検索を行なうと、放送の番組表情報とともにAmazonのコンテンツも同時に検索されて出てくる。また番組情報からも出演者などからリンクして別のコンテンツにたどり着けるようになっており、メタデータをベースにコンテンツが互いにリンクし合っている。

「24」を検索すると、ダウンロード可能なコンテンツも見つかる 関連作品もリンクされている

 Amazonから映像コンテンツをレンタルした場合は、コンテンツをダウンロード後、30日以内に視聴する必要がある。また一度再生を始めると、24時間以内は自由に視聴できるが、それ以上の再生はできなくなる。基本的に映像コンテンツは、短期間で繰り返し鑑賞されないという特性を持っている。またコメディなどは、「買うほどではないが、廉価なら見たい」という特性のジャンルもある。コンテンツの特性ごとに適切なウインドウを設けることで、消費を増やす工夫がなされている。

購入だけでなく、ダウンロードレンタルも可能

 一方コンテンツを購入した場合は、もちろんダウンロード後に何度も視聴できるのは言うまでもないが、TivoのHDDから消してしまったあと、PCで再ダウンロードすることも自由にできる。つまりコンテンツの購入とは、データそのものの対価ではなく、再生権を購入したという考え方がベースとなっている。

 これらの購入決済はTiVoベースで行なっていくわけだが、TiVoのアカウントとAmazonのアカウントがリンクしており、ユーザーは5ケタの暗証番号を入力することで、クレジットカード決済が完了するようになっている。

 メタデータによるコンテンツのリンクは、技術的には日本でもすでに行なわれていることだが、コンテンツのダウンロード販売に関しては、見習うべき点は多い。特にコンテンツへの第一次アプローチを放送だけに頼らず多数設けること、再生プラットフォームが変わってもいちいちコンテンツを買い直す必要がないことという2つの柔軟性は、イリーガルなコピーをネットに蔓延させないためにも重要であろう。

□関連記事
【2007年1月11日】【EZ】放送とネットをさりげなく融合するTiVo
~必要なサービスをソフトウェアだけで実現~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20070111/zooma289.htm



■ 権利保護を助けるgracenoteの技術

データベース技術を使ったサービスを提供するgracenoteのブース

 音楽データベースで知られるgracenoteのブースでは、映像と音楽を解析する技術「Multi-Step Media Analysis」を展示していた。ネット上のビデオクリップや音楽など、著作権があるようなファイルを捕捉する。コンテンツファイルだけでなく、ファイル交換ソフトで使われるハッシュ情報まで捕捉できるのが特徴。既にWinMXには対応し、Winnyにも対応中であるという。

 捕捉の仕方は、音楽におけるフィンガープリント技術を応用している。例えばケータイで音楽を聴かせれば、曲名を返してくれるMobile IDというサービスがあるが、これは楽曲から生成したフィンガープリントのデータベースと、ケータイから送られてくる音声ファイルデータを比較検索して、楽曲を特定する。

ネットに流れている映像・音楽コンテンツを捕捉する「Multi-Step Media Analysis」

 Multi-Step Amedia Analysisは、検索したい映像のフィンガープリントを生成しておき、それに一致するファイルをインターネット上から高速に探し出す。映像では5秒、音楽では3秒分のフィンガープリントがあれば、ほぼ間違いなく捕捉できるという。PHILIPSとgracenoteの共同開発技術である。

 すごいのは、ビデオカメラで画面を再撮したような画像も、間違いなく見つけてくる点だ。斜めから撮ったため画面にパースがかかっていても、問題ない。したがって映画館で再撮したような動画も捕捉することができる。

 このソフトウェアは、映画会社やテレビ局など、ネット上のイリーガルコピーを制御したい会社には、強力なツールとなるだろう。既に音楽専用のバージョンは音楽業界に導入実績があり、動画も検索できるバージョンは間もなく開発が終了するという。

 ただしこれは同一映像がどれぐらいネット上にあるかを調べるためのツールで、どこにファイルがあるのかは、別のクローリングサーバーで監視している。もちろん、イリーガルであるかどうかの判断は、権利者自身が行なうことになる。

 捕捉の元になるフィンガープリントのデータ生成は、これから権利者に生成用ツールを配布して、gracenoteのサーバーにアップロードしてもらうことになる。これから膨大な数のデータを収集していくことになるわけだが、フィンガープリント作成にかかる時間は、実時間の30倍速ぐらいで可能だという。

 コンテンツ業界では、海賊版の取り締まりが大きな問題になっている。日本では法律をいじったり、補償金で解決しようとしているが、このような制度的な縛りは、一度決めたら事情が変わっても固定されたままになってしまう点で、問題が大きい。現にそれで補償金や著作権法が、行き詰まっているのである。それよりも、状況に合わせて柔軟に対応できるテクノロジーを使ったコントロールのほうが、解決策として現実的だろう。

国別で音楽の再生チャートがわかる「Music Map」

 堅苦しい話になったので、今度は一般ユーザーが楽しめるツールを紹介しよう。米国gracenoteのサイトでサービスインした「Music Map」だ。これは、世界の国でどのアルバム、どのアーティストの音楽がよく聴かれているかを調べる事ができるツールである。

 gracenoteの技術を使っているプレーヤーは、世の中に沢山ある。PC用ではiTunesやSonic Stageなどがあるし、ケータイやカーオーディオなどにも応用製品が多い。gracenote側でこれらのプレーヤーで再生された履歴を集計し、週ごとにランキングを出すというわけだ。

 ただ実際に市場分析に使えるかどうかは、各国の事情をよく把握しておかないといけない。例えばMusic Mapで「イラク」を調べると、今はトップアーティストがMetallicaになっているが、イラク人がメタル大好きなわけではなく、イラクに駐屯している米軍関係者がよく聴いているということだろう。つまり、gracenoteの技術が入っているような音楽プレーヤーが使われるような国かどうかで、データに偏向が出るわけである。

 しかしそれでも、これまで音楽のランキングと言えば、売り上げデータベースから集計されたものしかなかった。Music Mapでは、どの音楽が一番多く「再生されたか」がわかる点で、上手く使えばこれまでとは違ったマーケティングツールとしての可能性もある。

 技術というのは、本当に使いようでどうとでもなるものである。技術そのものに罪を問うことはできないという考えを、またいっそう新たにする思いだ。


□2008 International CESのホームページ(英文)
http://www.cesweb.org/
□関連記事
【2008 International CESレポートリンク集】
http://av.watch.impress.co.jp/docs/link/2008ces.htm

(2008年1月10日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]



00
00  AV Watchホームページ  00
00

AV Watch編集部av-watch@impress.co.jp
Copyright (c)2008 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.