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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第340回:新たな展開を見せるオーディオの世界
~ 快適さを求める飽くなき挑戦 ~



■ 韓国Cresynが米国デビュー

かなり広めのブースを構えていたCresyn

 International CES2008。最終日の本日は、オーディオ関連製品の動きを追った。オーディオも日本企業が強い分野で、海外製品はあまり国内には入ってこない。例外はハイエンドオーディオだが、今回はもう少し身近な製品に注目してみた。

 韓国製PMPやオーディオテクニカのOEMで、日本ではごく一部の人にのみ知られるヘッドホン/イヤホンメーカーのCresyn。韓国内では自社ブランドで製品を出しているが、他国向けはOEMしかないので、なかなか表には出てこない企業である。しかし今年はかなり広めのブースを出展していた。

 企業としての歴史は意外に古く、創業は1959年。「Daehan Phonograph Needle」という、レコード針の製造メーカーとしてスタートした。'81年からヘッドホン製造を始め、'85年に「Shinwoo Audio」に社名変更、さらに2002年に現在のCresynに社名変更している。全製品の約90%が輸出用である。

 これまでは裏方に徹した感のあるCresynだが、今年はアメリカ市場向けの高級ブランド「PHIATON」(フィアトン)を立ち上げ、製品を展示していた。実際の発売は4月からで、店頭販売はなく、WEBでのオンライン販売のみからスタートする。

PRIMALシリーズのハイエンドモデル「PS 500」

 シリーズは大きく分けて2つ。黒を基調とした高級志向の「PRIMAL」シリーズと、黒と赤でポップなイメージの「MODERNA」シリーズだ。

 PRIMALシリーズのハイエンドモデルが「PS 500」。直径50mmのチタンドライバを採用した、大型ヘッドホンだ。PHIATONのヘッドホンはすべて、ラバー部は羊の皮、エンクロージャはカーボンファイバーを使用している。製造はハンドメイドだそうである。

 PS 500のスペックは、周波数特性が5Hz~30kHz、感度102dB、インピーダンスは32Ω。デザイン的にはオーソドックスだが、フィット感が非常に良い。音質はクリアで、聴き疲れしないなめらかなサウンドだ。

ノイズキャンセリングヘッドホン「PS 300」

 PS 300は40mm径のドライバユニットを搭載した、オンイヤータイプのノイズキャンセリングヘッドホン。サイズ感としては、BOSEのQuietComfort 3を意識したようだ。バッテリはリチウム・ポリマーで、充電式。1回の充電で約20時間の使用が可能。

 スペックとしては、周波数特性が15Hz~22kHz、感度100dB、インピーダンスは32Ω。ノイズキャンセルの世界では、最近では95%といった数字が飛び出しているが、具体的なスペックは明らかになっていない。試聴した限りでは、そこまで強力なキャンセリング能力はないようだが、実用には十分なレベルだ。ノイズキャンセル機能をONにしなくても、普通のヘッドホンとしても使用できる。

 PS 200は、バランスド・アーマチュア方式のウーファとツイータをダブルで内蔵した、インイヤー型イヤホン。背面が飛行機のジェットエンジンのようなデザインで、なかなかユニークだ。周波数特性が8Hz~30kHz、感度95dB、インピーダンスは39Ω。試聴した限りでは、クリアな中にも低域が力強く抜けてくる感じで、同じような構成のSHUREとは違って、クセのないサウンドに好感が持てる。

 一方MODERNAシリーズのMS 400は、赤いイヤーパッドとアームラバーが綺麗な中型モデル。ドライバユニットは40mm径だが、オンイヤーではなく耳たぶまで隠れるサイズだ。持ち運びを意識して、ハウジング部を内側に折りたたんで小さくまとめることができる。スペックとしては、周波数特性が15Hz~22kHz、感度98dB、インピーダンスは32Ω。個人的には一番気になるモデルだ。

今回唯一のカナル型イヤホン「PS 200」 赤のアクセントが効いている「MS 400」

オンイヤータイプの「MS 300」

 MS 300は、同じ40mm径のドライバを使いながら小型で、オンイヤータイプのヘッドホン。こちらはハウジングを90度回転させて内側に折り込むスタイルで携帯できる。周波数特性が20Hz~22kHz、感度100dB、インピーダンスは32Ω。

 各製品それぞれ特性は違うが、サウンドのカラーはだいたい共通していて、味付けの少ないクリアなサウンドを目指しているようだ。あいにく会場がかなりうるさかったので、音質の細かい部分までの聴き込みはできなかったが、製品の出来は非常に丁寧な作りである。

 MS 600は、ユニークなデザインのポータブル音楽プレーヤー用スピーカー。高級ブランドと言えども、やはり米国進出を考えると、iPod対応は外せないようだ。周波数特性が130Hz~20kHz、感度78dB、インピーダンスは6Ω。

iPod用スピーカーの「MS 600」 リモコンもなかなか凝っている

展示されていた製品の一つ「C220E」。スポーツ用モデルで、耐汗、防滴仕様となっている

 全製品とも価格は未定だが、最安のモデルでも250ドル以上になりそうだという。PHIATONシリーズの日本での発売は、米国でのラウンチがうまく行ったら検討したいということであった。なおブースには、韓国市場向けのCresynブランド製品がいくつか展示してあった。

