■ DVD記録の次世代?
以前なら東芝のレコーダの顔と言えば商品企画担当の片岡秀夫氏だったが、最近では「ワンダー社長」こと東芝DM社の藤井美英社長の人気が高まっているようだ。発表会などで飛び出す数々の名言には圧倒されるが、社長がこれだけ先陣を切って頑張る事業も珍しい。CESでその名言を聞くことができなかったのは残念だ。 さて今回は、発売されてから時間が経ってしまったが東芝VARDIAの新モデル、「RD-A301」(以下A301)を取り上げる。301という型番からすると、昨年6月に発売された2モデルの下位機種「RD-A300」の後継機を連想する。だがこのモデルが一躍注目を集めたのは、「HD Rec」機能を搭載したからである。 HD Recとは、MPEG-4 AVC/H.264やMPEG-2のハイビジョン映像をDVDメディアに記録する方式である。同じような機能にBlu-ray陣営の「AVCREC」があるが、両者の規格には互換性がない。あくまでもHD RecはHD DVD互換であり、AVCRECはBlu-ray互換である。 いずれにしても、放送をH.264で圧縮記録するというのは、これからのレコーダのトレンドとなりそうだ。では早速期待のHD Rec搭載モデル、A301の実力を検証してみよう。
■ シンプルかつ当たり前なデザイン
まず外観だが、全体的なテイストは前モデルのA600に近い。しかしボディの厚みが若干押さえられ、ボタン類も減って、シンプルな印象となっている。前モデルではメディア選択とW録のボタンが別々だったが、今回はドライブ切り替えボタンに集約された。 フロントパネル下部を開くと、B-CASカードスロットほか、アナログAV入力、DV/i.LINK(TS)入力がある。さらにUSB端子と同型のEXTENSION端子は2系統と、前モデルと遜色ない使い勝手となっている。
DVDメディアのドライブは、HD DVD対応は当然として、DVD-R/R DL/RW/RAM対応となっている。ただしDVD-RAMのカートリッジにも対応しないのは、前モデル同様である。内蔵HDDは300GBで、イマドキのレコーダとして見れば、それほど大容量でもない。H.264で記録すれば、それほど大容量でなくても運用できるということかもしれない。 背面に回ってみよう。本機は東芝機には珍しい、デュアルファンである。そのためか端子類は場所が整理され、わかりやすくなった。
RF端子は地上波と衛星波で2系統。いずれもダブルチューナである。ただ、入力・出力の端子レイアウトが、地上波と衛星波で上下が逆だ。これは敢えてそうしているのかわからないが、結線を間違えそうである。 外部入力は、前面1系統のほか、背面に1系統。出力は、HDMIが1、アナログAVが1、D4端子1、アナログ音声1、光デジタル音声1となっている。入出力とも、数が整理されてシンプルになった。
また本機はCATV連動機能を装備している。背面にある制御端子にAVマウスを接続し、CATVのSTBをコcントロールできる。番組表はネットから取るスタイルだ。あいにく筆者宅は引っ越し後、CATV回線ではなくなったのでテストできないが、利用者にとってはスカパー! 連動に匹敵する機能である。 リモコンの型番は前モデルと変わっているが、カバー内の無記名のボタンが物理的になくなったぐらいで、機能的にはほとんど同じのようである。
■ まだ威力は半分?
では早速期待のHD Recを試してみよう。本機では、H.264圧縮で記録する方式を、「TSE」と呼んでいる。ただし現時点では、放送を予約録画時にリアルタイムでTSE録画することはできない。製品発表時には、年内(2007年)の対応は難しいという話であったが、やはりこの機能の実装は年を越してしまった。 ではどのように使うかというと、まずTSモードで番組を録画しておき、DVDメディアへのムーブ時に圧縮するか、HDD内で圧縮するか、という話になる。現時点ではコピーワンスルールなので、同じHDD内であっても2つのファイルになることはなく、オリジナルのTSファイルは消されてしまう。このあたりは、ダビング10ルールになったときに動作が変わる部分である。
マニュアルにはすでに、ダビング10ルールになったときの動作が書かれている。それによると、ダビングしたいチャプタだけを内蔵HDDにダビングするときは、元のタイトルのコピー回数を減らさずに、新しいタイトルとして複製できるようだ。 ただしTSタイトルのTSE化については、注意が必要だ。というのも、TSタイトルの状態でプレイリストを作り、それをTSE変換すると、タイトルの先頭と終わりの一部が欠けてしまうことがあるとして、推奨されていない。 つまりいったん丸ごとタイトルをTSE変換したのち、TSEタイトルでプレイリストを作ってDVDにムーブという段取りになる。だがTSE変換してしまうと、自動チャプタ機能などで付けられていたチャプタが全部なくなってしまうので、必要部分のチャプタ切り出しは、手動で行なわなければならない。 しかしこれはどう考えても面倒だ。やはりHD Recの本領は、ダイレクト録画がサポートされたのちの話ということになるだろう。
■ DVD単層1時間が妥当?