 近年OEMレベルのイヤホンは、低価格な中国製品が徐々に製造レベルを上げてきており、Cresynとしては価格面で苦戦を強いられている。それもあって、高級ブランドへの脱皮を図りたいという思惑もあるのかもしれない。



■ 本格的ワイヤレスの時代へ

 今年イヤホンで話題をさらったのが、SENNHEISERの「MX W1」だろう。プレーヤーとイヤホン間のケーブルを無くしただけでなく、左右のケーブルまで無くした、完全ワイヤレスイヤホンである。

今年はやや小さくなったSENNHEISERブース 「MX W1」はガラスケースの中で展示

 無線技術は、昨年のCESで試作品をデモしていたkleerのものを使っている。昨年はRCAがポータブルプレーヤーの対応製品を発売したが、今年は本格的なオーディオメーカーからの製品ということで、期待が持てる。

充電器にセットしたイメージ

 製品は左右のイヤホンと充電器、送信部から成っている。無線による音声の送信はBluetoothを使うのが一般的だが、kleerの技術は転送レートが高く高音質で、消費電力が1/5~1/10となるのが特徴。

 MX W1のイヤホンとしてのスペックは、ダイナミック・密閉型で、周波数特性は19Hz~20kHz、感度115dB、インピーダンス32Ω。イヤホンは左右それぞれ10gで、トランスミッタは16gとなっている。

 発売時期は5月を予定しており、価格は599ドル。日本でも販売予定だという。

 そのほか新製品として、カナル型密閉式のイヤホンを3種類リリースする。IE8、IE7、IE6は、耳の後ろからケーブルを回してくるタイプで、いわゆる耳栓スタイルでノイズをカットするイヤホン。SHUREの一連のシリーズを意識したような作りだ。

 今回現物が展示されていたのはIE7とIE6だけで、IE8の現物は見あたらなかった。各スペックは以下のようになっている。残念ながら日本への発売予定はないようだ。

モデル 再生周波数特性 インピー
ダンス
感度 ノイズ
カット
発売時期 価格
IE8 10Hz~20kHz 16Ω 125dB 95% 5月 499ドル
IE7 19Hz~29kHz 120dB 90% 3月 299ドル
IE6 10Hz~18kHz 115dB 249ドル

カナル型ミドルレンジ「IE7」 カナル型のエントリーモデル「IE6」



■ 組み込み技術へと転換を図るSRS

各社のバーチャルサラウンド製品の比較デモを行なっていた

 音質補正技術で知られるSRSは、今年もいくつかの技術展示を行なっている。True Surround HD4は、以前から存在したバーチャルサラウンド技術の改善バージョン。フロントスピーカーのみを使用したバーチャルサラウンドシステムはいくつかあるが、人によってサラウンドに聞こえないという問題があった。True Surround HD4は、この問題を自身で体験した技術者が開発に参加、大幅な改善が行なわれている。

 実はバーチャルサラウンドではなかなかサラウンドとして聞こえない人間の一人なのだが、True Surround HD4のデモでは、かなり後ろからの定位もはっきり聞き取ることができた。この手の技術も、もうそろそろ本格的にテレビなどに組み込みが始まってもいい頃かもしれない。

デモ用ソフトウェアでMobile EQの実力を体感

 「Mobile EQ」は、ポータブルデバイス向けのイコライジング技術。よくMP3プレーヤーなどには5バンドぐらいのグラフィックイコライザが付いているが、大抵は一カ所持ち上げると、上下の周波数もつられて上昇するため、ピンポイントでの補正は難しい。

 だがMobile EQは、他の周波数に影響を与えず、特定の周波数帯域のみを的確に操作することができる。今年テレビは薄型化がトレンドとなりそうだが、そこで困るのがスピーカーの扱いである。デザイン的にもベゼルを狭くする傾向があるため、どうしてもスピーカーをまともな向きに付けられないという問題が浮上してくるだろう。一般ユーザーにはあまり関係ない話かもしれないが、こういった場合の補正技術として、テレビメーカーに注目されそうな技術である。

 「VIP+」は、雑音の多い環境で電話の声を聞き取りやすくするという技術。人間の声において、聞き取りやすいかどうかというのは、フォルマントと呼ばれる特定の周波数成分の量で違ってくる。やかましい居酒屋で、店員さんを呼ぶ声が通りやすい人と通りにくい人がいるが、これは声の大きさ、すなわち音圧が同じでも、フォルマント量の違いで差が出ているわけだ。

 フォルマントは主に母音の聞き取りに大きく影響を与えることがわかっているが、VIP+は電話の音声において、このフォルマントを強調する技術である。したがって受話音量を上げなくても、相手の声が聞き取りやすくなるというわけである。またこの技術は、サウンドドライバとしてPCに組み込むこともできる。例えばskypeなどを使った音声通話も、この技術でずいぶん改善されるだろう。

 ある日、日本でもケータイを機種変したとたん声が聞き取りやすくなったということがあったら、それはSRSの仕業かもしれない。


□2008 International CESのホームページ(英文)
http://www.cesweb.org/
□関連記事
【2008 International CESレポートリンク集】
http://av.watch.impress.co.jp/docs/link/2008ces.htm

(2008年1月11日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]



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