とりあえずTSEへの変換を試してみよう。変換自体はバックグラウンドで進行するものの、ほぼリアルタイムの時間がかかる。またその間番組表の表示などもできなくなるので、長時間の番組ではかなりの時間、操作ができないことになる。しかし予約録画の時間になったときは、一時的に変換が中断され、録画予約が優先されるなど、録画機会は潰さない作りになっている。
TSE変換後の画質に関しては、すでに速報が出ているので、そちらを参考にして欲しい。 TSEタイトルのチャプタ編集におけるレスポンスは、廉価モデルという感じもなく、快適だ。ここ1年で、家電もH.264ファイルの扱いはずいぶん高速化した。 TSEタイトルのプレイリストが完成したところで、次はいよいよDVDメディアへのムーブである。現時点では、CPRM対応のDVD-Rメディアのみ推奨とされている。というのも、DVD-RWとDVD-RAMは、ドライブの性能的に読み込みスピードが3倍速以上ないからだ。 ただしこれはTSタイトルの話である。HD Recでは規格としてハイビジョンのTSタイトルもDVDメディアに記録できるので、MPEG-2で高ビットレートのタイトルの再生が間に合わないわけだ。TSEタイトルの場合は、3倍速以上に対応したDVD-RAMなどになら、ムーブできるようだ。
試しに昨年末に放送された「ルパン三世 DEAD OR ALIVE」をTSEに変換後、DVD-Rにムーブしてみた。約1時間半のハイビジョン作品で、レートは5.0Mbpsである。 再生結果を見ると、アニメ特有の平坦なベタ部分に圧縮ノイズを感じる。また暗部のディテールが押し込めがちになる感じもある。やはり5.0Mbpsは、ハイビジョン映像にしては辛かったようだ。 映画ならば2枚に分けるか2層メディアを使うなどして、DVD単層では1時間程度と考えた方がいいのかもしれない。HD Recは規格上、TS、TSE、SD解像度のVRの各モードが混在できるが、DVDのメディアサイズでは、そのメリットは発揮できないだろう。
■ 総論
東芝VARDIAのユーザーというのは、メディアとしてHD DVDがいいから選んでいるというよりも、RD時代から連綿と続く、編集機能やダビング機能などのこだわった部分を支持しているのだと思う。多くのレコーダが部分消去のような簡易編集の道を歩むなかで、チャプタ編集やプレイリストによるムーブをサポートし、ムーブしたチャプタ以外の部分がHDDに残るなどということをやってのけるのは、現状VARDIAぐらいしかない。 そういう意味では、H.264圧縮でDVDに記録というソリューションは、次世代DVD戦争終焉と報道される東芝には、もはや生命線に近い。少なくともセルメディアフォーマットとしての芽がなくなったようにも見える現状では、利便性の高い記録フォーマットとしてどれだけ訴求できるかにかかっている。 このあたりの機能を整理すると、PanasonicがH.264録画とDVD記録をサポート、SONYはH.264録画のみでDVD記録は非サポート、東芝はH.264のダイレクト録画は未対応でDVD記録をサポート、ということになる。もっとも東芝はアップデートでダイレクト録画も対応予定なので、将来的にはPanasonic DIGAと同じ条件になる。SONYはH.264のDVD記録をサポートしないことで、同じ土俵に乗ることを避けた格好だ。 東芝も年末商戦の対抗上、現時点で製品を出さなければ仕方がなかったのだろうが、本来ならばダイレクト録画まできちんとサポートした形でリリースするのが筋だったろう。おそらくPanasonicのAVCRECが予想外に早く形になったため、焦りが出た印象を受ける。ただ、録画したものをきちんとメディア管理したいというニーズを満たすものは、もはや東芝機しかないという現状では、それほどネックにはなっていないのかもしれない。 さて、レコーダで気になるのが、ダビング10ルールの開始時期である。計画では今年6月あたりと言われているが、放送局側の設備改修が終わらなければスタートできない。また権利団体も、補償金の維持がなければ、ダビング10は凍結すべきと発言している。 逆に言えば、ダビング10ルールの運用開始がはっきり見えてこないうちは、各社ともレコーダの新モデルはそれほど出てこないのではないかと思われる。> H.264 DVD記録の登場により争点が散ってしまったので、今後はダビング10ルールの中でどれぐらい消費者寄りの提案ができるか、といったところに注目が集まるだろう。
□東芝のホームページ
(2008年1月16日)
[Reported by 小寺信良]
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